ニュースレターNo.42/2009年7月発行
SIPit24 開催報告
2009年5月18日~22日の5日間、東京・秋葉原コンベンションホールにて、 JPNICと独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、 SIPの相互接続イベント「SIPit24」を開催しました。 本稿では、そのレポートをお届けします。
SIPは、 RFC3261として規定される最も実用性の高いシグナリングプロトコルであり、 世界中の音声・マルチメディア通信などさまざまなサービス内でも採用されています。 しかし残念ながら、その汎用性の高さの裏返しにより、 異なるベンダーの機器間においての相互接続は保証されない状況が、 以前より続いてきました。
こういった現実を打破するため、年2回世界各地で開催される「SIPit」が、 グローバルな相互接続の検証をする場として機能しています。 各ベンダーは、このSIPitに自社における最先端の実装機器を持参し、 基本的な機能や現在標準化中の拡張機能等について、 相互接続試験を実施します。 この相互接続イベントは、 SIPに基づいたIPコミュニケーションを推進している非営利組織である「SIP Forum」が主催していますが、とりわけ、RFC3261の共著者であり、 今もIETFでリアルタイムアプリケーションおよびインフラストラクチャ分野エリアディレクターを務めるRobert Sparks氏が心血を注いで先導しています。
このたび、そのSIP Forumの要請を受け、その24回目を、 東京・秋葉原で再度開催することになり、 次世代・新世代のネットワークを推進するNICTと、 JPNICでホストを務めました。 共同ホストであったNICTの森信拓氏のコメント、 ならびにイベントのネットワークチームのリーダーであり、 参加者の一人でもあった大江将史氏のコメントをご紹介します。
SIPit24を開催して
独立行政法人情報通信研究機構
森信 拓
情報通信研究機構(NICT)では、 「次世代IPネットワーク推進フォーラム」にてNGNにまつわる研究開発の推進、 そして次の新しい設計思想・技術を見据えた新世代ネットワーク技術に向けた研究開発を「新世代ネットワーク推進フォーラム」にて、 それぞれ推進しています。 NICTはSIPおよびIMS(IP Multimedia Subsystem)の技術を、 これら両方の推進活動に共通するコア技術としてとらえ、 今回のSIPit24をJPNICと共催させていただきました。
今回のSIPit24は、 昨年から続く経済情勢の悪化および最近の新型インフルエンザの影響により、 参加人数については前回のSIPit18と比較すると少なかったものの、 その分凝縮された参加者の皆様の気合いがとても感じられる雰囲気の会場でした。 開催初日の早朝から最終日まで、 ベンダー開発者間の接続試験だけではなく、 SIP ForumのRobert Sparks氏の呼びかけによって行われる、 多対多の接続試験であるマルチパーティーテストについても、 時間ギリギリまで行われ、 今回のSIPitによる成果によって製品化される実装が、 近々多数世に出てくることが期待できる熱気でした。 NICTからも、大手町ネットワーク研究統括センターから IMSの研究開発を行っている「HOTARUプロジェクト」※1が参加し、 他国から集まったIMSの実装を行っている開発者と活発な接続試験を実施しました。
今回はSIPitの日本での開催が2回目ということもあり、 SIP Forumとネットワークオペレーションチームおよび事務局との連携もスムーズに行われました。 そのため、参加者は各々の実装の相互接続試験に集中できた様子で、 SIPit24の終了後には、皆様から温かい「Thank you, it was a great SIPit event」のお言葉を次々といただくことができました。 日本のSIP・IMSに対する存在感の向上だけではなく、 日本におけるSIP・IMSの研究開発活動に対しても、 大きく貢献ができたのではないかと思います。
協賛いただきました企業の皆様、 ネットワークオペレーションチームの皆様、 そして事務局の皆様に感謝したいと思います。
SIPit24の表舞台・裏舞台
大江 将史
私は、参加者として、また、運営者としても関わりましたので、 本イベントの概要とその舞台裏を紹介いたします。
SIPitとは、「Session Initiation Protocol Interoperability Tests」の略で、IP電話やテレビ電話など、 RFC3261で定めるSIPを基盤としたアプリケーションを実装した機器間での相互接続性の確立を目的としたイベントです。 会場には、世界中の組織からさまざまな実装が持ち込まれ、 接続試験を通して、実装状況や、 実装上・仕様上の問題点などが把握されます。 その成果は、個々の実装の成熟を高める場であるのはもちろんのこと、 IETFにおける標準化過程において必要な実装の把握や、仕様の修正など、 標準化プロセスを非常に効率の高い方法でサポートする場としても重要な役割を担っています。
SIPitでは、参加者の能動的な申告に基づいて、試験が実施されます。 各参加組織は、会期前に準備されるWikiサーバ上に、 自身の試験希望内容やスケジュールなどを登録します。 そして、Wiki上に登録された情報をもとに、 試験スケジュールの調整をメールなどで行います。 会場では、実験項目やパラメータの確認をし、試験を実施します。
今回、私は、「HOTARUプロジェクト」の一員として、 3GPPリリース8に準拠したIMS実装を持ち込み、評価を行いました。 今回が2回目の参加ですが、前回つながった相手につながらなくなったり、 古い仕様に準拠しているため全くつながらない相手がいたりなど、 いろいろありましたが、多くの知見を得ることができました。
一方、運用者としては、会場ネットワークの運用を行いました。 SIPitをサポートするネットワークは、IPv6、IPv4のグローバルアドレス、 有線/無線LAN、各参加者間が連絡するためのIP電話の設置、そして、 障害に対する対応体制など、試験を支えるネットワークとして、 高い品質が求められるのが特徴です。 今回は、学生ボランティアの皆さんに加え、三井情報株式会社、 日本アバイア株式会社、WIDEプロジェクト、国立情報学研究所(NII)、 産業技術総合研究所(AIST)、NICT等のサポートにより、 求められる要求を満たすネットワークが構築されました。 試験ゆえに発生する、宛先不明のUDPストームや、秋葉原ゆえに存在する、 2.4GHz帯無線LANにおける帯域不足に悩まされつつも、 無事に運用が完了しました。
以上のように、SIPitは、 相互接続という実戦が繰り広げられる表舞台に加えて、裏では、 ネットワークの運用や、試験による悪影響を最小限に食い止めて、 全体に影響を与えないといったサポートにより成り立っているイベントです。 私としては、実装・運用の能力がともに試されているという、 大変やりがいのあるイベントでした。
今回、参加者の人数自体は、世の中の多事多難の影響で減少こそしましたが、 各社が1対1で対戦する通常のテストに加え、 複数で対戦するマルチパーティーテストも、 「Spirals」「Forking」「Early Media」「STUN/TURN/ICE」「Outbound」 「Presence/XCAP/MSRP」など、多くのテーマが実施されていました。
一番圧巻であったのが、今後の標準化に向け、 さまざまな実装がWiki上にその場で着々と集められていく様子です。 500平方メートル程のホールの中に、グループ形式で机がずらっと並び、 IP電話や数々の機器が雑然と置かれ、 その上を英語やら日本語やらが飛び交いながら、 これだけの成果を集めるその素晴らしさ。 インターネットを使えばこそ、 今やさまざまなグローバルコミュニケーションを取りやすくはなっているものの、 オンサイト開催の強さを感じた瞬間でした。
こうした成果のみならず、日本でSIPitを開催すること自体が、 多くの通信事業者が次世代の通信網に導入を計画しているIMSの普及、 日本製品の国際競争力の強化、海外ベンダーとの業務連携の促進、 日本企業の進出支援などにもつながる絶好の機会であったことを願ってやみません。 これらの主旨を理解し、ご協賛くださったスポンサー各位には、 この場で心からのお礼を申し上げたいと思います。
SIPit24 開催概要
名称 | SIPit24(SIP Interoperability Tests) |
URL |
https://www.sipit.net/ http://www.nic.ad.jp/ja/sipit24/ |
日時 | 2009年5月18日(月)-22日(金)(5日間) |
会場 | 秋葉原コンベンションホール |
主催 | SIP Forum<http://www.sipforum.org/> |
共催 |
独立行政法人情報通信研究機構 (日本ホスト) 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター |
後援 |
総務省 財団法人電気通信端末機器審査協会 次世代IPネットワーク推進フォーラム 社団法人情報通信技術委員会 社団法人テレコムサービス協会 情報通信ネットワーク産業協会 HATS推進会議 IPv6普及・高度化推進協議会 VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース WIDEプロジェクト |
協賛(五十音順) |
エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 KDDI株式会社 株式会社コムワース シスコシステムズ合同会社 ソフトバンクテレコム株式会社/ソフトバンクBB株式会社 株式会社ソフトフロント 日商エレクトロニクス株式会社 日本電信電話株式会社 東日本電信電話株式会社 富士通株式会社 RADVISION Japan株式会社 |
技術協力 |
独立行政法人産業技術総合研究所 日本アバイア株式会社 三井情報株式会社 |
参加費用 | 一人当たり 550米ドル |
使用言語 | 英語 |
(JPNIC インターネット推進部 根津智子)