ニュースレターNo.42/2009年7月発行
JPOPMショーケース・臨時JPOPMレポート
本稿では、2009年1月21日に高知にて開催されたJPNICオープンポリシーミーティング(以下「JPOPM」)ショーケース、および2009年2月10日に東京にて開催した臨時JPOPMについてご紹介します。
まずはじめに、それぞれのミーティングの特徴について簡単にご説明します。「JPOPM」は、アドレスに関するポリシー(アドレス管理に関する方針・ルール)について、議論を重ね、日本での意見を集約しようとする場です。その中で、「臨時」に開かれるJPOPMというのは、定期的に開催されるJPOPM以外に、ポリシーワーキンググループチェアのその時々の判断で重要な案件のある際に、臨時に開催されるミーティングとなります。
一方、「JPOPMショーケース」は、インターネットの運用に関わるアドレスポリシーの最新動向について、特にインターネットのオペレーターに、(議論に至る前の)理解を深めていただくことを目的として、開催しています。
JPOPMショーケースについて
今回は、2009年2月にマニラで開催される第27回APNICオープンポリシーミーティング(以下「APNIC27ミーティング」)において、IPv4アドレスの移転に関する提案が注目すべき議題としてあがっていることから、JPOPMショーケース、臨時JPOPMともに、この提案を中心に議論を行うかたちで企画されました。
「IPv4アドレスの移転に関する提案」の背景としては、IPv4アドレス在庫枯渇後、引き続き発生するIPv4アドレスへの需要に対応するため、分配済みのアドレスを互いに融通し合う動きが生じることが想定されています。しかし、現在のアドレス管理ルール上はこれを認めておらず、レジストリが認知していない状態でこうした行為が行われると「正しい」アドレス利用者の管理をレジストリが行えなくなり、その結果としてアドレスの一意性に混乱が生じ、数多くの不具合が発生する可能性があります。そういった事態を防ぐため、APNICまたはJPNICとの契約関係に基づき、IPv4アドレスの分配を受けた組織間でIPv4アドレスを移転、すなわち譲り合うことをポリシーでも認めようとする提案です。
JPOPMショーケースは、高知でのJANOG23の前日に同じ会場(高知県民文化ホール)での開催ということで、オペレーターの視点から、移転アドレスを実際にネットワークで使うにあたってどういう点を検討しなければいけないのかという観点で、IPv4アドレス移転について議論を行っていただきました。参加者は、40名程度でした。
プログラムは次の通りです。
- イントロ:「アドレスポリシーってなに? オペレーションにどう関わるの?」
- ディスカッション:「IPv4アドレスの移転?オペレーターの視点から?」
- アドレスポリシー最新動向
- 4バイトAS番号への移行に向けての提案
- IPv4アドレスの在庫枯渇に向けての提案
- アドレスポリシー策定の仕組み 等
このうち「IPv4アドレス移転?オペレーターの視点から?」のディスカッションでは、焦点が2点に絞られ、移転時におけるアドレスの「正しさ」の確認(移転されるアドレスが正当なものであるのか)、またアドレスの「きれいさ」の確認(経路フィルタリングリストやブラックリストに載っていないか等)が必要であるとの指摘がありました。
アドレスの正しさの確認については、RPKI(リソース証明書)が、レジストリが認めているアドレスであることを示す証明書として利用されればその答えになるだろうとの意見があり、大きな異論は表明されませんでした。もう一つの論点であったアドレスのきれいさの確認については、どこまでレジストリに対応を求め、どこまでオペレーターが確認を行うのかも議論となり、その点の切り分けを行った上で、レジストリに求めるものを明らかにしたほうがいいとの意見も表明されました。レジストリに求めるものとしては、Webページ等でのアドレス履歴が妥当なところではないかという意見が出ました。
また、提案に関するその他検討要素として、移転サイズ、移転時のアドレス需要確認、APNIC地域だけに閉じず、他のRIR地域との移転も認めるべきかどうかについて、会場の参加者に挙手による意思表明をしていただきました。結果は以下の通りです。
- 移転の最小単位について
-
/24にする : 17名
最小割り振りサイズに合わせる : 16名
定義する必要はない : 5名 - 投機目的を防止する対策がポリシーに必要か?
-
必要 : 24名
不要 : 10名 - APNIC地域だけに閉じずに他のRIR間の移転も認めるべきか?
-
認めるべき : 31名
認めない(AP地域内のみ認める) : 4名
以上のように、JPOPMショーケースでは、RIR間の移転は認めるべきということについて、はっきりとした支持が確認されました。また、移転が円滑に行われるためには、アドレスの正しさとアドレスのきれいさを確認する手段の確立が必要であるということで議論を終えました。移転単位と投機目的の防止対策については賛否両論があるという結果となりました。
当日のプログラムと資料は、以下のURLよりご覧ください。
- □当日のプログラム・資料
- http://venus.gr.jp/opf-jp/events/showcase2/
臨時JPOPMについて
JPOPMショーケースの3週間後、KKRホテル東京にて開催された臨時JPOPMでは、約60名の方にご参加いただいて、IPv4アドレス移転提案以外のAPNIC27ミーティングでのポリシー提案も併せて議論を行い、それぞれに対して挙手による参加者の意思確認を行いました。今回は提案数としては7点あり、うち3点がIPv4アドレスの移転に関するもの、2点が前回からの継続議論、そして残り2点が新規の提案でした。
各提案の一覧はこちらをご覧ください。
http://venus.gr.jp/opf-jp/apnic/apnic27/
IPv4アドレスの移転提案について、臨時JPOPMではAPNIC27ミーティングにて移転提案で定義されている個々の要件に対して包括的に国内の意見を述べられるよう、以下のポイントに絞ってディスカッションを進めていきました。
- 移転サイズ(/24か、あるいは最小割り振りサイズかPI割り当てサイズに合わせるのか)
- アドレス審議(移転時に審議を行うべきか)
- 移転範囲(RIR間の移転を認めるべきか、NIRも対象に含めたいか)
- 「アドレスの正しさ」の証明方法
- 「アドレスのきれいさ」の確認方法
後者3点については、JPOPMショーケースでの結果と基本的には同じで、RIR間の移転を認めることを支持すること、アドレスの「正しさ」「きれいさ」を確認する手段をレジストリとして提供してほしいということ、そしてアドレスのきれいさの確認については、基本的には移転者間の自己責任ではあるが、リスク判断やアドレスを使える状態にするために、過去のアドレス利用者の履歴を残してほしいという要望が確認されました。
移転サイズ、アドレス審議を行うべきかについては、ディスカッションでは最小割り振りサイズ/割り当てサイズに合わせる立場からの意見、そして審議は行う必要がないとの意見が多く表明されていました。しかし、ディスカッション後に挙手による意思確認を行ったところ、移転サイズについては/24が望ましいとの意見が多く、審議の必要性については、必要派と不要派がおおよそ半々という結果になりました。
まず移転サイズについての議論では、オペレーターを中心に経路増加を防止する策を優先すべきであり、経路集約を考慮して最小割り振りサイズ(現在は/22)またはPI割り当てサイズに合わせることが望ましいとの意見をいただきました。一方、最小割り振りサイズ等ではアドレスを拠出することが難しく、実情に合ったサイズとして/24が望ましいという意見も出ていました。挙手数は、/24支持者34名、最小割り振りサイズ/PI割り当てサイズに合わせることを支持する人が13名でした。
審議の必要性については、在庫枯渇後、移転を認めることでこれまでのアドレス管理とは枠組みが異なってしまうため、同じ考えに基づいて審議を行うことは必ずしも適切ではないこと、レジストリが移転取り引きの間に入ることは望ましくない等、移転時に審議を行うべきではないとの意見が議論においては中心でした。一方、投機目的のアドレス移転申請防止のために、実際にアドレス需要があるのか確認した上で移転を認めるべきとの意見も表明され、挙手では審議不要派23名、審議必要派21名という結果でした。
このように個々の要素について包括的に、かつ、特定の案を支持している理由も併せてディスカッションを進められたことは、非常に有意義だったと思います。
最後に
JPOPMショーケース、そして臨時JPOPMでの議論は、国内の事業者からのコメントとしてAPNIC27ミーティングで紹介させていただきました。
2008年11月の第15回JPOPMも併せて、ここまで議論にお付き合いいただいたみなさんにこの場を借りてお礼を申し上げます。
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)