ニュースレターNo.42/2009年7月発行
APNIC27ミーティング報告
全体報告
今回のAPNICミーティングは、従来の春のミーティングのように APRICOTと併催というかたちで2009年2月22日(日)~2月28日 (土)に、フィリピン・マニラで開催されました。
APNICミーティングとしては2年前からオペレーションに関わる議論について、テーマごとにSIGとして分けていた構成から、1ヶ所に集中するようプログラムの変更を進めてきており、この形式がほどよく定着しつつあります。
今回は初日の22日が初めての参加者向けプログラム、23日からの3日間はPlenaryやConferenceプログラム等技術動向を中心としたセッション、5日目はポリシーSIGでのアドレスポリシー策定についての議論、そして6日目はAPNIC総会という構成です。
トレーニングは7日目の28日(土)に集中、チュートリアルは主なセッションの間に挟んでの開催として、メインプログラムの流れを大きく変えることはなく、チュートリアルに参加したい人は参加できるようなつくりになっていたように思います。
- Program Archive
- http://www.apnic.net/meetings/27/program/
APRICOTと併催ということもあって、APRICOTも含めた参加者は40の経済圏から473名、APNIC総会への参加者114名だったと報告されています。
そして、カンファレンス全体のテーマとしてはやはり「IPv6への移行」と「IPv4アドレス在庫枯渇への対応」があげられます。
PlenaryやConferenceセッションでの発表もIPv6の運用状況や、IPv4在庫枯渇後におけるIPv4サービスの維持およびIPv6との共存に関するものが目立ちました。アドレスポリシーの策定について議論を行うポリシーSIGでは、国内でも議論を重ねてきた「IPv4アドレス移転」に関する議論に、26日(木)ほとんどの時間を費やしました。
Plenary等のセッションではIPv6での実運用に主眼を置き、実際の運用状況の発表やIPv4とIPv6の共存方法、組織内で実装開始の承認を得るにはどうするのか等の発表が行われていました。これらのセッションについては、この後で詳しくご紹介します。
一方、ポリシーSIGでは7点の提案が提出され、1点を除いて全てIPv4アドレスの在庫枯渇に向けた対応を目指したものでした。このうち3点は、今回最も注目されていた、Geoff Huston氏とRandy Bush氏 & Philip Smith氏という2組の提案者によるIPv4アドレスの移転に関する提案です。
ミーティングの結果
このミーティングでコンセンサスが得られたポリシー提案は2点あります。APNIC地域として、2007年9月から議論を進めてきたIPv4アドレスの移転に関する提案に対して参加者のコンセンサスが得られたことが、特筆すべき結果と言えるのではないかと思います。
各ポリシー提案の結果は以下の通りです。
コンセンサスの得られた提案
prop-050 IPv4アドレス移転の提案
prop-069 IANA在庫枯渇後のRIRへのIPv4アドレス割り振りに関するグローバルポリシー提案
棄却となった提案
prop-060 新規NIR設立基準の変更
prop-063 IPv4割り振り承認期間の縮小
prop-070 IPv4最大割り振りサイズの定義
提案者により取り下げられた提案
prop-068 レジストリ間のIPv4アドレスの移転方法
prop-067 簡潔なIPv4アドレス移転の提案
各提案の和訳はオープンポリシーフォーラムのページをご覧ください。
http://venus.gr.jp/opf-jp/apnic/apnic27/
また、今回はAPNICの理事会(Executive Council)メンバーを選出する選挙が実施され、10名の候補者から、以下4名の理事が選出されました(敬称略)。理事の任期は2年です。
1)Jian ZHANG(CNNIC)
2)James SPENCELEY(Vocus Group)
3)Kuo-Wei WU(台湾NII産業発展協進会)
4)Hyun-Joon KWON(NIDA)
- 現職のAPNIC Executive Councilメンバー
- http://www.apnic.net/ec/
コンセンサスの得られた提案について
prop-069 IANA在庫枯渇後のRIRへのIPv4アドレス割り振りに関するグローバルポリシー提案
IANA在庫枯渇後のRIRへのIPv4アドレス割り振りに関するグローバルポリシー提案は、RIRにより回収されたIPv4アドレスを一度IANAの在庫として集約し、IANAからRIRに対して再分配するとしたポリシーです。これは公式な説明はされていませんが、おそらくARIN地域など、歴史的経緯から多くのIPv4アドレスが分配され、回収されるアドレスの割合が高い一部地域のみに再分配されるIPv4アドレスが偏ることがなく、全RIR地域にて公平に分配を受けられるようにするための対応だと考えられます。
JPNICが回収したIPv4アドレスもこの中央在庫に返却ということになると想定されますが、回収の実施の必要性、回収方法については各RIRでのポリシーに委ねるとしており、この点が定義されない限り具体的な影響と効果はまだ判断ができないと言えます。また、その名の通りグローバルポリシーですので、APNIC地域のコンセンサスが得られたからといってすぐに施行されるものではなく、全RIRでのコンセンサス、そして、ICANNでの承認を必要とします。そして、想像にかたくない状況として、ARIN地域では懸念が表明されており、今後この地域でどの程度支持が得られるかが鍵となるのではないかと考えられます。
prop-050 IPv4アドレス移転の提案。
この提案については国内でも2008年7月より多くの議論を重ねてきたため、ご存知の方も多いと思われますが、現在のポリシーで禁止されているIPv4アドレスの移転、つまり分配を受けたIPv4アドレスを他の組織へ譲ることを認めるとする提案です。原則としてはAPNICアカウントホルダー間の移転が対象となります。
背景としては、IPv4在庫枯渇後は分配済みのIPv4アドレスを組織間で融通しあうことによりその需要に対応する動きが生じることを想定し、そのような事態にあってもAPNICで管理している分配先と、実際の利用者に乖離が生じることのないよう、APNICへ移転元、移転先両者から申告を行えば公式に移転を認めようとする提案です。
同じ趣旨で若干要件が異なるものとして、2組の提案者により3点の提案が提出されていたため、個々の提案に対してそれぞれではなく「IPv4アドレスの移転提案について」とひとくくりにして議論を進め、最後にそれまでの議論・参加者の意思を反映した提案にまとめあげ、それに対してコンセンサスの確認を行うという方式をとりました。
コンセンサスの確認にあたってはプロセスの便宜上、Geoff Huston氏による提案、prop-050が参加者の意思に最も近い提案だったため、これに修正を加えたものを採択し、残り2点は提案者により取り下げとしています。
取り引きを認めることによりIPアドレスの課税化につながる可能性等、資源管理外の影響も含めて議題として大きい上にプロセス上の混乱等もあり、今回はコンセンサスが得られないのではと思われる一面もありましたが、金曜日のAPNIC総会では参加者の支持が得られ、ミーティングでのコンセンサスが得られる結果となりました。
コンセンサスの得られた内容は以下の通りです。
- APNICアカウントホルダー間の移転を認める
- 最小移転サイズは/24
- 移転されるIPアドレスに対して、過去の利用者の履歴を提供する
- 実装時期は事務局での準備が整い次第施行。在庫枯渇時期と合わせることはしない
- NIR/他のRIRのアカウントホルダーとAPNICアカウントホルダー間の移転もAPNIC側では認める。ただしAPNICのみで決定できる範囲ではないため、当該NIR/RIRでも認められることが必要となる
JPNICでの施行については、2009年夏に予定しているJPNICのオープンポリシーミーティングで議論の上、その後のポリシープロセスに従って対応が決定する予定です。
総括
今回のミーティングではプロセスに関する混乱等から、一部参加者が議論では反対しなかったにも関わらず挙手では提案に反対する等、ポリシー策定プロセスについての周知やアジア太平洋地域の参加者に合った議論への参画方法など、ポリシー策定プロセスにおける課題が明らかになりました。
一方、jabber chatを利用しての発言や、セッションにおいても日本から参加された事業者の方も多く、新しい参加者による発言も見受けられました。
また、APOPS等のオペレーションに関わるセッションが充実しつつあることからか、数年前と比較するとオペレーターの参加が増えつつある印象です。今後北米でのNANOG、ヨーロッパでのRIPEなど、地域全体としてのオペレーターズフォーラムとしても機能していけるようになるとよいと思います。
次回のミーティング
次回のAPNICミーティングは、2009年8月24日~28日に北京で開催される予定です。中国本土での開催はこれが初めてとなり、中国におけるNIRであるCNNICがローカルホストを務めます。
http://www.apnic.net/meetings/28/
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)