ニュースレターNo.44/2010年3月発行
JPNIC会員企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
さくらインターネット株式会社 | |
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所在地 : | 大阪府大阪市中央区南本町1丁目8番14号(本社) 東京都新宿区西新宿7-20-1 住友不動産西新宿ビル33F(東京支社) |
設 立 : | 1999年8月17日(サービス開始:1996年12月23日) |
資本金 : | 8億9,530万円(2008年9月末時点) |
代表取締役社長 : | 田中邦裕 |
URL : | http://www.sakura.ad.jp/ |
従業員数 : | 168名(2009年9月末時点) |
事業内容 : |
1.インターネットでのサーバの設置およびその管理業務 2.電気通信事業法に基づく電気通信事業 3.インターネットに関するコンサルティング 4.コンピュータおよびその周辺機器の製作および販売・保守 |
さくらインターネット株式会社を訪問しました。同社はホスティングサービスの分野で月額125円のレンタルサーバを提供し、またラックへのサーバ収容効率の高さなどで注目されていますが、それに託した社長の想いを存分に伺いました。
インターネットで実現したい“夢”とは
コストパフォーマンスの高いサービスを提供できる理由
~全体を見渡した最適化~
お話しいただいた方: さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中 邦裕氏 |
【プロフィール】 1996年に国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業し、当時国内ではまだ珍しかった共有ホスティングサービス(さくらウェブ)を開始。高専卒業後に有限会社インフォレストを設立し事業を継承、代表取締役へ就任。1999年にはさくらインターネット株式会社を設立し、月額125円から始められる低価格レンタルサーバ「さくらのレンタルサーバ」の開発に自ら携わる。インターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。 |
■ まずは、現在の事業内容についてお聞かせください。
提供しているのは、データセンター分野のサービスです。細かく言うと、コロケーションとホスティングの二つで、ホスティングは、サーバをまるごとお貸しする専用サーバと、複数のお客様でリソースを共有するレンタルサーバに分かれます。
金額で言うと、月何百円のサービスから何千万円というかなり大きな範囲で表すことができます。下から上までレンジが広いのが強みです。今の大口顧客でも、最初は月500円から始めた人もいるんですよ。幅広く柔軟性が高いサービスを提供しています。
特筆すべきは、自社でインターネットバックボーンを持ち、データセンターを構築し、サーバの設計までやるという、自社で全体を最適化しながら、比較的コストパフォーマンスの高いサービスを提供しているという点でしょうか。
■ ユーザーのレンジが広いということですが、割合はどうなっているのでしょうか?また、どういうスキルレベルのユーザーが多いのですか?
ユーザーに占める法人と個人の割合は、3 : 2で法人が高いです。
年齢層としては20歳代以降ですね。以前はプロシューマー(生産消費者)が多かったのですが、現況は、ブログの開設などにとどまらず、もう少し深くチャレンジをしたいという初心者も多いように見受けられます。
■ どのサービスの売れ行きが良く、業績はどのようになっていますか?
件数だけで言えば、20万以上のユーザーを抱える共有レンタルサーバです。ただ、売り上げで言うと、それは十数%程度に過ぎません。専用サーバやハウジングなどのサービスが売り上げの多数を占めていますね。
2008年度が71億円の売上高で経常利益3億5千万円弱。今期は、売上高77億円、経常利益4億円弱の予定です。
不景気の影響で、サーバを社外に出す人が多くなっており、専用サーバは好調です。逆にサーバ持ち込みのハウジングの場合は、お客さんの事業縮小や撤退もあるので、トントンというところでしょうか。
ただ、コロケーション・ハウジングよりも専用サーバ、専用サーバよりレンタルサーバの方が利益率が高いので、売り上げ自体は厳しくても、利益は確保できています。ここにきて、利益の質の変容が起こっていると感じています。
■ 貴社の業績好調の要因をどう分析しますか?
創業以来の、運用とサービスに根付いた組織、人員体制ですね。奇しくも世の中では「クラウド」というサービスが流行っていますが、SIerのように設計やコンサルティングで稼ぐよりも、運用で稼ぐモデルにシフトしています。もともと弊社はそういう体制、つまりは、ITが「所有」じゃなくて「利用」となった、今の時代にマッチした陣容であると思います。
また、世の中的に中間業者を通さずにダイレクトに商売することが多くなってきましたが、もともと弊社はそういう商売です。例えば大多数の申し込みもオンラインサインアップ経由です。払うべきコストが少なく、他者と比べて低価格化を実現しやすいですね。
月額125円は市場を広げこそするが、破壊するものではない
■ 低価格と言えば、月額125円のレンタルサーバサービスは、業界的にも衝撃的でした。125円は何がセットになって125円なのでしょうか。
「さくらのレンタルサーバ」のライトプランですね。POP、IMAPでメールが使えて、HTTP経由でアクセスできる領域があります。ディスク容量は500MB、CGIを動かせますし、RubyやPerl、Pythonも使えます。FTPもできるし、コントロールパネルで設定も可能で、ブログも付いています。
ただ、一番多いのはこのプランのユーザーではなく、500円のスタンダードプランのユーザーです。125円ですとシェルログインができず、PHPも使えませんので、500円ぐらいなら最初からこちらでというお客さんが多いですね。
■ ものすごくリーズナブルですね。「この値段で行ける!」という直感があったのでしょうか。
そうですね。普通はデータを分析すると思いますが、びっくりするほど成長し、かつ非常にニッチな市場なので、データ分析はできませんでした。
当時の客単価は1,000円超程度でしたが、ユーザーは9,000ぐらいいました。これなら、単価を下げても、10倍の8~9万ユーザーぐらいいればいけるんじゃないかと考えたのです。
この10倍の顧客獲得は、びっくりするぐらいすんなり行きましたね。初日で2,000~3,000件の申し込みがあって、オンラインサインアップ用のサーバが落ちました。その後、初年度で2万5,000件の申し込みがあり、2~3年で当初の目標値を超えました。昨年には20万ユーザーを抱え、損益分岐点をかなり超えている状況です。また、付帯するドメイン名ビジネスでも登録してくれるユーザーが多く、この手数料収入も大きいです。とても成功したサービスだと感じていますね。
■ そんなに値段を下げて、その後の価格競争について、先を見越した懸念はなかったのでしょうか?
ホスティングは、以前は価格的にハードルが高いものでした。しかし、値段を下げたことで、ユーザーの層自体が、かなり分厚くなったと感じています。
つまり、ホスティングは家庭用の日用品を売っているのとは違います。業界の市場や、売り上げは拡大している状況にあり、業界にとってそれほど悪影響ではないですね。
この価格については、追随する他社の方が大変なのではないかと考えています。今でも125円と騒がれていますが、実は、125円で始めたのは、5年以上前なんです。そこから定価を下げておらず、キャンペーンもほとんどしていません。「定価」をモットーに「市場の値段は我々が最初に決める」というスタンスです。「こういうユーザーが必ずいるはずだ」という確信のもと、値付けを行っています。
弊社単独で見れば、その価格を印象付けられます。印象が付かない値段競争は、どんどんと値段を下げるものになります。幸いなことにそういった競争にはなっていませんね。
サーバ集積の工夫に見る、誰にも真似のできない
全体最適化と汎用化のバランス
■ また、御社はラックへのサーバ集積率が高いということで有名ですが、サーバやラックの自社での開発について、教えてください。
二つの利点があります。コストが下げられるという点と、他の会社よりもアグレッシブなサービスを作ることができるという点です。サービスの幅が非常に広がりますね。
ITは「モジュラー化した産業」と言われますが、しかし、それがかなりのオーバーヘッドを生んでいることも事実です。例えば、通常のサーバをラックに詰め込むと廃熱で設置に制限がかかりますし、メモリなんてスロットが8本もあったりします。
一方、弊社のサーバはラックと一体であり、まずサービスありきで作っています。ラック、空調、サーバ、ネットワークをトータルで設計した上で、サービスを提供しています。他のデータセンターに持っていくと熱暴走するかもしれないくらい余剰がほとんどありません。これで、全体最適化が図れています。前後にマウント、1ラックに最大で160台収容できます。
ちなみにデータセンターは、通信キャリアさんと全く同じスペックであり、サービスを比べても劣りません。かつ、メモリも1本当たり4~5時間かけて全数検査しています。つまり、他社より質も悪くない。質が高くて、かつ他者より安い。これが強みです。
■ モジュール化はモジュール以外のことを知らなくても生きていけるのが強みですが、全部を知って、無駄を詰めることも重要なんですよね。その結果、今があるということでしょうか。
そうですね。ただ、摺り合わせ型、全体最適型の一番ダメなところは、コストがかかり過ぎることです。汎用化もコストを下げるために重要なのです。全体最適化をしつつ、汎用化するというバランスが一番必要ですね。
例えば、ケース、マザーボード、ハードディスクもパーツは全て市販品を使っています。Googleだって、かつて自社でマザーボードの設計をして失敗しました。汎用品をいかに組み合わせて全体最適化を図るかがノウハウです。結果的には、それが一番安いのです。
■ 御社の注文品が、市場で汎用品となることもあると聞きましたが。
はい。例えば、ラックもメッシュの開口率も弊社が指定していて、これが、河村電器産業の標準品になっています。つまりは、弊社のノウハウが他社に取り入れられた結果です。
結果的にはそれが一番安いし、他社が何をしても、その時は弊社はもう次のステップに行っています。だから、ある意味オープンソース的な考え方でノウハウを公開しています。弊社として占有はできませんが、それでサービスの質も高まりますし、自分でやっているからこそわかる運用の能力やノウハウが貯まっていきます。真似をして他社が弊社より安くできるんだったら、弊社はそれを買いますし(笑)。
サーバ技術やOS、コントロールパネル、スケールメリット、ブランディングなどなどどれも、単独では切り出せません。全てが一体となって弊社ができています。その代わり、ルータもスイッチも既製品ですし、ISPと違い、細かいネットワークを組んでいません。帯域はたくさん取れても、細かいシェーピングはできない仕様になっています。ただ、こうしてQoSを切り捨てることで、コストがすごく下げられる。広い帯域を確保してトラフィックを流し放題でも別にいいんじゃないかという独自のやり方です。
■ しかし、それでは法人向けには、通用しないのではないですか?また、ネットワークはどのようになっているのでしょうか。
そうですね。法人向けには実は、この集積度の高いラックとは別の、もっとレガシーなラックを使っています。
ネットワークは、今は対外接続で200Gbpsを超えています。フリーピアをしておらず、1ホップで到達できないところはトランジットを買っており、それ以外はほとんど10Gbpsプライベートピアリングです。スループットが非常に良いです。東京-大阪で10Gbpsを2本引いているところはそうそうないでしょう。ネットワーク的にも強いと思います。
世界につながる感動を得た運命の日
~創業のきっかけ~
■ 創業時のいきさつを教えてください。
始めたのは13年前の12月。舞鶴高専の学生の時でした。現時点でも若いですねとよく言われますが、もう創業13年で、実は結構長くやっています。
当時、自分でサーバを運用し、Apacheに関する情報発信をしていたのですが、学校の設備を利用して自由に情報発信するには、学校側の対応がかなり厳しいことがあり、また、外でサーバを借りようにもディスク容量が少なく、CGIはダメなどいろいろと制約がありました。
当時、「世界中につながる」と、知識としてわかっても、体感はできていませんでした。しかし、ある日、秋葉原のお店のパソコンから自分のWebページを見て、とても感動しました。そこからもう離れられなくなりましたね。
そこで、地元舞鶴のISPに持ち込んで、儲けの一部を渡す代わりに、サーバを置かせてもらったのがそもそもの始まりです。その時に社長であった梅木氏が協力してくれたおかげで、ホスティングサービスが実現できました。梅木社長には、今も弊社の監査役をしてもらっていますが、当時「よくわからないけど、面白そうだ」と理解を示してくれたのです。
■ 社名の由来は?
「わかりやすいドメイン名じゃないとダメだ」と思っていました。ちょうど1996年12月、JPNICのルールが変わり、第2レベルが違えば、第3レベルが一緒の文字列でも登録がOKとなり、また「NE.JPドメイン名」ができました。これがいいきっかけになりました。
つまり、それまでは、「sakura.co.jp」を当時さくら銀行が登録していて、他の属性でも「sakura」の文字が登録できませんでしたが、ここで開放されたため、「sakura.ne.jp」が取れることになったのです。
当時は「さくらWeb」というサービスをしており、創業時はさくらインターネットとは呼んでいなかったのですが、年が明けて1月か2月に、さくらウェブの名前とドメイン名から「さくらインターネットサービス」と社名を付けました。
■ そこから全てが始まっていったのですね。
はい。PC-9801にFreeBSDを入れたことから始まります。サーバが足りなくなったので、大阪の日本橋でフルタワーのPentiumPro 150MHzのサーバを2台買って始めました。かなり大きなサーバでしたね。
ホスティングを個人向けにサービスしはじめると、トラフィックが増え、業界では1・2番目になりますが、12年前にはデータセンターにサーバを入れました。
そうなると、今度はラックに何台入るかがポイントになってきます。最初は6台とか8台を入れていたのですが、ラック代がもったいないということになり、1997年に、書類ケースみたいなものに電源をぶら下げたものでしたけれども、初めて自社でサーバを作り、それを25台ぐらい入れていました。その後もNLXのケースを台湾から輸入したりして、ついには2000年頃からケースから板金して作るようになりました。
また1999年、ラック自体も、データセンターが郊外にあって不便なので、自分達でデータセンターも作ろうと、最初は大阪と東京の事務所に15ラック程度を置きました。オーソドックスなサーバでしたが、積み上げると6台目ぐらいからズレてましたね(笑)。それが初めてデータセンターを作った10年前です。当時はIXにつなぐのはハードルが高く、また1次プロバイダも2次プロバイダも値段の高い時代でした。
同じく1999年には、バックボーンをBGPでやりはじめました。当時は求められる品質が今ほど高くなかったため、UPSさえあれば、事務所の端のデータセンターでも許された時代だったんですね。その後、ネットバブルがやってきて出資したいという人も多くいて、そういう幸運も重なって、2001年頃、次の新しいデータセンターを構築できました。
他のデータセンターと弊社が明らかに違うのは、あくまでも弊社のサービスを入れるために、自社のデータセンターとして始めた経緯があるという点です。あくまでもホスティングが主目的であって、コロケーションは、スケールを出すための手段でした。そこが他社と違うところです。
顧客の夢を実現する手段を提供するために常に行動を忘れない
~経営者として~
■ 話は変わりますが、ご自身のことを経営者としてはどう思いますか?
正直、自分はでき上がった会社の社長には不向きだと思います。今まで3社ぐらい起業し、経営者の中でも起業家タイプなんでしょうね。事業を興すのが好きで、アーリーステージが得意です。従って、今のようなステージになると、今までとは違うスキルも要求されており、他の役員を頼りながらチームとして経営しているイメージですね。
■ 経営者として心がけていらっしゃる信条はありますか?
「行動は早く」です。私は、さくらインターネットを3日で始めました。まあ、3日はちょっとやり過ぎだとは思いますが(笑)。
Googleがすごいところは、アイデア自体ではなく、そのアイデアを即座に実行するところです。アイデアだけでは意味がありません。常に行動することが重要ですね。
また、最近は自らのミッションを強く意識しないといけないと考えています。
どういうことかと言うと、よくISPだと接続する権利を売っている、ホスティングだとサーバを貸している感覚になってしまいます。でもこれは間違いで、ユーザーはその中で、動画配信をしたりしているわけで、「自分らはその手段を提供している」と考えなくてはなりません。
ユーザーの立場で考えると、サーバが故障したら必死になります。しかし、サーバを貸している感覚のままだと、「サーバは壊れるものでしょ」となってしまいます。
「顧客が夢を実現する、その手段を提供している」と言っている割には、今までは、しっかりできていなかった部分もあるのではないかと思っています。ユーザーが増え、またTwitterやブログ等でレスポンスが早くなったこともあり、ユーザー視点で考えることの重要性を痛感しています。
■ 今後の目標というのはありますか?
一つは、「組織変革」です。今を第二創業期と考えて、社内を変えていきたいですね。今までは、ホスティングは成長する市場でしたので、流れに沿えば勝手に成長しました。これからは社員が成長させようと思わないと成長しない時代です。だから、組織力を上げ、イノベーティブな組織を作らないといけません。イノベーティブな人だけがいてもダメですけれどね。
また、顧客の視点を持つ社風も必要です。安いだけじゃダメです。昔のイメージを引きずらないことも必要です。
もう一つは、日本のITは他国に比べて遅れているように言われますが、その意識を改めたいですね。
例えば、データセンターも日本は高いと言われていますが、東京や大阪に置いていれば当たり前です。お客さんにコンピューティングリソースを提供するのが目的なら、別に田舎でも良い訳ですし、アメリカと同じようなデータセンターを作れなくもありません。エクセレントなファシリティを作りたいという夢があります。先週も地方3ヶ所に見学に行きました。サーバの集積度ももっと上げたいですね。今は1ラックに400台入るサーバを考えていますよ。まだ、笑い話レベルなんですけれども。
「AmazonやGoogleには勝てない」と思い込んでいませんか
~日本の誇りを取り戻したい~
■ 将来の夢について、伺わせてください。
端的に言うと、先の話の通り、世界で日本のITが認められるようにしたいですね。本当はもっと輸出できるはずなのに、日本はITは輸入過多です。日本はすごいんだと、これからそういう風に発信したいですね。
回線も、日本のキャリアは海外の線を「コスト」と考えているようです。これ以上、海外投資をしたくない、それどころかGoogleやYouTubeが日本まで送ってくれるんならそれでいいじゃないかと、そんな考えになっています。そのため、最近は回線、特にインターネットトラフィックという意味では増設されていません。
この意味では、IPv6に変わる時はターニングポイントだと思っています。弊社がヨーロッパに進出できるかはわかりませんが、米国には拠点を持ちたいですね。グローバルTear1の末席には行きたいなと。ネットワークについての夢もあります。
バックボーンネットワーク、サーバ、データセンター、サービスを、一から全体最適を取り全部自社設計にすれば、AmazonやGoogleに勝つとは言わなくとも、負けないサービスはできると思っています。多くの日本企業は、AmazonやGoogleには勝てないと思っています。でも、最初から負けるつもりはよくありません。
日本にあれば10msecとか20msecとか、いったん海を渡ってから戻ってこない分、速いわけです。勝っていなくても負けていなければ、非関税障壁でも日本が勝つことができるわけです。アメリカにも勝てると思いますよ。
弊社としては、何かを実現する人の手助けになるような、手軽にインターネットサービスを出せるような環境を作っていきたいです。具体的には、もっと海外に通用するようなサービスを作っていきたいですね。サーバをもっと使いやすい値段で提供するとか、いろいろ組み合わせて、気軽に高級なネットワークを利用できるように柔軟性を高くすることなどを始めていきたいですね。
また、今年は、ちゃんとしたパブリッククラウドを提供したいと考えています。
■ その「正統派クラウド」については、構想はどのようなものなのでしょうか?
容量を気軽に追加できるように、まずはストレージです。また、ネットワークももっとフレキシブルにします。例えば社内のサーバと専用のプラットフォームを連携できるなど、その辺りを手がけはじめています。その次にくるのはプロセッサの仮想化。EC2の領域ですね。この辺りを研究所と開発で取り組んでいます。
■ 研究所を作っていらっしゃるんですね。
サービスだけで言うなら3年後は考えません。3ヶ月、もしくはせいぜい半年です。しかし、「事業」という視点なら3年後も考えます。研究所は、このように中長期的な視点で考えるところとして設けています。
仮想化の話で言えば、XenやVMwareじゃなくて最近はKVMも試しています。また、データの効率的な分散を支えるKVS(キー・バリュー・ストア)が流行り始めていますので、国内での関連プロジェクトと連携も進めています。
過去、さくらのレンタルサーバを僕自身がコーディングまでしている時代がありましたが、それだと「次のサービスができるのか?」という話になってきます。やれないことはないのでしょうが、新たな広がりはありません。1人ではなくて、こういうことをできる人が、増えていかないと進歩がありません。サービスを買ってきてレバレッジを利かすという方法もありますが、組織として、自然に拡大できなくては、本質ではありません。
我々のビジネスは地味なビジネスですが、気軽に使えるものをイノベーションを通じて生み出し、その上でさらに大きなイノベーションを生み出していきたいですね。
「自由」と「夢」をインターネットで提供する
■ そういう「イノベーション」の観点から、御社で行っている中国でのビジネスについて思うところはありますか?
中国では、インターネットが厳しく悪くなる方向に行っています。現状だと中国でのこれ以上の展開は難しいかなと考えています。
私は、「誰もが同じ機会を与えられること」、そして「自由であること」がとても重要だと考えています。日本でも昔、インフラは高「自由」と「夢」をインターネットで提供するかったですが、今は弊社のものを使えば誰でもインターネットに参入できます。そういうところで、インターネットの発展に寄与できたかなと考えています。
しかし、中国ではサーバを自由に貸していたらIPアドレスをブロックされたとか、ドメイン名を登録する人は顔写真が必要になるとか、とにかく規制、規制です。そういう考えは、弊社の理念に合いません。
「自由」という意味をどう捉えるかの違いだと思うんです。匿名で好き放題できるとか、そういった自由の話はしていません。インターネットを自由に使えるかどうか、利用機会が平等であるかどうかが重要なのです。法とマナーに触れない限りは何でもやっていいはずです。
中国にはそれがありません。政府を批判してはいけないというのは、法律でもマナーでもありません。インターネットに通じる自由すら奪うというやり方に、データセンターやコンテンツプロバイダも加担しないといけないのが嫌ですね。
■ この業界で働く人に向けてメッセージはありますか。
もっと誇りを持って良いと思います。「インターネット土方」なんて揶揄がありますが、日こそ当たりにくくても、ラックやサーバを構築することは、ものすごく面白い仕事です。インフラの重要性を知ればさらに面白くなります。「Webサイトを作ることだけが面白いこと」なんてことはありません。誇りを持って楽しんで仕事をすればいいと思います。
逆に、コンテンツ側の人に言いたいのは、インフラをコストと見過ぎだということですね。そうではなくて投資なんだと。そういう意識を持って、上位レイヤの人には取り組んで欲しいです。GoogleやAmazonは、インフラは投資だと考えていますよ。コストではなく、新たなビジネスチャンスのための投資なんです。そこが、明らかに日米コンテンツ事業者の差異となって現れてきています。
日本のコンテンツ事業者は本当に狭い範囲しかやっていません。しかし、人口があるのでそこそこ儲かり、今は、どんどんインフラへの投資を削っています。でもここで効果的な投資をすると国力も上がるし、自らのサービスレベルも上がると心から思います。
■ そんな貴社では、どのような人材を採用しているのでしょうか。
スキルではなく、人柄を見ています。もちろん、技術は大切にしているし、尊重されるべきものですが、企業としての技術力が重要なのであって、個人個人の技術が、特別に尊重されるべきものではないと考えています。つまり、「誰は技術があるから」ではなく、個人は平等に尊重されるべきです。テクニカルハラスメントという言葉もありますが、技術力があるからといって強く出たりするような人は採用しません。
最近は、派遣社員や契約社員が、正社員になるというパターンが多いですね。1年もあれば、できる人とできない人に分かれます。やる気があればBGP4、ドメイン名、Linuxだってわかります。我々の世代はロストジェネレーションなどと言われていますが、そういう人達に機会を与えるという、社会的な意義もあると思っています。
■ あなたにとってインターネットとは?
「夢」ですかね。全てがかなう。「夢と感動」かもしれません。
ネットワークがつながっているという説明を頭では理解していても、実際につながった時の感動を、今でも忘れません。今までの人生で一番感動したかもしれません。このように、初めてアクセスした時の感動があるから、インターネットに夢が見られるのかもしれません。
青春時代にインターネットに触れたこと、それが自分の中のベースになっていますし、インターネットは常に自分と一緒にあるものだと思っています。