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ニュースレターNo.44/2010年3月発行

APNIC28ミーティング報告 アドレスポリシー動向

地図:開催地

今回北京で行われたAPNIC28ミーティングは、中国のNIRであるCNNICがローカルホストを務め、2009年8月25日(火)~28日(金)の4日間で開催されました。

会場となったホテル、Grand Hyatt Beijingは、天安門広場から徒歩15分ほどの街の中心にあり、会議に参加しながらも短い観光ができ、街の雰囲気を味わうことのできる環境となっていました。

参加者は51組織、272名(APNIC26では70組織、237名)と、昨年の単独開催(APRICOTとの併催型でなかったAPNIC26)と比較した場合、組織単位での参加者数が昨年よりも多かったことが特徴です。

数年前まではAPNICミーティングというと、アドレスポリシーの提案について議論を行うカンファレンスとのイメージが強くありましたが、現在はAPOPSやIPv4アドレスの在庫枯渇/IPv6の実装などをテーマにしたテクニカルセッションも主なプログラムとして組み込まれ、地域内でオペレーショナルな情報を共有/議論できる構成になっています。

□Program Highlights
トレーニング、APOPS、各種プレナリー、 ポリシーSIG(およびNIR SIG)、APNIC総会、レセプション/懇親会
http://meetings.apnic.net/28/program/

今回はやはり地元である中国からの発表が普段よりも多く、オペレーション面では、4バイトAS番号の対応に向けた情報提供や、IPv6の実装について具体的な事例紹介、また、時事ネタとして2009年7月のDDoS攻撃の事例が紹介されていました。

本稿ではアドレスポリシー提案の結果を中心にお伝えします。オペレーション面での内容については、P.35の「APOPSにおけるオペレーター向けの話題」をご覧ください。

APNIC28でコンセンサスの得られたポリシー提案

前回までの流れから見ると、IPv4アドレス在庫枯渇に向けた対応、IPv6アドレスの取得における障壁に向けたポリシー面での対応は一段落したと考えていたので、あまり多くの提案が提出されないことが予測されていました。

しかし、結果としては今回のミーティングでは、ポリシーSIGにて7点の提案が提出されました。そのうち、コンセンサス※1の得られた提案は、次の4点です。

テーマとしてはIPv4アドレスの移転、IPv4保有者に対するIPv6の分配手続きの簡素化が注目され、残り2点のAS番号に関する提案も、現状の2バイトAS番号の利用状況を見据えて必要な施策として支持されました。

コンセンサスの得られた提案

prop-050:
IPv4アドレスの移転
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-050
(*)提案の背景については、JPNIC News & vol.623※2の特集記事内、「prop-050 IPv4アドレス移転の提案」を参照ください。

移転元、移転先、両者の合意があれば、以下の要件でAPNICから直接分配を受けているIPv4アドレスの移転(最小移転単位/24)を認める。
(1)移転元は、移転後12ヶ月はAPNICへ追加のアドレス申請を行うことができない。ただし正当な事情があることを証明すれば、当該期間内の申請も可能。
(2)APNICのIPv4アドレス在庫枯渇前は移転時に利用状況の審議を行う。枯渇後は、審議は行わない。

prop-073:
現IPv4保有者を対象としたIPv6アドレス申請手続きの簡素化
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-073
(*)旧題:IPv4アドレス保有者へのIPv6の自動的な割り振り/割り当て

IPv4アドレスの分配をAPNICから直接受けている組織は、IPv6においても同じく分配対象と想定されており、当該組織が分配を必要とする意思表明をすれば、それ以上の審査をすることなく、以下のIPv6の分配を行う。
(1)IPv4の割り振りを受けている場合:IPv6/32を割り振る。
(2)IPv4の割り当てを受けている場合(*):IPv6/48を割り当てる。
(*)歴史的PIは対象外

prop-074:
4バイトAS番号の分配に関するIANAからRIRへのAS番号割り振りポリシー
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-074

IANAからRIRへ2バイトから4バイトを区別してAS番号を割り振る期間を2009年12月31日→2010年12月31日に1年間延長する。
グローバルポリシーとして全RIRにて提案中。

prop-075:
歴史的経緯を持つAS番号の有効利用
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-075

経路広告されておらず、利用意思の確認できない歴史的経緯を持つAS番号を回収する。歴史的PIアドレスの回収と基本的に同じ手続きとする。

ポリシー提案の結果について

今回のミーティングにあたって参加者が最も気にかけていたのは、2007年から議論を行っているIPv4アドレス移転の提案に対する結果でした。

また、「prop-073 現IPv4保有者を対象としたIPv6アドレス申請手続きの簡素化」提案も当初は懸念の方が強かったものの、コミュニティメンバーの意見を反映した形で提案内容が見直され、コンセンサスが得られる結果となりました。

移転提案については、前回のAPNIC27(マニラ)では、ミーティングのコンセンサスは得られたものの、その後のメーリングリストでの議論により、最終的な結論としては「継続議論」となり今回に持ち越されたため、提案者も、前回のミーティングで提案を支持していた参加者も、今回こそは正式な決定に至りたい、という気持ちがあったと思います。

事前に行われていたメーリングリスト上での議論の争点は、IPv4アドレス在庫枯渇前の、移転目的でのAPNIC在庫消費/再移転を目的とした移転アドレスの取得防止に向けた要件設定でした。意見の異なるコミュニティメンバーが自主的に調整し、合意できる要件を見つけられたため、ミーティング当日は大きな反論もなくスムーズに参加者のコンセンサスが得られる結果となりました。

国内での施行については、2009年11月26日(木)開催のJPNICオープンポリシーミーティングで議論をいたしました。議論の詳細については、P.28の「第17回JPNICオープンポリシーミーティング報告」をご覧ください。

また、prop-073に基づき、IPv6の割り振り申請手続きが簡素化されることにより、これまでよりも申請時の負荷が軽減されると考えられます。国内においては、具体的にIPv6の実装を予定している組織であれば、既存の要件でIPv6アドレスを取得済みであるケースが多いと考えられ、具体的な障壁となっているとの意見はありませんでした。しかしながら、まずはアドレスを取得しようと考えている組織にとっては、これまでよりも申請が行いやすくなるのかもしれません。

写真:Grand Hyatt Beijing
会場となったGrand Hyatt Beijing
写真:APNICのPaul Willson氏
Opening PlenaryでスピーチをするAPNICのPaul Willson氏

ミーティング後のプロセス

8週間のメーリングリストでのコメント期間中に、特筆すべき懸念が表明されなかったため、定義されたプロセス※3に従って、これらの提案はAPNICにおいて正式に承認されました。

次回のAPNICミーティング

次回はAPRICOTカンファレンスプログラムの一部として、2010年3月にマレーシアのクアラルンプールで行われる予定です。

□APNIC29 Kuala Lumpur
http://meetings.apnic.net/29

参考情報

□APNIC28 -Beijing 2009
http://meetings.apnic.net/28

□その他APNIC28におけるポリシー提案

継続議論となった提案 :

prop-076:
IPv6追加割り振り申請時における経路集約の要件追加
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-076
JPOPM16でのコンセンサスに基づいた提案。

http://venus.gr.jp/opf-jp/opm16/jpopm16-p1-v1.pdf
IPv6追加割り振り申請時にも、初回申請時と同じく、ポリシー上、割り振りIPv6アドレスを単一の経路に集約することを求める。

提案者へ差し戻しとなった提案 :

prop-077:
歴史的経緯を持つPIアドレスにおける移転に関する移転要件の補完
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-077
APNICと契約/費用支払い関係にない歴史的PIは、LIR管理下に移転することが認められている。当該アドレスの移転要件もprop-050と統一することをめざしている。なお、JPNIC管理下の歴史的PIは、すべて合意書締結済みのため対象外。
prop-078:
IPv6の実装を前提として分配するIPv4アドレスのための/10 IPv4アドレス空間の確保
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-078
IPv6の実装を前提としたIPv4アドレスの分配専用に、APNICの最後の/8在庫のうち、/10を別途リザーブする。

(JPNIC IP事業部 奥谷泉)

写真:chairとco-chair
NIR SIGでは、chairに筆者(写真右端)が、 co-chairにWei Zhao氏(写真中央)が選ばれました

※1 コンセンサス
JPNICやAPNICのポリシーフォーラムにおける「コンセンサス」とは、特定の提案事項に対するコミュニティの「総意」を意味します。そして、コンセンサスに至った提案はJPNICやAPNICのポリシー、またはIPアドレス登録管理業務に反映、施行されます。
※2 JPNIC News & Views vol.623
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2009/vol623.html
※3 APNIC地域におけるポリシー策定プロセス
http://www.apnic.net/community/policy/process

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