ニュースレターNo.44/2010年3月発行
RIPE地域におけるアドレス分配ポリシーの動向
2009年10月5日から9日に行われた第59回RIPEミーティングのうち、本稿では、アドレス分配ポリシーの動向をお伝えします。
今回のミーティングでのアドレス分配ポリシーにおいて特筆すべきトピックは、やはりIPv4アドレス在庫枯渇後の対応です。
これに関わる提案としては、「RIPE NCCでのIPv4在庫の分配方法」や「返却されたアドレスの世界的な管理・再分配方法」が挙げられます。そして、在庫枯渇後は重要性が増すと考えられている、アドレス資源の利用権利を担保する仕組みとしてのRPKI(Resource PKI)の提供について、RIPE NCCでの検討状況も紹介されていました。
また、ドイツ国防省による省内のネットワークにおける他に類を見ないアドレス利用の事例紹介も行われ、そのような情報提供を公式のミーティングで堂々と発表していることも含めて新鮮でした。
RPKIの検討については別記事でご紹介しておりますので、ここではIPv4アドレスの在庫枯渇に向けたポリシー提案について、どのような議論が行われていたのかを簡単にご報告します。
IPv4アドレスの在庫枯渇に向けたポリシー提案
今回議論された主な提案の目的は、以下の二つに整理することができます。
- RIPE NCCの最後のIPv4アドレス在庫をどう分配していくかを定義したもの:2008-06、2009-04、2009-03
- 返却されたIPv4アドレスを、世界的にどう管理・再分配していくかを定義したもの:2009-01
個々の提案の概要は、以下の通りです。
RIPE地域における最後の/8の分配方法について
- [提案]
-
- 2008-06:
- Use of Final/8
- 2009-04:
- IPv4 Allocation and Assignments to Facilitate IPv6 Deployment
2008-06
- RIPE NCCの最後の/8在庫は1組織につき/22(1,024アドレス)の分配に限定し、同じ/8空間の中から/16を予期せぬ用途のために確保することを提案しています。
- 内容、提案者ともに、2009年2月からAPNICで施行したポリシーと同じです。
2009-04
- 2008-06の代案として同じ/8の空間を、IPv6の実装を前提としたネットワークに分配先を限定することにより、IPv6移行へのインセンティブとするものです。ARIN地域では、これと同じ趣旨の提案が施行されています。
どちらの提案もIPv4在庫枯渇後の状況に備えて、RIPE NCCにおける最後の/8アドレス在庫を別途リザーブし、この空間からのアドレスの分配はこれまでの基準と分けて定義していることが共通しています。
Policy WGセッションでの議論では、IPv4アドレス在庫枯渇まで時間的な制約もあることから、多くの要素は盛り込まず、最低限必要な対応と考えられる2008-06をベースに、継続議論を行うことになりました。この提案が施行された場合は、新規・既存の事業者ともに、/22の分配を必ず受けることができるため、一定数のIPv4アドレスの分配が最後に保障されることを前提として、在庫枯渇後の状況に備えることが可能となります。
在庫枯渇時期に応じた“公平”なIPv4アドレスの分配について
- [提案]
-
- 2009-03:
- Run Out Fairly
これは前項で紹介した提案と若干アプローチが異なり、より多くの申請者に機会を与えるために、枯渇時期が近づくにつれ、段階的に分配量を縮小していく(例:2010年7月:9ヶ月分の需要を分配→2011年1月:6ヶ月分の需要を分配等)というものです。大きなISPが一度に大量のアドレス申請を行うことにより、その後に申請を行ったISPが分配を受けられなくなる事態を避けることが、提案者の目的です。
会場では分配量を調整するタイミングの定義について、参加者の一人からは懸念が表明されましたが、基本的には好意的に受け止められました。現行の提案を施行する方向で、継続議論を行うことになっています。
IPv4在庫枯渇に向けたIANAからRIRへのIPv4割り振りに関するグローバルポリシー
- [提案]
-
- 2009-01:
- Global Policy for the allocation of IPv4 blocks to RIRs
現在、RIRへ返却されたIPv4アドレスは各RIR単位で在庫管理・再分配が行われています。しかし、アドレスの返却が特定のRIRに集中し、IANA在庫枯渇後に再分配できるアドレスが、RIR地域によって偏ることも想定されます。
そこで、この提案では返却されたアドレスを、IANAが世界共通の在庫として管理・再分配を行うことを定義しています。施行にあたっては、全RIRフォーラムにおけるコンセンサス(提案への賛同)とICANN理事による承認が必要となり、現在はAfriNIC、APNIC、LACNICの3 RIRフォーラムにてコンセンサスが得られています。
Policy WGセッションでは、ARIN地域ではIANAへの返却を必須ではなく「任意」に変更して提案されており、本提案の有効性が薄れること、また、全RIRに対して共通に適用されるグローバルポリシーとして機能しないことが問題提起されていました。
結論としては、参加者からARINの対応について懸念が表明されていたものの、基本的には他のRIRにおける対応であるため、RIPEのアドレスフォーラムとしてはARINでの結論を待った上で、議論を再開することになりました。
その他の特筆すべき提案
アジア太平洋地域のAPNICフォーラムとも共通するテーマを取り扱った提案としては、以下2点がありました。
2009-06 Routing Requirements
- 本提案により、RIPE地域においては、IPv6初回割り振り申請時に割り振りを受けたアドレスに対する、経路集約を求める要件が撤廃され※1、ミーティング期間中の10月8日に施行されました。
- ポリシーの要件とはしないものの、経路集約は促進するため、IPv6における経路広告に関するガイドラインをどう文書化していくかについて、ルーティングWGにて別途議論が行われました。
- APNIC28(2009年8月25日~28日)ではこれと逆行し、初回に加え、追加割り振り申請時にも経路集約を求める提案が行われましたが、支持されませんでした(詳しくはP.32からの「APNIC28ミーティング報告」をご覧ください)。今後は、RIPEと同じ対応を行う方向で検討する可能性が濃厚です。
2008-07:Ensuring Efficient Use of Historical IPv4 Resources
- 追加割り振り申請時に、申請者が分配を受けている歴史的PIアドレスも含めて、分配済みアドレスの効率的な利用の確認を行うとする提案です。
- RIPEでは一部要件見直しの上、継続議論となりました。APNICでは2009年2月より施行されています。
- ※1
- IPv6アドレスポリシーではIPv6アドレス初回申請時の要件の一つとして、割り振りを受けたIPv6アドレスの経路広告は単一に集成して行うことを求めています(例 : /32の割り振りを受けた場合は/32で経路広告を行い、複数の/36等に分割しない)。RIPE地域では、アドレスポリシーで経路広告を定義することは適切ではないとして撤廃されました。
今後の議論の動向を知りたい方は
RIPEのポリシーフォーラムでは、IETFに比較的近いポリシー決定プロセスが採用されており、提案に対してミーティングで議論は行いますが、決議はとらず、メーリングリストでの議論も踏まえて、WGのチェアが施行の判断を行います。
今後のRIPE地域におけるポリシー提案の動向が気になる方は、“address-policy-wg@ripe.net”に下記URLよりご登録ください。提案の議論や施行の発表を追うことができます。
- □address-policy-wg MLへの登録サイト
- http://www.ripe.net/mailman/listinfo/address-policywg#subscribers
参考
- 第59回RIPEミーティング アジェンダ・発表資料
- http://www.ripe.net/ripe/meetings/ripe-59/agendas.php?wg=address-policy
- 第59回RIPEミーティング トランスクリプト・映像(Policy WGは「Wednesday」および「Thursday」に開催)
- http://www.ripe.net/ripe/meetings/ripe-59/archives.php
- RIPE地域にて議論中のポリシー提案一覧
- http://www.ripe.net/ripe/policies/proposals/
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)