ニュースレターNo.45/2010年7月発行
第10回 江崎 浩のISOC便り
今回の理事会会合は、米国カリフォルニア州アナハイムで行われたIETF会合の直後となる、現地時間の2010年3月27日と28日に開催されました。
特に、今回の会合では、
- DNSシステムにおけるセキュリティ対応組織構築に関する議論
- DNSSECの導入に向けた具体的な課題の分析と対応方法
- IPアドレスやドメイン名の管理に関与する組織の在り方
- スマートグリッドを含むIoT(Internet of Things)に関するセキュリティ上の課題
に関する議論が行われました。
DNSシステムの脆弱性克服は、グローバルな緊急課題と認識されており、ICANNを中心にその体制の構築が進められています。しかし、技術面、運用面での実現性の考慮が必須であり、今後、継続してICANNとISOCの協力関係を強化することを確認しました。また、スマートグリッドに象徴される、「オープンシステムと独立システムにおけるシステムの脆弱性に関する問題」は、インターネットコミュニティがしっかりとした方向性を示すべき緊急的重要課題であり、関係組織との連携を強化することが確認されました。
また、今回のアナハイム会合の後、ボードメンバー3名の改選選挙が行われました。投票により、Organizational Member election(団体会員単位の投票、会員ランクに応じて投票結果に加重処理がなされる)で2名、Chapter election(支部単位の投票)で1名が選出されました。その結果、以下の3名が、新しいボードメンバーとして選出されました。
Organizational Member election;
- Eva Frölich(Sweden)
- Lawrence Lessig(United States)
Chapter election;
- Narelle Clark(Australia)
筆者は、Organizational Member electionの候補者に入っており、関係各位のご支援をいただきましたが、力及ばず、3位の得票(加重処理後)となり、今期でボードメンバーの役割を終えることになりました。応援ならびにご支援いただきました関係各位に深く感謝申し上げます。
新ボードメンバーのうち、Eva Frölich女史は、特にICANNとドメイン名関係の活動を行ってきています。一方、Lawrence Lessig氏は、スタンフォード大学の教授で、Creative Commonsの提唱・推進者として広く知られています。最近のISOCの重要課題として、ICANNとの関係、今後のインターネットビジネスの展開シナリオとISOCの役割の二つが挙げられ、これら二つの課題に取り組むに資する2名のボードメンバーが入ることになったと考えることができるでしょう。後者に関しては、具体的には、インターネットにおけるフィルタリングや国家権力による検閲の問題、垂直統合型ビジネスモデル(Walled-Garden Model)へのISOCとしての考え方と方向性など、解決/対応すべき課題が山積しています。
これらの問題に対処するために、最適な2名の新ボードメンバーが選出された一方で、アジア圏のボードメンバーが不在となることに関しては、大きな責任を感じています。オーストラリアはAPNICが管轄する国であり、アジア圏と言えないことはないかもしれませんが、やはり、日本、中国、韓国など、東アジアからのボードメンバーの輩出をめざさなければならないと考えます。
すでに、アジアにおけるインターネットユーザー数と産業規模は、北米や欧州と同等以上の規模になりつつあり、そのような中で、ますますアジアにおけるインターネットポリシーの確立と健全な統治の確立は、グローバルなインターネットに対するアジアの重要な責任となることを認識し、我々は活動を強化しなければならないと考えます。JPNICは当然のこと、関連する団体の方々との連携強化が必要であると考えます。
ISOCのBoT(Board of Trustees: 理事会メンバー)としての3年間の経験は、筆者に、これまで以上に、グローバルな視点で日本のインターネットを見ることの重要性を認識させてくれました。あらためまして、関係諸氏に感謝と尊敬の意を表させていただきます。
【編集部より】
これまで10回にわたりお届けしてきた「江崎 浩のISOC便り」ですが、今回で一旦終了となります。ご愛読いただきありがとうございました。なお、文中の所属・肩書きは原稿執筆時のものです。