ニュースレターNo.46/2010年11月発行
第28回ICANN報告会レポート
2010年6月20日から6月25日まで、ベルギーの首都ブリュッセルで第38回ICANN会議が開催され、本会議の報告会を2010年8月5日(木)に富士ソフトアキバプラザ(東京都千代田区)にて、JPNICと財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて開催しました。本稿では、報告会のレポートを中心に、このナイロビ会議の概要をご報告します。
欧州統合の中心、ブリュッセルでのICANNミーティング
ブリュッセルはベルギーの首都であるとともに、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会など欧州連合(EU)の中枢機関が置かれる、いわばEUの首都とも言える存在でもあります。実はベルギー自体、北部のオランダ語圏、南部のフランス語圏、少数のドイツ語圏からなっています。ラテン民族圏とゲルマン民族圏の境界線上に位置して、国の成り立ちが複合的であることが、これらEUの中枢機関を収容したことに大きく関係しているようです。今回はEUの中心地での会議ということで、開会式では欧州理事会議長(通称:EU大統領)のHerman Van Rompuy(ヘルマン・ファン・ロンパイ)氏をはじめとする、そうそうたるメンバーによる挨拶がありました。これらの方々のスピーチでは、ICANNのガバナンスを欧州統合の文脈になぞらえていたのが印象的でした。
新gTLDに関して
申請者ガイドブック案(DAG;Draft Applicant Guidebook)第4版(以下DAGv4)が2010年5月末に公開され、7月21日までの意見募集に掛けられている状況下での会議開催となりました。前回ナイロビ会議で採択された理事会決議では、“New gTLDs Implementation- ***”として、新gTLDの実装に関する以下の決議が数件採択され、DAGv4ではそれらが反映された内容となっています。
前回ナイロビ会議における、新gTLDに関する主な理事会決議
- EoI(関心表明)プロセスの取り下げ
- レジストリ・レジストラ垂直統合(VI;Vertical Integration between Registries and Registrars)※1の禁止
- Trademark Clearinghouse、URS(Uniform Rapid Suspension)への募集意見反映
- PDDRP(Post Delegation Dispute Resolution Procedure;商標権に関する委任後紛争解決手続き)、RRDRP(Registry Restriction Dispute Resolution Procedure;コミュニティ要件に関する紛争解決手続き)への募集意見反映
- 国際化ドメイン名(IDN;Internationalized Domain Name)3文字制限の緩和(2文字を条件付き承認)
これと比較すると、今回ブリュッセル会議で採択された、新gTLDに関する理事会決議は少なく、
- 2010年9月に理事会合宿(retreat)を行うこと
- 新gTLDプログラム予算の承認
の2点だけでした。
会期中に、新gTLDに関連するセッションは2、3あったものの、それらは現況報告や、新gTLD施行後の対応などを議論するもの、続行中の作業部会(working group)の経過報告など少数に限られ、既に大枠の議論は済んでしまったという印象を受けました。例えば、事業者の間で大きな議論を呼んだVIに関して、木曜日(6月24日)のパブリックフォーラムで大きな議論を呼びそうでしたが、セッションチェアであった理事会議長のPeter Dengate Thrush氏によって、セッション冒頭に「VIの質問や意見は受け付けない」と明言されていたこともあり、特に大きく取り上げられることはありませんでした。
新gTLDプログラムに関して、まだ作業部会での議論は続いていますが、ブリュッセル会議においては、理事会でプログラム予算が承認されたことを含め、プログラム実施に向けた準備に焦点が移っていました。
今後の新gTLD関連の動向ですが、理事会で決議された2010年9月に行う予定の理事合宿では、新gTLDの実装に関連する未解決事項の検討を行うとのことです。正式な理事会ではないため決議などはできませんが、責務の確認(Affirmation of Commitment;AoC)※2の時と同様、大筋についてこの場で話し合われるのではないかと思っています。
中国語圏におけるIDN ccTLDの承認
この他に、ブリュッセル会議での大きなニュースとして、中国語圏の三つの国および地域に対して、IDN ccTLDが承認されたことが挙げられます。
- ICANNトピックス:ICANNが中国語圏のIDN ccTLDを承認
- https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2010/20100628-01.html
今回承認されたのは、次のIDN ccTLDです。
- 「.中国」「.中國」
委任先:CNNIC(China Internet Network Information Center) - 「.香港」
委任先:HKIRC(Hong Kong Internet Registration Corporation Limited) - 「.台灣」「.台湾」
委任先:TWNIC(Taiwan Network Information Center)
中国と台湾に関しては、それぞれの正字体だけでなく異字体も同時に承認されました。これはSynchronized(等価)IDN ccTLDと呼ばれる概念によるもので、二つのTLDゾーンは全く同じ名前空間として取り扱われます。
以下、当日のプログラムに沿って、報告会の内容をご紹介します。今回も、新gTLDの最新動向をカバーした上で、幅広い内容をお伝えする機会となったのではないかと思います。
開会挨拶
最初に、IAjapanの高橋徹副理事長より開会のご挨拶をいただきました。変化の中で継続的にICANN会議をフォローすることは各組織にとって大変なことであるが、できるだけ多くの方がICANNの活動を理解して、議論への参加を望む旨のお話がありました。
ICANNブリュッセル会議概要報告
JPNIC理事の丸山直昌より、ICANNブリュッセル会議の全体概要について報告しました。特に主な理事会決議、および新gTLDの主な課題について詳解しました。
各支持組織(SO)/諮問委員会(AC)からの報告
ccNSO関連報告
株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の堀田博文氏より、国コードドメイン名支持組織(ccNSO)についてご報告いただきました。.JPにおけるDNSSEC導入に向けた技術評価の状況、およびIDN ccTLDファストトラックの状況と、それに関連して中国および台湾で導入された等価IDN ccTLDについてもお話しいただきました。また、IDN ccTLDの導入によりccTLDの定義がどうなるかについても、言及いただきました。
ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
総務省総合通信基盤局電気通信事業部 データ通信課の網野尚子氏に、GAC(Governmental Advisory Committee;政府諮問委員会)の会合についてご報告いただきました。主に新gTLDに関するGACからのコメント、GACと理事会の合同ワーキンググループ(WG)、GACとAoCレビューのための説明責任・透明性レビューチーム(A&T RT)との合同会議などについての内容となりました。
新gTLDへの障壁の低減
GNSO Councilメンバー/東京大学のRafik Dammak(ラフィク・ダンマク)氏より、「新gTLDへの障壁の低減」と題して、SO/AC 新gTLD申請者サポート作業部会(JAS WG)についてお話しいただきました。JAS WGは、ICANNナイロビ会議の理事会で設立が決議され、新gTLD申請時および運用時に支援が必要となる申請者へのサポートのために設立されました。WGの現状はチャーターが制定された後、基準を満たした申請者に対する正味費用を削減する方法、および誰に何を支援するのかということの明確化について、主に議論されているとのことです。さまざまな企業・団体が申請するであろう新gTLDに対して、申請の敷居を広げることにつながるこのような取り組みは、容易ではありませんが、興味深いところです。
ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)報告
ALAC諮問委員のJames Seng(ジェームス・セン)氏より、ALACの活動などについてご報告いただきました。セン氏は現在中国在住のため、録画したインタビューをご覧いただきました。ALACが主に関与している方針検討は、A&T RT、ICANNの運営計画と予算計画、IDN ccTLDポリシー策定プロセス(PDP)、DAGとなり、セン氏はこの中で主にDAGについて、IDNの観点から関与しているとのことです。
ICANNアドレス支持組織(ASO)報告
日本電信電話株式会社の藤崎智宏氏より、ASOにおける活動についてご報告いただきました。ASOでは、現在AS番号関連で1件(4バイトAS番号の分配に関するIANAからRIRへのAS番号分配ポリシー)、IPv4アドレス配布関連で2件(IANAプール枯渇後の、回収したIPv4アドレスブロックのRIRへの分配ポリシー/枯渇後のIANAによるIPv4割り振りポリシー)の、計3件のグローバルポリシーが議論中とのことです。ICANN会議では、ドメイン名関連の話題が中心となってしまいがちですが、IPv4アドレスの在庫枯渇がいよいよ近づいてきたこともあり、ASOへの注目度合いが高まるのではないでしょうか。
新gTLD関連報告
新gTLD登録開始に向けた課題(レジストラの観点から)
GMOドメインレジストリ株式会社の大東洋克氏より、新gTLD登録開始に向けた課題についてお話しいただきました。関連するWG、2010年5月31日に発行されたDAGv4でのアップデート、VIなどについて幅広くご報告いただきました。最後に新gTLD候補の列挙があり、注目を集めていました。
新gTLD時代のブランドマネージメント
株式会社アーバンブレインの才門功作氏より、ICANNブリュッセル会議の1プログラムとして開催された、「新gTLD時代のブランドマネージメント」と題するセッションについてご報告いただきました。同セッションでは、新gTLD登録開始前後でグローバル企業が考慮すべきブランド保護およびマネージメントについて、大手企業のブランド担当および知財関連法律家により議論されたとのことです。同セッションで、2011年と想定されている新gTLDラウンドでの申請総数予想について、会場の参加者に手を挙げてもらったところ、200から300が最も多かったという箇所が個人的には興味深かったところです。
新gTLD登録開始に向けた課題(知財権の観点から)
株式会社ブライツコンサルティングのDomingo De la Cruz(ドミンゴ・デ・ラ・クルズ)氏より、新gTLD申請期間中および新gTLD運用開始後のそれぞれにおける、知的財産権保護手段についてお話しいただきました。ブリュッセル会議では、新gTLD運用開始後のレジストリに対する異議申し立て手段のうち、PDDRPが話題になったとのことです。登録者に対する異議申し立て手段では、URS(Uniform Rapid Suspension)について重点的にお話しいただきました。他に、商標データベースであるTrademark Clearinghouseおよびそれを活用した警告通知サービスであるTrademark Claimsについてもお話しいただきました。個人的には、かなり準備が整ってきたという印象を持ちました。
その他
.xxxの復活?アップデート
JPNICの前村昌紀より、前回の(第27回)ICANN報告会でお伝えした、.xxx TLDのその後の状況について報告いたしました。.xxxとはどのようなTLDなのかや、.xxxの申請を巡るこれまでの経緯については「.xxxの復活?~ICANNのガバナンスメカニズムの実例~」をご覧ください。
なお、本報告会の発表資料と動画は、JPNIC Webサイトで公開しております。ぜひそちらもご覧ください。
https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20100805-ICANN/
次回第39回ICANN会議は、2010年12月5日から10日にかけてコロンビアのカルタヘナにて開催される予定です。
(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀/山崎信)
- ※1 レジストリ・レジストラ垂直統合(VI;Vertical Integration between Registries and Registrars)
- 登録ドメイン名のデータベースを一元的に管理する「レジストリ」と、エンドユーザーからドメイン名の登録や変更など各種申請の受け付けを行いレジストリデータベースへの登録を行う「レジストラ」両者の、兼業等を認めるかどうかという問題です。両者の兼業に対する立場の違いなどから、「レジストリ・レジストラ(垂直)分離問題」などとも呼ばれます。
- ※2 責務の確認(Affirmation of Commitment;AoC)
- インターネットの資源管理に関して米国商務省とICANN、それぞれが果たすべき責務について記載されている文書です。