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ニュースレターNo.47/2011年3月発行

APNIC30ミーティング報告(2010.8.24~8.27)
全体報告

今回のAPNICミーティングは、日本人も多く訪れるオーストラリア最大の観光保養地、ゴールドコーストで開催されました。

開催期間: 2010年8月24日~8月27日
開催地: オーストラリア、ゴールドコースト
会場: サーファースパラダイス・マリオットリゾートアンドスパ
参加者:
オンサイト 183名
リモート会場 24名
リモート参加 165名

実は当初開催地としてバンコクが予定されていたのですが、反政府デモで政情が不安定なことから、開催の3ヶ月前に急遽APNICオフィスから1時間程度でアクセスできる、本開催地に変更したという経緯があります。当初の想定外ではありましたが、2000年のブリスベンでの開催以来、ちょうど10年ぶりにAPNICの地元での開催となりました。

アドレスポリシーについては、今回議論の対象となった5点のうち、提案者の意思により今回の提案としては取り下げられ次回持ち越しとなった1点を除き、残り4点の提案はすべて継続議論となり、APNICミーティング後、施行するポリシーがないという珍しい結果で終了しました。

プログラム

プログラム構成は従来同様、初日にトレーニング・チュートリアル、最終日にAPNIC総会を行い、APOPS、ポリシーSIGを主な軸として、その他の時間にPlenaryや各種BoF等が割り当てられていました。

今回、議論の行方が一番注目されていたセッションは、新たに設けられたプログラム“Member Petition BoF”です。これは、APNICのフォーラム運営会則の改定を求める提案が、インドのコミュニティメンバーからポリシーSIGに提出されたことに対応したものです。

提案では、APNIC EC(Executive Council)選出方法の変更等、APNICフォーラムの組織運営に関する改善を求めており、ポリシーSIGで取り扱うテーマではないとSIGチェアが判断したため、ECで協議の結果、専用のBoFを設けて議論を行う運びとなりました。

また、ミーティング最終日のAPNIC総会には、距離的に近いこともあって、普段はカンファレンスに参加しないバックオフィスのAPNICスタッフも顔を出しており、私自身も普段メールだけでやりとりを行っている担当者に直接会って話をすることができました。

地図:Gold Coast, Australia

Member Petition BoF

Member Petition BoFで議論されたAPNIC組織運営に関する改善については、前回のAPNIC29ミーティング以来、ECの選出方法の改定や政府関係者の関与の必要性を主張するインドのコミュニティメンバーと、その他メンバーとの間でメーリングリストでの議論が白熱していた経緯もあり、どのようなかたちで決着させるのかが注目されていました。また、アドレスポリシーと料金改定以外のテーマで、コミュニティメンバーから提案が行われたことはフォーラム上初めてのことでもあります。

組織運営上のルールはAPNICの定款で定められており、全会員票数の2/3以上の賛成をもってしか変更することができません。そのため、BoFでは冒頭で、定款変更などに必要な請願(petition)プロセスについて、説明が行われた後、ポリシーSIGに提出された三つの改定案が発表されました。

写真:ゴールドコーストで開催されました
APNIC30はオーストラリア最大の観光地ゴールドコーストで開催されました
  • EC選挙における投票権を1会員1票に限定する
  • 再選されたECの就任期間に上限を設ける
  • 政府機関の意見を取り入れられるGAC(Governmental Advisory Committee; 政府諮問委員会)の新設を求める

このうち、EC選挙における投票権を1会員1票に限定する提案と、政府機関の意見を取り入れられるGACの新設を求める提案の2点については、改定の必要性を検討していくことが合意され、ワーキンググループも設立されることになりました。

メーリングリストでの議論の流れからは、こうした合意に達することが難しいように見えましたが、共通の現状認識に基づいて今後議論を進める土台はできたと考えられます。今回のようにAPNICフォーラムにおいて、政府が議論できる場を設ける必要性について公式に議論されたことは初めてです。

アドレスポリシー提案の結果

<次回持ち越しとなった提案>
prop-083:
IPv6追加割り振りにおける別要件の新設
<継続議論となった提案>
prop-084:
定期的なWHOIS情報の更新要請
prop-085:
APNIC最後の/8在庫からのクリティカルインフラへの割り当て
prop-086:
IANA在庫枯渇後のIPv4割り振りに関するグローバルポリシー
prop-087:
IPv6の実装実現のためのIPv6アドレスの割り振り

このうち、prop-086は、在庫枯渇後にRIRに返却されたアドレスの管理方法を定義したものです。現在の提案内容は、RIRからIANAへの返却が任意であるために実効性が薄く、必要性が理解できない等の理由から支持されませんでした。

ただし、現在はIANAからRIRへの最小分配単位が/8という大きなブロックであるため、在庫枯渇に向けて、より小さな単位での未割り振りアドレスも分配可能とする必要があるのではとのコメントはありました。

prop-087については、6rd(IPv6 rapid deployment)の実装に向けたIPv6アドレスポリシーを定義することを目的として、国内のアドレスポリシーフォーラムで議論を行い、そこでは支持の得られなかった提案を改めたものです。APNICフォーラムでは、提案の意図自体は支持できるとのコメントも表明されていた一方、運用を工夫することで必要とするアドレスサイズを小さくしながら、6rdの実装を実現できないのかとの確認が議論の焦点となり、継続議論となりました。

それぞれの提案概要については、下記URLよりご参照ください。
http://www.apnic.net/community/policy/proposals

選挙の結果

今回のミーティングでは、以下三つのポジションに対する選挙が行われました。
http://meetings.apnic.net/30/elections

  • NRO NC※1
    Naresh Ajwani氏(再選)

前回のEC選挙プロセスについて問題提起が行われたこともあり、これまでにないほど丁寧にプロセスの説明が行われていました。票カウントにあたっても細かい点まで状況が共有され、コミュニティへの確認が行われていたことも印象的でした。

  • SIG Chair/Co-Chair※2
    Policy SIG Chair:Gaurab Raj Upadhaya氏
    (旧Chair:Randy Bush氏)
    NIR SIG Co-Chair:Ji-Young Lee氏
    (旧Co-Chair:Ching-Heng Ku氏)

その他:IPv4 Tomorrow?

このPlenaryセッションでは、APNICのIPv4アドレス在庫枯渇に向けたアドレス管理に関する3点の課題への対応について、APNIC事務局からコミュニティに問いかけが行われ、それぞれ以下の結論となりました。

  • 最後のIPv4/8在庫空間の特定
    どの/8プリフィクスから最後の/8ポリシー※3を適用するべきかは、運用上の課題としてAPNIC事務局の判断に一任
  • 在庫枯渇後に返却されたアドレスの管理
    セッションでは明確な結論が出ずその後、APNICにおける在庫枯渇後に返却されたIPv4アドレスはすべて最後の/8の分配ポリシーを適用するよう、APNIC31に向けてコミュニティメンバーが提案※4を提出
  • APNIC管理下のIPv4/8における最小プリフィクスの変更
    最小移転単位に合わせてAPNIC管理下の全/8における最小分配プリフィクスの表記を/24とし、文中に最小割り振り単位を記述

http://www.apnic.net/publications/research-and-insights/ip-address-trends/minimum-allocations

ミーティングを振り返って

ここ最近のミーティングの傾向としては、これまで中心に進めてきたネットワーク運用やアドレスポリシーに関する議論に加え、前回のミーティング※5ではITUにおけるIPv6アドレスの管理、今回はEC選挙のプロセス、および地域内の国や経済圏の意見をどうAPNICフォーラムに反映していくのかといった、ガバナンスの話にテーマが拡張しつつあることを感じました。

実際、今回もアドレスポリシー提案よりも、EC選挙プロセスをはじめとしたAPNICフォーラム運営方針の改定について、活発な議論が行われていたことが印象的でした。

アドレス管理面では、IPv4アドレス在庫枯渇に向けて必要となる大枠のポリシーは施行されているため、個々の未対応のケースはまだ提案されてはいるものの、ポリシー以外の現在フォーラムを取り巻く課題に関心がシフトしてきているのかもしれません。

なお、今回議論されたアドレスポリシー提案は、基本的にすべて継続議論となったため、次回香港で開催されるAPNIC31ミーティングで再度議論が行われます。

次回のミーティング

次回のAPNICミーティングはAPRICOT 2011と併せて、2011年2月に香港で開催される予定で、この号が発行される頃にはミーティングの結果を以下のURLからご覧いただけるようになっているかと思います。

□APNIC31
http://meetings.apnic.net/31

(JPNIC IP事業部 奥谷泉)


※1 NC(Number Council)
各RIRの地域ポリシーフォーラムから選出された2名と、各RIRの理事会から指名された1名の計15名からなる組織で、グローバルポリシーに関する判断などを行っています。
※2 SIG Chair/Co-Chair
SIG(Special Interest Group)セッションの議長を務め、提案事項があった場合はコンセンサスの判断を行います。
※3 最後の/8ポリシー
APNICにおける通常在庫枯渇後は、別途リザーブしている当該/8空間からの分配に切り替えます。この空間からの分配は1組織一律/22(1,024ホスト)に限定されます。
※4 prop-088:Distribution of IPv4 addresses once the final/8 period starts
http://www.apnic.net/policy/proposals/prop-088
※5 JPNIC News & Views vol.731「APNIC29ミーティング報告[第1弾]全体報告」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2010/vol731.html

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