ニュースレターNo.48/2011年7月発行
~IPv4枯渇 Watch[第7回] 最終回~
APNIC/JPNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇!
~枯渇前後のアドレス割り振り状況、今後の分配ポリシー、IPv4アドレス移転申請手続きのご案内~
全世界的に、IPv4アドレスの在庫枯渇が現実のものとしてとらえられ始め、JPNICでも情報提供や認知度向上に取り組み始めた2005年から6年が経ち、ついに2011年4月15日(金)をもって、APNICにおけるIPv4アドレスの在庫は枯渇しました。JPNICでは独自のアドレス在庫を持たず、APNICと在庫を共有しているため、JPNICでも同日にIPv4アドレスの通常割り振りを終了することになりました※1。本稿では、枯渇前後のアドレス割り振り状況はどうであったか、今後の分配ポリシーはどうなるのか、また、分配済みIPv4アドレスの流動化に向けた手段としての「アドレス移転」の手続きについて、お伝えします。
枯渇前のアドレス割り振り状況
2011年4月15日までは、IPアドレス管理指定事業者(以下、IP指定事業者)から提出されるIPv4割り振り申請書に記述された、「最大1年後までに必要となるIPアドレス数」をもとに割り振りを行ってきました。
このIPv4割り振り申請の件数は、2010年は毎月10件程度で推移していました。ところが、2011年に入り、IANAからAPNICに通常の割り振り在庫(/8ブロック2個)の割り振りが行われると申請件数は大幅に増加し、2月には40件、3月は26件と、それぞれ以前の4倍、2.5倍にもなりました。特に2011年に入ると、申請に関する問い合わせや、IPv4割り当て審議やIPv6アドレスの割り振りといった他の申請などが、顕著にJPNICに寄せられるようになりました。
理由としては、既存サービスの顧客増加はもちろんのこと、クラウドサービス、公衆無線LANサービスやスマートフォンへの割り当てなど、それまではあまり見られなかった用途での需要を満たすための、割り振り申請が増えていたこともあります。また、申請時期を前倒しにして、必要となるアドレスの分配を受けられるよう準備を進めていた組織も多かったと考えられます。
このような状況下、APNICにおいては、IPv4割り振り申請に関するIP指定事業者への連絡が「5営業日後」に固定となり、それに伴いJPNICでも、2011年3月22日より取り扱い手順を同様に変更しました。それまでも、JPNICでは申請順(IP指定事業者から返答のあった順)に対応を行っていましたが、この措置によって、その対応時期がより厳密に定められることとなりました。前述の通り、JPNICでは独自のアドレス在庫を持たず、APNICと在庫を共有しているため、割り振りを行うためのアドレスブロックを、APNICに申請しています。APNICへ直接申請した事業者への対応と同じように、IP指定事業者からの最終返信日の5営業日後に、JPNICからIP指定事業者に割り振りが行えるようになってはいましたが、JPNICでは在庫の状況が把握できなかったために、審議担当者は出社するとまず、APNICのWebサイトで公開されているIPv4アドレスの在庫状況を確認するのが日課となっていました。
この時期には、いつIPv4アドレスの在庫が枯渇してもおかしくない状態でした。APNICの在庫状況を見ると、2011年4月に入ってからも、中国やインドといった現在需要が急成長している地域への割り振りがさらに増加し、日に日に在庫は減少していきました。在庫枯渇日当日に5営業日目を迎えるIP指定事業者の中には、希望するサイズの割り振りを受けられない可能性があるのではないかという危惧もありました。このような状況下で、APNICにおけるIPv4アドレスの在庫は2011年4月15日をもって枯渇し、いくつかのIP指定事業者は希望するサイズの割り振りを受けることができませんでした。
枯渇後の分配について
2011年4月16日以降は「最後の/8ブロックからの分配ポリシー」に基づき、IPv4アドレスの分配が行われています※2。この「最後の/8ブロックからの分配ポリシー」では、申請直後に/24(256アドレス)を使用し、かつ、1年以内に/23(512アドレス)を利用する詳細な計画を提示できる、といった初回割り振りまたは追加割り振りの基準を満たしていれば、1組織につき/24(256アドレス)~/22(1,024アドレス)まで、/22に達するまで1回または複数回の割り振りを受けることができます。このポリシーにより分配されるIPv4アドレスは、新たにIP指定事業者となる組織や既存のIP指定事業者が構築するネットワークを、IPv6に移行(対応)させるために利用することが想定されています。
このポリシーの施行からおよそ2ヶ月が過ぎた2011年6月の原稿執筆時点で、全部で403のIP指定事業者のうち、47組織がすでにこの/22の割り振りを受けています。また、IPv6アドレスの割り振りについても増加の傾向を見せており、2010年度の前半は毎月1件程度の申請であったものが、最近では毎月3~5件程度の割り振り実績となっています。IPv4アドレスの在庫枯渇後を見据えて、IPv6対応の具体的な準備を進めている組織も増えてきているようです※3。
IPv4アドレス移転申請手続きについて
こうした状況の下、JPNICでは、分配済みIPv4アドレスの流動化に向けた手段としてIPv4アドレスの移転申請手続きを2011年8月1日より開始することを決定しています。これは、JPNICにおけるIPv4アドレスの移転制度は国内のアドレス利用者の意向を代表するポリシーWGからJPNICに対して、2010年1月に実装勧告が行われたのを受けて検討を進めた結果で、JPNICは、IPv4ポリシー文書「JPNICにおけるアドレス空間管理ポリシーについて」※2に移転を認める要件を反映することになりました。以降、JPNICへIPv4アドレスの移転申請を行う上での手続きのポイントをご紹介します。
移転することができるアドレスの種類 | JPNICが管理するIPv4アドレス(IP指定事業者へ割り振られているPAアドレス、特殊用途用PIアドレス、歴史的経緯を持つプロバイダ非依存アドレス(歴史的PIアドレス)) |
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移転元となり得る組織 | JPNICと契約締結している組織(IP指定事業者、特殊用途用PIアドレス割り当て先組織、歴史的PIアドレス割り当て先組織) |
移転を受けることができる組織 | JPNICと契約締結している組織、または新たにJPNICと契約予定の組織(JPNICと契約締結していない組織でも、移転手続きと併せて、新たにJPNICと契約締結することにより、移転を受けることが可能) |
移転できるアドレスの最小単位 | /24(/24より小さいサイズのブロックを移転することはできません) |
移転履歴の公開 | 移転が行われたことの記録をWeb等で公開(移転元の組織名、移転先の組織名、移転したアドレス、移転した年月日を記録して公開) |
料金について | 移転手続きは無料(ただし、移転されたアドレスについては、移転先組織がその後のIPアドレス維持料を負担することになります) |
その他 |
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IPv4アドレスの移転にあたって、最も気をつけなければいけないことは、移転により、正しいアドレスの分配先が不明確な状態となることです。これは、IPアドレスの一意性を担保する上で大変重要なため、JPNICでの移転手続きにおいては、以下3点の確認を重視しています。
- 移転元がJPNICデータベース上の正しい分配先として登録されていること
- 移転先は、JPNICとIPアドレスの管理に関する適切な契約を締結する組織であること
- 移転元、移転先両者の組織としての明確な合意が得られていること
このようなことから、IPv4アドレスの移転申請は、他の申請とは異なり、電子メールではなく、書面での申請書の提出をお願いする手続きにしています。また、移転の形態によっては、移転手続きを完了させるためには、移転申請に関わる書類に加え、JPNICとの契約に関する書類の提出が必要となるケースもあります。
手続きの流れ
申請書提出後の大きな手続きの流れは、次の五つのステップに分類されます。
1)JPNICからの申請受領の通知
2)JPNICからの申請内容の確認完了の通知
3)JPNICからの移転予定日の通知
4)JPNICによる移転申請の承諾
5)JPNICからの移転完了の通知
それぞれのステップの詳細は「IPv4アドレス移転申請手続き」※4文書で定義していますが、2)のJPNICからの申請内容の確認完了通知は、提出された移転申請書が、移転の要件を満たしていることをJPNICで確認し、申請内容に基づいた移転を進めてよいと判断したことを意味します。
従って、その後は、流れに沿って手続きが進めば、5)の移転の承諾通知が行われ、移転が完了します。
4)のステップまで進んだ後は、移転元、移転先ともに、移転申請の取り下げを求めることはできませんので、社内の関係者も含めて十分に調整の上、申請を行ってください。一度手続きが完了した移転申請の取り下げを認めると、正しい移転先がどこであるかはっきりしなくなってしまうため、このような対応としています。
またJPNICでは、担当者個人の判断により申請が行われ、組織として移転元または移転先が認知しない移転が行われるリスクを抑えるために、1)~3)のステップ毎に、申請担当者に加え、JPNICとの契約締結時にご登録いただく、契約組織としての連絡窓口にも通知を複数回送る手続きとしています。
申請書確認のポイント
移転申請の提出書類は次の2点となり、内容は非常にシンプルです。
- IPv4アドレス移転申請書
- 印鑑登録証明書(3ヶ月以内に発行されたものを移転元、移転先各1通)
2)の申請内容の確認完了通知を送る上で、JPNICが確認するポイントは次の3点です。移転時におけるアドレス利用計画の提出は求めませんが、ポイントを踏まえた書類での確認をさせていただきます。
a. IPv4アドレス移転申請書の捺印、組織名などの照合 |
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移転元または移転先が、組織として認知しない移転が行われるなどの混乱の元とならないよう、この整合の確認は厳密に行います。以下の点にあらかじめご注意ください。
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b. 移転元のアドレスがJPNICから分配を受けた/24以上のIPv4アドレスであるか |
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c. JPNICとの契約に関する手続きとの連携 |
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移転申請書の提出にあたって
移転申請の提出書類自体は少なく、また、申請書提出後に、移転元・移転先の側で対応を必要とする作業も基本的にはありません。
ただし前述の通り、JPNICとの各種契約手続きとの整合性が必要となります。これは移転元が新規の場合に限らず、移転元が以下に該当する場合も手続きが必要となりますので、ご注意ください。
- IPv4アドレスのみを管理しており、管理下のすべてのIPv4アドレスを移転する場合は、契約の解約届の提出
- PIアドレスの割り当てに関する契約書/確認書には、割り当てを受けているIPv4アドレスレンジが記されているため、割り当てを受けているPIアドレスの一部を移転する場合、移転結果を反映した契約書の変更手続きなどが必要となります
また、移転先によるJPNICとの契約種別も、「移転先がIP指定事業者として割り当てもできる方法でやりたいのか」「PIアドレスとして自社で利用できれば十分なのか」等によっても異なってきます。
このように、移転元、移転先の状況に応じてJPNICとの契約に関する手続きをお願いすることになりますが、移転申請書提出前に、移転元、移転先にてどのようにIPv4アドレスを利用予定であるかをJPNICへお知らせいただけましたら、契約手続きも含め、状況に応じた手続きの流れをご案内させていただきますので、問い合わせ窓口までお気軽にご相談ください。
お問い合わせ先:ip-service@nir.nic.ad.jp
(JPNIC IP事業部 川端宏生・奥谷泉)
- ※1
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APNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇のお知らせおよび枯渇後のJPNICにおけるアドレス管理ポリシーのご案内
http://www.nic.ad.jp/ja/topics/2011/20110415-01.html - ※2
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JPNICにおけるアドレス空間管理ポリシー
(12.IPv4アドレス空間の移転)(9.10 /8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫からの分配)
http://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-01111.html - ※3
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IPアドレスに関する統計・各種リスト
http://www.nic.ad.jp/ja/stat/ip/ - ※4
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IPv4アドレス移転申請手続き
http://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-01113.html