ニュースレターNo.48/2011年7月発行
JPNIC会員企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は、関西地区においてインターネットデータセンターを中心にサービスを提供し、IPv6にもいち早く対応するなど、先端技術への挑戦も続けられているエヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社の、サービスオペレーション部長松田洋一氏にお話を伺いました。ストリーミング、事業基盤の中核をなすデータセンターの紹介、有事の際への備え、IPv6対応などについて幅広く語っていただきました。
エヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社 | |
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住 所 : | 大阪府大阪市北区中之島3丁目3番3号 中之島三井ビルディング14階 |
設 立 : | 2000年3月1日 |
資本金 : | 1億円 |
代表取締役社長 : | 岡本充由 |
URL : | http://www.nttsmc.com/index.html |
事業内容 : | インターネットデータセンターにおけるハウジングサービス、ホスティングサービスおよびストリーミングサービスの提供、インターネットエクスチェンジ(IX)事業 |
(2011年6月22日時点) |
インターネットは「生き物」である。~健全な成長を目指し、インフラを支えていく誇り~
お客様のコンテンツを配信したいという思いから、すべては始まった
~ストリーミングの先駆者として~
■貴社は、業界での貢献も数多く、「ストリーミングの先駆者」というイメージが強いのですが、どのような経緯でストリーミングサービスを始められたのですか。
対外的に、いろいろなストリーミングの実験をさせていただいているので、そういうイメージなのでしょうか。
会社設立前の1997年頃から、日本電信電話株式会社関西支社(現西日本電信電話、以下、NTT西日本)の中でそのようなストリーミングのプロジェクトがありましたので、すでに14年くらい前から取り組んできたことになります。ただ、NTT西日本ではいわゆるNTT法などの制約があったので、それなら新会社を作ろうということになり、設立されたのが弊社です。
設立にあたっては、まずは「お客様が持っているコンテンツを配信したい」という目的がありました。そして2000年頃、そのコンテンツを集める基盤としてのデータセンターが必要になり、在阪の放送局などにこのデータセンターをお使いいただき、都度、お客様と相談しながら拡張を進めていきました。弊社として、一番着手しやすかったのが映像配信、ストリーミングだったというわけです。
■松田さんも設立当初から関わられていらっしゃるのですか。
私は前職では東京のNTTラーニングシステムズ社でgooの前身となるポータル事業のプラットフォーム運用をずっとやってきたのですが、関西でも同じような地域ポータル事業をはじめるという話が進んでおり、設立されて半年ぐらいでこちらに来ました。
■貴社は、設立当初から現在に至るまで、WIDEプロジェクトやサイバー関西プロジェクト(以下、CKP)などの学術系コミュニティの活動に、積極的に参画されていますよね。それは、社としての方針によるものですか。
こうした活動の大切さについては、経営者にも理解してもらっています。ネットワークの運用は、自分たちだけではうまくいきませんので、コミュニティの皆さんとうまく連携を取る必要があります。コミュニティでの活動は、個人として認知されるところから始まるため、どうしても属人的になりがちですが、人と人とのつながりが組織としての連携に活かされるように気を配っています。また、コミュニティでのつながりは、一度途切れると元に戻すのが困難でもあります。我々NTTグループは、グループ内での異動も多いので、組織として連携を継続させることも一つの課題なのですが、連携を維持するために、若手にも積極的に顔を出させるようにしています。
特にCKPは、もともとは1995年に開催されたAPEC大阪会議の際に構築された、APECインターネットシステムの構築・運用に関わったメンバーが中心となり結成されました。その時に弊社も関わったのがCKPへの参加の始まりです。CKPの活動の中心となっている学術の先生方には、奈良先端科学技術大学院大学の山口英先生のような、精力的な方が数多くいらっしゃいます。そういった方々の活躍もあり、学術と企業が連携してうまく活動できているコミュニティだと思います。
CKPでの高校野球中継など、会員メンバーとともに新しい技術に挑戦的に取り組むことができ、その成果を自社のサービスに取り込んだり、会員企業の皆様がハウジングサービスを利用していただいたりすることで実業にフィードバックできていることも、コミュニティへの参加を会社が後押ししてくれる一助となっているかもしれません。
堂島データセンター ~西日本最大級のネットワーク拠点として~
■ではあらためて、現在の詳しい事業内容について教えてください。
弊社は大阪の堂島のデータセンターを中心に事業を展開しています。事業の柱は、「ハウジング」「ホスティング」「ストリーミング」の3事業です。中でもハウジングが事業としては主力で、総売り上げのおよそ6割を占めます。お客様の数は、ホスティング(レンタルサーバ)の月額数千円程度の利用客まで含めると、1万を超えるお客様にお使いいただいています。
■貴社の玄関に、データセンターの模型がありましたが、堂島データセンターの模型ですよね。
はい。堂島にある弊社データセンターの模型です。ファシリティについて分かりやすく説明し、理解してもらえるようにと作りました。例えば自家発電機がどうだ、などと説明しようにも、なかなか実際には電力室に入ってもらうわけにもいきませんので。
■堂島というとコロケーションとしてはとても有名ですね。ところで、堂島のデータセンターの需要は増えてきているのでしょうか。
弊社のデータセンターがある堂島は、NTT西日本のネットワーク拠点でもあり、西日本のトラフィックのほとんどがここに集まっていると言っても過言ではありません。我々も運用には細心の注意を払っています。
それ故、堂島のデータセンターはかなりのお客様にご利用いただいています。堂島の他にも2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震以降引き合いが増えているデータセンターがあるという話も聞き及んでいます。震災発生以降、お客様もディザスタリカバリ(DR)を真剣に考えるようになってきたという印象を受けます。
ただ、トラフィックは東京に比べると少なく、まだまだ流せると思っていますし、その意味では今後も成長できる余地はあると言えます。また、大阪は単に東京の代わりの拠点ということだけではなく、トラフィックと設備の分散という観点で検討されるお客様が多くなってきています。それに対して、我々はどういったサービスを提供していけるか、そのための技術は何かと考えているところです。
東北地方太平洋沖地震の影響 ~データセンター事業者としての取り組み~
■いまほど「今回の震災以降、DRを考える人が増えた」とのお話がありましたが、この2011年3月11日の震災の影響は、どの程度ありましたか。
3月11日の地震発生時はここ大阪も揺れましたが、震源から離れていたため、それほど大きな被害はありませんでした。また、我々は西日本を中心にサービスを提供しているため、主な被災地域である東日本に置いている設備は少なく、それらの設備についても深刻な被害はありませんでしたね。
■普段から有事に備えて行われていることなどがありましたら、お聞かせください。
そもそも、弊社の重要な設備は堂島に集中しているため、有事の際にどうするのかという危機感は以前から持っています。堂島が打撃を受ければ、ネットワーク的には大きな影響を受けることになりますから。そうした事態を避けるため、2009年から事業継続管理(BCM; Business Continuity Management)への取り組みをスタートしました。BCMへ取り組む直接のきっかけとなったのは、当時流行していた新型インフルエンザでした。災害、伝染病、事故などのさまざまなリスクを想定し、これらのインシデントが発生した際にもサービスを継続できる仕組み作りをめざしました。
その過程においては、あらゆるインシデントに対応する事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を考えたときに、インフルエンザや地震といったリスク毎の継続計画を策定するのではなく、要員の減少やネットワーク停止等の結果事象をキーにすることで、汎用的なBCPを策定しました。また、実効性を高めるための社員教育や、インシデント発生を想定した机上訓練も行いました。そして昨年度、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の第三者認証を取得しました。
■そこで得られた教訓はどのようなものでしょうか。
BCPの前提となる結果事象の選択にあたっては、発生確率が高く事業影響度が高いものは、それは通常取り組む予防保全の範囲で取り組むべき問題であり、発生確率は低いが、事業影響度の高いものについて、いかに目標時間内に復旧するかを考えることがBCPであるということを学びました。また、迅速な復旧のためには、対応手順や役割分担などが事前にしっかり決められていることが重要ですので、その辺りの整備には力を入れました。
ただ、今回の震災のような、事前の想定を超えるような大きな事態が起きた時に、何をする必要があるのかについては、さらなる見直しをしていく必要があるかと考えています。
■今回の震災では「消費電力の削減」も大きくクローズアップされています。電力供給が必須のデータセンターとして、何か工夫をなさっていますか。
データセンターのファシリティとして取り組むべき部分もありますが、我々としてはその上に乗っているものにいろいろと工夫をすることで、消費電力の削減や効率化の実現を図っています。
例えば空調は、冷やすことによって消費電力が増えます。そのため、モニターを設置して、「どのぐらい温度が上がっているか」「どのぐらいラックが電力を使っているか」といったことを可視化し、分析した上で空気の流れを変えられるようにしました。また、サーバをなるべく消費電力の少ないものにしたり、仮想化して集約したりもしています。特にストリーミングのサーバは台数が多かったのですが、2009年にかなり集約して、TCOの削減を実現しました。
このような工夫はしているものの、データセンターそのものの省電力化や効率化には、これからもっと取り組まないといけないところだと感じています。
基盤となったインターネットの安定性をまず守る
■インターネットは、初期の頃に比べると技術が変遷し、基盤も大きく変化しましたね。貴社がサービスを提供される中で、変化を感じられることはありますか。
世の中で、「インターネットは使えて当たり前」になってきたことが大きな変化です。以前は少しぐらいトラブルが起きても、「ごめんなさい」と謝れば済んでいたことも、今ではそういうわけにはいきません。お客様の規模も、トラフィックも変わってきています。この「インターネットは使えて当たり前」に応えることは、今や我々の使命だと思っています。そのため、インフラ/基盤としての品質をコントロールしていくこと、信頼性を上げていくことが、会社活動の中でかなり大きなウェイトを占めてきています。
■ユーザーのインターネットに対する意識は変わってきていますか。
はい。今のインターネットユーザーは「どうしてこうなるのか」「インターネットはどうなっているのか」といった部分の意識はなくなっていっていますね。インフラとしてそこにあって当たり前ですから、「使えればそれで良い」「いろいろな使い方ができると良いよね」、ということに主眼が置かれています。
一方、それを支える我々事業者としては、インターネットユーザーは何も考えなくて良いよう、いろいろな人が技術や知恵を持ち寄って考えていく必要があると思います。我々は、仕組みを理解し、ユーザーの使い方も知った上で、コントロールしていけるような柔軟な仕組みを作っていくことが重要であり、これが我々の使命だと思います。
中身を知るというところだと、弊社でも昔からやっていたメンバーはきちんと分かって動かしていましたが、今の若い人たちは中身を知らなくてもインターネットを使える世代です。「デジタルネイティブ」という言葉がありますが、若い人たちはネイティブというくらい、自由にデジタル技術を使う反面、その中身を知らないことが多いです。ですから、そういう世代にも仕組みや正しい使い方を教えないといけません。それがなくなると、本当にコントロールの利かないものになってしまいます。「教える」と言うと偉そうですが、そういう啓発もしていかないと、技術者、すなわちインフラを守る人間が育っていかないと思っています。
■そういう環境の変化の中で、将来のインターネットのイメージ、あるいは理想などがありましたらお聞かせください。
インフラとしての安定性の向上に取り組むことはもちろんですが、同時に、新しいことへの取り組みについても、成長させていけることを願っています。
しかし、新しいことへの取り組みについては、十分と言えるほどには時間を割けていないのも事実です。安定性の向上に力を入れれば入れるほど、新しいことをするための時間が減ってしまうというジレンマがあります。致し方ない部分もありますが、現サービスの質の向上と新たな取り組みの両方をやっていかないと、自分たちの会社だけでなく、この業界全体が成長していかないので悩ましいところですし、両者をどのようにミックスしていくかというバランスも簡単ではありません。
■具体的に、どういう新しいことに取り組んでいかれたいと思いますか。
そうですね、技術面ではクラウド、仮想化技術など、いろいろと試すべきものがあると思いますし、サービス面ではIPv6を本格的にお客様に使ってもらう時に、どのようにサービスに組み込んでいくかというあたりが課題です。
私は、新しいことに取り組む開発の責任者であるとともに、サービス運用の責任者でもありますので、まずは安定した品質のサービスを提供することがやはり大前提だと考えています。その上で、いかに工夫をして効率的に運用を回しつつ、新しい課題にも注力できるようにするかだと思います。外からは見えにくいものの、我々なりには効率的にできるようになったところもありますが、さらに取り組むべきところだと思っています。
■貴社にはモバイルサーバというサービスがありますが、モバイル関連のサービスの広がりも大きいのでしょうか。
そうですね。2年前はフィーチャーフォン向けに静的なコンテンツと動画配信サービスを提供していました。一方、最近はご存知の通り、よりPCに近いスマートフォンが増えてきています。
スマートフォンが増えるということは、コンテンツの配信先が増えているということですので、お客様としては、媒体に合わせて変換するなど手間が増えることになります。そこで、我々は「ワンソースマルチデバイス」と呼んでいますが、「一つのコンテンツをいろいろなところに配れるように」という需要が増えてきています。弊社にはスマートストリームという、携帯電話3キャリアに合わせた配信ができるシステムがあり、すでにある程度の実績があります。今後はスマートフォンにも提供していきたいと考えており、実際にニーズも増えてきています。
インターネットは「生き物」である ~それを育てるためにも、JPNICに望むこと~
■JPNICへのご要望がありましたらお聞かせください。
二つあります。一つはIPv6の推進です。どうしてもIPv4アドレスが必要な場合にどう対応するかですが、クライアント側はNATなり何なりで対応ができても、サーバ側にはIPv6アドレスしか払い出せなくなります。大手のISPさんはCarrier Grade NAT(CGN)なども考えられていますが、我々はそこまでは考えていません。
IPv4アドレスはいずれなくなってしまうわけですので、その辺りの割り切りが必要だと思います。IPv4アドレスの延命に注力するのではなく、世間の風潮的に「どんどんIPv6を使っていこう」というふうに盛り上げていかないといけません。JPNICにはその牽引役となることを期待しています。結局IPv6しかなくなる時に、アクセス側がIPv6になってくれないと困ります。また、コンテンツ事業者としては利用者がIPv6になるのを待っていてはだめで、IPv6でも使えるコンテンツを用意していく必要があるでしょう。
もう一つはガバナンスです。インターネットをコントロールしながら正しい方向に成長させていくためには、JPNICのような組織がガバナンスにも関わっていくことは非常に大事だと思っています。いろいろな意見をまとめるのは簡単ではないでしょうが、しっかりとリードしていただきたいです。私たちももちろん協力します。
■IPv6といえば、2002年1月にはいち早く、データセンターとして関西初のIPv6対応サービスの提供を開始されていますね。今回のIPv4アドレス在庫枯渇の影響、今後のIPv6への取り組みや課題を、どうとらえていらっしゃいますか。
IPv4アドレスについては、今あるものをどう利活用していくかという話しかないと思います。それでも、IPv4アドレスはいつかはなくなってしまいますので、その前にIPv6にサービスをシフトしていかなければなりません。
ネットワークについて言うと、昨年にはデュアルスタックで提供できるネットワークはすでに構築できていますので、お客様の要望があれば、すぐに提供できるところまでは来ています。問題はサーバです。静的なコンテンツは用意できていますが、その先の動的コンテンツのプログラムがまだ難しいところで、今後対応を進めていかないといけないと思っています。
■このIPv6への転換に対して、難しいととらえる事業者も多いようです。貴社でも何か、困難がありましたか。
そうですね、ネットワークやストリーミングのIPv6化と比べると、ホスティングのIPv6対応は難しいです。技術要素としてIPv6に対応すること自体は問題なくできます。お客様からの要望があれば、IPv6用のWebサーバ、メールサーバを立てますし、お客様がコンテンツを作る上で、静的なWebページはまったく問題ありません。ただ、最近はマッシュアップの流れで、別々のサーバにあるサービスを組み合わせて利用されている場合が多いため、世の中のすべてのサービスがIPv6対応していないと、結局使えないことになります。次にログ解析、それから、今や普通に使われている広告効果測定、Google AdSenseなどの広告配信サービスといったAD系ですね。これらのサービスがIPv6に対応できていません。
そうはいっても、これまでと違い世の中の流れがIPv6に向いて来ているので、取り組みやすくはなってきていますし、大きいところはこれから整備されてくるように思っています。
■最後に、このコーナーにご登場いただいている皆様にお聞きしているのですが、「インターネットとは」一言で言うと何でしょうか。
難しいですね(笑)。でも、一言で言うと「生き物」だと思いますね。どんどん成長していくし、病気をすることもあります。それが病気をしないように、健康に育てていくことが我々事業者の使命だと感じています。そして、インターネットはもはや人ひとりでは維持できない規模になっていますので、事業者がいろいろな場面で協力しながらコントロールしていくことが重要と思っています。
そのためにも、先ほどJPNICへの要望として挙げた「ガバナンス」が大切で、コミュニティの皆さんが協力しながらインターネットを維持していくために、リーダーシップをとっていただきたいと思います。