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ニュースレターNo.49/2011年11月発行

ICANNシンガポール会議および第31回ICANN報告会レポート

2011年6月19日(日)から24日(金)まで、シンガポールで第41回ICANNが開催され、その会議の報告会を2011年8月4日(木)にエッサム神田ホール(東京都千代田区)にて、JPNICと財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催で開催しました。本稿では、シンガポール会議の概要と、報告会の模様をレポートします。

シンガポールにて開催された今回の会議の主要なトピックは、「新gTLDプログラムの始動」と、「理事の交代」の二つでした。

写真:ICANNシンガポール会議開会式の様子
ICANNシンガポール会議開会式の様子

新gTLDプログラム実装の始動

会議の2日目である、2011年6月20日(月)に開催されたICANN理事会では、新gTLDのRFP(募集要項)となる新gTLD申請者ガイドブック(以下、申請者ガイドブック)の主要部分と、申請期間を含めた今後のスケジュールが承認されました。新gTLDの国際的な認知度を高めるための活動を行うコミュニケーション・ピリオドも即時に開始され、シンガポール会議にて新gTLDプログラムが始動しました。理事会決議に至るまでの概況を、シンガポール会議までの経緯も含めてお伝えします。

2011年3月に行われた、前回サンフランシスコの会議報告※1では、ICANN理事会は申請者ガイドブック完成に向けたスケジュール案※2を採択するにとどめ、会議が終了したことをご報告しました。新gTLDプログラムについてGACが抱く懸念点が、ICANN理事会とGACとの協議では払拭されず、ICANN理事会が新gTLDプログラムに対してゴーサインを出さなかったためです。

新gTLDの導入には、運用や技術に関する問題のみならず、経済的、法律的、政治的な課題も絡んでくる上に、ICANNの最大の特徴とも言える「マルチステークホルダーによるボトムアップでの合意形成」が求められることから、一筋縄ではいかない議論や調整が続けられてきました。コミュニティから寄せられた種々の意見の反映は、難しい作業であったと思います。殊にICANN 理事会とGACとの協議においては、政府代表が各国の事情を反映して勧告をするのですが、それらは公益的な性質を持つ上に内容も多岐にわたるため、ICANNとしても、とりわけ誠実な対応を取ることを心掛けていたように見受けられます。GAC勧告を勘案する上で、他のコミュニティの意見を取り入れるのとは、また違った難しさを感じていたのではないかと想像します。

新gTLDを申請してレジストリ事業に参入したいと考えている事業者は、ここ数年間のICANNにおける「マルチステークホルダーによるボトムアップの合意形成」を、じりじりとしながら見つめていたに違いありません。ところが、前回のサンフランシスコ会議において、ようやく転がり出しそうな手応えを感じたのではないかと思います。前述したように、シンガポール会議では、申請者ガイドブックを完成させてさらに前に進めたいと考える、ICANN理事会の意思表示がありました。また、サンフランシスコ会議以降シンガポール会議までの間は、承認されたスケジュールに沿って申請者ガイドブック完成に向けた作業をICANNが着々と進めることで、「シンガポールでは申請者ガイドブックが承認される可能性がかなり高い」という雰囲気をICANN自体も醸成しました。その結果、コミュニティとしてもそれを期待しながら、シンガポール会議を迎えたように思います。

そして、予定通りシンガポール会議の初日に臨時理事会が開催され、新gTLDプログラムの施行について審議が行われました。ICANN理事会とGACとの協議は、サンフランシスコ会議以降も、5月には電話会議、シンガポール会議初日となる6月19日(日)には対面にて行われましたが、GACの懸念点すべてについて、ICANN理事会とGACとの両者の間で合意には至りませんでした。また、前述したように、新gTLD導入にまつわる問題の複雑さ故か、ICANN理事会内においても見解は分かれるようで、満場一致には至りませんでしたが、賛成13票、反対1票、棄権2票で、新gTLDプログラムの始動が承認されました。この決議を待ちに待っていた人々も多く、承認直後には会場内でスタンディングオベーションが起こり、ICANNスタッフによるこれまでの努力に対しても、参加者から拍手が贈られました。

新gTLDプログラムの実装は、2011年5月30日に公開された申請者ガイドブック※3に、GACとの間で合意された内容等を修正として反映した上で、それに基づき進めていくことになります。提示されたスケジュール※4によれば、ICANNは約半年を使って新gTLDプログラムの世界的な認識を高める活動※5を行い、新gTLDの申請受付期間は2012年1月12日から4月12日までとしています。ただ、申請者ガイドブックもスケジュールも、実装を進めていく過程で必要が生じれば改訂を行えることになっているため、今後も状況を注視していくことが必要です。

新理事会体制について

ICANN創設時から関わりがあり、2007年11月より理事会議長を務めてきたPeter Dengate Thrush氏(ccNSO選出)と、gTLDの紛争処理方針であるUDRPの創設などに関わったRita Rodin Johnston 氏(GNSO 選出)が、任期満了につき本会議をもって理事を退任しました。両氏は、長年にわたりICANNの活動に貢献してきたことから、コミュニティからは多くの謝辞が寄せられました。新たな理事として、Chris Disspain氏(ccNSO選出)とBill Graham氏(GNSO選出)が迎えられました。Disspain氏は、オーストラリアのccTLDレジストリであるauDA のCEOです。Graham氏はカナダの独立コンサルタントで、以前はInternet Society (ISOC)およびカナダ政府に勤務した実績があります。新理事メンバーの経歴は、http://www.icann.org/en/general/board.htmlでご確認いただけます。

また、新体制となった理事会の議長には、インターネットの誕生から関わりがあり、2010年12月からは副議長を務めていたSteve Crocker 氏が選出され、副議長にはBruceTonkin氏が選出されました。

写真:理事を退任するPeter Dengate Thrush 氏(右から3人目)
ISP関係者部会のメンバーらに囲まれる、理事を退任するPeter Dengate Thrush氏(右から3人目)

このICANNシンガポール会議を受けて、後日、日本向けの報告会である「第31回ICANN報告会」を開催しました。以降では報告会の内容をご紹介します。今回も、新gTLDの最新動向をカバーした上で、幅広い内容をお伝えする機会となったのではないかと思います。

新gTLDプログラム関連

今回も多くの講演者が次の通り講演しましたが、この中のほとんどの講演で、次回gTLD募集の枠組み(新gTLD プログラム)について触れられていました。

  • JPNICの高山由香利による「ICANNシンガポール会議概要報告」
  • 総務省のの中沢淳一氏による「ICANN政府諮問委員会(GAC)報告」
  • ICANN ALACメンバーのTijani Ben Jemaa氏による「ICANN At-Large 諮問委員会(ALAC)メンバーからのメッセージ」
  • JPNIC理事の丸山直昌による「新gTLD募集に向けての残存課題」
  • 一般社団法人日本ドメイン名事業者協会/株式会社アーバンブレインのJacob Williams氏による「ICANNレジストラ部会の最新動向」
写真:シンガポール会議の概要を報告するJPNICの高山由香利
JPNICの高山由香利はシンガポール会議の概要を報告しました

今回のICANNシンガポール会議での一番のハイライトは、会議の2日目である6月20日(月)に開催された理事会で、新gTLDプログラムの実施が承認されたことです。

前回シリコンバレー/サンフランシスコ会議において懸案となっていた、新gTLDプログラムについてGACが抱く懸念点に関する、GACとICANN理事会との議論についての経過は、次の通りとなりました。

2011年4月12日:
「GAC スコアカード※6への理事会回答に関するGACコメント」をGACが理事会に送付
4月15日:
申請者ガイドブック(2011年4月15日版)公開
5月20日:
GAC・理事会電話会議(理事合宿期間中に開催)
5月26日:
「申請者ガイドブック(2011年4月15日版)に関するGACコメント」をGACが理事会に送付
5月30日:
申請者ガイドブック最終版公開
6月18日:
「新gTLDと申請者ガイドブックに関するGACコメント」を理事会に送付
6月19日:
新gTLD に関する理事会とGACの会合
6月20日:
理事会決議※7
6月23日:
GACコミュニケ※8公開
写真:新gTLDプログラムを支持するメッセージが入ったアイスクリーム
ICANNシンガポール会議会場で配られていたAusRegistryからの新gTLDプログラムを支持するメッセージが入ったアイスクリーム

最後のGACコミュニケ(声明)では、ICANN理事会がGACの助言に従わなかった公共政策課題の要素がいくつかあるものの、助言を却下する決定の根拠を示したこと、他の助言には従ったことを認めるとしています。

GACの懸念点すべてについて、GACとICANN理事会との間で合意が得られたわけではなく、理事会決議自体も満場一致ではありませんでした。しかしながら、新gTLD申請者ガイドブック最終版に対する修正点が列挙され、引き続き検討を行うことを明記した上で、新gTLDプログラムが承認されました。理事会決議の中では申請受付期間まで記載されているものの、実装の過程で必要があれば改訂できるため、今後変更される可能性もあります。

新gTLD関連で残る主な課題は次の通りです。

  • GACの助言についての検討
  • 申請者援助プログラム※9の確定
  • 独立申立人(Independent Objector)の選任方法決定および選任
  • 独立評価者(Independent Review Panel)の選任
  • オークションルールの確定
  • コールセンターの開設
  • 申請受付システムの開発
  • オークションシステムの開発
  • Trademark Clearinghouse※10の実現
  • Centralized Zone Data Access Provider※11の実現

なお、シンガポール会議で承認されたICANNの予算案では、新gTLDの申請数が500件と見積もられています。これは、ICANNとしてはそれだけ需要があると考えており、かつDNSルートゾーンに影響を与えるほどTLDが増えるとは考えていない、ということが言えると思います。

新gTLDプログラムの詳細については、P.36からのインターネット10分講座「2012年初頭の新gTLD募集」で取り上げていますので、併せてご参照ください。

ICANN を構成する各支持組織・諮問委員会・部会などについての報告

◯ ccNSO関連報告
株式会社日本レジストリサービスの堀田博文氏からは、ccNSOの主な会合、IDN ccTLD の動向、IDN Variant(異体字)TLDの課題検討、IANA※12業務委託契約※13に関する意見募集へのccNSOからのコメント、フィッシングをはじめとするセキュリティに関する最新状況などについてお話しいただきました。
◯ ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
中沢淳一氏からは、前述の新gTLDの導入以外に、理事会・GAC合同作業部会(JWG)による、GACの役割と理事会との連携強化策に関する最終報告についても共有いただきました。連携強化策には、GACから理事会への助言を網羅した記録簿の作成や、ポリシー策定プロセスにGACの助言をより早い段階で盛り込む方法の検討などが含まれます。
◯ ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)メンバーからのメッセージ
アフリカ地域At-Large組織(AFRALO)をベースに活動する、Tijani Ben Jemaa氏から、AFRALOの特徴、新gTLDについて、とりわけ発展途上国やマイノリティなどが申請を行う際の負担軽減方策を検討している、JAS WGについてお話しいただきました。メッセージの内容は、シンガポール会議でのALACにおけるポリシー課題、次回のICANNダカール会議会期中に開催される、発展途上国に関するICANN サミットなどについてで、シンガポール会議の会場にてお話しいただいた録画映像を上映しました。言語の問題などもあり、アフリカ地域で積極的に参加しているALS※14は多くはないことがうかがえました。
写真:Tijani Ben Jemaa 氏からのメッセージ
ICANN報告会会場で上映したTijani Ben Jemaa氏からのメッセージ
ICANNレジストラ部会の最新動向
Jacob Williams氏からは、GNSO傘下のレジストラ部会で行われた議論の動向をご紹介いただきました。主な内容は、以下の通りです。
  • 新gTLD導入に伴う事務作業の増大に対応する自動化プロセスおよび書類作成の手間を減らす方策
  • UDRPを見直すかどうかの議論
  • WHOISに関する調査
  • ICANNとレジストラ間の認定契約(RAA)に関する議論A
    - これには、登録者の権利および責任を明記したウェブトレーニングおよびレジストラ自社評価ツールをICANNがレジストラに対して提供する予定であることが含まれています。
  • レジストラ間移転ポリシー(IRTP)
    - 登録者からの苦情の多くはレジストラ間の移転ポリシーに関連するものであるため、その改善のためのポリシー提案がなされたことなどが含まれます。
写真:ICANN 報告会会場の様子
ICANN報告会会場の様子

この第31回ICANN報告会の発表資料は、 以下のJPNICWebサイトで公開しています。 また、動画も掲載しておりますので、ぜひそちらもご覧ください。
 http://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20110804-ICANN/

次回第42回ICANN会議は、2011年10月23日~28日にセネガルのダカールにて開催される予定です。

(JPNIC インターネット推進部 高山由香利・山崎信)


※1 JPNIC News & Views vol.835「ICANNサンフランシスコ会議報告」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2011/vol835.html
※2 Draft - Final AGB Timelines Provide for fi nal decision in Singapore
http://www.icann.org/en/minutes/draft-timeline-new-gtlds-18mar11-en.pdf
※3 May 2011 New gTLD Applicant Guidebook
http://www.icann.org/en/topics/new-gtlds/comments-7-en.htm
※4 New gTLD Program Timeline
http://www.icann.org/en/minutes/timeline-new-gtldprogram-20jun11.pdf
※5 New gTLDs Communications Plan
http://www.icann.org/en/topics/new-gtlds/new-gtldscommunications-plan-30may11-en.pdf
※6 GAC スコアカード
2011年2月にGACが理事会に送付した、新gTLDの未解決課題の詳細をまとめた文書
※7 ICANNトピックス:ICANN理事会(2011年6月20日開催)決議全文
http://www.nic.ad.jp/ja/topics/2011/20110706-02.html
※8 GAC Communique Singapore
https://gac.icann.org/download/attachments/1540134/Singapore+Communique+-+\23+June+2011_2.pdf
※9 申請者援助プログラム
発展途上国、 マイノリティなどが申請を行う際の負担を軽減する方策。 本件に関しては、 GNSOとALACの合同作業部会(JAS WG:Joint SO/AC WG on New gTLD Applicant Support)が設立されており、 最終報告書が次回2011年10月のダカール会議会期中の理事会に間に合うように発行するとともに、 GNSOとALACで承認されることになっています。
※10 Trademark Clearinghouse
全世界の商標権保持者が商標を登録して、 レジストリが優先登録(sunrise)や同一文字列登録の検出(trademark claim)のために利用するデータベース
※11 11 Centralized Zone Date Access Provider
(集中管理された)ゾーンファイル一括アクセス提供組織:商標類似文字列を検出するため、 ゾーンファイル(あるTLD空間におけるセカンドレベルドメイン名の一覧)閲覧サービスを提供する組織
※12 IANA (Internet Assigned Numbers Authority)
カリフォルニア大学情報科学研究所(ISI)のJon Postel 教授が中心となって始めたプロジェクトグループで、ドメイン名、IP アドレス、プロトコル番号など、インターネット資源のグローバルな管理を行っていました。2000年2月には、ICANN、南カリフォルニア大学、およびアメリカ政府の三者の合意により、IANAが行っていた各種資源のグローバルな管理の役割はICANNに引き継がれることになりました。現在IANAは、ICANNにおける資源管理、調整機能の名称として使われています。
※13 IANA業務委託契約
米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications andInformation Administration; NTIA)とICANNの間で交わされた、 プロトコルパラメータの割り当て調整、 ルートDNSの管理に付随する管理機能、 IPアドレスおよびAS番号割り振り/割り当てに関する契約。 現行契約の期間は2012年3月末までとなっています。
http://www.ntia.doc.gov/files/ntia/publications/ianacontract_081406.pdf
※14 ALS (At-Large Structure)
世界5地域に設立されるAt-Large組織、RALO (Regional At-LargeOrganization)を構成する自主運営の現地At-Large組織です。

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