ニュースレターNo.49/2011年11月発行
第81回IETF報告
全体報告
2011年2回目のIETF会合が、7月24日(日)から7月29日(金)の間、カナダのケベックシティにて、RIM(ResearchIn Motion)社のホストで開催されました。市内の旧市街地はユネスコの世界遺産に登録されており、ヨーロッパ風の城郭や建物を眺めることができます。そんな旧市街地を離れ、丘の上の新市街地に会場となったケベック・コンベンション・センターはありました。急な坂の上に位置しているためか、ケベックは坂の多い町という印象を持って帰ってきました。
ここでは、「Operation and Administration Plenary」と「Technical Plenary」の、二つの全体会合についてご報告します。
Operation and Administration Plenaryは、IETFの運用と管理についての報告を中心とした会合で、7月27日(水)に行われました。Operation and AdministrationPlenaryの中で表彰される、Jon B. Postel Awardは、受賞者が参加できなかったため延期となった旨の報告がありました。IETFチェアであるRuss Housley氏からは、今回のIETF81会合の運営状況について46ヶ国1,057人の参加者があったこと、前回の会合からのアップデートとして五つのWGが活動を終了し、五つのWGが新設され、合計121のWGが現在活動中であることや、149もの文書がRFCとして発行されたことなどが報告されています。
7月25日(月)に行われたTechnical Plenaryは、“Report from World IPv6 Day”と“The Web PrivacyTussle”という二つの技術トピックスでのパネルディスカッションをメインとして、IRTF(Internet Research TaskForce)のリサーチ報告、IAB(Internet ArchitectureBoard)の活動報告、RSOC(RFC Series OversightCommittee)の報告など技術系の報告がされました。
IRTFのチェアのLars Eggart氏からは、12のリサーチグループの活動状況報告があり、DTNRG(Delay TolerantNetworking Research Group)の活動が活発でたくさんの文書が提出されている状況が伝えられました。その一方で活動が活性化していないものとして、VNRG (VirtualNetwork Research Group)やP2PRG(P2P ResearchGroup)が挙げられていました。TMRG(TransportModeling Research Group)は、ICCRG(InternetCongestion Control Research Group)にマージされることが報告されました。
今回からIRTFの活動に貢献し、実際に研究成果を実用化させた人を讃えるApplied Networking Research Prize(ANRPと略するそうです)の授与がされることになりました。1回目の受賞者は、Mattia Rossi氏とBeichuanZhang氏の2名で、それぞれBGPの研究とトラフィック制御にかかる省電力化に対して評価がされました。賞金500ドルとIETFミーティング参加にかかる費用などが副賞として贈呈されると同時に、会期中に行われるIRTFミーティングへの招待がされ、研究内容に関するスピーチが行われたとのことです。次のIETF82でも表彰を予定しており、ノミネートの受付が開始されています。ノミネートは、IRTFのWebページ(http://irtf.org/anrp/)から行えます。
IABチェアのBernard Aboba氏からは、新しいWebサイト(http://www.iab.org/)の紹介がありました。IABの活動内容もI-Dの形で文書化されますが、沢山の文書が投稿され、RFC化されている状況が報告されました。IABではインターネットの他団体とも連携した活動を行っており、プライバシーや多言語化などのアクティビティの紹介がされました。プライバシーに関する活動の一環で、このプレナリでのパネルディスカッションが企画されています。
RSOCチェアのFred Baker氏からは、RFC文書の発行を行う実務者の活動と予算の管理について、実務者採用基準の明確化の状況報告がされました。
続く、World IPv6 Dayの開催意義に関するパネルディスカッションでは、Google社、Facebook社、Yahoo!社、Microsoft社などコンテンツサイト側での計測とその分析結果、ユーザーサイドからみたWorld IPv6 Dayの観測結果などが報告されました。このパネルディスカッションでは日本企業からの正式な報告はなかったのですが、Google社の発表の中で、KDDI社のIPv6ネイティブサービスが良いサービス例として取り上げられました。しかしその一方で、KDDI社以外のサービスでは問題も見られたという指摘もされていました。Google社が日本の通信事情に興味を持っているのは、他国に比べるとIPv6接続といってもいろいろな方式が展開されているからなのではないかと思いました。
まとめると、World IPv6 Dayの開催目的の一つであるWebサイトを含む業界内のIPv6対応のモチベーションを上げることに関しては、世界各国から多くの関心が寄せられ、1,000 サイトにも上るイベント参加者もあったことが報告されました。3分の2の参加者がイベント後もIPv6 対応を継続しており、IPv6のトラフィックも順調に伸びているそうです。IPv6対応サイトが増えることで問題点やDDoS攻撃が増加するという不安がありましたが、そういった観測はなく成功裏に終わったようです。
またIPv6導入に関する問題点として、“Brokenness”と総称して呼ばれる6to4などの移行技術を使ったアクセスの問題点や、OSやブラウザの実装に関する不具合点が指摘されていましたが、イベントの前後で観測される問題数に大きな変化はないようです。むしろ問題点の一部に関しては減ってきている状況という報告がされました。実際Yahoo!へのアクセス全体における“Broken User”は、0.078%から0.022% に落ちたそうです。一般的にWebサイトのIPv6対応は、サイト運営者が個別に進めるものですが、6月8日というターゲットに向けて取り組んでみると、期限があると強い動機づけになること、実験イベントというスタイルであったためユーザーにも説明がしやすかったこと、テストによって準備してきたことが間違っていないことを確かめられたことなどが、今回のイベントのメリットが報告される一方で、世界中に理解を求めることの難しさも挙げられていました。いずれにしても、WebサイトがIPv6対応するにあたって障壁と考えられていたようなことは大きな問題ではないことが分かり、今後はIPv6対応が進むと考えられます。
プライバシーに関するパネルディスカッションでは、3人の専門家から発表がされました。プライバシーの認識と行動の関係をもとにプライバシーに配慮したWebサイトのデザインが可能であることや、実際にどのような原則でWebサイトを構築すると良いか、利用に気をつける技術としてCSSやGeolocationがあること、User Trackingに関して一つのWebサービスの背後にある何十、何百の情報連携の現実など興味深い内容が提示されました。これらを踏まえ、IABのプライバシープログラムの成果として、実装開発やモデル化など研究開発のいろいろな段階で参照できる文書がまとめられます。
次回IETF82は、2011年11月13日(日)から18日(金)にかけて、台湾で開催されます。
(株式会社インテック 廣海緑里)