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ニュースレターNo.50/2012年3月発行

ICANNダカール会議および第32回ICANN報告会・新gTLD周知イベントレポート

2011年10月23日(日)から28日(金)まで、セネガルのダカールで第42回ICANN会議が開催され、本会議の報告会を11月29日(火)に富士ソフトアキバプラザにて、JPNICと財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催で開催しました。また、報告会の後には、JPNIC主催でICANN理事を招いての新gTLD周知イベントを開催しました。本稿では、ダカール会議における理事会決議の概要を中心に、報告会と新gTLD周知イベントの様子を併せてご報告します。

写真:Le Meridien President Dakar
会場となったLe Meridien President Dakar(ホテルの公式Webサイトより引用)

ICANNダカール会議の報告

◆ 新gTLDプログラムに関する議論

前号でご報告した通り、ここ数年ICANNにて熱く議論されていたトピックである新gTLDプログラムが、前回のシンガポール会議での理事会承認を受けて始動しました。本稿執筆時点では、申請受付開始日とされる2012年1月12日(木)に向けて、目下ICANNスタッフを中心としたメンバーにより、実装作業が着々と進められている状況です。実装作業に関連した内容について、いくつかお伝えします。

・発展途上国からの申請者向け支援策
シンガポール会議にて新gTLDプログラムの始動が承認されるにあたっては、いくつかの条件が前提となっていました。その中の一つが、発展途上国からの申請者向け支援策についてです。支援策を検討しているJAS WG(新gTLD申請者サポート合同作業部会)に対して、ダカール会議での理事会における検討に向けて、事務局が作成する実装計画に間に合うよう、最終報告書の提出が求められていました。

しかし、最終報告書はダカール会議前に理事会に提出されたものの、JAS WGの上位組織の一つであるGNSO評議会内でコンセンサスを得たり、ICANNスタッフによる実装計画に落とし込むのに十分な時間はありませんでした。2012年1月12日(木)から始まるラウンドで首尾よく支援策が利用できるよう、実装計画が策定されることが求められていますが、いずれにしても詳細は今後公開される内容を確認しないと分かりません。
・インターネットの安全性や安定性を維持するための施策
果たしてどれほどの数の新gTLDが出現するのか、ということは誰にも分かり得ませんが、新gTLDの出現によりインターネットの安全性や安定性が脅かされることがないよう、新gTLDの募集に向けて種々の施策が講じられています。一例をお伝えすると、新たに登場するレジストリが何らかの理由でサービス提供ができなくなる事態に備え、緊急用バックエンド・レジストリの募集が2011年11月30日(水)まで行われました※1

また、権利保護のメカニズムとして、商標データの認証サービスを提供するデータベースとなる、Trademark Clearinghouse(TMCH)を設けることになっています。その運用事業者の募集が、2011年11月25日(金)まで実施されました。選定結果は2012年2月14日(火)に告知される予定です※2。またこの件に関連して、TMCHの実装に関連する作業の手助けをする実装支援グループを設けることとしており、グループのメンバーを募集することがダカール会議で呼びかけられました※3。TMCHは多くのステークホルダーに関係するものですので、この動向については皆様にも注視していただきたいと思います。
・利害相反について
シンガポール会議で新gTLDプログラムが承認されたことに伴い、ICANN理事やICANNスタッフと新gTLD申請者となり得る組織との付き合いや、新gTLD関連の議論において、今まで以上に利害相反に注意して行動すべきであるということが、ICANNやコミュニティにおいて語られるようになりました。もちろん、現状においても、ICANNには利害相反に関するポリシーや理事の行動規範が定められていますが、その精神をより高めていくべきとの議論です。引き続き理事会で検討され、年明けにはコミュニティからの意見募集も予定しているようです。

またこれら以外にも、新gTLDプログラム関連の情報については、専用のWebページ※4が設けられ情報が発信されています。日々更新されていますので、ぜひともご確認ください。

写真:パブリックフォーラムの様子
木曜日に開催されたパブリックフォーラムの様子

◆ 新gTLDプログラム以外のポリシー議論

ICANNでは常に多くの課題が並行して検討されていますが、ここ数年は、新gTLDに関する議論が常に注目を集めていただけに、それに合わせてコミュニティからのボランティアやICANNスタッフといった人的リソースも、新gTLD関連の活動に多く割かれていたように思います。新gTLDに関する取り組みがICANNスタッフの実装フェーズに移ってからは、コミュニティにおける他の議論が再び活発化してきた印象です。ダカール会議の理事会で決議された内容のうち、コミュニティの皆様にもご確認いただきたい内容をいくつかご紹介いたします。

・失効後のドメイン名登録回復について
2009年5月、GNSO評議会はWGを組成して、失効後のドメイン名登録回復(Post-Expiration Domain NameRecovery;PEDNR)に関するポリシー策定プロセスを開始しました。ドメイン名登録者が、何らかの事情でドメイン名の更新手続きを逃してしまいドメイン名を失効させた場合、どの程度までドメイン名登録の回復を認めるべきかといった検討を、現行の手続きに対するレビューとともに行うことが目的です。検討を行っていたPEDNR WGからは、18の勧告を含む最終報告書※5がGNSO評議会に提出され、GNSO評議会では満場一致で承認されました。その後理事会に提出され、意見募集を経て、ダカール会議にて承認されました。

現在も、ドメイン名が登録者の意図に反して削除されてしまった場合の救済策としては、削除されたドメイン名を第三者に再登録されてしまう前に請戻しできる、削除済ドメイン名のための「請戻猶予期間」(RGP;Redemption Grace Period)※6があります。多くのレジストラがその期間を設けているようですが、現状では義務とはなっていません。そこで、より強化するために、sTLDを除くすべてのgTLDレジストラがRGPを設けなければならない、としていることが承認された内容の一例として挙げられます。

また別の例としては、ドメイン名が失効すると、登録者をレジストラ等に変更することを認めている登録規則も多いため、失効前の登録者と失効後の登録者をWHOIS上で明確にできるよう「失効時ドメイン名登録者(RNHaE; Registered Name Holder at Expiration)」を設けることが提案されています。

PEDNRは広く皆様に関係するポリシーとなり、レジストラ事業者の対応も必要とされます。これらはあくまで一例ですので、承認された勧告の内容をご確認いただきたく思います。
・レジストラ認定契約(RAA)の改定に向けた議論
ICANN認定レジストラとICANNは、双方の義務を定めたレジストラ認定契約(RAA)を結んでいます。RAAは、制定された2001年5月以降、長い間見直しがされていませんでしたが、レジストラによる契約遵守の向上や登録者保護などを目的として2009年3月に改定されました。改定後に認定を受けたレジストラは2009年版RAAを締結しており、改定前に契約を締結していたレジストラも大半は2001年版から2009年版に移行している状況です。

ただし、2009年の改定については、GNSO評議会は満場一致で承認したものの、引き続き改定の検討を行うことを条件としました。洗い出された検討項目が多く、当時の改定ですべてを反映することが難しかったため、優先度を考慮して検討していくこととなったのです。そこで、GNSO内ではさらなる改定に向けた議論が継続して行われてきました。また、インターネットの不正利用に対処する法執行機関やGACからも、RAA改定に向けた勧告が提出されてきました。

それらコミュニティからの要請を受けて、ICANN認定レジストラとICANNはRAA改定に向けた交渉に入りました。2012年3月にコスタリカにて開催される、次回サンホセ会議に向けて、合意に至ることを目標としています。ICANN理事会は、GNSO評議会でPDPを行うためにイシューレポートの提出をスタッフに求めており、GNSO評議会としてもPDPを開始する心積もりができているようです。

ICANN理事会決議については、JPNIC Webにて抄訳を適宜ご紹介しています。内容をご確認いただく際の参考として、ご覧いただければと思います。

ICANNトピックス
http://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics.html

第32回ICANN報告会および新gTLD周知イベントの報告

以下、当日のプログラムに沿って、報告会の内容をご紹介します。今回はいくつか新しい試みに取り組んだこともあり、いつもとは少し異なる層の方々にも多くご参加いただき、大変盛り上がったものになったと思います。

◆ 全体構成

今回のICANN報告会は、Internet Week 2011のプレイベントの一つと位置づけることで、より多くの参加者に来ていただくことをめざしました。さらに参加者の理解を助けるため、次のように午前中に初心者向け導入セッションを行った後、午後に開催するという工夫を加えています。

9:45 ~ 10:45 インターネット資源管理の基礎知識
(ドメイン名/DNS/IPアドレス)
ドメイン名およびIPアドレスの役割・構造、登録・分配の仕組み、
管理構造、ポリシー策定の仕組み
11:00 ~ 12:00 ドメイン名最新動向(初心者向け)
ドメイン名の最新動向、インターネットガバナンス、ドメイン名
紛争処理(DRP)、新gTLD
13:30 ~ 15:20 ICANN 報告会(JPNIC/IAjapan 共催)
15:30 ~ 17:00 ICANN 新gTLD周知イベント(JPNIC主催)
写真:初心者向け導入セッション
初心者向け導入セッションにも多くの方々にご参加いただきました

今回は初の試みとして、ICANN報告会のストリーミング中継を行いました。当日急に参加できなくなった方、および遠隔地の方などにご活用いただけたのではないかと思います。

また、ICANN報告会直後に、ICANN理事Kuo-Wei Wu氏をお招きして、2012年1月から募集が開始される新gTLDについての周知イベントをJPNIC主催で開催しました。さらに、この周知イベントに関連して、12月2日(金)のIP MeetingのインターネットガバナンスセッションにてICANN理事Ray Plzak氏が講演されましたので、本稿ではそれについても触れています。

◆ 第32回ICANN報告会について

ICANN報告会のプログラムは以下の通りです。

  1. ICANNダカール会議概要報告
    社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター 高山由香利
  2. ccNSO関連報告
    株式会社日本レジストリサービス 堀田博文
  3. ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
    総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課 中西悦子
  4. ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)メンバーからのメッセージ(録画)
    ICANN ALACメンバー Sylvia Herlein Leite
  5. ICANNレジストラ部会の最新動向
    株式会社インターリンク Jacob Williams
  6. ICANN前理事長からのメッセージ(録画)
    Top Level Domain Holdings Ltd. Peter Dengate Thrush

2011年6月に新gTLDプログラムが承認されたことで、ダカール会議は以前に比べ新gTLD一色ではなくなってきています。とはいえ、実装が進んでいることもあり、依然として新gTLD関連のトピックが目立つ内容となっていました。詳細は「新gTLDプログラムに関する議論」のところで触れましたが、次の点が主要な報告内容でした。

  • 申請者ガイドブック最新版の公開(2011年9月19日(月))
  • 発展途上国からの申請者向け支援策
  • 利害相反について
  • 新gTLD導入がルートゾーンに与える影響
  • レジストリ・レジストラのクロスオーナーシップ
  • 法執行機関(警察など)からの勧告について

新gTLD以外では、JPRSの堀田博文氏よりccNSOおよびccTLDの動向について、中でもIDN ccTLDファストトラックにおける文字列酷似時の対応に関する提案、およびIDN varian(t 等価文字)の課題検討状況についてお話しいただきました。

株式会社インターリンクのJacob Williams氏からは、主にレジストラのコンプライアンスに関する、レジストラ向けトレーニングについてご紹介いただきました。ICANNからレジストラへの通知のうち、レジストラ間の移転に関するものが最も多いことから、トレーニングはレジストラ間移転ポリシーに最も時間を割いているとのことです。関連して、レジストラ間移転ポリシー自体も改良のため策定が進められていることも共有いただきました。

ICANN At-Large諮問委員のSylvia Herlein Leite氏からは、主にラテンアメリカ・カリブ海地域のAt-Large組織およびAt-Large諮問委員会について、お話しいただきました。前ICANN理事長のPeter Dengate Thrush氏には、ICANNでの日々を振り返っていただきました。

◆ ICANN 新gTLD周知イベントについて

ICANNは、新gTLDの認知度向上に向けたイベントを世界各地で開催中ということで、今回日本でもさまざまなステークホルダーに向けて周知イベントを開催することになりました。このイベントでは、ICANN理事Kuo-Wei Wu氏(アドレス支持組織(ASO)選出)より、インターネットが分断されないようにするためのICANNによる寄与、および新gTLDプログラムについて、申請のみならず異議申し立てプロセスを含むプログラム全体の概要を、幅広く説明していただきました。Wu氏は英語で講演され、会場では同時通訳を提供しました。

写真:ICANN理事のKuo-Wei Wu氏
報告会に続いて、ICANN理事のKuo-Wei Wu氏を招いて新gTLD周知イベントを行いました

特に、「インターネットが分断されないようにするためのICANNによる寄与」の部分では、ICANNの歴史と、日本がICANNおよびインターネットガバナンスに対して行ってきた貢献への言及がなされました。この中で、日本の個人、企業およびコミュニティが、今後も積極的にインターネットガバナンスに関わることを後押ししたいというメッセージが感じられました。これはLeite氏およびThrush氏の講演でも感じられたことです。

また、「新gTLDプログラムについて」のところでは、開口一番、「私は日本に新gTLDのセールスに来たわけではない」との発言があり、新gTLDの募集は今回限りではないため2012年1月~4月の募集に駆け込む必要はなく、本当にgTLDが必要な人だけが申請すればよいと強調されました。また、ICANNにおいて新gTLDはいくつもある課題の一つであり、唯一の課題ではないとも述べられました。

JPNIC理事の丸山直昌の司会進行による、講演直後に行われた質疑応答の中で、TLDが氾濫するのではないかという懸念に対して、そのために異議申し立ての手段が4種類用意されていることと、商標データベース(TMCH)をはじめとする商標保護策があるとのコメントがありました。

写真:ICANN理事のRay Plzak氏による講演
Internet Week最終日のIP Meetingでは、ICANN理事のRay Plzak氏による講演が行われました

さらに、日は変わって12月2日(金)に開催された、IP Meetingのガバナンスセッションの中では、ICANN理事Ray Plzak氏(ASO選出)により、ICANNおよび新gTLDプログラムについて、逐次通訳付きで15分ほど講演いただきました。内容は、前半はICANNの足跡と組織構成、後半は新gTLDプログラムについてでした。セッション最後の質疑応答の中で、違う業界に属する2社が同じ名前をgTLDとして申請した場合どうなるかという質問に対し、そのようなケースは予想されているため、申請のあったgTLD文字列を可及的速やかに公開したり、異議申し立てプロセスなどのいくつかの対処方法を用意している、という返答がありました。

終わりに

盛り沢山のイベントを駆け足で報告しましたが、日本からインターネットガバナンスへ今まで以上に貢献をしてほしい、という宿題をいただいたようにも感じています。ぜひ、日本の皆様の中から、これに応えられる方が続々と出てきていただけるよう、JPNICとしても何らかの後押しをしていきたいと考えています。


この第32回ICANN報告会の資料は、以下のJPNIC Webサイトで公開しています。また、動画も掲載しておりますので、ぜひそちらもご覧ください。

http://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20111129-ICANN/

次回第43回ICANN会議は、2012年3月11日(日)~16日(金)にコスタリカのサンホセにて開催されます。

(JPNIC インターネット推進部 高山由香利・山崎信)


※1 “Safe and Secure New gTLDs: ICANN Seeks Backup Registry Operators”
http://www.icann.org/en/announcements/announcement-2-14sep11-en.htm
※2 “Protecting Trademark Rights for New gTLDs:ICANN Seeks Service Providers for Trademark Clearinghouse Operation”
http://www.icann.org/en/announcements/announcement-5-03oct11-en.htm
※3 “Protecting Trademark Rights in New gTLDs:ICANN Invites Participation on Assistance Group for Trademark Clearinghouse Implementation”
http://www.icann.org/en/announcements/announcement-26oct11-en.htm
※4 New Generic Top-Level Domains
http://newgtlds.icann.org/
※5 Final Report on the Post-Expiration Domain Name Recovery Policy Development Process
http://gnso.icann.org/issues/pednr-final-report-14jun11-en.pdf
※6 削除済ドメイン名のための「請戻猶予期間」(RGP; Redemption Grace Period)
gTLDに導入されている、ドメイン名の登録が登録者の意図しない形で削除されてしまった場合、そのドメイン名を他人に再登録されてしまう前に、元の登録者が請戻しできる期間(30日間)を指します。

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