ニュースレターNo.51/2012年8月発行
第83回IETF報告
IPv6関連WG報告 ~softwire WGについて~
softwire WGは、少し分かりくいWGと感じています。このことから、少し過去の経緯も交えながらご紹介したいと思います。なお、筆者のsoftwire WGへの出席目的がSA46T提案ですので、その提案者からの、主として提案以後の、大づかみな視点であることをお許しください。
SA46Tについて
まず、簡単にSA46Tについて説明します。
SA46TはIPv4 over IPv6のカプセル化技術で、設定数が少なく済むことが特徴の一つです。プロトコル標準として、使う人が自由に使い方を創意工夫できる、汎用性のある部品となることをめざしています。この部品としてのプロトコルが、例えば組み合わせ標準の中の部品として使われる可能性もあると思っています。日本発の国際標準技術として、インターネットの健全な発展、特に円滑なIPv6移行とIPv4の利用継続性に貢献していきたいと願っています。今後ともよろしくお願いします。
softwire WGの概要
IPv6検討の初期には、ipngwgとngtrans WGの二つのWGがありました。ngtrans WGはIPv6への移行技術を扱うWGで、主に、カプセル化とIPv4-IPv6変換を扱ってきましたが、さまざまな経緯を経た結果、現在では、カプセル化を扱うsoftwire WGと NATを扱うbehave WGがその役割を担っています。
softwire WGの設立当初は、カプセル化技術を、技術的にhub & spokeとmeshの二つに分類して検討を進めていました。
2年前のsoftwire WGの状況
SA46Tの最初のInternet-Draft(I-D)を提出したのが2010年2月1日、SA46Tのプレゼンテーションを行ったのは2010年3月のIETFアナハイム会議でしたが、その提案先は、v6ops WGでした。SA46Tのプレゼンテーションを行って、そこに出席していたsoftwireWG議長より、softwire WGでの検討を提案され、v6ops WG議長も同意しました。このような経緯から、以後、softwire WGで検討を行うことになりました。
当時のsoftwire WGは、主要な検討も一段落したようで、あまりアジェンダもなかったと記憶しています。具体的には、DS-Liteと、6rdという技術の標準化が一段落した時期でした。DS-Liteは、CGN(Carrier Grade NAT)あるいはLSN(Large Scale NAT)と、IPv4 over IPv6トンネル技術の組み合わせ技術です。6rdは、IPv6 over IPv4トンネルの技術で、IPv4ネットワークインフラ上でIPv6の通信を可能とします。なお、この6rdという技術は、前回の台北のIETFにて、itojun service awardを受賞しました。
最近のトピックス:
「いわゆるstateless solution」の活発化
さて、最近のホットなトピックスは、SAM(Stateless Address Mapping)、あるいは4rd、あるいはMAPと呼ばれる技術です。
4rdは、初期はSAMという名称で、6rdも含む統一的な技術として提案されました。最初のドラフトが発行されたのはSA46Tが発行されたちょうど1ヶ月後です。後に、IPv4 over IPv6の部分だけ切り出され、4rdと名称が変わりました。これらを提案したのは、6rdを提案した、Remi Despres氏です。6rd、4rdともに、rdが付くのは、Remiさんのイニシャルではないかとの解釈もあるようですが、真偽の程は分かりません。
他にも数多くの提案が出され、WGは活発になっています。この「いわゆるstateless solution」は、WGの検討項目として受け入れられなかったのですが、Charterの修正を経て、そして提案数の多さから、丸2日間を掛けた北京で開催された中間ミーティングで、アドレスとポート番号の割り当てアルゴリズムを共通化し、その名称をMAP (Mapping of Address and Port)とするとの合意を経て、検討が進んでおります。
今回のIETF会議におけるsoftwire WG
今回のIETF 会議で、softwire WGのミーティングは2度開催されました。以下、アジェンダを示しますが、19と多いことからも活発であると言えます。関連するI-D、プレゼンテーション資料などの詳細は、以下のURLで公開されています。
http://tools.ietf.org/wg/softwire/agenda?item=agenda-83-softwire.html
1 | Public IPv4 over IPv6 Access Network |
---|---|
2 | Lightweight 4over6 DS-Lite: An Extension to DS-Lite Architecture |
3 | Deployment Considerations for Lightweight 4over6 |
4 | Basic Requirements for Customer Edge Routers - multihoming and transition |
5 | Design team report: Mapping of Address and Port( MAP) |
6 | DHCPv6 Options for Mapping of Address and Port |
7 | MAP Translation( MAP-T) - specifi cation |
8 | MAP Encapsulation( MAP-E) - specifi cation |
9 | IPv4 Residual Deployment via IPv6 - Unified Solution(4rd) |
10 | Feature Analysis Tool for stateless IPv4/IPv6 (MAP-T, MAP-E, 4rd) |
11 | Multicast Extensions to DS-Lite Technique in Broadband Deployments |
12 | DHCPv6 Options for IPv6 DS-Lite Multicast Prefi x |
13 | IPv6 Multicast Using Native IPv4 Capabilities in a 6rd Deployment |
14 | Multicast Support for 6rd |
15 | Softwire Mesh Management Information Base(MIB) |
16 | Defi nitions of Managed Objects for 6rd |
17 | DS-lite mib |
18 | BFD Support DS-Lite |
19 | SA46T interoperability test report |
今回のトピックス
SAMから4rdに至った流れは、IPv4アドレスとポート番号のマッピングアルゴリズムの共通化を経て、これを踏まえたプロトコルとして、MAP-T、MAP-E、4rd-uの三つが提案された、というものです。MAP-Tはdouble translation、つまり、IPv4-IPv6変換、IPv6-IPv4変換を対向する技術です。MAP-Eはカプセル化を元にした技術で、オリジナルの4rdベースです。4rd-uは、MAP-TとMAP-Eを統合(unify)した提案のようです。
今回のsoftwire WGでは、MAP-TまたはMAP-Eと、4rd-uのどちらを採用するかが議題となりました。挙手により決めようとの試みがなされましたが、双方に賛成意見があり、どちらと決められない情勢になりました。そうする中、会議での意思決定は行わないというIETFのルールが指摘され、ML上で継続議論することになりました。この記事を執筆している時点で、MAPか4rd-uかという選択をすべく、MLが活発になっているようですが、この結果は、次回のIETF会議にて発表されることになるかと思います。IETFの特徴は、よくRough consensus and Running codeと表されますが、この件についてはvotingが行われています。いささか異なる特徴があるようです。
このように、技術の名称が短期に激しく変わっていますので、分かりにくいと言えます。さらに、4rdについては、最新の4rd-uと、オリジナルの4rdは異なりますし、オリジナルの4rdは最新ではMAP-Eですので、4rdそのものでも混乱しそうですので、要注意です。
なお、今回の会議では、この議論に多くの時間が使われたことから、時間切れとなり、予定されていたプレゼンテーションが行われませんでした。SA46Tは、この3月上旬に行った相互接続試験の報告をエントリーしたのですが、残念ながら機会を得られませんでした。この場でぜひともそのプレゼンテーション資料を紹介させてください。
http://tools.ietf.org/agenda/83/slides/slides-83-softwire-14.pdf
関連する動き
「stateless solution」に関連する動きとして、softwire WG以外で、以下の二つを紹介します。両方とも、v6ops WGの動きです。
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464XLAT: Combination of Stateful and Stateless Translation
この提案は、前回、台北にて開催されたIETF会議のsoftwire WGではじめて提案された技術ですが、こちらはv6ops WGへという結論になりました。SA46Tとは逆の流れです。double translation のMAP-Tに似ているようですが、既にRFC化されているRFC6145とRFC6146技術の組み合わせの提案です。なお、これらRFCはbehave WGで検討されました。v6ops WGに場を移し、直ちにWGドキュメントに採用されています。
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Experience from IPv6-Only Networks with Transition Technologies in the WIDE Camp Spring 2012
こちらも、前回の台北でのIETF会議で報告された流れですが、2012年3月のWIDE合宿でのIPv6 only実験が報告されました。この報告では、4rd、464XLAT、SA46Tが用いられ、これら技術の実験報告も含まれています。
標準化の対象についての考え方
冒頭に、softwire WGは少し分かりにくいWGと感じていることを述べ、既に、名称が激しく変わっている点を指摘しましたが、次に述べる、標準化の対象についても指摘させてください。
本来、IETFの標準化の対象は、プロトコルです。ところが、softwire WGで検討されている技術の多くは、よく見ると、カプセル化とNATの組み合わせ技術です。DS-Liteもそうですし、4rdも同様です。つまり、要素技術を組み合わせたものが標準化の対象となっていると気付きます。
例えば、DS-LiteはCGNとIPv4 over IPv6カプセル化技術との組み合わせ技術ですので、このカプセル化技術の選択肢としてSA46Tを位置づける可能性もあります。その可能性についても提案しているつもりなのですが、なかなか噛み合わない感想を持っています。
つまり、IETFでは長年インターネットの部品的な要素技術としてのプロトコルの標準化を行ってきたと理解しているのですが、機器で使われる部品(プロトコル)の選択であるプロファイル標準、そして、現在softwire WGで関心が高いのではないかと感じさせられる機器と機器の組み合わせ標準と、プロトコル標準化の枠を超えた検討も行われるようになってきていると感じています。どのレベルの標準を求めるかは、人、あるいはその立場によって異なるようです。IP化の進展により、さまざまな人たちが集まるようになったことによる変化ではないかと感じています。
IETFのWGでは、Charterにその設立目的、検討対象が記載されますが、曖昧なことが少なくありません。しかし、この、「何を標準化するか」という目的についての認識の違いに気付くと、最近のsoftwire WGは、アクセス網で用いられる複数機器の組み合わせの仕様検討を行っているという方向性が見えてきます。つまり、汎用性があり応用の利くプロトコルの標準化をめざすのではなく、アクセス網に特化した複数種の機器の仕様検討をめざしていると言えそうです。「標準化の対象は何か」をより意識していく必要性を感じさせられます。
□ softwire WG
https://datatracker.ietf.org/wg/softwire/
□第83回IETF softwire WGのアジェンダ
http://tools.ietf.org/wg/softwire/agenda?item=agenda-83-softwire.html
(富士通株式会社 松平直樹)