ニュースレターNo.52/2012年11月発行
World IPv6 Launchを迎えて (2)~IPv4アドレス移転関連動向のご紹介~
2011年4月のAPNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇と、それに伴うAPNICおよびJPNICにおけるIPv4アドレス通常割り振り終了からおよそ1年が経過しました。その間、IPv4アドレスを取り巻く状況も少しずつ変化してきたように感じられます。そこで今回は、通常割り振り終了後に新たに導入した、IPv4アドレス移転について、最近の申請状況等も含め、改めて制度のご紹介をするとともに、移転を取り巻く状況についてもお伝えします。
IPv4アドレス移転制度について
IPv4アドレス移転制度の施行前までは、組織の吸収合併や買収など、書面にてその事実が客観的に確認できる場合を除いて、IPv4アドレスを他の組織に譲渡することは認められていませんでした。
その後、レジストリにおけるIPv4アドレスの在庫枯渇を 契機として、APNICでは2010年2月から、JPNICでも2011年8月より「IPv4アドレス移転」制度を導入し、上記のような組織の吸収合併や買収等以外のケースにおいても、IPv4アドレスの割り振り・割り当て先を他の組織に変更することを可能としました。この移転制度の導入により、分配済みIPv4アドレスの流動化を促すことが期待されるからです。
JPNICが持つ「アドレスの分配先を管理しIPアドレスの一意性を保証する」という役割は、「通常割り振り」終了後も変わりありません。IPv4アドレス移転申請においては、移転により、IPv4アドレスの分配先が不明確な状態となり、ネットワークの運用者や利用者に混乱を生じさせないようにする点に、最も注意を払っています。
IPv4アドレス移転申請に必要な書類や申請手順などの 詳細については、JPNIC Webで公開しているJPNIC公開文書※1をご確認いただければと思います。また、過去に発行したJPNIC News & Viewsにおいても報告を行っています※2。こちらもあわせてご覧ください。
JPNICにおけるIPv4アドレス移転申請の状況について
JPNICでは、2011年8月1日よりIPv4アドレス移転申請の受付を開始し、2012年10月1日までに40件のIPv4アドレス移転が行われています。移転されたアドレスの総数は約118万アドレスとなっています。なお、移転結果の一覧はJPNIC Webにて公開しています※3。
JPNICの管轄地域を含むアジア太平洋地域を管轄するAPNICにおいても、JPNICと同様にIPv4アドレス移転申請の受付を行っています。APNICでは2010年1月より移転手続きの受付を開始しており、2012年9月末までに82件のIPv4アドレス移転が行われています※4。JPNICとAPNICのIPv4アドレス移転件数を合計すると、アジア太平洋地域全体でおよそ120件の移転が行われています。
ここからは、JPNICでのIPv4アドレス移転申請の状況についてご紹介します。
IPv4アドレス移転申請件数(2012年10月31日時点)
年/月 | 申請受付件数 | 移転件数 |
---|---|---|
2011/08 | 4 | 2 |
2011/09 | 2 | 1 |
2011/10 | 2 | 2 |
2011/11 | 2 | 2 |
2011/12 | 3 | 2 |
2012/01 | 3 | 3 |
2012/02 | 5 | 4 |
2012/03 | 9 | 6 |
2012/04 | 2 | 2 |
2012/05 | 1 | 3 |
2012/06 | 5 | 3 |
2012/07 | 1 | 2 |
2012/08 | 15 | 1 |
2012/09 | 7 | 7 |
2012/10 | 3 | 6 |
計 | 64 | 46 |
上記の表はIPv4アドレス申請件数と移転件数の推移です。IPv4アドレス移転申請件数、およびJPNICが移転を承諾しデータベース登録内容変更を行った移転件数は共に、毎月2~3件程度で推移しています。年度末には件数が増える傾向にありましたが、これは、2012年度より開始された歴史的経緯を持つプロバイダ非依存(PI; Provider Independent)アドレス(歴史的PIアドレス)割り当て先組織へのIPアドレス維持料の課金開始に伴い、歴史的PIアドレス割り当て先組織が接続先のIPアドレス管理指定事業者(以下、IP指定事業者)に移転を行うなどの、対策を取ったことによるものと考えられます。
移転対象となるIPv4アドレスから見た場合には、移転元組織の2/3は歴史的PIアドレスを含むPIアドレスの割り当て先組織で、残り1/3がIP指定事業者です。一方、移転先組織はほぼすべてがIP指定事業者となっています。また、移転元組織に割り振り・割り当てが行われたIPv4アドレスのすべてを移転するケースが、約半分となっています。
移転先組織の中には、IPv4アドレス通常割り振りの終了前には定期的にJPNICに対して追加割り振りを申請していたIP指定事業者が多く含まれています。JPNICより新たなIPv4アドレスの割り振りを受けられなくなった現在、IPv4アドレスを確保するための手段として、IPv4アドレス移転申請が利用されているように見受けられます。
なお、IPv4アドレス移転申請書の提出から申請完了までの期間は、移転元組織、移転先組織が割り振り・割り当てを受けているIPv4アドレスや契約の状況により異なりますが、多くの申請で2~4週間程度となっています。
IPv4アドレス移転を取り巻く状況
2012年6月12日(火)から15日(金)にかけて開催されたInterop Tokyo 2012では、「IPv4アドレスの枯渇に伴うアドレス移転の実態と今後の動向」と題したセッションにおいて、筆者を含め4人の発表者からIPv4アドレス移転の現状を紹介する機会を持つことができました。
筆者からは本稿でご紹介した内容を報告しましたが、川村聖一氏(NECビッグローブ株式会社)からは、ご自身の体験も織り交ぜながら、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の運用現場ではIPv4アドレス在庫枯渇問題やIPv4アドレス移転への対応をどのように考えているのかについて発表が行われました。それと同時に、これらの問題を北米地域の運用者がどのように考えているかについても報告されました。田中邦裕氏(さくらインターネット株式会社)からは、自社でのIPv4アドレス在庫枯渇問題への対応方針について説明を行うとともに、これまで数度にわたり移転申請を行っている組織ならではの、移転元組織の探し方や移転元組織と合意に至るまでの苦労話などの紹介がありました。最後に、風間勇人氏(サイバーエリアリサーチ株式会社)からは、自社で提供中の移転元組織と移転先組織を仲介するサービスの紹介が行われました。実際にサービスに携わる立場から感じた、移転元組織と移転先組織でのIPv4アドレス移転に関する考え方の違いなどが報告されました。
実際にIPv4アドレスを取り扱う立場から見た在庫枯渇問題と移転について、それぞれの立場から発表者ご自身の言葉で語られる内容がほとんどで、大変興味深い発表となっていました。
このセッションの参加者の中には、既にIPv4アドレス移転申請を行われた方もいらっしゃいましたが、多くの方はIPv4アドレス移転申請を経験されたことが無いようでした。まずは、IPv4アドレス移転に関する情報を広く集めるために参加された方が多かったのではないでしょうか。
IPv4アドレス移転に関わる今後のポリシー見直しについて
IPv4アドレス移転に関わるポリシーは、継続して見直しが進められています。
現在JPNICのIPv4アドレス移転申請では、JPNIC管理下のIPv4アドレスのみを対象としています。APNICや他のレジストリが管理するIPv4アドレスを申請対象に含めることや、JPNIC管理下のIPv4アドレスをAPNICや他のレジストリに移転することが検討されています。これらの対象拡大により、IPv4アドレス移転の機会を増やすことや、世界各地に展開する企業でのアドレスの融通を容易にすることが期待されています。
また、現在は実施されていませんが、移転対象となるIPv4アドレスの今後の利用予定を確認することについても検討が進められています。
これらのポリシー見直しの詳細に関しては、IP-USERSメーリングリストやJPNICトピックス、News & Viewsでも報告される予定ですので、詳細についてはそちらをご覧いただければと思います。
メーリングリストのご紹介 IP-USERSメーリングリスト
http://www.nic.ad.jp/ja/profile/ml.html#ipusers
本稿を通じて、IPv4アドレス移転申請の状況を少しでもご理解いただけると幸いです。JPNICにおいても、今回ご紹介した内容の周知を進めて、分配済みのIPv4アドレスの有効活用につなげていきたいと考えています。
(JPNIC IP事業部 川端宏生)
- ※1 IPv4アドレス移転申請手続き
- http://www.nic.ad.jp/doc/ipv4transfer.html
- ※2 JPNIC News & Views vol.869「IPv4アドレス移転申請手続きの受付を開始しました」
- http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2011/vol869.html
- ※3 IPv4アドレス移転履歴
- http://www.nic.ad.jp/ja/ip/ipv4transfer-log.html
- ※4 APNIC RESOURCE TRANSFER LOG
- ftp://ftp.apnic.net/public/transfers/apnic/