ニュースレターNo.52/2012年11月発行
ICANNプラハ会議報告および第34回ICANN報告会レポート
ICANNプラハ会議報告
2012年6月24日(日)から29日(金)まで、チェコの首都プラハで、第44回ICANN会議が開催されました。プラハは街の中心をヴルタヴァ川(日本では一般的にドイツ語のモルダウ川として知られます)が流れ、古いながらカラフルな街並みが多く残る美しい街です。1週間弱の滞在中、食事や買い物の際に触れ合う現地の方々は皆さん親切で、美しい街並みとともに暮らしやすさが印象に残りました。
さて本稿では、このプラハ会議で印象に残った「新gTLDプログラム」「WHOISに関連する話題」「事務総長の交代」の話題を中心にご紹介していきます。
◆ 新gTLDプログラムに関して
新gTLD申請締め切りと申請文字列公表から1ヶ月経たないうちのICANN会議ということで、新gTLDプログラムの今後に関して多く語られた会議でした。新gTLDの申請件数は1,930件で、巨額の申請料収入が既に話題に上っていたことからか、オープニングセレモニーで理事会議長のSteve Crocker氏は、「新gTLDプログラムはICANNにとって大きな試練で、厳密な支出管理と体制強化に注意深く取り組んでいく」と明言していました。
新gTLD申請受付に関して、予定外のことが2点起こりました。一つは申請受付システム(TAS)の不具合です。当初の新gTLD申請締め切り予定日である2012年4月12日(木)当日になって、TASに不具合が発見されたとして申請受付が凍結されました。その後不具合の解析と正常化に1ヶ月強を要した結果、5月21日(月)に申請受付が再開され、5月30日(水)に締め切られました。
この申請受付スケジュールの変更により、新gTLD申請文字列の公表は6月13日(水)となり、“Reveal Day”と名づけられ、ロンドンでイベントが実施されるとともに、申請文字列が公開されました※1。
二つ目の問題は、「Digital Archery」と名づけられたBatchingに関するシステムの不具合です。新gTLDプログラムでは、500件以上の申請が寄せられた場合、いくつかのグループに分けて申請処理を行うことが定められています。このグループ分けをBatchingと呼びます。申請件数は1,930件と、500件を超えたことから、Batchingが実施されることになりました。
前回コスタリカ会議までには「Secondary time-stamp process」としか記述されなかったBatchingプロセスには、Digital Archeryと呼ばれる方式が採用されました。これは、申請者がICANNに対して特定の時刻を指定し、その時刻ちょうどを狙ってWeb上でボタンを押す動作を行った上で、指定時刻とボタンを押す時刻の差として得られる数値を、Batchingの優先順位として評価するというものです。
申請者はこのDigital Archeryのプロセスを、プラハ会議会期中である6月28日(木)までに行うことになっていましたが、会期直前の6月23日(土)にDigital Archeryのプロセスを一時凍結するというアナウンスがなされました。これは、申請者から、環境によって評価数値が異常値を示すことが報告されたことを受けたものでした。
プラハ会議の関連セッションでは、主に申請者からDigital Archeryに関する懸念や非難が多く呈され、結果的に、会期中6月27日(水)に開催した理事会・新gTLDプログラム委員会は、一時凍結中であったDigital Archeryプロセスを中止することを決議しました※2。
プラハ会議では、Digital Archeryに代わるBatchingプロセスに関して、申請文字列を「IDN」「競合あり」などの性質で分ける方法や、そもそもBatchingを実施しない(つまり単一 batch)などのアイデアが関連セッションで提示されましたが、これが決まるのは今後ということになります。
新gTLDプログラム全体としては、このようなトラブルの他に、申請評価を行う事業者を確定したことが報告されるなど、プロセスに進捗も見える中、TMCH(Trademark Clearinghouse)、URS (Uniform Rapid Suspention)といった商標保護施策に関しては、具体的な実装方法を検討している段階であり、関係者にとっては目を離せない時期と言えるでしょう。それを反映して、新gTLDプログラムの概括的な進捗報告がなされた「New gTLD Program Update」セッションは、座る場所を見つけることができないほどの盛況さでした。
◆ WHOISに関連する話題
新gTLDプログラム以外では、WHOISに関する話題がいろいろな形で議論されていたのが印象的でした。
一つは、RAA(レジストラ認定契約)の改定検討です。オープニングセレモニーの直後に「Update on the RAA Negotiation※3」という名前でセッションが持たれ、ICANN事務局から具体的なたたき台が提示された上で、議論の場が持たれました。ここでの主要なテーマは、WHOISデータの正確性維持についてでした。
WHOISデータの正確性に関しては、そもそも登録者にデータの更新を求め続けることの負担、プロキシサービス(代理登録)やプライバシーサービス(一部データの非開示)の存在など、いろいろな困難がある一方で、法執行機関からは登録者を確実に同定することが求められています。これらの制約の中、どうバランスを取ってルールを定めるのか、今後の動向が気になります。
二つ目は、.comの契約更改の件です。これはプラハ会議直前のICANN理事会で決議されたものです。.comは最も古いgTLDと言え、既に1億件を越える登録数を持ちますが、thin WHOIS(ネームサーバに登録する情報を除き、登録者に関する情報をレジストリ側では持たず、レジストラに分散して台帳を持つWHOISデータベース)の機構を持ちます。現在あるgTLDの中では、.comと、同じく米国VeriSign社がレジストリとなっている.netだけが、このようなthin WHOISとなっています。契約改定に関する議論経過を示す情報※4には、thick WHOIS(レジストリが統一して台帳を持つWHOISデータベース)への移行が触れられていますが、契約改定に盛り込まれてはいません。
今後このthick WHOIS化の問題は、GNSO(分野別ドメイン名支持組織)のポリシー策定プロセスによって検討されることになっていますが、プラハ会議では、.comのthick WHOIS化を求める声が複数聞かれました。
最後は、WHOISレビューチームの最終報告書です。WHOISレビューは、ICANNのAoC(責務の確認)※5でも重要な責務として位置づけられている、WHOISポリシーに関して改善検討を行うものです。会期直前のICANN理事会で最終報告書の受領が決議され、プラハ会議でもパブリックフォーラムなどで話題に挙がりました。
このように、多様な形でWHOISに関して議論されるのは、ドメイン名レジストリがその本質として登録者データベースを管理するものであり、インターネットの浸透とともに、その本質的な機能に対する要請が高まっていることを示すものだと感じました。
◆ 新事務総長の指名
プラハ会議直前の6月22日(金)に、Rod Beckstrom氏に代わる新しい事務総長兼CEOにFadi Chehade氏が指名されたことが発表され、プラハ会議で初お目見えとなりました。Chehade氏はレバノン、エジプト、米国の三つの国籍を持ち、米国においてIBM社を含むいくつかのIT企業で経営の経験を持っています。オープニングセレモニーでは、その生い立ちが持つ多文化性と、柔らかく静かな口調の中にも、強い意志と職務遂行能力の高さを伺わせるスピーチを行い、満場の拍手を受けました。Chehade氏は2012年10月に事務総長として着任し、それまでの間はCOOであるAkram Atallah氏が、暫定事務総長を務めます。
Beckstrom氏は本プラハ会議会期直後の7月1日(日)で 3年の任期満了でしたが、この間にIDN ccTLDファストトラックや、新gTLDプログラムを開始したという大事業を成し遂げた業績は、同じく満場の拍手をもって称えられました。
次回第45回ICANN会議は、2012年10月14日(日)~18日(木)にカナダのトロントにて開催されます。
● 新しく事務局長兼CEOとなる Fadi Chehade氏(中央)の記者会見の様子
(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀)
第34回ICANN報告会レポート
このICANNプラハ会議の開催を受けて、恒例となっているICANN報告会を、財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて2012年7月31日に開催いたしましたので、簡単ではありますが、次にご報告します。
第34回ICANN報告会開催概要
日時: 2012年7月31日(火) 13:30~16:30
会場: シスコシステムズ合同会社 東京本社会議室(21F)
プログラム:
(敬称略)
- ICANNプラハ会議概要報告
JPNIC 高山由香利 - ICANN国コードドメイン名支持組織(ccNSO)関連報告
株式会社日本レジストリサービス 高松百合 - ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
総務省 中西悦子 - ICANN GNSOレジストラ部会の最新動向
株式会社インターリンク Jacob Williams - 新gTLDにおける知的財産動向
株式会社ブライツコンサルティング 村上嘉隆 - WHOISに関する最近の動向(アップデート)
JPNIC 前村昌紀
今回のICANN報告会も前回同様、シスコシステムズ合同会社様のご厚意で、同社会議室を会場としてお借りしての開催となりました。
前回までと同様に、今回も各後援者からは新gTLDを中心とした話題が取り上げられたのですが、申請が締め切られ申請のあった文字列や申請総数(1,930件)がICANNから公表されたこともあり、それらを受けた報告が目立ちました。
村上氏からの報告では、申請総数のうち9割強が一般名称文字列なのに対し、日本からの申請では4分の3ほどが商標関連の文字列だったことや、北米で約900件、ヨーロッパから約700件の申請があった一方、中南米やアフリカからは20件前後の申請にとどまるなど、地域ごとの差が大きくあったことが取り上げられました。
なお、第34回ICANN報告会をはじめとした各報告会の発表資料は、JPNIC Webサイトにて公開しています。また、動画も掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
http://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20120731-ICANN/
● ICANN報告会の様子
- ※1 Reveal Day 13 June 2012 - New gTLD Applied-For Strings
- http://newgtlds.icann.org/en/program-status/application-results/strings-1200utc-13jun12-en
- ※2 Approved Resolution | Meeting of the New gTLD Program Committee 27 June 2012
- http://www.icann.org/en/groups/board/documents/resolutions-new-gtld-2-27jun12-en.htm
- ※3 Update on the RAA Negotiations
- http://prague44.icann.org/node/31631/
- ※4 .com Registry Agreement Renewal(意見募集ページ)
- http://www.icann.org/en/news/public-comment/com-renewal-27mar12-en.htm
- ※5 責務の確認(AoC; Affirmation of Commitments)」
- ICANNにおけるAoCとは、米国商務省とICANNとの間の文書を指します。前身である「共同プロジェクト合意(JPA; Joint Project Agreement)」が2009年9月30日に失効したことにともない新たに公開された文書で、インターネットの資源管理に関して米国商務省とICANNのそれぞれが果たすべき責務について記載されています。