ニュースレターNo.53/2013年3月発行
LACNIC18ミーティング報告
18回目のLACNICミーティングが、2012年10月28日(日)から11月1日(木)までの日程で、LACNICがオフィスを置く、ウルグアイの首都モンテビデオで開催されました。LACNICがRIPE NCC、APNIC、ARINに続く四つ目のRIRとしてICANNの承認を受けたのが2002年10月31日で、今回のミーティングは10周年記念としての開催です。
私が属するAPNICの理事会では、このLACNIC10周年を祝う目的を兼ねて、LACNICの理事会と合同理事会の開催を計画し、私を含む8名中5名の理事が現地入りしました(他の3名は電話で出席となりました)。
この合同理事会を含み若干の個別ミーティングはありましたが、10周年という節目を迎えたLACNICミーティングの多くの日程に参加することができました。以下、その様子をお伝えします。
LACNIC+LACNOG
LACNICミーティングは年に2度開催され、春のミーティングは中南米のインターネットのあらゆる団体が会合を開催し、「中南米インターネットの祭典」といった様相を呈します。これに対して秋のミーティングでは、LACNOGの年次会議との共催という形で、この二つが1週間の日程の柱となります。このようなNOGとの共催の形は、ARIN/NANOGでも見られ、週の前半をNANOG、後半をARINという風に分けていますが、LACNIC/LACNOGの場合単純に前後半には分かれてはいません。北米地域でも、NANOGとARINの参加者層は大きく違うようですが、それは前後半にきれいに分かれていない、LACNOGとLACNICにも当てはまるように見受けました。
10周年のいろいろ
10月29日(月)午前中にはオープニングセレモニーがあり、それに引き続き華やかな雰囲気の中、10周年記念のプレナリセッションがありました。キーノートスピーカーには、Vint Cerf氏(Google社チーフインターネットエバンジェリスト)、Steve Crocker氏(ICANN理事会議長)、Lynn St. Amour氏(ISOC CEO)、Jeffrey Jaffe氏(W3C CEO)、Geoff Huston氏(APNICチーフサイエンティスト)をはじめとして、全世界からインターネットを代表する第一人者が集まりました(中には来訪がかなわず、ビデオ講演となった方もいましたが)。キーノートスピーチ以外にも、中南米を中心に各界の第一線で活躍する話者が並ぶパネルが相次ぎ、インターネットガバナンス、中南米のインターネット基盤といった大きなテーマが議論されました。
10月29日(月)の夕方のレセプションは、LACNICのオフィスで行われました。LACNICのオフィスは、セントロと呼ばれるモンテビデオの中心街から、バスで20分ほどの海岸通り沿いにあります。ここにオフィスを構えたのは2006年のことですが、2012年4月に、LACNIC以外にもインターネット関連6団体のオフィスを収容するべく増築し、新たに「Casa de Internet de Latinoamerica y el Caribe」と名づけられました。このスペイン語の名称を直訳すると「ラテンアメリカとカリブのインターネットの家」ですが、英語に訳す場合には「the Internet Hub for Latin America and the Caribbean」としているようです。敷地には十分な広さの庭があり、400人を超えるミーティング参加者を収容することができました。この「中南米インターネットのハブ」にあらゆる関係者が集まったのは、10周年を飾る象徴的なイベントであっただろうと思います。
10月30日(火)の夕方には、LACNICの設立やこれまでの10年間で功績が著しい人たちを称える、功労賞の授賞式が行われました。歴代のLACNIC理事をはじめとして、中南米各国のインターネットを支えてきた人々が顔を揃えました。
ポリシー議論
LACNICのIPv4アドレスポリシーの中では、IPv4アドレスの通常在庫の枯渇後に関して、
- 地域内移転が可能
- 新規LIRに対する割り振りのために/12を予約
- 既存LIRに対する割り振りのために/12を予約
と定められています。また、LACNIC地域のIPv4アドレス在庫枯渇は、Geoff Huston氏の予測によると2015年とされています。
今回、LACNICのポリシーフォーラムで議論されたプロポーザルの数は11。過去のAPNICポリシーフォーラムと比較しても最大級の数が提案され、四つのプロポーザルがコンセンサスに至りました。コンセンサスに至った四つのプロポーザルの概要は以下の通りです。
- 在庫枯渇後のIANAからのIPv4分配を新規LIR向け予約領域に編入
- IPv6の割り当てブロックの大きさをLIR裁量とする
- /32を超えるIPv6割り振り基準の精緻化
- IPv4エンドユーザー割り当て要件の変更
コンセンサスに至らなかったプロポーザルには、RPKIのレジストリデータベースに対する適用・導入に関するもの、IPv4アドレス移転の即時許可、RIR間IPv4アドレス移転といったものがありました。これらは、まだまだ時期尚早であり、議論に十分時間を取るべきと考えられたように見受けられます。
LACNOGの議論
LACNOGの議論は、日本で見られるのと同様のラインナップだと感じました。IPv4在庫枯渇までまだ2年ほどあるこの地でもIPv6に関する発表は多数あり、ブロードバンドやモバイルネットワークにおけるIPv6ディプロイメント、World IPv6 Launchに関するレポート、デュアルスタック運用、オープンソースソフトウェアによる監視や運用など、IPv6以外には、データセンターの設計論、SDNを取り扱ったパネルなどがあり、見ることができたセッションではどの発表にもマイクの前に列が並び、参加者からの意見が盛んに飛び交っていました。
何語で開催されるのか?
APNICやRIPE NCCでは英語を使用言語として掲げて、ミーティングでも英語が使用されますが、LACNICでは、スペイン語・ポルトガル語・英語の3言語が使用され、どれか一つが主ということがありません。3言語すべて喋れるという人は多くはなく、会場では常にこの3言語の同時通訳が提供されます。
ラテンアメリカでは、スペイン語を公用語とする国がほとんどながら、最大の人口を擁するブラジルでポルトガル語が話されること、また、カリブ海諸国では英語を公用語とする国が多いということから、このような状況になったのだと考えられます。
会場では、この3言語のいずれかであれば、何の前置きもなく話されます。例えば、現在のポリシーフォーラムのチェア2人は、スペイン話者と英語話者なので、分担時間によってフォーラムの進行がスペイン語だったり、英語だったりと、まちまちです。プレゼンテーションのスライドは3言語のいずれかなら受理されるようです。LACNICからのアナウンスや各種資料は3言語すべてで提供されます。
おわりに
私自身はLACNICへの参加はこれが2回目でしたが、この地の皆さんは気さくで、いつも親切にしてくれ、日本から唯一の参加者であった私でも、アットホームな雰囲気が心地良かったです。10周年のセレモニーで、LACNICの設立から今までの10年間を牽引した皆さんを一堂に拝見しましたが、コミュニティがこのリーダーたちの下で一致団結して、LACNIC地域のインターネットを動かしてきた様子を感じることができました。
LACNICでは2012年9月にロゴを一新し、この10周年記念ミーティングに臨みました。この新ロゴを掲げた「インターネットのハブ」にコミュニティが集結し、新たな10年への好スタートを切った、印象深いミーティングでした。
(JPNICインターネット推進部 前村昌紀)