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ニュースレターNo.53/2013年3月発行

第85回IETF報告 全体会議報告

第85回IETF Meetingは2012年11月4日(日)から11月9日(金)の間、米国アトランタで開催されました。ちょうどこの期間は米国の大統領選挙と重なりました。選挙の話題はテレビや新聞でも大きく取り上げられ、選挙グッズも売られていました。米国は国内でも時差があるため、まだ投票している地域がある時間は出口アンケート結果も公表が控えられていました。投票の結果予想が出るとアトランタでも花火が上がり、祝砲の音が聞こえました。翌日、ロムニー氏のグッズだけが半額で売られていました。

さて、本稿では「One Plenary」の様子について感想を交えて報告します。前回まで「IETF Operation and Administration Plenary」と「TechnicalPlenary」の二つの全体会合があったのですが、今回は一つにまとめられ「One Plenary」と呼ばれるようになりました。

はじめに今回のホストであるケーブルラボのJean-Francois Mule氏から挨拶があり、北米を中心としたケーブルTVネットワークのサービスの現状が報告されました。米国のCATV/ケーブルインターネットは、高速インターネットの82%ものシェアを持っているそうです。そしてインターネットを扱っているのでIETFとの関係も深く、またケーブルラボでは“Rough Consensus and Running Code”の取り組みを大切にしているとアピールしていました。

IETF Chairレポート

IETF Chairレポートでは、参加者の内訳やRFCなど前回のIETF Meetingからの差分の紹介がありました。今回の参加者は55の国と地域から1,098人が参加しました。前回のバンクーバーでは1,174人でしたので、若干減少しています。地域毎の集計では、中国はビザの関係のためなのか参加者が減少しており、米国に続いて日本が2番目に多い国と地域でした。

前回のMeetingから一つの新しいワーキンググループができ、三つのワーキンググループがクローズされました。RFCは67件が発行され、その内訳は38件がスタンダードトラック、BCPは0件、4件がインフォメーショナル、25件がエクスペリメンタルでした。今回はミーティングの間隔が短かったために、全体に少なめになっています。

また、今回の会場ネットワークはSIDR WGで扱っているResource PKIで経路情報のチェックをしていたそうです。それからTAOと呼ばれるIETFの心構え、マナーが書いてある文書が5ヶ国語に翻訳されて、公開されました。この中には日本語のものも含まれています。日本語に翻訳されたTAOは次のURLを参照してください。

IETFのタオ:初心者のためのインターネット技術タスクフォースガイド
http://www.ietf.org/tao-translated-ja.html

そして、IETFにおけるドキュメントや発言の権利などの取り扱いを定めるNote Wellの更新が準備されているそうです。

IAOC Chair and IADレポート

IAOC Chair and IADのレポートでは、Bob Hinden氏からIETFの会計状態の報告がありました。アトランタのミーティングでは参加費を支払った参加者は1,079名で、これは予定より61名少なかったのですが、スポンサーもついており若干のプラスでいけそうだということです。前回のバンクーバーの結果は参加者も予定より42名のプラスで、会計的にもうまくいきました。次回のオーランドはComcast社、NBC Universal社がスポンサーです。

また、大きなInterim Meetingが2012年9月29日(土)にRIPE Meetingと連続して参加できるようにと、同じアムステルダムで開催されたとのことでした。sidr、opsec、v6opsの会合があり、現地で38名、ネットワーク越しに23名の参加者がありました。

それから、IETF Trust chairであったMarshall Eubanks氏のリコール問題があり、リコールプロセスの経緯説明がありました。

最近はIETF参加者のためのスマートフォン用アプリケーションが利用できるようになっています。これは数回前のミーティングの頃より、準備・利用されていたものですが、完成度も上がってきたことから作者の紹介がありました。

IETF Trust Chairレポート

IETF Trust Chairレポートは、chair交代の報告と権利関係の報告です。先に報告のあったリコールプロセスの結果、IETF Trust ChairにはOle Jacobson氏が2012年10月25日(木)にMarshall Eubanks氏からの交代で就任しました。特許係争にIETFが関係しているということで、法廷からの召喚が複数きているそうです。

IAB Chairレポート

IAB Chairレポートでは、IAB/IRTF Congestion Control Workshop(IAB/IRTF輻輳制御ワークショップ)を開催したという報告がありました。資料は次のURLで公開されています。

http://www.iab.org/activities/workshops/cc-workshop/

これをInternet-Draftにしたものが、draft-tschofenigcc-workshop-reportです。

それからプライバシーについてIPv6 privacy surveyを発行しました。

またRFCのフォーマットに関して、今回の期間中にRFC Format BOF (RFCFORM)を開催しました。

IRTF Chairレポート

IRTF Chairレポートでは研究活動の報告がありました。ASRG (Anti-Spam RG)、CFRG (Crypto Forum RG)、DTNRG (Delay-Tolerant Networking RG)、ICCRG (Internet Congestion Control RG)、ICNRG (Information Centric Networking RG)の各グループは活発に活動しています。NCRG (Network Complexity RG)、NMRG (Network Manegement RG)、RRG (RoutingRG)の各グループは継続的に活動しています。P2PRG (Peer-to-Peer RG)、 SAMRG (Scalable Adaptive Multicast RG)の二つのグループがクロージングとなりました。

IRTFでは、「Network Research Prize」という賞をISOCと共同で出しています。2012年はこの賞を3名に授与することになりました。内1名は前回表彰されましたので、今回はSrikanth Sundaresan氏とPeyman Kazemian氏の2名が表彰されました。Srikanth Sundaresan氏の受賞論文のタイトルは「Broadband Internet Performance: A View From the Gateway」でした。またPeyman Kazemian氏のタイトルは、「Header Space Analysis: Static Checking For Networks」でした。

Itojun Service Award

次にItojun Service Awardの発表と表彰がありました。プレゼンターである慶應義塾大学の村井純先生が受賞者の3名、John Jason Brzozowski氏(Comcast)、Don Lee氏(Facebook)、Paul Saab氏(Facebook)を発表しました。

John Jason Brzozowski氏は、World IPv6 Launchに向けてComcastのIPv6インターネットサービスの提供の実現に向けて尽力しました。また、Don Lee氏とPaul Saab氏はFacebookのIPv6サービス化を他のコンテンツ事業者に先駆けて実施し、ユーザーからIPv6でアクセス可能にしたことが評価されました。

写真:Itojun Service Award授賞式
●Itojun Service Award の授賞式の様子(写真提供:砂原秀樹氏)

その他

それから、「テクニカルトピック:インターネットにおける計測問題」のパネルディスカッションがあり、モデレータはAlissa Cooper女史、スピーカーはSam Crawford氏、FCC(米国連邦通信委員会)かつコロンビア大学のHenning Schulzrinne氏でした。

Sam Crawford氏は専用のインターネット計測の機材を作り、34の国と地域で40,000プローブを設置し、計測を行っているそうです。

Henning Schulzrinne氏はネットワーク計測の役割について説明しました。ISPにとってはサービスの診断と計画のため、ユーザー視点での分析、公共ポリシー(ブロードバンドの評価、ユニバーサルサービスなど)のためにデータを集めることが、三つの重要な役割だということです。このためにMBAプロジェクトという計測プロジェクトに取り組んでいるそうです。このプロジェクトは米国の人口の86%をカバーする13のISPの9,000ユーザーにおいて、Webブラウジングのダウンロード、連続およびバーストのアップロード/ダウンロード、DNSの失敗、パケットのロスなどを計測しています。電話網はすでにIPネットワークになったので、FCCとしてもIETFと連携して取り組んでいきたいという話がありました。

最後に質問や意見を自由に述べることができるオープンマイクがありました。今回はIETF内のコミュニケーション不足問題についての話題が出ていました。


次回のIETF Meetingは、2013年3月10日(日)から3月15日(金)にかけて米国オーランドにて開催されます。

(アラクサラネットワークス株式会社 新善文)

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