ニュースレターNo.54/2013年7月発行
JPNIC会員企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回はアイテック阪急阪神株式会社を訪問しました。同社はJPNIC会員かつIPアドレス管理指定事業者であり、JPNICから初めに見えるのは「インターネットサービスプロバイダー」としての顔です。しかし実際には、阪急電鉄・阪神電鉄をはじめとする阪急阪神東宝グループと三菱電機をバックとして、「交通・ビル関連システムをはじめとする社会システム事業」「インターネット事業」「医療システム事業」「ケーブルテレビ関連システムなどのソリューション事業」「システム開発受託事業」「技術サービス事業」という、文字通り“多種多様”な事業を、大阪のみならず全国において展開されています。今回は、大阪発の力強さを感じるお話をうかがうことができました。
アイテック阪急阪神株式会社 | |
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住所: | 大阪市福島区海老江1丁目1番31号 |
設立: | 1987年7月1日 |
資本金: | 2億円 |
代表取締役社長: | 浜田 真希男 |
事業内容: | 社会システム事業、インターネット事業、医療システム事業、ソリューション事業、システム開発受託事業、技術サービス事業 |
従業員数: | 674名(2013年3月末時点) |
全国のお客様に喜ばれるサービスを
マルチプルな事業内容
■貴社のWebサイトを拝見したのですが、インターネットに関する事業にとどまらず、本当に幅広く事業を展開されていますね。まずは貴社の事業内容を、簡単にお聞かせください。
当社は、阪急阪神東宝グループの一員であり、阪神電気鉄道株式会社、三菱電機株式会社、阪急阪神ホールディングス株式会社を株主に持つシステム開発会社です。2007年10月に、元々コンピューター関連業務からスタートしコンピューティング事業を幅広く行っていた「アイテック阪神株式会社」と、阪急グループの経理システムなども開発していた「株式会社阪急ビジネスアソシエイト」とが統合して、今の「アイテック阪急阪神株式会社」という社名になりました。
現在は、六つの事業を、「マルチメディア事業本部」「医療事業本部」「ビジネスソリューション事業本部」「エンジニアリング事業本部」「電子機器事業本部」という五つの事業本部で取り組んでおり、我々は「マルチメディア事業本部」に所属しています。
インターネット関連を担当する「マルチメディア事業本部」は、インターネットが普及し始めた1997年頃から、今後伸びる分野だろうと見込んで、設立された事業部門です。
■そのマルチメディア事業本部での主力の事業はどの辺りになりますか?
マルチメディア事業本部の主な事業としては、電子商取引(EC)関係に力を入れているところで、本部だけで、営業からシステム開発・構築、運用保守まで、ワンストップで提供できる仕組みを持っており、サーバホスティング・ハウジングサービスとして「i-TEC SERVER」もあります。
また、CATV事業者様向けのソリューションとして顧客管理システム「Cat-Manager」があります。このほか、コールセンターサービスも提供しており、自社でコールセンターも持っています。
■そうしたインターネット関連事業の売り上げは会社全体のうちどのぐらいを占めるのでしょうか。
マルチメディア事業本部全体の売上で全社の30%程度です。この中にはCATV関係のソリューション、インターネット接続サービス、EC、ホスティング・ハウジングサービス、Web制作などを含んでいます。
■CATV事業者の顧客はどのくらいいらっしゃるのですか? 大阪一円といったところになるのでしょうか?
当社で顧客管理システムを導入している事業者様が60社程度あり、関西圏だけでなく、全国にいらっしゃいます。主要なCATV事業者は全国に300社ぐらいあると言われていますので、そのうち約20%程度に当社が納入させていただいていることになりますね。
■非常に広く全国展開されているのですね。関西以外の地域で事業展開をされる際に、感じられる関西との違いなどはありますか?
関西では「阪神電車のグループ会社です」と言うだけでお客さんには分かってもらえるのですが、例えば東京ではピンとこないこともあるようです。当社は三菱電機の資本も入っているので、「三菱電機関係で、これこれこういうサービスの形で、実は御社にもお使いいただいているのですよ」というように説明すると、初めて分かってもらえることもありますね。
関西と言えば、阪神タイガース!!
~タイガースそしてプロ野球への愛をささえるサービスが、いまや全国展開の電子商取引サービスに~
■インターネット関連サービスについてお聞かせください。何と言っても、阪神タイガース公認プロバイダーである「Tigers-net.com※1」がとても気になるのですが。
全国向けのプロバイダーとして2000年2月にサービスを開始し、阪神タイガースの公認プロバイダーとして「もっともっとタイガースのコンテンツを充実させよう!!」と頑張っています。
売りにしているのは、甲子園球場での阪神タイガース公式戦(巨人戦以外)をインターネットで配信する「熱闘ライブ」です。また、試合中継のほか、スコア中継なども提供しています。
■試合の動画配信ですか。タイガースファンはもちろんのこと、全国のプロ野球ファンにとっても何とも嬉しいサービスですね。
そうですね。関西には兵庫県の独立局である「サンテレビ※2」がありますが、視聴エリア外では見られないので、関西以外ではテレビ中継はされない試合があります。そういう試合もTigers-net.comで見ていただくことができるので、喜んでいただいている方も多いと思います。
それに加え、全国のプロ野球ファンに喜んでいただいていると言えば、ECサービスの「HIT-MALL※3」もそうかもしれません。自社製品としてECサービスを展開していこうと、2001年に阪神タイガースグッズを扱う「T-SHOP」としてスタートしたのが、今の「HIT-MALL」の原型です。
タイガースグッズは人気があり、特に優勝した年はよく売れるのですが、残念ながら稀にしか優勝しません(笑)。そこで次にNPB(Nippon Professional Baseball Organization、日本野球機構)の仕事もさせてもらおうということになりました。NPBのショップならセ・パ併せて12球団もあって、毎年そのうち2球団は必ず優勝するわけですから、NPBのショッピングモールをやれば毎年儲かるだろうと考えたのです。
始める前はうまい手だと思いましたが、実際には落とし穴があって、グッズが充実しているのは阪神タイガースなど一部の球団だけで、グッズの少ない球団が優勝しても、思ったほど儲かりませんでした(笑)。
■ECサービスは、初めはプロ野球関連から始められたわけですね。
はい。このようにスポーツ系を皮切りに、次第に他の分野にも手を伸ばし始めました。
既に自分たちでショップを運営しているので、どうやったら売れるのか、どういうプロモーションをしたら良いか、あるいはどういう見せ方が良いのかというノウハウがあります。それを盛り込んでいるのがトータルECソリューション「HIT-MALL」の強みで、システム構築をはじめ、サイトの運営も我々がお引き受けすることで、顧客企業様は商品だけ提供いただければ、ECサイトでの販売ができます。
■それであれば、どのようなお客様でも簡単にECサイトを始めることができそうですね。
ECを始めたいというお客様がいても、ご自身では運用などができないこともあります。どうしたら売れるか、というノウハウを自分たちの経験から知っているし、システム構築ができ、ネットワークも持っている我々なら、さまざまなお客様のご要望にお応えできます。
ECサイトの運営などのサービスを提供する代わりに、我々は売上の何%という形で費用をいただきます。商品が売れなければ自分たちの実入りも少なくなってしまうので、我々も一生懸命頑張らないといけません。
鉄道会社とキャリア双方のメリットを最大化
~グループ会社の強みを活かした公衆無線LANサービスの提供~
■次にうかがいたいのは公衆無線LANサービスについてです。駅などでは広く公衆無線LANサービスを提供されていますね。
はい。まず初めに2012年3月からKDDI様へ提供を始め、続いてソフトバンク様、NTTグループ様にも提供することになりました。各アクセスポイントのトラフィックを当社で集約して、各キャリア様に流しています。
カバーエリアということですと、阪神電車は全44駅、能勢電鉄は全14駅、北大阪急行も全3駅で利用できます。阪急電鉄は駅の数が多いので、2013年4月現在では約半数の42駅で提供していますが、今年度中にはすべての駅で利用できるようになる予定です。また、甲子園球場など阪急阪神グループの施設にもアクセスポイントを設置しています。
駅のアクセスポイント設置工事も当社ですべて行っています。鉄道会社は当社に任せれば主要なキャリアが使えるようになり、キャリア側から見ても、我々に任せていれば鉄道会社との調整等をしなくていいので容易に展開できる、というメリットがあります。
■お客様のシステムを運用しているということから、セキュリティに関する要請も厳しいのではないかと思いますが、その辺りはどうでしょうか。
特別なことではないのですが、当社では、自社システムにおいてサーバやルータの作業手順など、基本的なところを徹底しています。当然、お客様向けのシステムについてもすべて自社のシステムと同様に対応するようにしています。
これらのことに加え、セキュリティ監査や、安全・安心マークの取得などを通して、一定のレベルに保つようにすることなどによって、お客様もご安心いただいているのではないかと思います。
セキュリティ対策は、いたちごっこみたいなものでもありますので、他社ではどのように対応されているのかについても情報収集しています。
■確かにセキュリティには、マニュアル化されない、教科書にならない領域で難しいですね。日々情報のアップデートをして、対策を考えて……と。
そうなんです。それに加え、手間もかかる領域です。みなさん横のつながりを持つなど、それぞれに工夫されているようですが、我々も同様に対応・推進していかないといけないと考えています。
何が標準となっていくのか、見極めも必要
~IPv4/IPv6対応~
■話は変わりますが、これからのサービス展開に当たり、依然としてIPv4アドレスの需要もあるのではと思いますが、いかがでしょうか。
単純な接続事業はどこかで需要が打ち止まるだろうと思っていましたが意外に打ち止まらないこともあり、IPv4アドレスの需要は思っていた以上にありますね。IPv6に対応した後も、IPv4が残り続ける限りはサービスを提供しなければなりませんので、当面IPv4アドレスが必要なくなるということはなさそうです。
■IPv4アドレスの在庫が枯渇している現在においては、IPv4アドレスの主な調達方法は移転ということになると思います。「IPv4アドレス移転」という仕組みは、お役に立ちそうでしょうか。
大手の事業者の場合、果たして必要なIPv4アドレス全部を移転で賄い切れるのか分かりませんが、当社の場合は、需要はあると言っても絶対的な量はそれほど多くありませんので、既存のIPアドレスと移転による取得で賄うことができるだろうと考えています。
CATV事業者様の中には、安価な他社のサービスに押されたり、コストが下がらなくなってきたりしていて、事業の継続が厳しくなってきているところも多くあります。これらのCATV事業者様に我々のサービスをご利用いただければ、コストメリットがあるのですが、そのためにはCATV事業者様のお客様の数に見合ったIPv4アドレスが新たに必要になる、という状況です。
■IPv4アドレス移転制度については、2013年6月3日からJPNICでも国際移転ができるようになり、これまで以上に流動性は高くなりました。今後もポリシーやサービスの整備が必要だと思っています。今回JPNICが施行したIPv4アドレス移転制度は、貴社から見てご利用しやすいものになっていますか。
そうですね。状況は完全に公平ではなく、情報収集力がある事業者が有利にアドレスを確保できている実態があると思います。仲介業をされているところも日本にありますが、IPv4アドレスを持っている人と欲しい人の仲介的なサービスが、もう少し整備されるといいなあと感じています。
また今後、需要が逼迫すると必ず値段もつり上がることになるでしょう。そうなると資金力のある事業者しか買えなくなるのではないかという懸念もあります。
■貴社でのIPv6への対応・計画などについてお尋ねしたいと思います。2011年にIANA、APNIC/JPNICでIPv4アドレスの在庫枯渇を迎えて2年が経ち、最近は各事業者でもようやくIPv6への対応がじりじりと動き始めたような印象を持っています。貴社ではどのような状況でしょうか。
現在は着々と準備を進めているという段階です。具体的には、ネットワーク機器などは更新のタイミングなどに併せ対応機器に入れ替えており、後は設定を入れればいいだけ、という状況です。一方で、コンシューマーラインのところの対応については、対応方法も含め見極めが必要と考えています。
今後、何が標準となっていくのか、現段階ではまだ分からない部分があります。標準ではないものを採用して対応を進めてしまうと、後から大幅な手戻りが発生し、コストがかさむことにもなりかねないことから、今は情報収集を続けながら、慎重に状況を見極めようとしているところです。ちょうどCATVインターネットでDOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)が出る前の状況に似ているかもしれません。
■IPv6対応を進めるに当たって、難しさや問題等をお感じのところはありますか?
当社ではCATV事業者様向けにセンターモデムから上位側のサービスを提供しています。CATVインターネットは、技術的な問題はあまり大きくないのですが、CATV局側に設置するケーブル・モデム装置であるCMTS(Cable Modem Termination System)のIPv6対応はまだ行えていません。
■CMTSの対応が進んでいない理由はどこにあるのでしょうか。
結局のところ、まだ機器がこなれていないことが原因です。IPv6対応とうたわれていてもうまくいかないということもありました。また、事業者様ごとにネットワーク構成が異なりますので、ある事業者様では動いても、別の事業者様では動かない、というようなこともあります。
■すると、例えばどのような情報があるとお役に立ちそうでしょうか。Google、Facebook、WikipediaなどのサービスがIPv6なので、IPv6のトラフィックが増えてきていると想像しますが、サーバのIPv6対応などについてはいかがでしょうか。
我々のお客様が知りたいのは、うまくいった事例だと思いますね。どうやったらうまくいったのか、そういう成功事例が聞きたいところだと思います。
サーバについては、既に検証を終えていて、どうすれば良いのかわかっています。今は対応するタイミングを図っているところです。
インターネットは我々を成長させてくれたし、これからもそうである
~今後の展望とJPNICに望むこと~
■貴社の今後の展望としては、どのようなことをお考えでしょうか。
そうですね。二つありまして、一つ目はECの分野をさらに伸ばしていくことです。またもう一つは、万が一の時のサービス継続性、サポート体制でご評価いただいている、「i-TEC SERVER※4」という法人向けホスティング・ハウジングサービスの販売に注力していこうと考えています。
当社は技術面をはじめ事業の中核は自社で賄うことに力を入れていますが、何もかも自分たちだけでやっていくことはできません。そのため、自社が得意なところは自社で、そうでない部分は得意なところと組むことで補っています。
グループ会社のユミルリンク株式会社は高速メール配信では国内で3本の指に入る会社です。また、東京でデータセンター事業者として実績のある株式会社アールワークスもグループ会社です。このように、今後も得意分野を持つ会社と組んで、サービスを充実させていきます。
■JPNICに期待すること、要望などありましたらお聞かせください。
Internet Weekのようなイベントを継続的に行っていくことは、個々の企業では難しいので、ぜひお願いしたいと思います。いつかこういった集まりが不要になる時が来るのかもしれませんが、まだその時ではないと感じています。
企業がやるとなると、利害という側面が大きく出てきますが、JPNICがやることで一歩引いて考えることもできるのではないでしょうか。そこから企業の枠を超えて、あるべき方向性が考えられることを期待します。インターネットは自律ネットワークの組み合わせですから、切磋琢磨もいいですが、一歩引いてあるべき方向性を考えるとか、アピールするとか、そういうことも重要です。
もう一つ、JPNICは、ある意味インターネットの日本代表みたいなところもあり、日本の取りまとめ、アジアの取りまとめのような役割を担っていくことを期待しています。
■ありがとうございます。最後になりますが、貴社にとってインターネットとは何か、お聞かせいただけますでしょうか。
インターネットはもはや社会インフラの一つとなっており、そのインターネットの世界で社会に貢献していくことが我々の役割の一つであると思います。そういった意味で、インターネットは「我々が社会に貢献するための事業基盤」です。
お客様へのサービスを通して社会に貢献することで、我々も成長できます。そのようにしてインターネットはこれまでも我々を成長させてくれましたし、これからも成長させてくれる可能性を持っていると考えています。これまで成長させてもらった恩返しの意味でも、これからもインターネットを通して社会に貢献できることを願っています。
- ※1 Tigers-net.com
- http://www.tigers-net.com/
- ※2 株式会社サンテレビジョン(サンテレビ)
- http://www.sun-tv.co.jp/
兵庫県を中心に関西を視聴エリアとする独立系テレビ局。日本初のプロ野球完全生中継を果たすなどスポーツ放送に力を入れており、プロ野球阪神戦などを試合終了までノーカット完全生中継する「サンテレビボックス席」が看板番組として有名。 - ※3 ECサイト構築 HIT-MALL
- http://www.hit-mall.jp/
- ※4 アイテック阪急阪神のサーバホスティング・データセンターサービス i-TEC SERVER
- http://www.itechh.ne.jp/