ニュースレターNo.55/2013年11月発行
2013年インターネットの殿堂入り表彰式
「インターネットの殿堂(Internet Hall of Fame)」は、ISOC(Internet Society)20周年の節目である2012年から設けられた賞で、インターネットの開発、普及に大きな貢献をした人物に贈られます。
2013年は新たに32名の殿堂入りが発表され、日本からはJPNICの前理事長であり現顧問の村井純氏と、初期のJPNICで理事を務めた石田晴久氏(故人)の2名が選ばれました。
ISOCは、インターネットの普及推進、関連技術の開発促進を進めるため、国際的な調整機関として活動している非営利組織です。本部は、米国ワシントンDCとジュネーブにあり、65,000人以上の個人会員、130以上の組織会員、および90以上の各国支部から構成されています。
このISOCにおいて、第2回の「インターネットの殿堂入り」となった方々が、2013年6月26日(水)に発表されました。予定では、トルコ共和国のイスタンブールにて、発表と同時に受賞イベントを開催する予定でしたが、政情不安からイベントが延期になり、2013年8月3日(土)、ドイツのベルリンで開催された第87回IETFミーティングに併せて、表彰式が開催されました。
表彰式の様子
表彰式は、第87回IETFミーティングの会場ホテルである、インターコンチネンタル・ベルリンで開催されました。ホテル内には、「Internet Hall of Fame」のロゴが所々に飾られたりホテルの壁面に投影されたりして、派手ではないながらも祝賀ムードが演出されていました。
表彰式の参加者は150名程度(日本からは5名ほど)で、プレス関係者も多く見られました。また、2012年の受賞者も参加されていました。高橋徹氏、Vint Cerf氏、Randy Bush氏といった顔ぶれです。旧知の仲でもある受賞者同士が語らい、終始和やかな雰囲気でした。
表彰式は、司会者による挨拶の後、受賞者がそれぞれ、壇上で受賞スピーチを行い、最後に参加者のために集合写真が撮れるような時間が設けられました。
インターネットの殿堂の「サークル」と受賞者
「インターネットの殿堂」は「パイオニア」「イノベーター」「グローバル・コネクター」の3サークル(分野)に分かれており、「パイオニア」は初期インターネットの設計・開発に重要な役割を果たした方々、「イノベーター」はインターネットの技術イノベーションや政策に関する働きかけで協力した方々、「グローバル・コネクター」はネットの成長と普及を支えた方々、となっています。
以下は、2013年度の各サークルの受賞者です。
- 「パイオニア」(13名)
- David Clark、David Farber、Howard Frank、Kanchana Kanchanasut、J.C.R. Licklider(故人)、Bob Metcalfe、Jun Murai、Kees Neggers、Nii Narku Quaynor、Glenn Ricart、Robert Taylor、Stephen Wolff、Werner Zorn
- 「イノベーター」(9名)
- Marc Andreessen、John Perry Barlow、Anne-Marie Eklund Lowinder、Francois Fluckiger、Stephen Kent、Henning Schulzrinne、Richard Stallman、Aaron Swartz(故人)、Jimmy Wales
- 「グローバル・コネクター」(10名)
- Karen Banks、Gihan Dias、Anriette Esterhuysen、Steven Goldstein、Teus Hagen、Ida Holz、Qiheng Hu、Haruhisa Ishida(故人)、Barry Leiner(故人)、George Sadowsky
日本人の受賞者
日本からは、「パイオニア」サークルにて慶應義塾大学の村井純氏(JPNIC顧問、前理事長)が、「グローバル・コネクター」サークルにて、故・石田晴久氏(元JPNIC理事)が選出されています。
受賞者のスピーチはおのおのに面白さと深みがあって、すべてを紹介したいところなのですが、紙面に限りがあるので今回はお二方の様子とISOCによる説明文を紹介します。
村井氏は、会場のスピーチで、コンピュータで日本語文字列の扱いが可能になった時のいきさつや、日本におけるINETの開催、WIDEプロジェクトの活動など、さまざまなエピソードを紹介されました。
村井純氏
村井純氏は、「日本のインターネットの父」として知られており、海外では「インターネット侍」と呼ばれている。1984年に国内の大学を接続したJUNETを確立、1988年にはWIDEプロジェクトを設立して、日本のインターネット研究を牽引した。JPNIC理事長、インターネット協会副理事長、ISOC理事(1997-2000)、初代ICANN理事(1998-2003)を歴任。2005年には、ジョン・ポステル賞を受賞。現在も、インターネットの発展に尽力されている。(殿堂Webページより:抄訳)
http://www.internethalloffame.org/inductees/jun-murai
石田氏の受賞にあたっては、奥方の順子氏が英語でスピーチをされました。学生時代からコンピュータ科学に没頭されていた、石田氏の人となりが語られました。滑らかなスピーチに会場から大きな拍手が起こりました。
石田晴久氏
石田晴久氏は、UNIXコンピューティングとインターネットの基礎概念を日本に広めた。SNAやOSIのように、メインフレームを接続するネットワーク技術が主流だった当時にTCP/IPに注目、その普及に鋭意取り組んだ。ISOC日本支部(ISOC-JP)の初代議長、ISOC理事(1993-1998)、JPNIC理事、JNSAの議長としても活躍された。2009年3月9日、急逝された。(殿堂Webページより:抄訳)
http://www.internethalloffame.org/inductees/haruhisa-ishida
受賞記念パーティー
表彰式後は、受賞記念パーティーが行われました。弦楽四重奏の生演奏が流れる中、コース料理が振る舞われました。はじめは各テーブルについて食事を取っていた参加者も、後半にはグラスを持ってテーブルを巡り、語り合ったり各自のカメラで記念撮影をしたりしていました。スピーチで語られなかったエピソードや、今取り組んでいることを話し合ったりして、同窓会にも似た光景が見られました。
日本から受賞したお二人からのメッセージ
表彰式の会場にて、インターネットの殿堂入りにあたり、村井氏と石田氏の奥方から、読者のみなさまに向けてメッセージをいただきましたので、それぞれご紹介いたします。
村井純氏より
今回、殿堂に選んでいただいたことで、今までとても長い間一緒に、インターネットを最初からやってきた仲間達と“仲間”になることができて、とても光栄です。いつだってみんなで話していることは、これから先の未来のことであり、これまでやってきたインターネットが、これからどうやって貢献していくかということが大事です。今回の受賞が、みんなでまた力を合わせていろいろなことを進めていけるきっかけになれば良いなと思います。どうもありがとうございました。
石田順子氏より
殿堂入りは思いがけない大変光栄なことで、インターネットへの貢献が認められたということですが、ただ好きで、楽しんで仕事をしていただけの人間だと思いますから、むしろ主人の方がいろいろと感謝しているんじゃないでしょうか。たまたま主人が東京大学の大型計算機センターにいた時に、コンピュータを使って初めてネットワークを作ろうとされた先生方がいて、そこに関わっていたという巡り合わせが、幸運なことだったのではないかと思います。その方々が取り組んでいるのを見て「何だこれは。面白いじゃないか」と言って、死ぬまでそれに関わっていました。それが自分自身だけでなく、どんどん日本で広がっていって。だから本人は幸せだったと思います。やりたいことをやらせていただけて、本当に楽しかったんじゃないでしょうか。
2014年のインターネットの殿堂の、候補者推薦募集は2013年10月に開始予定となっており、どなたでも推薦をすることができます。詳しくは、インターネットの殿堂Webページをご覧ください。
http://www.internethalloffame.org/
また、表彰式は5大陸を順次巡回して開催することとなっており、2014年の受賞式は、アジア地域で開催される予定です。場所の詳細発表はまだですが、近隣での開催でもあり、ぜひともご参加いただければと思います。
(JPNIC理事/日本電信電話株式会社/ISOC-JP 藤崎智宏
JPNIC 技術部/インターネット推進部 木村泰司)