ニュースレターNo.57/2014年8月発行
APRICOT 2014/APNIC 37カンファレンス報告 全体報告
APRICOT 2014/APNIC 37カンファレンスは、2014年2月18日(火)〜28日(金)にマレーシアのプタリン・ジャヤで開催されました。
当初、タイのバンコクで今回のカンファレンスの開催が予定されていましたが、タイ国内の反政府デモにより政情が安定しないことから、開催1ヶ月前に急遽、プタリン・ジャヤに開催地を変更することになりました。
カンファレンスの構成
2週間の会期中、前半は主にワークショップに充てられます。BGPやMPLSといった、講師の話を聞くだけでは身につきにくいトピックについて、ハンズオンなども含めた演習形式で行われます。
後半は、IRR、DNSやアドレス管理といった、ネットワークの運用者にとって基礎的なトピックに関するチュートリアルが開催されるほか、各種の最新動向の報告やポリシーに関する議論などが行われるカンファレンスが開催されます。
筆者が参加したチュートリアル・カンファレンスのうち、DNSSECに関するチュートリアルでは、参加者がそれぞれ自己紹介を行う時間がありました。DNSやDNSSECの基礎知識を学ぶためにやってきたISPのオペレーターや、ISPのオペレーターにDNSSECを教える際にどのように教えるかを学びに来ている人など、さまざまな背景を持つ人が集まっていました。そして、参加者それぞれが、質問を交えながら講師の説明に耳を傾けていたのがとても印象的でした。
チュートリアルやカンファレンスと併せて、BoFが開催されます。取り上げられるテーマは毎回変わります。今回は、災害時における通信網の再構築、IPv4アドレスのリース、Network Function Virtualization(NFV)、といった旬の話題にフォーカスが当てられたほか、各国におけるIPv6の普及度調査を共有するBoFも開催されました。
各プログラムの内容や、その際に利用された資料の大半は、APRICOT 2014/APNIC 37カンファレンスのWebサイトから参照することが可能です。一部のプログラムでは、当日の発表や質疑応答の内容が発言録として公開されています。
他の組織と連携したプログラムのご紹介
今回のカンファレンスでは、「他の組織との連携」が非常に意識されており、ICANN、ISOCやAPCERTといった、これまで連携することが少なかった組織が主体となって検討されたプログラムが多くありました。これらのプログラムが加わることで、これまでのカンファレンスと比べ、より幅広い分野がカバーされるようなった印象を持ちました。そのうち、特徴的なプログラムをご紹介します。各プログラムの詳細については、前述のプログラムページをご覧ください。
ICANN
ICANNからは、これまでの活動のアップデートのほか、さまざまな立場の話者を招いて、「From Governance to Cooperation: Decoding the Puzzle」と題してインターネットガバナンスに関するパネルディスカッションの時間が設けられました。このパネルディスカッションの模様は、P.28「アドレスポリシー関連報告」で詳しく記述します。
ISOC
ISOCのプログラムは、ルーティングセキュリティ、DNSSEC、IPv6の普及に関する話題を中心とした構成となっています。
日本におけるルーティングセキュリティやDNSSECへの取り組みについて報告が行われたほか、前回のAPRICOT 2013/APNIC 35カンファレンスで話題となった、オープンリゾルバの全世界的な現状についても報告されました。いずれの内容も、参加者から多くの関心は高く、質問が多く寄せられていました。
APCERT
APCERTはアジア太平洋地域に所在するCSIRT(Computer Security Incident Response Team)から構成されます。今回のプログラムでは、マレーシア、オーストラリアおよび韓国での活動が報告されたほか、日本のCSIRTであるJPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)が提供する、利用中のDNSサーバがオープンリゾルバになってないかどうかを確認するためのWebページが紹介されていました。
これらのプログラムと連動する形で、Network Abuse(ネットワークの不正利用への対応窓口)に関するBoFが開催されました。まずはじめにAPNICより、不正利用を申告する人が参照する、WHOISデータベースの正確性向上への取り組みが紹介されました。引き続いて、APNICデータベースを活用してNetwork Abuseへの対応を行うパキスタンでの事例が紹介されました。JPNICでもAPNICと同様にWHOISデータベースを提供しており、Network Abuseへの対応も行う場面がありますが、これらの報告は日常業務の際に参考となるものでした。
APNIC Member Meetingについて
最終日にはAPNIC Member Meeting(AMM)が開催されました。AMMでは主にAPNICの活動内容に関する報告、期間中に開催されたSIGや各種セッションの報告、次回のAPNIC 38カンファレンスの紹介が行われました。
AMMでは通常、これらの報告と併せて、APNIC理事会メンバー(任期2年)を選出するための選挙が行われます。今回は、3名の改選枠に対して、以下の3名のみが立候補したため、選挙は行われませんでした。
- Yan Ma氏(Beijing University of Post and Telecommunication)
- Che-Hoo Cheng氏(Beijing University of Post and Telecommunication)
- 前村昌紀(JPNIC)
AMMでは、改選枠以上の立候補がなかったため無投票となったこと、および候補者全員がAPNIC理事会メンバー(EC)として選出されたこと、前村昌紀(JPNIC)が理事会議長となったことがそれぞれ報告されました。
上記3名に加えて、今回の改選対象には含まれない4名、およびAPNIC事務局長Paul Wilson氏の合計8名の体制で、新APNIC理事会がスタートしています。本件に関しては、JPNICからのアナウンスもご覧ください。
次回APNICカンファレンスについて
次回のAPNIC 38カンファレンスは、2014年9月9日(火)〜19日(金)に、オーストラリア・ブリスベンで開催されます。また、次回APRICOTとの共催となるAPRICOT 2015/APNIC 39カンファレンスは、APAN 39カンファレンスとも共催となり、2015年2月24日(火)〜3月6日(金)に福岡市での開催が予定されています。JPNICは、カンファレンスの実行委員会に参画しており、既に準備を進めています。
APRICOT 2015/APNIC 39カンファレンスは、京都市で開催されたAPRICOT 2005/APNIC 19カンファレンス以来、10年ぶりに日本で開催されることになります。次回はぜひ現地に足を運んでいただき、皆さん自身でカンファレンスの雰囲気を感じ取ってみませんか?
(JPNIC IP事業部 川端宏生)