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ニュースレターNo.57/2014年8月発行

アドレスポリシー関連報告

今回のAPNIC 37カンファレンスでのポリシー議論は、従来のIPアドレスをはじめとした番号資源に関するポリシーのみではなく、「インターネットのガバナンス」や「gTLDをはじめとしたICANNでのポリシー策定」など、より大きな括りでの「ポリシー」について議論する機会が設けられていたことが特徴的でした。また、アドレスポリシー提案に関する議論では、従来のポリシー提案に加えて「コンセンサス確認のあり方」や「IPv4アドレスリース」に関する議論も行われました。

これらは一見、方法論の話のようですが、コンセンサス確認方法の変更は「議論の内容を尊重しながらコンセンサスを判断するのか、それとも匿名の投票に重点が置かれるのか」、IPアドレスのリースは「アドレスを利用する権利なのか」などの基本的な考え方を問われるものです。アドレスポリシーに関する提案と併せて、主なトピックや、それぞれの議論の様子をご紹介します。

ICANN Updateセッション

これは初の試みとしてICANNのアジア拠点が企画し、これまでAPNICフォーラムで共有されることのなかった、gTLDをはじめとするドメイン名に関する動向が共有されたセッションです。

APRICOT Plenaryの開始前、APNICカンファレンス初日の午前中のセッションでしたが、約60名以上の参加があり、会場はほぼ満席でした。このうち約半数以上がICANN会議の常連参加者、残りが普段ICANNの活動に馴染みのない参加者であったという印象です。

紹介、議論されたトピックスは以下の通りです。

  • ドメイン名があらゆる環境で幅広く利用可能な状態(Universal Acceptance)
  • 国際化ドメイン名の異体字(Internationalized Domain Name(IDN)Variants)
  • gTLD WHOISの再定義および置き換え(Refining and replacing WHOIS)
  • 新gTLDの動向(New gTLD update)

マイクの設置されたロの字形のテーブルにICANNの常連参加者が座り、普段ICANNと関わりのない参加者がそれを囲む椅子に座って聞く形に自然となっていたためか、発言はICANNの常連参加者が中心となっていました。

APNIC地域からの声を吸い上げることを目的として考えると、初心者も発言しやすい雰囲気作りなど改善の余地はありますが、常連参加者による発言の様子を含めて、実際のICANN会議の雰囲気をかなり味わうことのできるセッションであったと思います。

当日の発表資料および議論の録音は次のURLよりご覧いただけます。

Asia Pacific Regional Discussions - APRICOT, Feb 2014
写真:会議の様子
● 会議の様子

アドレスポリシー提案に関する主な議論

全体としては「1.0.0.0/8レンジのうち、大量のトラフィックを引き寄せることからAPNICがリザーブしてきたIPv4アドレスを今後どう管理するのか」を中心に議論が行われました。

コンセンサスが得られた提案は議論された3点中、prop-109の1点です。これに伴い、「1.0.0.0/24」および「1.1.1.0/24」は、研究目的でAPNIC Labs(研究部門)に割り振られることになります。
国内の議論では、APNICに分配することへの公平性について指摘がありましたが、以下に示す通り、公共の実験ために利用されることが確認され、コンセンサスに至りました。

  • 実験結果は一般公開する
  • 現在の協力者Google社に限らず誰でも実験に協力可能である
  • 実験に参加する組織とは情報の取り扱いに関する合意書を締結する

一方、同じく1.0.0.0/8レンジに関する提案であったprop-110は一度Policy SIGでコンセンサスが得られたものの、APNIC総会でPolicy SIGに参加できなかった人による一定数の反対が確認され、コンセンサスに至らず、その後、提案者により取り下げられています。

これは、日本から参加したオペレーターが中心となって、DNS anycast用に、誰もが利用できるアドレスを提供することによるセキュリティリスクを、具体的な懸念点として指摘したことが大きな要因となりました。Policy SIGで通ったものは多くの場合、形式的にはAPNIC総会で意思確認はするものの、そのまま承認されることが多い中、プロセスとして印象的でした。

各提案の結果は文末の「参考:アドレスポリシー提案の結果」よりご確認ください。

その他アドレスポリシーに関わる議論

その他の、アドレスポリシーに関わる議論をご紹介します。

コンセンサス確認方法の変更:

現在、Policy SIGでの提案は参加者による議論後、賛否の確認を会場での挙手による意思表明により確認しています。

しかし、以下の理由から、上記に代わり「ポリシー提案への賛否をボタン式で意思表明をする形式へ変更する」案が、今回Policy SIGにて、APNIC事務局からコミュニティへの相談、という形で紹介され、議論が行われました。

  • リモートでの参加者も意思表明に参加できるようにしたい
  • アジア太平洋地域では、他の参加者に見られる形で意思を表明することへの抵抗を持つ人もいる

現時点では、次回の会議に実施を試す方向でAPNIC担当者が準備を進めていると聞いています。

一方、「アドレスポリシー提案に対するコミュニティとしての判断結果は、結果自体のみではなく、議論のプロセスと透明性が大事。投票システムのようなものを導入するとそれが失われるのではないか。」との懸念も、一部の参加者からは表明されていました。

IPv4アドレスのリース:

IPv4アドレスリースが実際に行われていることを踏まえて、APNICのアドレスポリシーとを見なすべきか議論が行われました。

IPv4アドレスの移転とリースの違いは、IPv4アドレスの分配先である状態は維持しつつ、利用していないIPv4アドレスを他組織で利用することを、当該IPアドレスの分配先が容認する点です。

会場ではリースの結果も移転と同じく、データベースに反映するべきとの意見に対して異論は確認されませんでしたが、リース先のアドレス利用に対する責任や登録のあり方については複数の案が提示されました。

これらの議論を踏まえて次回のAPNICカンファレンスでIPv4アドレスリースに関するポリシー提案が行われるのか、今後着目していきたいところです。

インターネットガバナンスに関する議論

今回は「From Governance to Cooperation: Decoding the Puzzle」セッションが複数のパネリストを交えた形式で開催されました。モデレータを務めたKieren McCarthy氏が用意した質問をベースに、以下のようなトピックスについてパネリストが見解を述べました。

  • インターネットガバナンスにおける政府とその他関係者の関わり方
  • WSIS前よりも状況は改善されているのか
  • モンテビデオ声明とは何を意図していたのか
  • ICANN・IANA機能のグローバル化とは何を意味するのか

議論の内容としては、この分野に馴染みのない方も、それぞれのパネリストの立場から解説が加えられ、全体像を確認できる流れになっていましたが、終了後、一部の参加者から個別の感想として、これがどうオペレーターに関わるのかがわからないとの疑問も聞かれました。

また、この分野におけるAPNICの取り組みについて、APNIC EC(理事会)として主体である会員の意向に沿った対応を行いたいとの考えから、最終日2月28日のAPNIC総会でも、事務局長Paul Wilson氏からインターネットガバナンスにおける動向とAPNICの取り組みを紹介の上、会員やコミュニティの意向を聞く時間が設けられました。

これに対して、参加者の1人からAPNICはインターネットガバナンスに対して必要以上に人的リソースと予算をかけすぎているとの懸念が強いトーンで表明されたことをきっかけに、他のAPNICの活動よりもよりも多くの時間をとって議論を行いました。

今後、より幅広い会員の意見を聞く上で、APNIC ECより会員に対して、APNICがどの程度この分野における活動を続けるべきか意見照会を行うことが、ECメンバーであるJame Spencely氏からその場で表明されました。

APNICのメーリングリスト(apnic-talk@apnic.net)でも、APNIC総会で懸念を表明した参加者から、メーリングリスト上で議論を行う呼びかけも行われました。アーカイブは公開されており、誰でもメーリングリストへの登録、投稿は可能です。

APNIC 各種メーリングリスト

振り返り

今回アドレスポリシー提案の結果だけを見ると、国内外の資源管理または事業者のサービスに影響を与える内容はありませんでした。

しかし、APNIC事務局が検討を進めているコンセンサス確認方法の変更は、それに伴うプロセスの公平性、透明性、参加のしやすさにおける影響も含めて考慮が必要な問題です。

昨今、インターネットガバナンスに関する議論の中で、RIRやIETFでのポリシー策定プロセスの公平性、参加のしやすさ、決議プロセスの正当性等について、政府関係者や、その他、普段技術コミュニティに馴染みのない方から質問を受ける機会が増えており、納得のできるロジックに基づいた合意形成プロセスを運用していることが重要になりつつあるのではないかと思います。

また、Policy SIGでコンセンサスが得られながら、APNIC総会ではオペレーターにとって懸念があるとして反対された提案があったことを踏まえると、国内での意見集約も含めて、ポリシーフォーラムにて、提案により影響を受ける運用者のインプットを踏まえた議論がどの程度できているのか考えさせられるものがありました。

そして、提案に基づいた議論ではないものの、IPv4アドレスリースにおけるアドレスの分配先とリース先の責任範囲、インターネットガバナンスの分野におけるAPNICの関わりなどについて、基本的な方針が問われる議論が見受けられ、APNICコミュニティがこれらに対してどういう姿勢を形成していくのか、注視していきたいところです。

各提案の概要は、Japan Open Policy ForumのWebサイトから、[過去の開催履歴]〔Opinion collection meeting about proposal in APNIC 37 hosted by Policy-WG〕をご覧ください。

Japan Open Policy Forum

(JPNIC IP事業部 奥谷泉)

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