ニュースレターNo.59/2015年3月発行
歴史的な進化を同時に迎えるインターネット
シスコシステムズ合同会社 専務執行役員 最高技術責任者(CTO) 木下 剛
オリンピックが東京で開催される2020年には、インターネットに接続できる端末数は、世界人口をはるかに超える500億となることが予測され、2007年のスマートデバイスの登場以降、ウェアラブル端末、スマートメーター、コネクテッドカーの登場とともに、多様化する端末数は毎年数10億の単位で急増しています(参考:2015年1月末時点で145億ユーザー)。これら膨大なユーザーが接続する上で前提となるのはIPv6であり、既に医療分野や自動車・航空業界などでは、IPv6による積極的なネットワーク化によるアプリケーション開発が推進されています。また、コンテンツの観点からは、これまで人類が過去2000年にわたって2エクサバイトのデータを生成したことを踏まえると脅威的と言える、毎日同容量(2エクサバイト)のデータが生成され続けており、モバイル、ソーシャルと共にデジタル化された情報流通基盤としてのインターネット利用は順調に発展し続けています。さらに、従来テクノロジーの観点で取り扱われて来た“IoT(Internet of Things)”は、2013年には、ビジネス面であらゆる産業分野へ革命的なインパクトを与える、インターネットがもたらす産業革命の時代を迎えたとして世界的な注目を浴びています。
そのような明るい未来を提供するインターネット利用の大前提として、基盤リソースの信頼性と安定性の確保が求められますが、テクノロジー、ガバナンスとポリシーのいずれの重要領域においても、今、インターネット利用を取り巻く環境は大きな節目を迎えています。
テクノロジーの面では、IoT時代のインターネット技術アーキテクチャーの発展により、多様化するエンドポイントを柔軟に利用できるエッジネットワークが登場し、またセキュリティ面からも高度化していくことが期待されています。
ガバナンス、ポリシーの領域では、IANA監督機能のマルチステークホルダーコミュニティへの移管という歴史的な変化が進行中であることに加え、インターネットガバナンスを巡りIGF、NETmundial Initiativeなどマルチステークホルダーが集まり、対話を行いステークホルダー間での調整を促し、人類の連帯や経済発展のためにインターネットが共有された中立で世界的な基盤であることを促進する場をめざした、国際的な活動団体が複数存在します。またポリシーにおいても、各国で整備されるサイバーセキュリティ法案や、データ保管のローカライゼーション、プライバシー保護ポリシーの整備など、多岐にわたる重要な変化が同時進行中です。
インターネットと社会との関わりが深くなった今、これらガバナンス、ポリシー面で議論、取り扱われるテーマと内容は、広範かつ複雑化していることから、従来のインターネットコミュニティの仕組みの中で全体を俯瞰することも難しくなっています。そのような中、インターネットガバナンスを取り巻く世界的状況の変化に応じるべく、2014年にJPNICが発起人となり「日本インターネットガバナンス会議(IGCJ: Internet Governance Conference Japan)」が発足し、日本におけるインターネットガバナンス関連動向を共有、議論する場が設けられたことは非常に頼もしく思います。IGCJの設立を機に、インターネットへ関心を寄せるコミュニティが活性化されると共に、グローバルでオープンなインターネットの健全性を継続的に維持していく上では、このようなインターネットへの影響が少なからず想像される領域の議論や会合へ、日本からの参画メンバーが増えていくことを期待します。