ニュースレターNo.59/2015年3月発行
ARIN 34ミーティング報告
2014年10月9日(木)と10日(金)の2日間、米国のメリーランド州ボルチモアにて、ARIN 34ミーティングが開催されました。本稿では、このミーティングの模様をご紹介します。
今回のARINミーティング
今回のARIN(American Registry for Internet Numbers)会議は、秋に開催される会議の通例として、NANOG(The North American Network Operators' Group)ミーティングとの併催でした。今回は、アドレスポリシーに関する議論に加え、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)機能の監督権限移管に向けた、ARIN地域としての提案に関する議論が行われたことが、大きな特徴です。
P.2からの特集1で詳しく取り上げていますが、「番号資源」に関わる監督権限移管の提案は、各地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)で議論された提案をグローバルに一つにまとめたものを、2015年1月に提出することが求められています。すなわち、APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)地域で議論した内容が他のRIR地域と異なる場合は、APNIC地域内での再調整が必要となります。そこで筆者は、ARIN 34の1ヶ月前に、APNIC 38にてAPNIC地域として議論した移管提案と比較する視点で、本会議におけるARIN地域の議論に着目していました。
アドレスポリシーについては、10点の提案が議論された中、「日本も含めたAPNIC地域でも検討すべきか」という視点で着目しておきたい議論としては、「IPv4アドレス移転要件の見直し」と「ARIN地域外でのIPv4の利用」の2点が挙げられます。
特に前者の「IPv4アドレス移転要件の見直し」は、アドレスの必要性を確認する要件を緩和する方向に進めるものであり、これまでのARINコミュニティの姿勢と大きく異なります。APNIC地域における要件も、これに合わせて見直すべきかということを検討するための材料として、今後も注視すべきかと思います。
今回の報告では、IANA機能の監督権限移管の議論も含めた、これら3点に絞ってご報告します。
IPv4アドレス移転要件の見直し
今回の会議では、移転するIPv4アドレスに対して、移転先での必要性を確認した上で、移転を承認する要件を緩和する方向に議論が進められていました。これは、数年前にARIN地域で移転ポリシーを施行した際に、必要性の確認を行わないことが投機目的のアドレス売買につながると消極的であった、当時のARIN地域の姿勢と比べると、かなり大きな変化が見て取れます。
会場の反応
今回の会議では、移転アドレスの必要性を確認する要件の緩和を求める提案が、複数提出されていました。提案内容からはその背景は明らかではありませんが、移転が想定に基づくものであった移転ポリシー施行時とは異なり、IPv4アドレスの在庫枯渇が進み、実際に移転が行われている現状においては、要件を緩和した方が実態に合っていると考える人が増えてきているようにも思えます。そうは言っても、全体としては、慎重派の意見が目立ち、一度にすべてのサイズの移転において要件を撤廃するのではなく、小さなサイズから要件緩和をして様子を見ようとする意見が表明されていました。
結果として、今回の会議では合意に至らずに、継続議論となりましたが、要件緩和自体に懸念を示す意見は少なく、必要性の確認対象とすべき移転サイズについて意見が分かれたことが、コンセンサスとならなかった主な要因と言えそうです。
APNIC地域からの視点
APNIC地域では、ポリシー施行当初は、需要確認の要件がなかったものの、ARIN地域とのRIR間移転を実現するために、需要確認の要件を追加した経緯があります。
これを踏まえて、今後ARIN地域の要件が緩和された場合、APNIC地域としては「ARINに合わせて要件緩和をしたい」のか、「現状の要件を残す」のか、コミュニティの意思と方針を整理していく必要性が出てきます。
ARIN地域外でのアドレスの利用
「ARIN地域外でのアドレスの利用」は文字通り、ARINから分配を受けたIPv4アドレスの、ARIN地域外での利用を認めることを、ポリシー上、明確にすることを求めたものです。この提案も、IPv4アドレス在庫枯渇に伴い、実体化している課題への対応を目指しています。ただし、ARINから分配を受けたアドレスの一部は、ARIN地域内で利用することが前提となります。
解決したい課題
- 現在のアドレスポリシーでは、ARINから分配を受けたIPv4アドレスの利用をARIN地域内に限定するべきか、他の地域でも利用できるのか、明確ではない
- 一方、他のRIR地域での在庫枯渇が進む中、複数のRIR地域に拠点を持つ企業からは、ARINから分配を受けたアドレスを、他の地域でも利用できるようにしたいとのニーズも確認されている
会場の反応
会場では、Microsoft社やGoogle社などの企業の参加者から、「既にそういう使い方をしている」との意見が複数表明されました。一方、FBI(米国連邦捜査局)などの法執行機関からの参加者は、アドレス利用者の実態がつかめなくなり、連絡が取れなくなるとして懸念を示しており、継続議論となりました。
APNIC地域からの視点
APNIC地域内でも、このようなケースは考えられると同時に、申請者が所在地外のRIRを自由に選択できると解釈する余地を与えかねない、といったことなども考えられることから、どこまでをアドレスポリシーで明文化するべきか、バランスを踏まえて考慮することが大切なように思います。
IANA機能の監督権限移管に向けた議論
2014年9月に開催されたAPNIC地域でのAPNIC 38での議論に続き、ARIN 34では、ARIN地域としての提案策定に向けた議論を行いました。
今回の議論とARIN地域の現状
会議では、提案すべき内容に踏み込んだ議論は行わず、背景と現状の報告、ARIN地域としての提案策定に向けたプロセス案を紹介し、プロセスとして適切であるかについて議論を行いました。ARIN地域では、IANA機能の現状と今後に関する調査を実施し、コミュニティの意向を確認した上で、提案の策定を進めるとし、ARIN 34の後に、実施した調査の結果が公開されています。
IANA Stewardship Transition - ARIN Community Input
https://www.arin.net/participate/governance/iana_survey.pdf
他のRIRとの比較
他のRIR地域では、調査という形を取らず、具体的な提案をもとに各コミュニティの意思確認が進められています。なお、ARIN地域における調査結果の中で、印象に残ったものとしては、NTIAに代わりIANA機能の監督を行う第三者機関の設立を支持する意見が、過半数となっていた点でした。これは、APNIC地域で議論した提案には含まれていない要素です。
今後
この調査結果を踏まえて、ARIN地域として、どういう提案を策定するのか検討が行われます。その後全RIR地域における議論を経て、CRISP(The Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal) Teamが各RIRコミュニティの意向を尊重しながら内容をすり合わせ、番号資源として一つの提案にまとめられます。
ARIN 34とNANOG 62に参加して
ARINは、オペレーターによる議論の参加も促進しており、NANOG会議のセッションの中で、ARIN 34で議論するアドレスポリシー提案を、NANOGの参加者と議論する形式をとっています。NANOG 62では、それ以外にも、政策に関わるテーマを扱ったプログラムとして、ネット中立性へのFCC(米国連邦通信委員会)法案検討に向けたFCC担当者による発表や、ICANN会議へオペレーターの参加を呼びかけるセッションなど、「運用」を軸としながらも、技術的な枠にとらわれない内容が見受けられました。
一方、NANOGが終わりARIN会議が始まると、約3分の2の参加者が去る現状を目の当たりにすると、もともと政策的な話に興味がある人以外に、ポリシー策定に関わってもらおうとすることは、なかなかのチャレンジであることが感じ取れます。
ARIN会議単体で見た場合、APNIC地域と比較するとポリシー提案の数も多く、提案への議論が活発に行われていますが、参加者の1人が「数は多いが、特筆すべき議論は、移転における必要性確認要件の撤廃に関する議論くらい」との感想を述べていたことも印象的で、議論が活発なのがよいと一概には言えないのかもしれません。
参考:
- ARIN 34ミーティングプログラム
https://www.arin.net/participate/meetings/reports/ARIN_34/ppm.html - ARIN地域における提案一覧
https://www.arin.net/policy/proposals/
(JPNIC インターネット推進部/IP事業部 奥谷泉)