ニュースレターNo.60/2015年7月発行
CRISPチームチェアによる、CRISPチームの活動レポート
番号資源におけるIANA機能監督権限移管提案の策定に向けて
米国商務省電気通信情報局(NTIA)によるIANA機能監督権限移管の発表※1に伴い、IANAが管理する三つの資源(番号資源(IPアドレス/AS番号)、プロトコルパラメーター、ドメイン名)の管理方針を検討する各コミュニティに対して、2015年1月15日までにそれぞれの資源に関する移管後体制の提案提出が求められていました(注:その後、ドメイン名については提出期限を延期)。本稿では、三つの資源のうち、「番号資源」のコミュニティにおける提案策定に向けた対応の検討チームのチェアとして私、JPNICの奥谷泉が関わりましたので、その策定に関わった当事者の立場から現状をお伝えしたいと思います。
CRISPチームについて
番号資源のコミュニティにおける提案の策定は、移管後の体制を検討し、提案することに責任を持つICG(IANA Stewardship Transition Coordination Group)が行った2014年9月の発表により、地域インターネットレジストリ(RIR)コミュニティに委ねられました。RIRコミュニティはご存じの通り、五つの地域に存在し、日本はAPNICコミュニティの一員と見なされます。アドレスポリシーの策定と同じく、IANA機能監督権限移管の提案はまず各RIRコミュニティ単位でそれぞれ五つの案をまとめ、ICGに提出する上で、それらをグローバルに一つの提案としてまとめることになりました。
グローバルに一つの提案にまとめることを任されたのが、各RIRコミュニティからの代表者により構成され、私がチェアを務めているCRISP(クリスプ、Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal)チームです。メンバーの一覧も含めたCRISPチームのWebサイトは、以下をご覧ください。これまでの提案のドラフト、電話会議の録音、議事録、メーリングリストのアーカイブスなどがすべて公開されています。
- Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal Team(CRISP Team)
- https://www.nro.net/nro-and-internet-governance/iana-oversight/consolidated-rir-iana-stewardship-proposal-team-crisp-team
番号資源におけるIANA機能監督権限移管の位置づけ
CRISPチームがどのように提案をまとめたのかをご紹介する前に、まずは番号資源の観点から、IANA機能の現状を再確認してみたいと思います。番号資源に限って言えば、日々運用し利用する上で、IANA機能を意識することはほとんどありません。また、現状通りNTIAが監督を続けたとしても、または今後NTIAとは異なる組織により監督が行われたとしても、実質的な影響や支障はなさそうに思えます。
しかし、グローバルで誰もが利用するインターネットの重要な資源において、核となる機能の監督を、米国政府のみが担っている状態は、インターネットのあり方と比較するといびつであると、多くの関係者が懸念を示しています。そこでCRISPチームでは、NTIAの発表した監督権限移管の提案に前向きに対応していくことを前提に、検討を進めました。
提案策定において重視されたこと
番号資源のコミュニティにおける提案策定に向けて最も重視されたことは、IANA機能がNTIAによる監督権限移管後も安定的に運用され、番号資源において必要な機能が提供され続けることです。これに基づき、現状のIANA機能の運用に番号資源コミュニティとして満足していることを踏まえると、この点の変更は求めない、すなわち、今後のIANA機能の運営はICANNに任せることが、第一の提案要素として挙げられました。
従って、番号資源のコミュニティにおける提案は、極力現状を維持する内容となっています。そして、IANA機能の運用には直結しないものの、IANA機能の運用を外部(現在はICANN)へ委託契約するとともに、サービスレベルの維持を確認するための定期的な検証を行うという、現在NTIAが担っている役割は、RIRが実施することを前提に、次項の四つの要素から構成される提案が策定されました。
提案要素
CRISPチームが提案した四つの要素は、次の通りです。
IANA機能の安定性のために現状の運用を維持:
(1)ICANNがIANA番号資源に関するIANA機能の運営者を続行すること
知的財産関連の権利の整理:
(2)IANAサービスに関する知的財産関連の権利はコミュニティに属すること(商標「IANA」、ドメイン名「iana.org」、データベースの利用権)
NTIAが担っている役割を、RIRを軸にしたものに置き換える:
(3)各RIRとIANA番号サービス運営者との間のサービスレベル合意(SLA)を締結すること
(4)各RIRからの代表者による「レビュー委員会」が設立され、NRO(Number Resource Organization) ECに対して、IANA機能運営者の業務履行状況とSLA合致状況が助言されること
- 提案原文「Response to the IANA Stewardship Transition Coordination Group Request for Proposals on the IANA from the Internet Number Community」
- https://www.nro.net/wp-content/uploads/ICG-RFP-Number-Resource-Proposal.html
提案要素の四つ目に「レビュー委員会の設立」が挙げられていますが、これについても、現状にないものを新たに提案しているのではなく、現在、NTIAが定期的にIANA機能に関するサービスレベルの報告をIANAから受けていたことが、RIRに対して置き換える形で対応したものです。基本的にはNTIAに代わり、RIRが定期的にIANA機能のサービスレベルの検証を行いますが、コミュニティからの視点も取り入れるよう、五つある各RIRコミュニティの代表者が、RIRがサービスレベルの検証を行う上で助言を行う機能として提案されています。これについては別に組織を立ち上げるのではなく、一例としては、グローバルポリシーについてICANN理事会に対して提言を行っている、ICANN内の支持組織の一つであるアドレス支持組織(ASO; Address Supporting Organization)に近いものが、検討の過程で挙げられています。
提案に関する議論
特に活発な議論が行われたポイントとしては、知的財産関連の権利(提案ドラフト第1版では明記しておらず、議論を取り入れてその後の提案に反映)、SLAに含める内容、レビュー委員会の選定方法などでした。いずれも、提案の各要素に対する詳細の確認であり、提案要素に対する懸念は確認されませんでした。
一方、グローバルな議論の場であるianaxfer@nro.netメーリングリストでは、IANA機能の運営組織(現在ICANN)とRIRが実際に取り交わすSLA文書を提出しないと、正式な提案として認められないとの意見もありました。しかし実際のSLAの実装は、IANA機能の直接の利害関係者であるRIRがすべき性質のものであるため他のコミュニティメンバーからは支持が得られず、本メーリングリストではそれ以上の議論には発展しませんでした。ianaxfer@nro.netメーリングリストでのすべてのコメントと、それに対するCRISPチームによる検討と対応については、一覧にまとめて以下に公開されています。
- Summary of Discussions and Its Status
- https://www.nro.net/wp-content/uploads/NRODiscussionList_20150116.pdf
提案策定に向けた番号資源コミュニティの関わり
こういった議論を経て、期限までに提案策定が完了したことはもちろん大きなことですが、このプロセスを通して、RIR、ひいては番号資源のコミュニティが五つの地域をベースにそれぞれの地域性を尊重しながらも、基本的には同じ目的を共有し、強く結束していることを強く感じました。
まず、それぞれ五つの地域の提案を一つにまとめあげる作業が、思いのほか円滑に進んだことが、理由の一つとして挙げられます。締結する契約の形態や、サービスレベルの検証を行う上で、コミュニティによる諮問が必要なのか、といった観点では地域ごとに違いはありましたが、地域間の違いと譲れない部分を尊重した上ですり合わせた結果、前述の通り、番号資源における提案は極力現状を維持し、NTIAの担っている役割をRIRに置き換えるとの目的に沿って、提案の第1版を比較的スムーズにまとめることができました。
次に、CRISPチームの高い出席率が挙げられます。2014年11月にCRISPチームが結成され、12月より活動を開始してからICGへの2015年1月15日の提案提出に至るまで、年末年始の休暇期間、そして最終週には連日電話会議を実施したため、参加できるメンバーが非常に限られることも個人的には予想していました。しかしながら、実際にはほとんどのメンバーがほぼ8割以上の会議に参加するという高い出席率であったことからも、メンバーの高いコミットメントが見て取れます。
さらに、CRISPチームでまとめた提案に対して、NROの運営するグローバルなメーリングリストで議論を進める中、誰でも議論に参加できることから、番号資源コミュニティに普段参加していない方からも多くのコメントをいただきました。そういった意見の中には、取り入れられるものもあれば、前述の通り、実際のSLAもつけてICGに提出して欲しいという要請など、「提案はコミュニティで策定して実装はRIRに委ねる」という、従来の番号資源コミュニティにおける運用のあり方とは異なるコメントも含まれていました。
後者に該当するコメントは、CRISPチームとして取り入れることが難しいとの判断を伝えても、コメントされている方にはすぐに納得していただけない状況もありましたが、RIPE地域のコミュニティメンバーを中心として、番号資源のコミュニティになじみのあるメンバーたちが、応援しようとの意志を持って議論に参加し、次々にCRISPの判断と対応を支持する理由を挙げてくれた局面が何度かありました。このような姿勢に感謝するとともに、地域をまたいだ番号資源コミュニティとしての連帯を強く感じました。
今後の課題・進め方
次のステップとしては、他の二つのコミュニティによるIANA機能に関する提案との不整合が確認された箇所は、提案見直しの必要性も含めて調整が必要になります。
今後も引き続き、JPNIC Webやメールマガジン、日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)などで状況を共有するとともに、各コミュニティからの提案が出そろった段階で、日本のコミュニティとしてみなさんと一緒に議論ができればと思います。
(JPNICインターネット推進部/IP事業部 奥谷泉)