ニュースレターNo.61/2015年11月発行
IPv6 Summit in Hiroshima 参加レポート
2015年7月10日に広島で、IPv6 Summit in Hiroshima 2015が開催されました。JPNICは、主催団体の一つである一般財団法人日本インターネット協会(IAjapan)のIPv6デプロイメント委員会のメンバーも務めており、JPNICとしても検討を進めているIPv6の地方におけるプロモーションの参考にしたいと考え、今回参加をしてきました。
当日は、それまでのジメジメした気候とは打って変わり、広島でも一気に30度を超える真夏日となりました。本稿では、その暑い広島で行われたIPv6に関する熱い議論についてレポートします。
IPv6 Summit in Hiroshima 2015とは
本イベントは、一般財団法人日本インターネット協会(IAjapan)のIPv6デプロイメント委員会が、毎年各地で開催している「IPv6地域サミット」の一つとして開催されました。特に今回は、地元の広島地域IPv6推進委員会の定期イベント「IPv6セミナー2015 Summer」と一体となっての開催となりました。
- IPv6 Summit in Hiroshima 2015
- https://www.iajapan.org/ipv6/summit/HIROSHIMA2015.html
広島地域IPv6推進委員会は、日本のインターネット黎明期に各地で誕生した地域インターネットコミュニティの一つである、中国・四国インターネット協議会(CSI)を母体としています。早期からIPv6の普及に取り組んできた組織で、この7月で設立からちょうど10年となり、今回の開催はその10周年記念の意味合いも含むものでした。
会場となったのは、広島県民文化センター内にある、県立広島大学のサテライトキャンパス広島の大講義室で、150人以上の収容力があるところでした。今回はそこに80名程度の参加があったと聞いています。これは、昨今のIPv6地域サミットの中でも盛況であったと言えそうです。
第1部講演
広島地域IPv6推進委員会の委員長である、広島大学の西村浩二先生によるご挨拶に続き、総務省データ通信課企画官山口修治氏による「グローバルなインターネット政策について」というタイトルの講演が行われました。山口氏は、ICANNの政府諮問委員会(GAC)にも参加しており、ICANN報告会でも毎回報告していただいています。
インターネットの資源管理とガバナンスに関する基本的な解説からはじまり、ICANNに関する議論の遷移、国際電気通信連合(ITU)や国連による動き、そしてIANA機能監督権限移管に関する議論や、NETmundial Initiativeの動きをはじめとする最新動向まで、かなり俯瞰的、網羅的にインターネットガバナンスとそれにまつわる議論についてお話をしていただきました。
ICANN報告会や日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)などは、どうしても東京での開催になってしまい、東京以外の地域において、インターネットガバナンスに関する話を聞く機会は限られるため、IPv6の技術的な状況とは直接の関係はないものの、状況の周知という点でも今回はとても良い機会だったと思います。
会場からは、インターネットガバナンスの動向が、ドメイン名を利用しているユーザー等にも直接的な影響が出てくる可能性があるのか、あるいは、ドメイン名に比べIPアドレスなどについてはあまり大きな動きはないのか、といった質問がありました。
約3週間後の2015年7月28日に開催する第8回IGCJの案内も、最後に行われ、マルチステークホルダープロセスへの参画を促す意味でも有意義であったと感じました。
第2部講演
第2部では、JPNICの常務理事でもある日本電信電話株式会社の藤崎智宏氏が、「IPv6の過去・現在・未来」として、1990年代前半からの、IPv4アドレス在庫枯渇を見据えた新プロトコル開発の必要性とIPv6仕様の標準化までの歴史、国内外におけるIPv6普及促進のための取り組みと挫折、IPv4アドレス在庫枯渇以後から現在まで、統計データを交えた最新動向について紹介しました。
さらに今後に関して、現在IPv4アドレス枯渇タスクフォースでまとめている提言と、解決していく必要のある技術面の課題について、例を挙げた解説も行われました。
質疑においては、IPv6への移行が完了した場合、不要になったIPv4アドレスの取り扱いが決まっていない点についての指摘がありました。また、SOHOや中小企業など、個人ユーザーに近いレベルの対応に関する質問には、現状通信キャリアおよびISP側がユーザーに意識させることなくIPv6対応を行っており、何もせずにいつの間にかIPv6対応が完了する状況にあることを説明していました。
その他、現在進行形でユーザー規模が驚異的に拡大しているインドや中国におけるIPv4アドレスの不足状況、IPv6の普及状況についての質問もありました。
パネルディスカッション
最後に「IPv6 20年とこれから」というタイトルで、広島地域IPv6推進委員会の初代の委員長も務められた、広島市立大学の前田香織先生をコーディネーターにパネルディスカッションが行われました。
パネリストは、前述の西村先生と藤崎氏、それにIPv6デプロイメント委員会委員でもあるアラクサラネットワークス株式会社の新善文氏、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸氏の4名です。
パネルの前半では、それぞれがIPv6のこれまでを振り返る形で、西村先生は、広島地域IPv6推進委員会の設立経緯から、これまで行ってきたさまざまな活動などの紹介を、藤崎氏は前述の講演内容の補足などを、新氏からはIETFを中心としたIPv6の標準化と実装に関する経緯を、そして松崎氏はIIJにおけるIPv6の関わりとサービス展開についてお話をしていただきました。あらためて感じるのは、IPv6もその誕生から現在まで、長い時間とさまざまな紆余曲折があり、(IPv4の)インターネットの発展にも大きな影響を与えてきたのだということです。
後半では、IPv6あるいはインターネットの「これから」という観点で議論が行われ、IPv6の普及、技術面でもまだまだ課題がある、といった点の他、やはり経路数、アドレス数的にもIPv4の限界は近づいているため、今後のインターネット接続サービスはIPv4/IPv6という区別なく、両方あわせて「インターネット」として扱う必要があるといった指摘もありました。
IPv6で実現すると言われていた本当のエンドツーエンドの通信が、現状のインターネットの利用環境において是か非かといった議論や、またIoTなど膨大な端末がインターネットあるいはIPネットワークに繋がってくるという局面を迎え、未知の課題が増えていく可能性があるなど、今後もコミュニティが一体となり、連携協調しながら、そして若い人たちをも巻き込みながら、インターネットを発展させていく必要があることを確認し、パネルディスカッションは終了となりました。
最後に
サミット終了後は、会場を移して、広島地域IPv6推進委員会の10周年記念パーティを兼ねた懇親会も開催されました。
設立時から10年間にわたるさまざまな活動の写真がスライドショーで投影される中、設立時から関わってきた方々が代わる代わるご挨拶をされていました。大学や研究機関だけではなく、地元の産業界や行政とも連携しながら、インターネットはもとよりIPv6の普及を進めてきた地域コミュニティというのは、かなり稀有な存在だと思います。しかしそういった足腰の強さがあることで、10年の歴史を重ねてくることができたのだと感じました。
IPv6地域サミットは、どちらかというと情報が十分に行き渡らない地域に対して情報提供することで、その地域における普及や啓発に繋げていくことを目的としていますが、今回の広島では逆に、地域における活動実績という力強いフィードバックをいただいたような印象でした。
(JPNIC IP事業部 佐藤晋)