ニュースレターNo.61/2015年11月発行
第93回IETF報告 全体会議報告
日本が猛暑に見舞われていた2015年7月18日(土)から24日(金)にかけて、チェコ共和国のプラハで、第93回IETFミーティングが開催されました。プラハでのIETFミーティングの開催は2007年、2011年についで3回目ですが、来るたびに街はきれいに、より賑やかになってきています。街並みの美しさと、物価の安さやビールと料理の美味しさにより、チェコには世界各地から観光客が押し寄せています。また、治安もよくなってきています。タクシーも、以前は白タクでルーレットのようにメーターが回ることもあり、ホテルのタクシーサービスを安全のために利用するように言われていましたが、最近は安心して乗れるタクシー会社ができ、ぼったくられることもなく、さらにクレジットカードも利用できるようになっていました。
さて、ここでは7月21日(火)の午前に開催された「Technical Plenary」と、7月23日(木)午前の「IETF Operation and Administration Plenary」の両方の様子について、感想を交えて報告します。今回は、両方ともに日を変えて、午前中に「Technical Plenary」、「Operation and Administration Plenary」を行うスケジュールとなっていました。午前中に開催されたため、どちらのプレナリーも、いつも以上に多くの参加者が出席していました。
Technical Plenary
7月21日の「Technical Plenary」では、IAB (Internet Architecture Board) チェア、IRTF (Internet Research Task Force)チェア、RSE (RFC Series Editor) and RSOC (RFC Series Oversight Committee)チェアの報告と、「Technical Topic: Vehicular Communications」、国際電気通信連合 (ITU; International Telecommunication Union)事務局長からのメッセージ、「Coordinating Attack Response at Internet Scale (CARIS) Workshop」ハイライトの発表がありました。以降に、これらの詳細を報告します。
IABチェアレポート
はじめのIABチェアの報告では、IABの活動内容が紹介されました。IABでは、次のようなことを分掌しています。
- 緊急事態サービス
- IANA評価
- IETF Protocol Registries Oversight Committee (IPROC)
- 国際化
- IPスタック評価
- リエゾン
- 名前とID
- プライバシーとセキュリティ
- RFCエディタ
今回、IANAの運営についての方針や、HTTPSを標準にしていこうといった活動に、各種リエゾンを行ったそうです。
報告に続き、Ted Hardie氏より「IAB appeal response」の発表がありました。IABの取り組みとして、特に名前とID、プライバシーとセキュリティ、IPスタック評価の紹介がありました。
IRTFチェアレポート
次に、IRTFチェアのレポートでは、IETF期間中に開催されるRG (Research Group)のミーティングとして、
- Crypt Forum RG (CFRG)
- Global Access to the Internet for All (GAIA)
- Internet Congestion Control (ICCRG)
- Information-Centric Networking (ICNRG)
- Network Function Virtualization (NFVRG)
- Network Management (NMRG)
- Network Coding (NWCRG)
- Software-Defined Networking (SDNRG)
の、八つのRGがあると報告されました。また、
- Proposed How Ossified is the Protocol Stack (HOPSRG)
- Proposed Human Rights Protocol Considerations (HRPC)
- Update on the Internet Research Task Force at Proposed Thing-to-Thing (T2TRG)
の、三つのProposed RGのミーティングが予定されていると紹介がありました。
IRTFとしては、第90回IETFミーティングから、四つのRGで次の5本のRFCが発行されました。
- SDNRG
RFC 7426“Software-Defined Networking (SDN) : Layers and Architecture Terminology” - ICNRG
RFC 7476“Information-Centric Networking: Baseline Scenarios” - CFRG
RFC 7539“ChaCha20 and Poly1305 for IETF Protocols” - NMRG
RFC 7575“Autonomic Networking: Definitions and Design Goals”
RFC 7576“General Gap Analysis for Autonomic Networking”
また、IRTFがISOCと共同で授賞している「Networking Research Prize」という賞については33本の応募があり、2015年は5本を選び表彰を行うことになっているそうです。今回はこのうちの2本が発表され、Haya Shulman氏とJoao Luis Sobrinho氏の名前が紹介されました。Haya Shulman氏はDNSプライバシーアプローチについての解析で、また、Sobrinho氏はルートアグリゲーションテクニックの設計が評価され、受賞しました。
なお、今後のイベントとして、2015年11月に開催される次回横浜でのIETFの時に、RAIM (Research and Applications of Internet Measurements)が、ACM (Association for Computing Machinery)のSIG (Special Interest Group)であるSIGCOMMと共催で開催されるそうです。
RSE and RSOCチェアレポート
RSE and RSOCチェアレポートでは、 RFCフォーマット、デジタル保存、RFCエディタ、Webサイトのアップデートに取り組んでいると紹介がありました。
今回のテクニカルトピックは、「Vehicular Communications (自動車に関する通信)」でした。ここではC-ITS (Cooperative Intelligent Transport Systems、インフラ協調型高度道路交通システム)、車-車間通信の紹介やISO (International Organization for Standardization)、IEEE (The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)での標準化の取り組みについて紹介があり、IETFで扱っている標準化の分野も関係していると話がありました。質疑応答では、「特別なプロトコルなどがいるのか?」や「セキュリティはどうなっているのか?」また「スケーラビリティは?」という質問が出ていました。
ITU事務局長からのメッセージ
続いて、ITU事務局長からのメッセージとして、Houlin Zhao氏がスピーチをしました。スーツ、ネクタイ姿で登場し、ネクタイを外すパフォーマンスをしてから、セキュリティに関してITUとIETFはこれまで協力して取り組んできたことを話しました。また、IETFおよびW3C (World Wide Web Consortium)、ITU、ETSI (European Telecommunications Standards Institute)とも連携して、ICT分野を進めていこうとアピールしていました。
CARISワークショップ
次に、「Coordinating Attack Response at Internet Scale (CARIS)(インターネット規模での攻撃レスポンスの調整)」ワークショップの、ハイライトの発表がありました。セキュリティ関係は、規則やいろいろな組織が関係していることから、その整理をしたそうです。CSIRT (Computer Security Incident Response Team)、オペレーター、研究者、ベンダーの連携が重要です。その時に誰がどのようなデータを共有するかや、そのプロセスについて話し合われたそうです。
IABオープンマイク
IABオープンマイクは、「時間が押したので、IABの人たちに直接話をしてください」で、終了しました。
IETF Operation and Administration Plenary
7月23日午前の「IETF Operation and Administration Plenary」では、最初にIETFチェアのJari Arkko氏からいくつかの写真を見せながら、挨拶がありました。今回のホストは、ネットワーク機器ベンダーであるBrocade社と、チェコのccTLDレジストリであるCZ.NICと紹介があり、ホストプレゼンテーションへと続きました。
CZ.NICからのホストプレゼンテーションでは、7月21日(火)夜のソーシャルイベントを楽しんでもらえたかということで、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」をバックにした花火を打ち上げた時の写真を見せて、「この音楽にいろいろと歴史的に重要な意味がある」という掴みから始まりました。チェコの素晴らしいところとして、次の三つを挙げました。
- 森があっていろんなキノコが生えるなど、いろいろと美味しいものがある
- ハイキングができる山やお城と美しい場所がある
- 人々のスマイル、そしてエネルギー
特に、「スマイルは人のつながりとなり重要である」とIETFに引っ掛けて、チェコは良いところだと強調していました。
IETFチェアレポート
IETFチェアからのレポートでは7月19日(日)に、元米国国家安全保障局(NSA)局員で、米国政府による情報収集を内部告発して有名となった、エドワード・スノーデン氏のドキュメンタリー映画を見る会があったことが紹介されました。また、今回の参加者は1,358人で、65の国と地域から参加があったそうです。参加者の多い国は米国、ドイツ、中国、フランス、イギリス、日本の順でした。前回からの変化として、IESG (Internet Engineering Steering Group)の再構築が行われました。APP (Applications)エリアとRAI (Real-time Applications and Infrastructure)エリアを統合して、ART (Applications and Real-Time)エリアとしました。ARTエリアでは、新しいRFCフォーマットの検討を続けています。具体的には、非ASCII文字で入れた名前などを、扱えるようにしようとしているそうです。それから、IETFミーティング中におけるスケジュール問題について、いくつかの要望を聞きました。多くのWGがあるので調整は大変です。今回はプレナリーを午前中にしてみたので、フィードバックが欲しいそうです。次回の横浜では、IESG、IABプレナリーは、2.5時間と短くしたいと考えているとのことです。
注目してほしい活動としては、RTG (Routing)エリアでのYANG (Yet Another Next Generation)モジュールでのプレゼンテーション、6TISCH WGでの非公式の相互接続テストなどが紹介されました。それから長年、IETFで活動されていたJames M. Polk氏が亡くなったため、黙祷を捧げました。その後、7月18日〜19日に開催されたハッカソンの紹介がありました。140〜150名がOpendaylight、RIOT、OPNFCなどをテーマに活動しました。ビデオで活動の紹介があり、次は横浜で10月31日と11月1日の2日間開催するそうです。ハッカソンTシャツを着て、会社とか組織を超えて、一緒に作業するのはいいことだと宣伝していました。
IAOCチェアレポート
次に、IAOC (IETF Administrative Oversight Committee)チェアの、Tobias Bondro氏からの報告がありました。2015年4月28日にIAOCチェアが、Chris Griffiths氏からTobias Bondro氏に変更になりました。第93回IETFミーティングの収支は今のところ、参加費を支払った参加者は1,316名(予定よりプラス91名)、参加費収入は88万ドルと、予定より上回っていると報告がありました。前回のダラスの決算報告では、赤字にならずにすんだとのことです。それから、今後のミーティングの開催日程と、決まっている場合は開催地の発表があり、次回の横浜から2017年の第100回(アジア地域を予定)までが発表されました。
IETF Trustチェアレポート
IETF TrustチェアのBenson Schliesser氏の報告では、氏は「初めてだ」とネクタイをして出てきました。はじめに、Tobias Gondrom氏から4月28日に議長を引き継いだことを報告しました。現在、IETFに召喚令状および権利関係の請求はいくつもきているそうです。Trust Legal Provisions (TLP)が作成され、アップデートしています。現在のバージョンは5.0だそうです。
NomComチェアレポート
NomComチェアの報告では、Harald Alvestrand氏から活動紹介がありました。14人のNomComメンバーに起立してもらって紹介しました。現在、IESGおよびIABの更新を、2016年4月に向けて行っているそうです。
IETF Web改造プロジェクト
続いて、IETF Webサイト改造プロジェクトについて、プロジェクトマネージャーのJoe Hildebrand氏から報告がありました。これはwww.ietf.orgを修正するもので、2015年12月に完成をめざしているそうです。デザインを新しくするだけでなく、data tracker APIを作り、便利にするそうです。
Jon Postel Award
Postelアワードの紹介では、まずビデオでJ. Postel氏の生前の様子や業績の紹介がありました。それから、Kathy Brown氏から今回の受賞者として、Dr. Robert Blokzijl氏が発表されました。Blokzijl氏は、欧州でのインターネットに関わり、特にアムステルダムのIX構築やRIPEでの活動が評価されました。Blokzijl氏のスピーチでは、「35年前にコンピュータ同士を繋ぎたいと言ったことを実現しようとコンピュータネットワークを作り始めた。IETFのような団体はまだなく苦労した」などの話をされました。
IETF 94横浜の紹介
最後に、次回開催地である横浜の紹介が、WIDEプロジェクト/慶應義塾大学の加藤朗先生からありました。2002年に横浜で開催された時との違いとして、成田空港だけでなく羽田空港も使えること、みなとみらい線ができて会場のパシフィコ横浜の近くに駅ができていることを紹介しました。また、この時期に関連するイベントがいくつか開催されるとして、
- W3C TPAC (10月26日〜30日)
- The 2015 Internet Measurement Conference (IMC) (10月28日〜30日)
- RAIM (10月31日)
- OpenStack Summit Tokyo (10月27日〜30日)
- IEEE Conference on Standards for Comm. & Networking (10月28日〜30日)
- RAID 2015 (11/2日〜4日)
の紹介がありました。
なお、最後のオープンマイクは昼食時間が迫っているためか、それとも午前中はまだ疲れていないためか、夜に比べて不満を長々という人が少なく、数件のやりとりで終了していました。
次回のIETFミーティングは、2015年11月1日(日)から11月6日(金)にかけて、横浜にて開催されます。
(アラクサラネットワークス株式会社 新善文)