ニュースレターNo.61/2015年11月発行
第94回IETFミーティング横浜開催に向けて 〜第1回IETF勉強会を開催して〜
次回の第94回IETFの開催地は横浜で、6年振り3回目の日本開催となります。普段は海外のため参加のハードルが高めなIETFを、より身近に感じてもらい多くの日本人に参加してもらおうと、横浜開催に向けた勉強会が開催されました。本稿では、第94回IETF横浜会合に関する情報をお伝えすると同時に、勉強会の様子をご紹介します。
はじめに 〜IETFミーティング横浜開催に向けて〜
第94回IETFミーティングの横浜開催が、2015年11月1日(日)〜6日(金)に予定されています。この機会にIETFミーティングに参加してみようと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿では、IETFミーティングやIETFの活動への参加にあたって、どんなことを知っておいたらいいのかを知る足がかりとして、2015年7月1日に開催されたIETF勉強会の内容を中心に「IETF横浜会合に向けた心づもり」について私なりにフォーカスしてみたいと思います。
IETF勉強会は、日本での開催を機にIETFへの国内からの参加を促すことを目的として、ISOC日本支部(ISOC-JP)とJPNICの主催で行われました。
IETFミーティングとは
IETFミーティングは欧米の他、アジアなどさまざまな国で開催されています。日本での開催は、2002年の横浜と2009年の広島に続いて3回目となります。IETFミーティングが日本で開催されると、海外よりも参加のハードルが下がるのは間違いないと思います。
では、開催中にIETFミーティング会場に行って議論の場にいれば良いのかというと、それだけではありません。本質的な「参加」という意味では、議論に参加して一緒に技術課題に取り組んだり、実際に文書の策定作業を行ったり、もう一歩進んだ活動が考えられます。
IETFでは、メーリングリスト(ML)を使って日常的に標準化や技術に関する議論が行われており、その議論の内容を分かっていて初めて議論の輪の中に入れるとも言えます。また、RFC(Request for Comments)という文書の策定を軸にしてさまざまな活動が行われています。上記の「参加」のためには、標準化プロセスなどに関する知識やノウハウをおさえておくことが重要です。
今回の第1回IETF勉強会の趣旨とプログラム
このような「参加」を促すため検討された末に開催されたのが、今回紹介するIETF勉強会です。この勉強会を通じて、IETFをより多くの方に知っていただき、ひいては国際的な技術標準の場で活躍することを目指す、一つのきっかけとして使っていただければ、と本勉強会の企画に参加いたしました。
日 時 | 2015年7月1日(水) 14:00-18:30 |
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会 場 | エヌ・ティ・ティ・ソフトウェア株式会社 本社 東京都港区港南2-16-4 品川グランドセントラルタワー17階 |
主 催 | Internet Society日本支部(ISOC-JP) 般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) |
後 援 | WIDEプロジェクト |
今回の勉強会は、横浜開催の第94回IETFミーティングのローカルホストとなるWIDEプロジェクトから後援をいただきました。またプログラムは、大きく分けて五つのセッションで構成されました。すべてIETFの参加経験のある方の講演です。
チュートリアル:IETFの歩き方
話者: 菅野哲氏(エヌ・ティ・ティ・ソフトウェア株式会社)
根本貴弘氏(青山学院大学)
IETFミーティングに参加されたことのない方でも、IETFの全体像が把握できることを目的として、お二人にお話しいただきました。知らなかったために困りがちなことやリモート参加の方法など、具体的なことについても話がありました。
RFC/Internet-Draftの読み方
話者: 西塚要氏(エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社)
林達也氏(株式会社レピダム)
IETFでは、まずInternet-Draft(I-D)と呼ばれる文書が作成され、これを草案として、標準の策定に向けた議論が進められます。IETFの活動に参加すると、I-Dを読んでWGでコメントするというのが多くの参加者が行っていることだと言えます。いくつかの目的を踏まえた上でのI-Dの読み方について、上述の2名の方にお話しいただきました。
RFC/Internet-Draftの書き方
話者: 坂根昌一氏
藤原和典氏(株式会社日本レジストリサービス)
いよいよある仕組みや技術を標準化しようということになったとき、I-Dを作成することになります。IETFではI-DがRFCになるまでに「コンセンサス」と呼ばれる投票とは異なる合意形成の方法が採られています。このセッションでは、そのために重要なIETF参加者との情報交換やネゴシエーションを含めて解説していただきました。
ここまでのセッションでは、IETF自体に関する解説です。講師の方のお話は、経験談を交えられていて具体的な内容になっており、ノウハウとしてだけではなく話がとても興味深いものでした。
ライトニングトーク
ライトニングトークではIETF参加経験の中で、セキュリティ・エリアなどの特定の分野についての経験談などが集められました。JPNICからは、勉強会の当日に公開した「RFCの日本語訳リンク集」についてお知らせしました。
各セッションの概要と、講演資料はISOC-JPのWebページで閲覧できます。とても内容が充実していますので、IETFへの参加にあたっては、あらかじめご覧になることをお勧めします。
- 第1回IETF勉強会 〜IETFへの参加と横浜への道〜
- http://www.isoc.jp/wiki.cgi?page=PreIETF93
最後にパネルディスカッションについて紹介します。
パネルディスカッション:横浜開催に向けて 〜そこに標準化の必要はあるのか〜
パネルディスカッションは、IETFに参加することの意義や意味を考えるセッションになりました。参加を検討する際の参考に紹介したいと思います。
次の4名の方に登壇いただきました。筆者(木村)はモデレーターを務めました。
- 赤桐壮人氏(楽天株式会社)
- 北口善明氏(金沢大学)
- 土屋師子生氏(シスコシステムズ合同会社)
- 宮川晋氏(エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社)
当日ディスカッションしたテーマと、その様子を簡単にご紹介します。
テーマ1:「そこに標準化の必要はあるのか」
国内で研究開発された技術の標準化を考えるときに、しばしば問われることの一つではないでしょうか。国内の市場、標準化の手間、標準化することのメリットを踏まえると「標準化しない」という判断が行われることもあるはずです。
これに関して「日本語や他の言語への対応は、その言語を知っている人がやらないとできない」「実際の現場を知っている人が(IETFの場に)行くベきではないか」「あるWGでは事業者として運用している人の意見が貴重で評価された」といった意見が出されました。私たちの身の回りにあるインターネットの仕組みが、必ずしも国内で開発されたものではないことを踏まえると、技術がきちんと使えるようになっているのかどうか、私たちの目で丁寧に見ていく必要もあるのかもしれません。
テーマ2:「ガラパゴス y/n?」
独自の進化を遂げているガラパゴス諸島の生物になぞらえて、独自の技術や仕組みが発展している国内の製品の傾向が「ガラパゴス化現象」と呼ばれたことがありました。現在でもこの現象は色濃く残っているのでしょうか。技術開発の現場は、いまでも国際的な技術の標準化とかけ離れているのでしょうか。それとも、もうガラパゴス状態ではなくなっているのでしょうか。
会場では、ガラパゴス化現象は現在でも存在するという声と同時に、これを良い方向に捉える意見が挙げられました。「日本のブロードバンドの回線の安さや品質要求の厳しさは、いい意味でのガラパゴス」「結局標準化されたものが使われることになるので、ガラパゴスであっても、めげることなく活動することが大事」「研究について論文を日本語だけで書くと広まっていかない。IETFのような場で(英語で書いたものを)外に出していくことも重要」といった意見が出されました。ガラパゴスの状態かどうかが問題なのではなく、国際的に参照される形にするための努力をしているかどうか、ということなのかもしれません。
テーマ3:「横浜開催について」
最後にパネリストの方々から、今後IETFへの参加を考えている方へのメッセージをいただきました。まず横浜開催では参加費用を抑えられると共に日本語でチュートリアルが行われる、というコメントがありました。
本勉強会では、標準化にこぎつけるには、IETFの参加者と行動して議論して味方になってくれる人物を見つけることが重要だ、というお話が何名かの講師の方からされていました。これを受けて、横浜開催の時には、IETF参加者に観光案内をしたり、一緒に食事をしたりすることで、人としての付き合いができ、IETFの中でも議論しやすくなる、その良い機会にしましょうというメッセージをいただきました。
2015年11月の横浜ミーティングの前に、今月7月に第93回IETFミーティングがチェコのプラハで開催されます。IETFミーティングの一連の流れを把握する意味で、プラハ開催のWebページもご覧になることをお勧めします。
- 93rd IETF Prague
- http://www.ietf.org/meeting/93/
JPNICでは、RFCの日本語訳を集めたリンク集のページを拡充し始めました。RFCは原文を読むのが正確さを考えると一番ですが、概略を把握するには日本語に訳されているものがあると便利です。いろいろなWebページにあったRFCをより把握しやすくすべく、活動を完了したWGであってもRFCを作成したWGごとに分類しています。
- RFCの日本語訳リンク集
- https://www.nic.ad.jp/ja/tech/rfc-jp-links.html
※ 一部の日本語訳は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の許諾を得てご提供いただいたものです。著作権は日本語訳の表記に従います。
日本語訳を作成されている皆さまにこの場を借りて感謝します。RFCの日本語訳を探す際には、本リンク集をご活用ください。
(JPNIC 技術部/インターネット推進部 木村泰司)