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ニュースレターNo.61/2015年11月発行

無線LANの基礎と最新技術動向

今回のインターネット10分講座では、スマートデバイスの普及に伴い無くてはならない技術となった無線LANについて、基礎的な解説をするとともに、最近の技術動向についてご紹介します。

無線LAN、Wi-Fiとは

無線LANは、ケーブル無しでネットワークに接続する技術です。最も普及しているのはIEEE 802.11シリーズで、Wi-Fi(ワイファイ)と呼ばれることもあります。スマートデバイスの利用者にとっては、「インターネットへの接続」の代名詞のように扱われています。もちろん、IEEE 802.11シリーズ以外にも、広い意味で無線LANと呼べる技術は存在しますが、本稿では「無線LAN=IEEE 802.11」という前提で、ここからの話を進めます。

初期の無線LAN機器は、異なるベンダー間での相互接続において、しばしば問題が発生していました。1999年に無線LAN機器の相互接続性を高めるための業界団体WECA (Wireless Ethernet Compatibility Alliance、現在のWi-Fi Alliance)が設立され、相互接続性試験の策定を行いました。相互接続性試験にパスした無線LAN機器には、Wi-Fiロゴの使用が許可されます。現在では、無線LAN機器として一般向けに販売されているもののほとんどにWi-Fiロゴが付いており、利用者の側面に限れば、無線LANとWi-Fiは同じ意味であると考えて差し支えありません。

一口に無線LANと言っても、電波の周波数帯や変調方式などの物理層から、フレーム構造や接続の手順、認証や暗号などの比較的高いレイヤにまで、多岐にわたります。電波を利用する以上、セキュリティは切っても切り離せないこと、さらに規格自体が下位互換性を保って進化していることもあり、複雑な規格になってしまっています(図1)。

図1:無線LANに関する規格の推移

また、他の無線通信技術と比較した場合の特徴として、免許不要で利用可能であることが挙げられます。日本国内においては、技術適合証明(技適)マークの付いている機器であれば、無線局の免許を受けずに利用できます。一般家庭においても、誰でも自由に無線設備を設置できるのは素晴らしいことで、もし無線LANが免許不要でなければ、決してここまで普及することは無かったでしょう。一方で、免許不要とはすなわち電波状況がしっかり管理されない、混信や妨害が起こりやすいというデメリットもあります。

無線LANが使用している電波

無線LANで使われている帯域は、2.4GHz帯、5GHz帯の二つです。

2.4GHz帯は、無線LANが一気にブレイクしたIEEE 802.11bで利用されており、その上位互換規格であるIEEE 802.11gでも利用されています。そのため、ほとんどの機器は2.4GHz帯に対応しています。この周波数帯はISM (Industry-Science-Medical)バンドと呼ばれ、Bluetoothやコードレス電話、電子レンジなど、さまざまな機器が同じ周波数帯に同居しています。別規格の通信同士では、お互いに別規格の通信を受信して解釈できないため、存在を検知できないことがあり、電波が干渉してしまうことがあります(電子レンジは他の通信を受信することすらしません)。

無線LAN用は、チャネルが1〜13までありますが(図2)、一つの通信が約4チャネル強を占有するため、干渉無しで通信できるのは実質三つまでとなります。一般的には、チャネル1、6、11が利用されることが多いようですが、チャネル選択を自動設定にすると中途半端なチャネルが選択されてしまい、複数の通信への干渉を引き起こします。

図2:2.4GHz帯のチャネルと使用帯域

5GHz帯は無線LAN以外の先客が少なかったため、干渉が少なく安定した通信が望めます。帯域も2.4GHz帯と比べてかなり広く、大幅な高速化が期待できます(図3)。

図3:5GHz帯のチャネルと使用帯域

少ないながらもいる先客とは、各種レーダーです。5GHz帯の一部はレーダーと共用しており、無線LANはレーダーを妨害してはいけないことになっています。そのため国によっては、無線LAN機器はレーダーの電波を検出すると、それ以外の周波数に即座に切り替えるDFS (Dynamic Frequency Selection)と、送信電力の調整を行うTPC (Transmit Power Control)の実装が要求されています。一方、ISMバンドである2.4GHz帯は、その利用目的から「他の設備によって生じる有害な混信を容認しなければならない」とされていますので、DFSのような仕組みはありません。

無線LAN機器には、5GHz帯に対応していないものもあります。特に、モバイル機器ではサイズや消費電力、コストの課題もあり、低価格帯の製品では対応していないものが多いようです。ただ、昨今の高速な無線LAN規格は5GHz帯を利用しているため、普及価格帯以上の製品では、2.4GHz/5GHz帯両方に対応する機器が増えています。

セキュリティ

無線LANは電波を使っているため、電波そのものを受信することは第三者にとっても比較的容易です。それゆえ、セキュリティの課題は常につきまといます。

現在利用されている主なセキュリティプロトコルはWEP、WPA (TKIP)、WPA2 (CCMP)が挙げられます。WEP (Wired Equivalent Privacy)は最も初期に利用されていたものでしたが、2001年頃から問題が指摘されはじめ、現実的な時間で鍵を解読する手法と、そのツールが発表されました。IEEEは、WEPに代わる新しいセキュリティ機能であるIEEE 802.11iを策定を開始したものの、完成までの時間が長くかかっていました。2002年、Wi-Fi Allianceは完成までの一時しのぎとして、急きょIEEE 802.11iドラフトを元に、WPA (Wi-Fi Protected Access)を策定します。WPAの暗号化形式はTKIP (Temporal Key Integrity Protocol)で、WEPで利用していた既存のハードウェアをそのままに、ソフトウェアの更新のみで対応可能なものもありました。

IEEE 802.11iは2004年に完成し、Wi-Fi Allianceはこれの実装必須部分をWPA2として策定しました。現在市販されているWi-Fiロゴの付いている機器は、WPA2に必ず対応しています。

高密度な無線LAN

セキュリティについてはWPA2で一応の対応が取られましたが、昨今問題になっているのは無線LANの高密度化です。

スマートフォンやタブレット、有線LANポートの無いラップトップPCなどの急激な普及により、オフィスやキャンパスでは高密度な無線LANへの要求が高まっています。遠くまで強力に電波が届けばよかった時代は過ぎ去り、狭い空間に数多く存在する端末の接続を、安定してさばけるかが課題となってきています。新しい無線LANの技術は続々と開発されていきますが、根本的な無線通信の性質はあまり変わっていません。

イーサネットと無線LANの違い
イーサネット 無線LAN
全二重 できる できない
スイッチング できる できない
伝送媒体 線(品質が予測できる) 空間そのもの(品質が予測しづらい)
伝搬条件 たいていは皆同じ 端末ごとにばらばら
チャネル数 線の本数を増やせばほぼ無限 法律で決められた数〜数十チャネル
端末同士の存在検知 全端末同士が見える 電波状況によって検知できない場合あり

無線LANの通信では、一つのチャネルを時間で分割し、複数の機器で共有しています。あるタイミングで送信できるのは1台のみの、半二重通信です。

イーサネットにおいては、ブロードキャスト・ストームと呼ばれる、ブロードキャスト・フレームが帯域を使い切ってしまい、通信が正常にできなくなる現象があります。無線LANの場合、ユニキャスト・フレームでも電波が届く範囲内では、ブロードキャストと同じように無線帯域を消費します。無線LANは半二重通信ですので、他の機器が電波を出している時は、自分が応答することもできません。無線帯域の使用率(Channel Utilization)が高くなり過ぎると、自分の送信をする隙がなくなり、制御フレームのやりとりもままならない、ストームに似たような状況になります。これが、無線LANのキャパシティ上限となります。高密度な無線LAN環境では、無線帯域の使用率をできるだけ下げる、電波で埋め尽くされないようにする必要があります。

電波は、距離が離れれば弱くなる性質があります。弱い電波では通信に支障がありますが、自分と関係無い通信の電波が弱い分にはむしろ好都合です。弱い電波ならば無線帯域の利用とみなす必要がなくなり、単にノイズとして考えられます。よって、狭い空間に多くの端末が存在する環境では、電波を遠くまで飛ばしてしまうと無線帯域の使用率が下げられなくなるので、電波が必要以上に遠くまで飛ばないように設計し、その空間を小さい単位で区切って設計します。

次の図4は、同じ部屋をそれぞれ3分割、8分割にする案です。一つの円がコリジョンドメインのようなものにあたります。一つの円ごとに30台の端末が収容できると仮定すれば、トータルでの収容数はそれぞれ90台、240台と想定されます。

図4:複数チャネルを用いての空間の分割利用

一般家庭での無線LANでは、電波はできるだけ遠くまで強力に届いた方が嬉しいでしょう。一方で、高密度な無線LAN環境において強力過ぎる電波は干渉を引き起こすため、適切に抑えなければなりません。しかし、電波を出している機器すべてが、必ずしも自らの管理下にあるとは限りません。都市部では、外部からやってくる無線LANの電波によって、無線帯域の使用率が高くなってしまっていることがあります。そのような環境では、問題を完全に解決するのが難しいこともあるかもしれません。

高速化技術

高密度化は最近の要求ですが、無線LAN開発当初から現在に至るまで追求されているのが高速化です。高速化の手法としては、次のような技術があります。

MIMO

MIMO (Multi-Input Multi-Output)は、IEEE 802.11n以降で利用される高速化技術です。

複数のアンテナと送受信機を使用して同一周波数で同時送信し、スループットや安定性を向上させる技術です。先ほど、一つのチャネルで送信できるのは1台の機器のみと述べたように、単純に複数の送信機で同時に送信してしまうと混ざって衝突し、信号が壊れてしまいます。

MIMOでは、複数のアンテナごとに存在する伝送路の特性が既知で、かつ十分に異なるのであれば、複数の送信機から同時送信された信号を受信後に計算で分離できることを利用して、同一周波数での複数ストリームの同時転送を実現しています。同一周波数で同一時間での多重化ですから、帯域の利用効率は非常に良好です。他のメリットとしては、複数の伝送路を有効に活用することで、反射波により通信に悪影響が出るという、マルチパスの問題も同時に解決できることが挙げられます。デメリットは、アンテナや回路が大きく複雑になることです。複数のアンテナ同士はあまり近づけて配置できないこと、混ざった信号を分離するための計算量も小さくないことから、小型のモバイル機器にとっては厳しい課題となります。

ビーム フォーミング

無線LANの電波は、一般的には四方八方へ散らばって飛んでいきます。この電波をある特定の方向へ絞り、ビームのように集中させる技術です。電波強度を高められるため通信品質が向上し、不要な方向へは電波を飛ばさずに済むため、電波干渉を低減できます。テレビ受信用のアンテナが、送信所(東京都近辺ではスカイツリー)の方向に向いているのと同じようなものです。

しかし、テレビの送信所は通常1箇所であり、移動することもめったにありませんが、無線LAN端末は移動する上に1台とは限りません。テレビのように、指向性アンテナを向けておくことは現実的ではないのです。そこでビームフォーミングでは、複数のアンテナから送信される電波の位相を送信前に調整することで、電波が混ぜられた空間に強いポイントと弱いポイントを発生させます。アンテナ自体には指向性を持たせず、純粋に送信前の計算のみで指向性が作れるため、高速に指向性を切り替えることが可能です。

ビームフォーミングは、IEEE 802.11acでは標準でサポートされています。IEEE 802.11nでも規定されていたものの、多くのオプションがあったため実装が進まず、ほとんど利用されていませんでした。

MU-MIMO

MU-MIMO (Multi User MIMO)は、同時に一対多の通信を行う技術で、IEEE 802.11ac Wave2で導入されました。

IEEE 802.11acのMIMOは、最大8ストリームまで利用できます。アクセスポイントなど比較的サイズの制限が厳しくない機器では、8本ものアンテナを実装できるかもしれませんが、小型のモバイル機器では多数のアンテナを実装することが難しく、そのストリーム数を生かしきれません。MU-MIMOは、この空いたストリームを使って、他の端末へ送信をしてしまおうというものです。ビームフォーミングを併用し、目的の端末以外には電波が到達しないような指向性を持たせて、干渉を防いでいます。従来の無線LANセルがコリジョンドメインだとすれば、MU-MIMOは空間をスイッチングしている状態に近いと言えます。

チャネルボンディング

チャネルボンディングとは、複数のチャネルを束ねて一つの通信に使うことで、スループットを向上させる技術です。IEEE 802.11a/gでは、一つの通信に約20MHz幅を使用していましたが、IEEEE 802.11nではこれを二つ束ねて40MHz幅で利用できるようになり、IEEE 802.11acではさらに80MHz、160MHz幅も利用できるようになりました(図5)。束ねた数だけスループットが向上しますが、多くのチャネルを占有することになります。帯域幅が広がると干渉も増えるため、かえって安定しなくなることがあります。5GHz帯においては、レーダーの電波を検出しやすくなり、利用可能なチャネルが著しく減少します。一部の製品では、電波状況に応じて動的に帯域幅を調整する機能を持っているものもあります。

図5:チャネルボンディングのイメージ

一方、2.4GHz帯は全体でも100MHz弱しか無く、もとより干渉も多いため、帯域幅を広げることが困難です。ついにIEEE 802.11acでは、2.4GHz帯がサポートされなくなりました。

おわりに

2007年にiPhoneが発表されて以来、スマートデバイスの爆発的普及によってインターネットの位置付けが変化してからというもの、無線LANへの要求はとどまるところを知りません。無線LANは免許不要で設置できてしまうため、環境によっては干渉を抑えることが難しいこともありますが、それらの問題を改善するための研究も進められています。無線LANでも近隣のアクセスポイントや端末同士が互いに協調してリソースを制御するような、そんな時代が来るかもしれません。

(株式会社DMM.comラボ 熊谷暁)

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