ニュースレターNo.62/2016年3月発行
ICANNダブリン会議報告
2015年10月18日(日)から22日(木)にアイルランドのダブリンで第54回ICANN会議が開催され、 本会議の報告会を11月18日(水)にJPNICと一般財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて開催しました。 本稿では、ダブリン会議の概要を中心に、 報告会の様子も併せてご紹介します。
2015年10月18日(日)から22日(木)にかけて、 アイルランド・ダブリンにて第54回ICANN会議が開催されました。 今回のICANN会議のメインとなった話題は、 引き続きIANA監督権限移管とICANNの説明責任強化でした。 事前の予想とは異なり、 米国商務省電気通信情報局(NTIA)への提案提出準備は整わず、 もう少し議論が続くことになりました。 これらを中心に、ダブリン会議を振り返ります。
IANA監督権限移管とICANNの説明責任に関する、会期前の議論の経過
2015年6月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された第53回ICANN会議でも、 IANA監督権限移管とICANNの説明責任強化は活発に議論が行われ、 その結果としてNTIAに提出される案をまとめる最終段階の意見募集が、 同7月末から9月初旬にかけてそれぞれ行われました。 この意見募集の結果、IANA監督権限移管の方は大きな混乱もなく、 意見がまとまりました。 一方、ICANNの説明責任強化に関しては、 まとまろうとしていた最終提案に対してICANN理事会が異議を唱えたことにより、 ダブリン会議の場で意見収束を図る必要が出ていました。
7月の意見募集の段階に至るまで、 CCWG※1の検討が最も難しかったのが、 理事会を優越する権限を持つことになる、 新たなコミュニティ代表体の法的地位でした。 CCWGでは、権限の定義に際して、 理事会や法人としてのICANNが不適切な判断や業務遂行をした場合の是正を、 ICANNが管轄されるカリフォルニア州の州法に基づいて実施できることが重要と考えており、 これが可能となる法的地位をどのように実現できるかに関して、 検討に時間を要したのです。 最終的に、 意見募集に掛けられた提案では「Sole Member」モデル(代表体が単一のICANNの「会員」として権限を行使するもの)というものが採用されました。 しかしこれに対して、意見募集後の10月6日、 このモデルに類するものの前例がなくICANNにとっても大きな構成変更であること、 代表体の構成などが不透明であることなどを理由として、 ICANN理事会がこれに異論を唱えました※2。
これを機に、 本件に関与しているさまざまなステークホルダーのコミュニティでは、 事態の打開に向けた検討や他との折衝を進めましたが、 いずれにしてもダブリン会議はNTIAに提出する提案を最終確認する場ではなくなり、 今一度の意見調整の場となりました。
ダブリン会議における両提案の議論
ダブリン会議の会期中、 IANA監督権限移管提案を取りまとめるICG (IANA Stewardship Transition Coordination Group)と、 ICANNの説明責任強化に関する提案を取りまとめるCCWGは、 それぞれ数回のワーキングセッションを持つとともに、 コミュニティとの対話のための、 エンゲージメントセッションを持ちました。
まずICGの方は、 意見募集を終えて提案に関する議論は収束しているため、 最終的な文言の詰めや、実装に向けた準備に検討が移っていました。 2015年10月29日に最終的な提案が完成し、 公開されました※3。 CCWGの方は、合同チェアが、 さまざまなステークホルダーの会議に積極的に乗り込み、 コミュニティの意見を聴取しました。 このプロセスを通じて、いくつか取り得るモデルの中で、 「Sole Designator」モデル(代表体が単一の「役員指名者」としての権限を行使するもの)が、 理事会の懸念に対応し、 なおかつコミュニティの支持も得られるものだという考えをまとめました。
この法的地位の問題以外に議論が盛んだったものとしては、 「ストレステスト第18項」に関する議論が挙げられます。 ストレステストとは、 ICANNにおける危機的な状況をいくつか仮定した上で、 その状況下において説明責任機構が機能するかを検証するために、 提案に含められるものです。 現在、 理事会に対してはGAC助言を最大限尊重するように求められていますが、 第18項では移管後にGAC内で助言を採択するためのコンセンサス要件が今よりも弱められ、 適切ではない内容の助言がGAC内で採択されて理事会に提出される状況を仮定しています。 これに対してCCWGは、 付属定款にGACが助言を採択するための要件を規定する方向で改訂条項を提案していたのですが、 GACは「そのような要件は付属定款で規定するのではなく、 GAC自身の判断に委ねられるべき」などとしてこれに難色を示し、 打開策がないまま会期を終了しました。
これらに関しては議論が継続され、 最終提案に向けた詰めが行われています。
また、この事態によって、 NTIAに対する意見提出までのスケジュールが後ろにずれ込むことになりました。 8月の意見募集で公開された提案ドラフトから大きな変更がある場合、 新たな意見募集を行わざるを得なくなり、 さらに提出が遅れることになります。 本稿を執筆している2015年11月時点では、 CCWGは意見募集を行わない程度の変更を前提に2016年1月の提案最終化をめざして作業を進めています。 NTIAは、提案提出の遅れは歓迎しないものの、 2016年1月までの提出であれば、対応可能という見解を示しています。 いずれにしても、ぎりぎりのスケジュールとなっており、 新たな問題の発生によってさらに提出が遅れる可能性もあるため、 今後も注視が必要です。
本稿執筆時点でCCWGが示している今後のスケジュールは、 次のURLでご覧になれます。
- CCWG-Accountability Working Session III - 22 Oct 2015
6ページ“Potential Timeline” - https://community.icann.org/pages/viewpage.action?pageId=56143880&preview=/56143880/56144212/CCWG-Accountability%20Working%20Session%20III%20-%2022%20Oct.pdf
その他の議論
このように、今回のICANNダブリン会議は、 IANA監督権限移管とICANNの説明責任機構強化の議論で盛り上がっていましたが、 それ以外の検討も粛々と進んでいます。 gTLD関連では、 新gTLDプログラムの次のラウンドに向けた暫定課題報告書が示され、 次のラウンドのポリシープロセスが始まろうとしています。 また、個別の課題として、 プロキシ・プライバシーサービス(レジストリデータベースへの代理登録、あるいは個人情報の非開示を行うもの)の認定、 TLD Universal Acceptance※4などのセッションが持たれました。
また、次のラウンドを意識して進められている、 TLD空間における国際化ドメイン名(IDN)文字列生成ルール(Label Generation Rules, LGR)の検討も行われています。 例えば、日本では「国」と「國」など、 見た目は異なる文字でありながら意味的には同じものとして扱われる「異体字」と呼ばれる文字がありますが、 これらは同じ文字を使っていても、 各国・地域ごとに扱いに差があります。 このままではTLDにIDNを利用する際に支障が出るため、 文字列生成に関するルールを作ろうとしています。 今回のダブリン会合では、漢字圏のLGRに関する検討として、 漢字を共有する中国語、韓国語、 日本語生成パネルによるLGR制定に向けた調整が、 引き続き行われました。
次回のICANN会議
次回ICANN会議は、2016年3月5日(土)から10日(木)にかけて、 モロッコのマラケシュで開催されます。
(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀)
- ※1 CCWG (Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability)
- ICANNの説明責任強化に関する提案検討を行う、複数のコミュニティにわたるWorkingグループです
- ※2 [CCWG-ACCT] Message from ICANN Board re Designator Model
- ICANN理事会議長 Steve Crockerの、CCWGメーリングリストへの投稿
http://mm.icann.org/pipermail/accountability-cross-community/2015-October/006233.html - ※3 ICG Completes its Work and Awaits Conclusion of CCWG on Enhancing ICANN Accountability
- https://www.ianacg.org/icg-completes-its-work-and-awaits-conclusion-of-ccwg-on-enhancing-icann-accountability/
- ※4 TLD Universal Acceptance
- 新gTLDプログラムにより大量に増えるIDNを含む見慣れない多様なドメイン名が、あまねく問題なく利用できる状況を作り出すために、利用者やソフトウェアベンダ、サービス事業者に働きかけを行う取り組みです