ニュースレターNo.67/2017年11月発行
JPNIC会員企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は、1987年に創業され創立30周年を迎えた、 株式会社KDDIウェブコミュニケーションズを訪問しました。 同社が提供する「CPI」は、 1997年にサービス提供を開始したレンタルサーバ分野では老舗と言えるブランドですが、 それにとどまらずWebサービスなど魅力的な製品を、数多く提供しています。
それぞれインターネットという共通点はあるものの、 なぜこういったさまざまなサービスを提供するに至ったのか。 その背景には「ITを家電のように手軽に扱えるものにしたい」という、 創業以来の想いがありました。
当日は南青山のオシャレなオフィスを訪問し、 お客様にも社員にも優しくありたいという目的のために、 ITやインターネットを便利に活用していく、 同社のさまざまな取り組みをうかがいました。
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ | |
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住所: | 〒107-0062 東京都港区南青山2-26-1 南青山ブライトスクエア10階 |
設立: | 1987年2月25日(ホスティング事業創業1997年8月) |
資本金: | 6,500万円 |
代表者: | 代表取締役社長 山崎 雅人 |
従業員数: | 175名(2017年8月末時点) |
URL: | https://www.kddi-webcommunications.co.jp/ |
事業内容: |
https://www.kddi-webcommunications.co.jp/corporate/profile/
■クラウド・ホスティング事業 ■ウェブサービス事業 ■プラットフォーム事業 |
さまざまなサービスは、お客様の生活を便利で豊かにするために
―まずは、貴社の成り立ちや主な事業内容について教えてください。
山崎: 当社はIT業界では老舗企業で、今年で創業30周年を迎えます。 レンタルサーバー事業の開始からもちょうど20年なので、 それぞれ節目の年になります。 1987年2月に創業したのですが、そこから10年ぐらいは紆余曲折があり、 1997年8月に社名を株式会社CPIに変えて、 本格的にホスティング事業に取り組むことになりました。 その後は2006年7月に社名をServision株式会社に変更し、 2007年10月にはKDDIの連結子会社入り、2008年2月に現在の社名になりました。
事業の柱は大きく三つあります。 まず、主力となるクラウドホスティング事業の柱は、 1997年から提供しているレンタルサーバの「CPI」です。 事業用途での利用が大半で、単にWebサーバ、 メールサーバという扱いではなく、 お客様にとっては事業資産であり大事なコミュニケーションツールですので、 お客様のビジネスを止めないことを使命に日々取り組んでいます。
二つ目のWebサービス事業には、海外サービスの日本展開と、 自社開発のサービスがあります。 海外サービスで最初に展開したのは「Jimdo」です。 HTMLやCSSといった知識なしで誰でも無料で簡単に綺麗なWebページが作れ、 現在では140万ユーザーとたくさんのお客様にご利用いただいています。 次に、開始したのが「Twilio」で、 アプリケーションに電話やビデオなどの機能を組み込むためのAPIです。 このAPIを使えば、 最小限の開発でさまざまなコミュニケーションの手段を構築できます。 弊社の受付端末でもこれを利用しています。 また、今年5月から開始したデザイン作成サービスの「Canva」は、 専門スキルが不要でポスターや名刺などのデザインが無料で作れるというものです。 自社開発のサービスとしては、 ビジュアルブログサービスの「g.o.a.t」があります。 「g.o.a.t」はビジュアルや書き心地を重視したブログです。
三つ目のプラットフォーム事業は、 料金システムの構築や運用業務が大変というお客様向けに、 当社が代わりに仕組みを提供するサービスを行っています。 どちらかと言うと、企業の裏方のサービスなのであまり表には出ていませんが、 ISPやケーブルテレビ様をはじめ、KDDIグループ会社などでも使われています。
―海外サービスの日本展開と自社開発サービスが混在していますが、 何か理由があるのでしょうか?
山崎: そもそもきっかけとしては、 創業者がITを家電のように手軽に使える世界を作りたいというのがあったんですよね。 説明書を見なくても簡単に操作でき、買ってきたらすぐ使える。 そういうのをめざしていたんです。 その流れで、中小企業の方などがオフィスで困っているいろいろなことを助けたい、 ビジネス回りをサポートするサービスを提供していこうと事業を増やしてきて、 現在に至っています。 その目的のためには、どこ製というのはそれほど重要ではありません。
例えば「g.o.a.t」は自社開発ですが、「Jimdo」はドイツ、「Twilio」は米国、 「Canva」はオーストラリア生まれです。 自社開発にこだわらず、 お客様に便利なものをタイミングよく提供することを優先しているので、 良いサービスが見つかれば海外のものでも柔軟に扱うようにしています。
―確かに、貴社のサービスはどれも使いやすそうですよね。 「g.o.a.t」のサンプルはお洒落でびっくりしました。 誰でも簡単にこんなブログが作れるんでしょうか?
山崎: これは社内での新規事業コンテストがきっかけで生まれた副社長肝いりのサービスなんですが、 とにかく書き続けたくなることにこだわっています。 使い勝手はとても良いですよ。
そもそも、「g.o.a.t」ではビジュアルを前面に押し出していますが、 これは書き上げたものが綺麗なのは当然として、 ブログを書きたいけれども最初の一歩が踏み出せない人に、 その一歩を踏み出してもらうためでもあるんです。 「思わず書きたくなる」「すらすらと書けそうな気がする」というのをめざして作りました。 特にサービスを開始した時期は、「保育園落ちた」など、 インターネット上にすさんだ話題が多かった頃です。 そういう重たいことだけではなく、 もっと気軽に楽しいことや面白いと思ったものを発信して良いと思ったんですよね。 世の中に清濁がある中で、もっと清の部分を協調したいと。 このオシャレなビジュアルなら、 ネガティブなものは書き出し辛いだろうという意図もあったんです。
―それはすごく素敵なコンセプトですよね。 そう言えば、貴社では最近また新しいサービスを開始されたと聞きましたが。
山崎: この度「キッズコレッチオ」というサービスを開始しました。 これはお子さんが描いた絵を、ぬいぐるみやデニムバッグ、 アートパネルなどに形を変えて残しておけるサービスです。 子供が描いた絵は親にとって大事な思い出なので、 なかなか捨てられませんよね。 でも、しまっておくと間違えて捨ててしまったり、 壁に貼っておくとぼろぼろになったりしてしまいます。 お子さんが描いた絵のデータを送ってもらえれば、 クリエイターがアレンジを加えて一つずつ手作りで作品にしてくれるんですよ。
職場の制限が、やりたい仕事を妨げない環境作りをめざして
―貴社は2016年に本社を青山に移転されたそうですが、 本当にお洒落なオフィスですよね。
山崎: ありがとうございます。 窓からの景色は青山墓地ビューですけれどね(笑)。 今、立地をお褒めいただきましたがそれだけではなく、 社員が働きやすいようにあらゆるところに工夫を凝らしています。 その一方で、リモートワークの環境作りにも真剣に取り組んでいます。 リモートワーク自体は他社でも取り組んでいますが、 オフィス自体の魅力も高めることで「ここにいなくても普通に仕事ができる。 でも、オフィスが魅力的だからここにも来たい」と思ってもらえるように頑張っています。 どちらか極端に振れるのはよくありません。 オフィスでみんなといろいろ話をして業務を進めるのと、リモートで1人でやるのと、 成果を上げるという目的に応じて両方を使い分けられる社員になって欲しいと思い、 どちらも選べるように選択肢を用意しています。 ベンチャーがこういう取り組みをしても、 「ベンチャーだからできるんだ」となってしまうかもしれませんが、 KDDIというちょっとまじめそうな会社でもできるんだと知ってもらい、 「あそこができるなら、うちも」と、後に続く会社が増えるよう頑張りたいと思っています。
―リモートワークと言えば、貴社には完全リモートの社員もいらっしゃると聞きましたが?
西村: はい、4人がフル在宅勤務で、北海道、群馬、広島、宮古島で働いています。 実は、自分も元々大阪採用だったんですよ。 自分で大阪にオフィスを手配して、ここにいる森川が設営にきました。 こういった地域採用からスタートする社員もいれば、 東京勤務から事情で他の地域に移りリモート勤務になる社員もいます。
山崎: そもそも、当社では「どこで働く」という前提はありません。 会社や勤務場所が前提ではなく、 「このサービス」や「この仕事」をぜひやってみたいという社員を採用しています。 それがすべてで、 たまたまこのオフィスに来られない場所にいる社員がリモート勤務になっています。 例えば、ここにいる西村が「この人と一緒に働きたい」と思えば採用で、 居住地は二の次、三の次です。 逆に言えば、「採用してしまったけど、東京に来られないらしい。どうしよう?」 「じゃあ大急ぎで環境を作らないと!」という部分もありました(笑)。 これぐらいの規模だからできるのかもしれませんが、そういった考えで進めています。
―貴社はなんと沖縄の宮古島!にもオフィスを開設されているのですね。
山崎: これも同じです。 宮古島の人を採用したのでオフィスを作らないと、と。 また、宮古島市の方々と、島で働くことの可能性や重要性を話してきた中で、 宮古島オフィスを開設しました。 特に、弊社がオフィスを出すことに障害もなかったですし、 政策の後押しにもなればと思い、 ワークショップなどを通じてITに触れる機会を増やすようなことを積極的に行っています。 宮古島オフィスをせっかく作ったので、合宿などにも使っています。 本社の社員でも、宮古島に行って普段はできないことをして、 何か成果を持って帰ってきてくれればOKです。 環境を変えると新しいひらめきがあるかもしれません。 ただ、「移住したい!」という社員にはダメと言っています。 動機が不純ですから(笑)。
そもそも、この業界は人材の流動性が高いですよね。 定着させることが絶対に良いわけではないですが、 やりたいことがあるのに場所の問題で働けないのは残念なことです。 それ以外にも、子育てや介護といった問題や、 入社後に大学で勉強したくなったなどの理由で、 キャリアを途中で諦める人もいます。 そういう人が働き続けられる仕組みを作れば、 長い目で見れば会社として帳尻は合うだろうという考えで、 いろいろな制度を整備しています。
ITを活用した地方創生への取り組み
―沖縄と言えば、 貴社は「Cloud ON OKINAWA」という地方創生プロジェクトに参画されていますよね。 どういうきっかけだったのでしょうか?
山崎: 元々、当社は営業職を多く抱えてはいません。 説明しなくても使っていただけるサービスを提供したいという考えからです。 とはいえ、知ってもらえないことには使い始めていただけませんので、 全国でセミナーを開催し、サービスの活用方法や、 使うとどうビジネスが伸びるかなどを紹介しています。 最初は自分たちで企画することが多かったのですが、 地域の方とも繋がりができて、自治体の方から呼ばれる機会も増えました。 地域の課題についてお話を聞くことも多く、 もちろん我々の手が届かない分野もあるのですが、 可能なことはお手伝いするケースもあります。 そういった中で、我々のめざす中小企業の課題解決への取り組みが、 沖縄県の課題解決にもなるということでスタートしました。
沖縄は観光が主要な産業ですが、クレジットカードの普及率が低かったり、 Webページを持たない企業が多くPRが弱かったりするという、 内需拡大をめざし海外からの観光客も呼び込むという点では、 まだまだ改善の余地がありました。 県庁でもIT化を進めていますが、なかなか一筋縄にはいきません。 そこで、そういった分野に強いIT企業にも声をかけて、 9社で普及のお手伝いをすることになりました。 それが「Cloud ON OKINAWA」です。 まず沖縄でしっかりと結果を出して、 他の市町村でもこういった活動を広げていければと考えています。
―具体的には、どういったことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
山崎: さまざまありますが、例えばいま手掛けているのは、 沖縄のパッションフルーツ農家さんのIT化です。 パッションフルーツは流通手段が従来の卸売販売しかなく、 直接農家から買うという方法がありませんでした。 パッションフルーツが好きな人でも、 市場流通品を買う以外の方法がなかったのです。 そこで、Webサイト・ECサイトを活用し、 収穫したパッションフルーツを現地以外の人に知って買ってもらうための、 仕組みを作るといった取り組みのお手伝いをしています。
東京では高価で手に入りづらいですが、 現地には安くて美味しいものがあります。 ただ、現地と需要地を結びつける仕組みがないために、 うまく売れていないという話がありました。 そこで、作物の品質を均質にするためにIoTを活用し、 また収穫したフルーツを首都圏の人に知って買ってもらうための仕組みを作るといった取り組みをお手伝いしています。 これは沖縄セルラー電話株式会社などと一緒にやっています。
また、先ほどご紹介した「Canva」を使って、 宮古島の高校生に宮古島市職員の名刺をデザインしてもらうプロジェクトも行いました。 コンテスト形式で審査をし、最後まで残った入選作品は、 実際に現場で使われているんですよ。
-まさに地方創生の取り組みですね。 他にも興味深い取り組みがありましたら紹介してください。
山崎: 最近だと、福島県国見町での取り組みに関わりました。 国見町を活性化させようと、 地元出身の若者が中心に活動を行っている「国見カスタムラボ」のお手伝いをしました。 この取り組みを多くの人に知ってもらうためにWebサイトがほしいとのことだったので、 実際に現地に行き、「Jimdo」を使用し、サイト作成を一緒に行いました。 この活動は、地元のテレビの取材を受けました。
1社ではできないことも、 力を合わせればできるというのが「Cloud ON」の良いところです。 自分たちだけでは限界がありますが、 同じ志を持つ人が集まれば、だいたいのことはできるのではないかと思っています。
JPNICに期待すること
―貴社では今度、会員サービスの一環である出張セミナーを受講していただきますが、 JPNICのこういった活動についてはいかがでしょうか?
西村: はい、出張セミナーの制度を利用して、IPv6の勉強会を開く予定です。 こういう支援はありがたいですね。 IPv6に関しては、少しずつですが導入の動きが広がっていて、 官公庁案件なども増えてきています。 そうなると、お客様への案内やサポート対応などで、 技術者だけではなくスタッフにもIPv6の知識が必要になりますから。
―ありがとうございます。 会員の皆さまのお役に立てれば幸いです。 今、話が出たIPv6に関するJPNICの取り組みに関しては何かありますでしょうか?
森川: IPv6については、一般の人でも理解できるような普及啓発にも取り組んで欲しいですね。 IPv6を導入してもIPv4は不要にはならず、運用コストは倍になってしまいます。 ネットワーク側の技術者だけが声を上げてもダメで、 エンドユーザーから「IPv6が必要だ」という要望が出てこないと、 みんななかなかIPv6をやろうというモチベーションが湧かないと思います。 カフェの中で女子高生が「IPv6じゃなきゃ!」とか言っているぐらいになれば完璧ですね(笑)。 実際には、サービスを利用するユーザーがIPv4かIPv6かを意識することはまずないので、 そういう状況にはなりにくいかとは思いますが。
もっと言えば、 「もうIPv4は使わない方が良い」とか「202x年以降は使っちゃダメ」ぐらいな風潮になると、 とてもいいですね。 例えば、Windows XP(IE 6)の時は、Microsoft社のサポートが終了したことで、 結果的に手間や人的コストを削減でき、 作業リソースを集中できるようになったWeb制作会社がたくさんありました。 今のままだと、数%でもIPv4を使っている人がいる限り、 サポートをし続けないといけませんからね(笑)。
インターネットはもっと自由な発想で、気軽に使っていいもののはず
―本日はいろいろなお話のほか、JPNICへのご意見もいただき、 ありがとうございました。 最後の質問になりますが、 貴社にとってインターネットとはどのようなものでしょうか?
山崎: インターネットは本来、存在そのものがグローバルなものです。 インターネットを利用することは、 一番気軽なグローバルに出て行く出発点なのに、 現状はまだまだそうはなっていないように感じます。 国外向けと国内向けと、 自分たちが垣根を作ってしまっているのは残念なことです。
また、インターネットはいろいろなことをするための手段に過ぎないのに、 構築すること自体が目的や課題になってしまう中小企業などがまだまだたくさんあります。 でも、もうそんなに構えなくてもいいはずなんです。 初期の頃は、環境を構築することは重要かつ大変なことでしたが、 今はもっと気軽に使えています。 とはいえ、昔のイメージのままで、インターネットを使うことは「難しいもの」、 「自分たちには関係無いもの」と思っている人もまだまだいます。
セキュリティの問題とかいろいろ起こっていてその対処も重要ですが、 もっと何にでも使って良いし、何でも流して良いと思うんです。 インターネットとは、本来そういうものだと思っています。 もっと自由な発想の方に時間を使ってもらえるように、 より手軽に安心して使える環境づくりのお手伝いができればと思っています。