ニュースレターNo.68/2018年3月発行
インターネットの光と影~デジタル化によるビジネス変革のさらなる加速に向けて~
JPNIC監事 飯島 淳一
さまざまな製品やサービスが「つながる」ことによって、新たなビジネスチャンスが創出
2017年3月に発表された日本情報システムユーザー協会(JUAS)による「デジタル化の進展に対する意識調査」によれば、 7割強(74%)の企業のIT担当責任者が「デジタル化進行の影響あり」と回答しています。
自動車業界では、 すでに安全・安心と利便性の向上を目指した「テレマティクス・サービス(Telecommunication + Informatics)」が提供されており、 将来的には高度道路交通システム(ITS)や自動運転のさらなる発展が期待されています。 金融業界では、銀行などと新興事業者のサービスをAPI(Application Programming Interface)でつないだFintechサービスの開発・提供が相次いでおり、また、小売業では、 お客様の会員情報をベースとして店舗・ECでの購入履歴や行動履歴、 決済情報などを集約しリコメンドを付加して「個」人にフィットしたサービスの検討が進められています。
これらはクラウド、スマートデバイス、IoT、 ビッグデータ解析などのテクノロジーを活用することでビジネス変革を加速するもので、 「デジタル・トランスフォーメーション」と呼ばれることもあります。 ここで示した自動車メーカー・金融機関・小売業者といった「プレーヤー」には新たな収益の機会を、 それらの「エンドユーザー」にはこれまでになかったユーザー体験を提供するものです。
インターネットはデジタル・トランスフォーメーションを進めるためのプラットフォーム
自動車やスマートフォン、 情報家電などといったデジタル化されたデバイスから利用状況などを収集する、 企業内に蓄積された顧客・生産・開発などの情報とオープンデータや利用者状況をかけ合わせる、 社外の事業者が開発したサービスと自社のサービスを組み合わせる、 こうしたことがインターネットを介して行われています。
そして、クラウドサービス上にさまざまなユーザー体験や環境情報が収集・蓄積され、 プレーヤーはこれを活用することで、さらに新たなユーザー体験を再生産していきます。 ここには蓄積されたデータを起点に、 これらを分析・学習することで価値を高めていくサイクルが存在します。
データの価値が高まる一方で、データの窃取・仕組みの破壊を狙う攻撃も増加
日本経済新聞社が2017年10~11月に実施した「企業法務・弁護士調査」では、 過去5年でサイバー攻撃を受けた企業が全体の66%にのぼり、 1年前の調査から8ポイント高まっています。
データの窃取・仕組みの破壊を狙うサイバー攻撃も、 残念ながらその多くはインターネットを介して行われます。 新しいタイプの製品・サービスは「つながる」という特性を持つが故に、 企業の内と外とのネットワーク境界があいまいになってきています。 従来の典型的な対策は、企業のインターネットへの出入口を集約し、 ここにファイアウォールを設置して、攻撃者の侵入を防御するものでした。 企業の内外の境界があいまいになりつつある現在においては、従来対策に加えて、 いかに早く侵入を検知しこれに対処するかという点に重点が移ってきています。
また、プライバシーの確保も大きなテーマです。 エンドユーザーのプライバシーに対する意識の高まりや、 各国・地域におけるプライバシー情報保護やデータフリーフローの制限を目的とした法令化を背景に、 これらの国・地域で事業を行うプレーヤーは必要な対策を行わなければなりません。
セキュリティやプライバシーは、 新しいタイプの製品・サービスを開発・販売・提供していく上で避けては通れません。 言い換えれば、デジタル・トランスフォーメーションの流れに、 セキュリティやプライバシーなどの問題がブレーキをかけてはいけないのです。
JPNICの活動にご期待を
JPNICでは、技術セミナーやワークショップ、報告会などを年十数回主催し、 IPv6やDNS、ルーティング、セキュリティなどのインターネット基盤技術を解説するとともに、 人材育成にも力を入れております。 また、毎年秋に開催するInternet Weekではインターネットの基礎知識や最新動向を学び、 研究者や構築・運用・サービスのスペシャリストとの交流を深めております。
JPNICはこれらを含めて、 インターネットの円滑な運用のために各種の活動を通じてその基盤を支え、 豊かで安定したインターネット社会の実現に貢献してまいります。 今後もこうしたJPNICの活動にご期待ください。