ニュースレターNo.69/2018年7月発行
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は、鹿児島県を拠点にISP事業を展開されている、 株式会社シナプスを訪問しました。 同社は前身である株式会社グッドコミュニケーションズ時代から通算するとサービス開始以来23年目となる、 「シナプス」ブランドで大変有名な地域系ISPです。
当日は、いかにも鹿児島らしい、噴煙を上げる雄大な桜島に出迎えられて、 鹿児島中央駅の目の前にある本社での取材となりました。 神経細胞同士の接合部分である「シナプス」をサービス名に選ばれたところからもわかるように、 人と人、人と物を繋ぐ大事な役割を担うべく、 同社では利用者の立場に立ったきめ細やかなサービスを提供されています。 特に、利用者1人1人に寄り添うようなサポート体制については、大変印象的でした。
さらに、単なるサービス事業者という枠を超えて、 地域活性化に今や必要不可欠なICTを鹿児島に根付かせるための人を育み、 そして次世代が活躍できる鹿児島を残していくために、 いま自分たちがそのベースを作らなければならないという強い信念を、 熱く語っていただきました。
株式会社シナプス | |
---|---|
住所: | 〒890-0052 鹿児島県鹿児島市中央町6-1 |
設立: | 2016年4月1日 |
資本金: | 1,000万円 |
代表者: | 代表取締役社長 竹内 勝幸 |
従業員数: | 35名(2018年5月時点) |
URL: | https://www.synapse.jp/ |
事業内容: |
https://www.synapse.jp/company/
■接続サービス ■メールサービス ■シナプスぶろぐ ■シナプスでんわ ■シナプスでんき |
南九州で初のISPとして創業
■ 貴社は南九州初のISP事業者として有名ですが、 まずは成り立ちについて教えてください。
竹内: 当社は、1995年9月に設立された株式会社グッドコミュニケーションズが前身で、 1995年11月からISPサービスを開始しました。 その後、2016年4月に会社分割により株式会社シナプスを設立し、 インターネット関連の事業を承継しました。 そのため、当社自体の設立からはまだ2年程度なのですが、 グッドコミュニケーションズ時代から数えると、 今年の9月で23年になります。
ISP事業を始めたきっかけですが、 1993年の株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)設立を当社の創業者が目にして、 「鹿児島にもISPを作らないと!」という強い思いを抱き、 そこから2年で開業にこぎ着けたと聞いています。 開業当時を知るエンジニアによると、 最初の設備はEPSONのPCが3台と、モデムが3台だったそうです。 元々は、外注するつもりで某ISPに見積もりを取ったところ、 1,200万円ぐらいかかるという提示があったのですが、 社内のエンジニアが構築すれば数分の1ぐらいで済むことがわかり、 自分たちでやることになりました。
サービス提供開始までにはモデムが8台に増強されましたが、 それでも同時に接続できるご利用者は8人までです。 逆に言えば、当時はそのぐらいまだ、 インターネットというものがどのぐらい流行るのか未知数でした。 ただ、Windows 95の登場により、 爆発的にインターネットが発展するだろうという確信があり、 Windows 95日本語版の発売日である1995年11月23日に合わせてISPサービスを提供開始しました。
■ Windows 95の登場と同時というのは記憶にも残りますし、 何より創業者に先見の明があったことを感じさせるエピソードですね。 その後、他県に展開されていったのでしょうか。
竹内: はい、鹿児島・宮崎・熊本の南九州では、 当社が初めてISPサービスを提供しましたが、 創業時より鹿児島にこだわることを経営方針としており、 県外への営業展開はしていません。 当時、 大手ISPは基本的には県庁所在地にしかアクセスポイント(AP)を置いてなかったところを、 当社は鹿児島県内すべてのMA (Message Area、 単位料金区域)にAPを設置する方針でサービスエリアを拡大していきました。 創業者のトップダウンにより、当時は凄い勢いでAPを設置していったので、 スタッフへの周知が後回しなることもしばしばでした。 ユーザーオフ会での創業者あいさつで、 参加されたご利用者と一緒に「今年中に種子島に開局します!」と聞かされて、 ご利用者と一緒に驚くなど(笑)。 そうやって、現在に至るまで地域密着でサービスを提供し続けてきています。 こうした会社の成り立ちからも、 お客様の割合としては9割が個人のお客様です。 残りの1割が、法人のお客様とあとは自治体関係ですね。
■ サービス名、そして現在では社名でもある「シナプス」には、 どのような意味が込められているのでしょうか。
中野: 神経細胞同士の接合部分をシナプスと呼ぶのですが、 人体の神経活動に関わるシナプスを、 インターネットのノードとノードを繋ぐという行為に見立てて、この名前にしました。 1995年のISPサービス開始当初から使っていて、 元々はサービスブランド名だったのですが、 会社分割・事業承継する際に社名としてもこの名前を使うことにしました。
ちなみに、当社のロゴは人の顔の形をしていますが、 これも実は人間の神経活動というか知覚をイメージしたものです。 「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」と、 人間の「五感」を表しています。
■ 2016年に会社分割をされて現在の組織になったわけですが、 その経緯はどのようなものなのでしょうか。
竹内: 創業者の志向として事業を多角化していきたいというのがあり、 事業の主力であり軌道にも乗っている、シナプスを切り離すことになりました。 その上で、元々のグッドコミュニケーションズは、 新規事業の発掘に力を入れています。 とにかく創業者はユニークな発想の持ち主です。 例えば繁華街の天文館で心置きなく飲み歩くために、 当時生業にしていた養鶏を音響カプラを使って遠隔管理したり、 自宅近くの畑や山を切り開いて飛行場を作ろうとしたり……。 さすがに飛行場は、山奥過ぎて無理だったようですが(笑)。 シナプスのこれまでのイメージや既成概念にとらわれない自由な発想に基づく事業の発掘は、 グッドコミュニケーションズで担っています。
南北600kmにわたる広大なサービスエリア
■ 貴社は鹿児島を拠点に展開されていますが、 鹿児島県は離島も含めてとにかく広い!ですよね。 その辺りで何かご苦労などはありますか。
中野: 当社は鹿児島県内を対象にサービスを提供していますが、おっしゃる通り、 離島まで含めると南北600kmに広がる広大なエリアとなります。 そのため、例えば台風などが来た際に、 他県であればせいぜい数時間程度で通過するものが、 長時間にわたって影響が及びます。 最初に奄美群島に上陸した台風が、少しずつ島々を移動して、 1日以上経ってもまだ鹿児島市内を抜けていなかったりします。 その間、順次どこかで停電等のアラートが出続けているような状態になるので、 その辺りはやはり大変ですね。
■ 確かに、それは大変ですね。 逆に、鹿児島という土地柄のメリットなどもあるのでしょうか。
竹内: はい。鹿児島は一つの県である程度商圏が閉じていることが特徴です。 実は鹿児島だけでローカルテレビ局が4局もあるんですよ。 そのため、テレビCMも鹿児島だけをターゲットにして出せますし、 県内に限ればブランディングもしやすいんですよ。
中野: ISPの場合、お客様にサービスの品質を実際に見せるというのが難しいです。 きちんとした品質のサービスを提供していても、 入会して使ってみてもらわないとわからないんです。 そういった点で、多地域を対象にしたCMになりがちな大手と違い、 ピンポイントでターゲットを絞ったCMを出せるのは強みになります。
竹内: 一部の市町村に向けたCMを出すこともあります。 例えば、種子島でフレッツ光の新規開局があるとすると、 CMで「種子島のみなさん!」と呼びかけられるんですよ。 そうすると、住民としては「おっ?!」となりますよね。 そういうCMを流すと、お客様からも「CMを見ました」と反響があります。 実際にどんなCMなのかは、YouTubeでも見られるのでぜひ見てみてください。
■ それはぜひ拝見したいです。 あと、鹿児島と言えば桜島が有名ですよね。 火山が業務に影響を与えることもあるのでしょうか。
中野: 火山灰の影響というのは、やはり少なからずありましたね。 この新しいビルではそんなことは無くなったのですが、 以前のビルは普通の雑居ビルで、 どうしても火山灰の影響が避けられませんでした。 火山灰は非常に細かい粒子なので、 建物の中とかにも容易に入ってきてしまいます。 その影響で、サーバに取り付けてある冷却ファンの寿命が短くなってしまいます。 また、空調のフィルターをこまめに掃除したりなどの対策が必要ですが、 こういったところは桜島を抱える鹿児島ならではかもしれません。
■ ここに来る途中にも、桜島が噴煙を上げているのを見ました。 大きな噴火があると、みなさん家にじっとしているのでしょうか。
竹内 一昨年ぐらいまでは全然でしたが、 今年は爆発の頻度がかなり上がっていますね。 1日に数回レベルです。 ただ、噴煙が酷い時でも、鹿児島の人は普通に生活していますよ。 外出を控えるほどではありません。
中野 100m先も見えないような噴火は、年に数回程度です。 ただ、影響があるのは数時間程度ですし、帯状で直線的に降灰するため、 風向きにさえ気をつけていれば避けるのは容易ですよ。
■ 火山灰にはびっくりしましたけど、桜島は雄大でいいですよね。 鹿児島と言えば、 今は「西郷どん」で盛り上がっているように偉人をたくさん輩出していますが、 県民気質みたいなものはあるのでしょうか。
竹内: 当社の従業員も、過去の偉人と比べられると恥ずかしいですが、 みんな鹿児島出身です。 私だけが、三重県出身です(笑)。 そんな私から見ると、鹿児島の人たちは総じて、 一度認められて仲間になったらものすごく団結力がある、という感じですね。
ただ、方言にはやはり最初は苦労しました。 ここにいる中野は若いからそれほどでもないですが、 鹿児島弁と言っても、南北600kmの広大さもあって、 奄美と県本土はまるで方言が違いますし、 親世代になるともう市町村単位でも方言が違うくらいなので、 他県の人にはわからないこともあるかもしれません。
「それはお客様のためになるのか?」という目線を常に忘れずに
■ 確かに「言葉が通じる」ということは重要な意味を持ちますよね。 お客様から見ても、 スタッフの方が鹿児島弁を話すというのは親近感を持たれるのではないでしょうか。
中野 そうなんです。 当社では、 「サポートセンターでも鹿児島弁が通じる」とテレビCMでアピールしていた時期もあり、 これは年配の方などにも大変好評でした。 これも、全国展開している大手ISPと比べた場合の、当社の強みですね。
■ 団結力が強いという話ですが、社内もそういう雰囲気なのでしょうか。
竹内: 社内で一丸となって、お客様視点を第一に業務に取り組んでいます。 何かサービスを変更する際にも、 必ずスタッフから「それはお客様のためになるのか?」という声が上がります。 経営層が見落としているような視点に気づかされて、 私の方がスタッフに頭を下げることもありますね。
また障害が起こった時は、 お客様視点で極力スピーディかつオープンに情報を開示していこうという姿勢や、 お客様からお叱りの声があった時は、私たちに非があった場合は当然、 そうでない場合も、お客様に誤解を与えてしまったことを社内で反省し、 改善に取り組んでいます。 そういうところで、お客様視点という考え方は、 社内で広く共有されていると思います。
中野: メールのアンチウイルスサービスを無料で提供し始めたのは当社が日本で最初だと思いますが、 これもお客様視点の一つかなと思います。 当初は有料での提供も検討したのですが、 もはやアンチウイルスはネット利用において不可欠のものであり、 すべてのお客様に使っていただくべきものと判断して、 無料で提供することに決めました。
この業界では「インターネットは自己責任」という考えになりがちですが、 お客様からは「できることなら、ISP側で全部やって欲しい」という話も聞きます。 一般的なご利用者はスキルのある人ばかりではないですし、 そういう方への配慮も必要だと認識しています。
■ そういう姿勢が、地元の方々から愛されている理由なのでしょうね。 今日貴社を訪問した際、 玄関の案内でお客様向けのセミナーがかなり頻繁に開催されていることを知り、 感動しました。
竹内: このビルの2階と3階にISPサービス窓口店舗とホールがあって、 そこでいろいろとセミナーを開催しています。 セミナーのテーマは一応決まっていますが、 実際にはそれにとらわれない内容となることが大半です。 お客様自身が「何がわからないのか、わからない」ということも多いので、 まずはヒアリングです。 そこで、「スマホのアプリの使い方がわからない」とか「メールのやり方を知りたい」といった「お客様が困っていること」を聞き出して、 それをスタッフが個別に教えています。
中野: 最近は年配のご利用者も増えていますし、 またスマホではPCとは異なる苦労があってそれなりに大変です。 スマホは機種も多いですし、アプリも多岐にわたります。 当社として提供するISP部分のサポートをすれば本来はいいはずなのですが、 アプリについての相談ごとにも可能な限り応じています。 こういった姿勢が評価されて、 長く当社をご利用いただけているのだと思っています。
竹内: 社として責任が持てる範囲はもちろん、それ以外の部分についても、 スタッフがわかる範囲、 個人的に責任が持てる範囲でお答えするようにしています。 鹿児島市内の都市部は人の入れ替わりがそれなりにありますが、 多くの地域ではずっとそこに住み続けている方々がほとんどですので、 そうやって一度信頼していただけると、 ずっとご利用者を続けていただけるんです。
次世代を担う地元の若者たちに、活躍の場を残すのが私たちの役目
■ 貴社には古くからJPNICの会員を続けていただいています。 JPNICに対して、何かご意見・ご要望などはありますか?
中野: 当社には幸いまだIPv4アドレスの在庫はあり、 IPv6アドレス自体は早くから割り振りを受けていたものの、 サービスはIPv4をメインに提供し続けてきています。 IPv6も提供はしていますが、積極的には訴求していません。 むしろ、「IPv6だと速い」みたいな変な誤解が浸透している中で、 IPv4での品質担保に力を入れてきました。 とはいえ、IPv4だけではこの先は続きません。 一方で、IPv6オンリーで大丈夫になるのもまだまだ先でしょう。 今後もお客様を増やし続けるためにはどうしてもIPv4アドレスも必要で、 そうなると取り得る手段は移転しかありません。 その辺りの情報をいろいろと提供して欲しいですね。
■ Webや会合などでも移転関連の情報をお伝えしていますが、 斡旋などはできないものの、 問い合わせていただければ申請の実績などはお伝えできます。 疑問や質問などあれば、ぜひお気軽にご相談ください。 あと、JPNICでも各種セミナーを開催しているのですが、 それについては何かありますでしょうか。
竹内: 2018年3月に開催された、 島根のIPv6技術セミナーには当社のスタッフも参加しましたが、 地方でのICT利活用は大きな課題です。 そのためには、地方にネットワークエンジニアを根付かせないといけませんし、 彼らエンジニアの生活基盤を整えることが必要です。 IPoEを利用するNGN (Next Generation Network)の問題点は、 東京・大阪などの大都市に集約されてしまい、 相互接続点(POI)が鹿児島など地方部から無くなることです。 ネットワークや経営の合理化としては良いのですが、 鹿児島から仕事が無くなります。 エンジニア無しでICTによる地方活性化とか無理ですよね。 地方にエンジニアを根付かせるための経営と、 エンジニア育成・スキルアップをやっていきたいと考えています。
私たちが鹿児島にこだわるのも、そういった思いがあるからです。 身近にエンジニアがいなければ、 学生や若い人達がそんな仕事があることにも気づきようがないですし、 知らなければ仕事として選びようもありません。 私たちのような事業者がいれば、仕事のイメージもできるし、 見学にも来られますからね。 JPNICの会員向け出張セミナーなども、 機会があればぜひやってもらいたいです。 興味がある学生さんにも声をかけられると思います。
私たちは言ってみれば、鹿児島ファースト(笑)。 これに尽きます。 日本全体をどうにかしようという大きな視点も必要ですが、お客様の声が届く、 顔が見える地域の視点と範囲で、観光にも農業にも役立てられるように、 うまくバックアップできればと思っています。 そのために私たちエンジニアが必要ですし、 私たちが地方活性化のモデルを作りたいんですよ。 鹿児島は隠れた名産が多い。 去年は県産の牛が和牛日本一になったんです。 元々畜産が盛んで、松阪牛の種牛にも鹿児島県産の牛がいます。 あとはお茶も静岡や宇治に並ぶほどの名産です。 ここにICTも加えたいですね。 「鹿児島にシナプスがいてくれてよかった」と言ってもらえるようになりたいです。
■ ありがとうございます。 JPNICも同じ悩み、同じ問題意識を持っていると思いますので、 ネットワークエンジニアという仕事が透明化しないよう、 ぜひ一緒に取り組んでいければと思います。 さて、最後の質問になりますが、 貴社にとってインターネットとはどのようなものでしょうか?
竹内: 自分にとっては単なるツールですね。 ただ、人体の中での重要な構成要素であるシナプスと同様に、人と人、 人と物を繋ぐとても重要なツールです。 それを維持発展させるため、鹿児島のために、 これからも頑張らないといけないと思っています。
中野: インターネット上では、 これまでもこれからもさまざまな新しい技術・サービスが出続けるので、 興味が尽きないモノです。 コミュニケーションツールとしても、ここ数年で大きく発展しました。 これからどうなっていくのかが、本当に楽しみです。