ニュースレターNo.7/1996年11月発行
2. 最新トピックス
2.1 IPアドレスについての最新技術動向
現在IPv4のアドレスの割当基準が変更されたことはご存知でしょうか?
これは、これまでIPアドレスの割当基準を示す文書であったRFC1466を現状に合わせて改定したもので、実際に現在Internic、RIPE-NCC、APNICの地域レジストリでとられている割当方針をまとめて、レジストリに対するガイドラインとしてRFC化されたものです。この新しい基準はRFC2050に示されており、JPNICのFTPサーバから入手可能ですので是非ともご一読下さい。
まず、この文書に示される基準は、実際にIPアドレスの割当を行なう全ての組織に対する指針となるものです。このIPアドレスの割当を行なう組織とは、日本では日本のローカルレジストリであるJPNICや、JPNICからアドレス割当業務委任を受けた全てのISPがその対象となります。ここに述べられるものを補完する形でローカルレジストリで独自の方針を持つこともできますが、基本的にはここで示される指針に乗っ取ったものである必要があります。従ってとくにローカルルールが示されていないものに関しては、この指針に乗っ取た割当が行なわれます。
ここに示されている割当基準は、現在の経路制御やルータ技術の持つ特質や制限を特に考慮して定義されています。これらの制限に打ち勝ち、インターネットを今後もこれまでのペースで発展させ続けるためには、現在のところここに述べられている割当基準以外には考えられないとされています。
JPNICでも、現在このRFCに示されている基準に基づいた、日本国内でのアドレス割り当て基準の改訂作業をすすめています。以下に現在JPNICが考えている割当基準の内容を簡単にまとめます。
2.1.1 インターネットに接続を持つ組織に対するアドレスの割り当て基準
ドラフトには、APNICやJPNICのようなレジストリから直接IPアドレスの割当を受けられる条件として以下の3つのうち少なくとも一つを満たしている必要があります。
- 組織が、現在も将来も、インターネットに接続する意志がなく、 しかも世界的にユニークなIPアドレスが必要な場合。 このような組織はRFC1918で予約されたアドレスを利用することを考慮しなければならない。 これが不可能であると判断された場合、 ユニークな(インターネットで経路制御の対象にはならないだろうが)IPアドレスが割り当てられる。
- 組織がマルチホームしており、全ての接続を均等に利用する場合。
- 組織の要求が非常に大きく、例えば要求をカバーするネットワークプリフィックス長が/18以下である場合。
これ以外の組織はRFC1918に述べられているプライベートアドレスを利用するか、CIDRによる経路情報の集約効果を最大限に得るために、接続を持つISPから割当を受けるべきだとされています。
現在、経路情報の集約が可能なアドレスブロックとそうでないアドレスブロックを明確に区別するため、JPNICでは組織に対する直接の割当を一切行わず、国内の組織から出された申請は全てAPNICに対して仲介し、APNIC側で予めそのような割当用に予約したブロックからそれらの申請に対する割当を行うと言う方式をパイロットプロジェクトとして行っています。
また、ISPから割当を受ける場合も、レジストリから直接割当を受ける場合もその割り当てられたアドレス空間の利用率に関して以下の条件が設けられます。
- 割当から半年以内に25%の利用率
- 割当から一年以内に50%の利用率
これらの利用率に関しては、アドレスの申請時に根拠のある予測を示さなければなりません。また、この利用率に照らし合わせた結果、割り当てられるアドレス空間が/24よりも長いプリフィックスになることもあり得ます。
利用率の計算は、
割り当てられた空間の中からホスト等に割り当てるアドレス数の合計 利用率 = ----------------------------------------------------------------- x 100 割り当てられたアドレス空間の大きさ - サブネット数 x 2
という式で行います。
また、詳細な理由を提示しない限り、機器が対応していないことによる例外措置は適用されなくなります。アドレスの割り当ては、VLSMが実装されているか、実装予定であることを仮定して行われます。さらにこの利用率の計算は、過去にその組織に割り当てられているIPアドレス全体に対して行なわれます。
ISPに委任されたブロックから割当を受ける場合には、接続点割当という考え方の導入を検討しています。これは、ISPに接続を持つ際に、過去に割り当てられたアドレスに関する経路情報をそのISPからアナウンスしない場合にかぎり、あらたなアドレスの割当の際に考慮する利用率の計算を、そのアドレスを実際に利用する範囲に限定して行う、というものです。
過去に割り当てられた、CIDRに準拠しないアドレスの返却とCIDRに準拠したアドレスへの着け替えについては別途なんらかの現実的な方法を考えて行く方針です。
2.1.2 ISPに対してアドレスブロックを委任するための基準
CIDRを用いた階層的なアドレス体系を促進するために、ISPはレジストリからCIDRブロックの割り振りを受け、そのブロックの中からそのISPに接続される組織に対してアドレスの割当を行なっていく必要があります。
しかし、CIDRによるアドレス集約を最大限に行なうために、以下のいずれかの条件を満たすISP以外は、レジストリからCIDRブロックの割り振りを受けることができず、経路制御的に上流にあるISPのもつCIDRブロックの中からアドレスブロックの割り振りを受けなければなりません。
- ISPが主要な相互接続点に直接接続している。(主要な相互接続点とは、4つ以上の独立したISPが接続された、OSI参照モデルの第2層での接続を行なう中立な相互接続点である。)
- ISPがマルチホームしている。この場合マルチホームとは、世界的なインターネットに対して複数の接続を同時に行い、どれか一方が完全に切れた場合にもインターネット全体への接続性が損なわれないようなものを指す。
このISPに対するIPアドレスブロックの割り振りの指針としては要約すると以下のようになります。
- CIDRアドレスはISPにブロックで割り振られ、そのISPに接続を持つユーザに対して接続の期間中貸し出されるものとする。インターネットへの接続契約が終了した場合、そのユーザは使用中のアドレスを返却し、新たなISPのアドレス空間にrenumberすることが要請される。
- CIDRの効率的な実現と利用のために、JPNICはCIDRでサポートされている適切なビット境界に従ってアドレスを発行する。
- ISPはアドレス空間を効率的に利用することが要求される。このためISPは、各割り当てに対して文書で根拠を提示できるようにしておかなければならない。
- IPアドレスは "slow-start" 手順によってISPに割り振られる。つまり新しいISPには初期の要求に基づいた最低量の割り振りが行われ、その後、そのブロックからの割当が進むにつれて、割り振られるブロックが徐々に大きくなっていくようなやり方をとる。具体的には、初めて委任を受けるISPには、/19が予約され、そのうちの最初の/22が委任される。但し経路情報としては、予約されている/19全体をアナウンスしてもよい。
- IPv4アドレス空間の利用効率を上げるため、全ての割当は、各サイトでは可変長サブネットマスク(VLSM)およびクラスレスな技術を使用することができるという仮定に基づいて行われるべきである。
- IPv4アドレス空間の残りが限られているため、ダイアルアップユーザに静的にアドレスを割り当てること(例えば、顧客毎にアドレスを一つづつ)は止めるべきである。可能な限りダイナミックにアドレスを割り当てる技術を導入するべきである。
全てのサブレジストリ(ISPやJPNICのようなローカルレジストリなど)は、自分が割り振りを受けているアドレスブロックの中から組織に対して割当を行った場合には、そのアドレスブロックの割り振りを行った地域レジストリに登録を行わなければなりません。およそ80%の再割り当て情報が登録されるまでは、追加のCIDRブロックが地域レジストリや上流プロバイダから割り当てられることはありません。またJPNICから委任を受けたISPは、JPNICにこのアドレスの割当の情報を割当を行った時点で行う必要があります。これを怠ると、新たなブロックの委任は受けることが出来なくなります。
2.1.3 経路情報のフィルタリング
長いprefixをもつ経路情報のアナウンスを受け付けないことを表明している米国の大手プロバイダが幾つかあります。これは、CIDRに基づいた割当がなされており、大きなブロックに集約可能であるはずの206.0.0.0/8以降のアドレスに対して行われています。現在は/19よりも長いprefixに対してこのフィルタリングが行われています。
今後このようなプロバイダが増えて行くことも予想されます。より広範囲な接続性を確保する為には、CIDRに基づいたアドレス割当を受けることが不可欠になって来たということを示しています。
現在はまだCIDR以前に割り当てられたアドレスに関しては、クラスの境界よりも短いprefixでフィルタリングするということは行われていないようですが、今後インターネット上の経路情報が増え、ルータでの経路制御処理への負荷が高まるにつれ、CIDR以前のアドレスに関しても何らかのフィルタが導入される可能性は否定できません。例えば今年の3月の時点で、CIDR以前に割り当てられた192.0.0.0/8に含まれるアドレスに関する経路情報は、全体の20%強にも至っています。特にこの範囲のアドレスの利用を止め、新たにCIDRに準拠したブロックに含まれるアドレスへrenumberすることが、ルータの経路表の増大を押えることにつながり、インターネット全体の将来に対して大きな貢献となります。
このように、計画性を持ったrenumberingの検討が望まれる状況になって来ています。JPNICでも、出来るかぎり円滑に過去に割り当てられたアドレスからCIDRに準拠したアドレスへのrenumberを促進する方法を検討して行く方針です。