ニュースレターNo.70/2018年11月発行
インターネット番号資源の管理は、縁の下の力持ち
JPNIC監事 青木 邦哲
クラウド市場の加速
私は、業務の一つとしてグループ会社が展開している人事・給与・就業のパッケージ販売に携わっています。 当該サービスはERP(基幹業務システム)市場に属しています。 ERP市場はオンプレミスからクラウドへの切り替えが加速している転換期であり、 2020年にはクラウドがオンプレミスを逆転すると予測されています(「インターネット白書2018」インプレスR&D出版)。
その背景の一つには、2011年の東日本大震災が影響していると考えています。 震災時に多くの企業で基幹業務のデータが失われて本社機能が停止したことにより、 企業のリスクマネジメントの一つとして、 基幹業務システムの運用方法の見直しを検討する企業が増加しました。
また、クラウドサービスの安定性やセキュリティ技術の向上に伴い、 クラウドサービスを活用することが利便性の向上に繋がると認識されるようになったとともに、 サーバ維持費等を含む、 ITコストの大幅な削減が実現可能となったこと等も転換が進んだ要因と考えられます。
サービスの観点からは、人工知能(Artificial Intelligence=AI)の発展により、 ディープラーニング(深層学習)に関連する機能を付加価値として提供することが加速すると考えられます。 サービスを提供する側は、大きな市場の変化に対応していかなければならなくなり、 企業間の競争も激化することが見込まれています。
業務を支えるHRテック(Human Resource Technology)
人工知能の技術進歩により、人事領域にも影響が出てきました。 採用、育成、配置、評価などにおいて、 人工知能やビッグデータなどの最先端テクノロジーを組み合わせて業務効率化を図る、 HRテック(HR Tech)が注目されています。 HRテックが発展を続けている背景には、 スマートフォンやタブレットなどのデバイスの急速な普及があります。
従来の人事向けソフトウエアは人事担当者による利用が前提にあり、 従業員から紙やメールで提出された申請を、 人事担当者がデータ入力して管理を行っていました。 しかし、デバイスの急速な普及に伴い、 使いやすいインタフェースのサービスも登場したことにより、 従業員自身が自宅や外出先などからいつでも、 データの登録やワークフロー申請を行える環境が整備されました。 これにより、人事担当者の負担は軽減され、 より正確なデータをリアルタイムかつ大量に集約することが可能となりました。
最近のHRテックの活用事例ですと、 人事担当者が時間をかけていた採用のエントリーシート評価を人工知能が代わりに行うケースや、 経歴や資格、語学力や性格などの個人データと、 社内の各部署における業務内容や作業量などのデータをもとに最適な人材のマッチングを行うなど、 評価や配置に対する活用も期待できます。 既に、2019年の採用においてAI面接を取り入れた企業がクローズアップされるなど、 HRテックは急速に発展しつつあります。
一方で、人事領域の人工知能はパターン認識に基づいて定型的な判断を下しているため、 取り組み姿勢などのプロセスや業務の特性・難易度を考慮した評価、 人間関係やモチベーションに配慮した人員配置を行うことは難しいとされています。
このように、HRテックは業務の生産性や効率性を飛躍的に高める可能性がある反面、 やみくもに導入すると公平性を欠き、間違った目標意識を植え付けるリスクがあります。 HRテックはあくまでも補助ツールであり、 価値判断や意思決定をそのまま置き換えるのではなく、 創造的・戦略的業務に専念するためのツールとして活用するべきだと考えます。 またHRテックに限らず、データ分析により論理的な回答を導けたとしても、 周囲を納得させられるかどうかはコミュニケーション能力や熱意が必要となり、 最後はやはり人の本質的な力が重要になるものと考えています。
業界を支えるJPNIC
JPNICについて話をしたいと思います。 私は、2016年よりJPNICの監事となりました。 ほぼ毎週行われる役員会にはできる限り参加しており、 他の理事の方々やJPNICの職員の方々が、 わが国におけるインターネットの発展を続けるための議論を誠実に行っていることを、 監事の立場から見ています。 IPアドレスやAS番号といったインターネット番号資源の管理は、 重大なミッションであり、インターネットの発展のためには不可欠であると考えています。 インターネット番号資源の管理は、インターネットそのものの規模が、 拡大から安定した時期に入ったことにより、 目立たない存在になったと感じるかもしれません。 しかしながら、大切なのは目立つことではなく、 インターネットの安定した発展のために必要なことを着実に行っていくことではないかと考えています。 私にとってJPNICという存在は、 「インターネットの縁の下の力持ち」なのだと考えています。 今後も、皆様とともに、 日本のインターネット発展のために微力ながらお役に立ちたいと存じます。