ニュースレターNo.70/2018年11月発行
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
GMOインターネット株式会社
住所 | 〒150-8512 東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー |
設立 | 1991年5月24日 |
資本金 | 50億円 |
代表者 | 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷 正寿 |
従業員数 | 5,691名(2018年9月時点) |
URL | https://www.gmo.jp/ |
事業内容 |
https://www.gmo.jp/company-profile/outline/
■ インターネットインフラ事業 ■ インターネット広告・メディア事業 ■ インターネット金融事業 ■ 仮想通貨事業 |
今回は、1995年12月にインターネット事業を開始し、 今年12月に24年目を迎えるGMOインターネット株式会社を訪問しました。 インターネット業界では、「お名前.com」のサービスブランドが特に有名な同社ですが、 GMOインターネットグループの本社として、 「実はここも!?」と思う人もいるぐらい、 多くのインターネット関連企業をグループに抱えています。 また、ネット証券や仮想通貨など幅広い業種にも事業を展開しているため、 最近では金融の分野で目にされる方も多いかもしれません。
当日は、渋谷のセルリアンタワーにある本社を訪問しての取材となりました。 渋谷のイメージ通り、若くて活気のあるオシャレなオフィスでしたが、 それと同時に、長年インターネットのインフラを支えてきた自負と、 顧客に常に寄り添う姿勢、 そしてそのマインドを若い世代に伝えていこうという想いが強く感じられるインタビューとなりました。
世の中から無くならない、無くてはならないサービスを提供したい
■まずは貴社の成り立ちとこれまでの事業展開について教えてください。
福井:当社がインターネット事業を開始したのが1995年12月で、 まずは接続サービスの提供からスタートしました。 事業に参入する際に重視したのが、“世の中から無くならない、 無くてはならないサービス”かつ“ストック型”のサービスという点です。 その観点で、1999年9月に、 インターネット上の住所と言えるドメイン登録サービス(現・お名前.com)を、 2000年4月にメールやWebを使うために必要なレンタルサーバー(ホスティング)の提供を開始しました。 その後、2002年に決済事業、2003年にセキュリティ事業へと、 グループ会社を増やしながら事業を拡大してきましたが、 すべて「無くならない、 無くてはならない」をキーワードに事業を拡大してきているんです。 今では、インターネットでビジネスをする際に必要となるサービスのほぼすべてを当社グループでカバーしています。 また、事業を拡大する過程で、1999年に店頭公開し、2004年に東証第二部、 2005年東証第一部へと上場を果たしています。
■「お名前.com」は誰もが知るほど有名ですが、そもそもなぜドメイン名の登録サービスを始めようと考えたのでしょうか?
福井:“世の中から無くならない、無くてはならないサービス”で“ストック型”という観点で辿り着いたのは、 インフラサービスです。 そしてインターネットサービスの入口になるドメインはこれに該当します。 ドメインが無いと、Web運営もできないし、メールも使えません。 そして、一度使い始めれば翌年以降も継続して使ってもらえます。 私たちはアジア初のICANN認定のレジストラとして、インターネットの普及のため、 当時としては破格の値段でドメイン登録サービスを開始したんです。 現在、私たちの事業全体の売上の割合としては、 ドメインやホスティングなどを合わせたインターネットインフラ事業が51%ほどを占めていますが、 その中でもやはりドメイン事業の売り上げの占める割合は大きいですね。
■「お名前.com」をはじめ、貴社のサービスはわかりやすい名前が多いですよね。
福井:当社は「GMOインターネット株式会社」という社名ですが、 「インターネット」を社名に付けているところは少ないですよね。 私たちは知名度が低かったので、何の事業をやっている会社なのか、 社名に入れることでわかりやすくしました。 この「わかりにくいものを、わかりやすく」という考えはグループの根底にあり、 グループ会社も「GMOペイメントゲートウェイ株式会社」や「GMOクリック証券」のように、 一見してわかる社名になっています。 これは当グループの特徴かもしれませんね。
「お名前.com」はその走りで、 当初は「ドメイン売ってます」と言っても一般の方にはわからない、 なぜドメインが必要かすぐにはご理解いただけなかったんです。 そこで「お名前.com」と名付けました。 これなら、「ホームページに付ける名前です」と、すぐにイメージしてもらえますから。
「Z.com」~日本で磨き上げたインフラ事業を海外へも~
■サービス名と言えば、貴社はグループの海外戦略ブランドとして「Z.com」を利用されていますが、1文字gTLDというのは大変珍しいですね。
福井:1文字の.comは、本来は登録できないはずですが、 過去にシステムの不具合で1文字ドメインが六つのみ登録されたそうです。 「Z.com」はその内の一つです。 2014年に8億円で譲り受けたのですが、 それをグローバルブランドとして使っています。 短くて覚えやすく、サービスを想起しやすいですよね。 とても私たちらしいブランドだと思っています。
グローバルブランドのため国内ではプロモーションしておらず馴染みが無いかもしれませんが、 現在は東南アジア地域を中心に「Z.com」ブランドで事業展開しています。 具体的には、ドメインやホスティングといった、 日本で実績がある商品を現地向けにローカライズして展開する際に、 そのサービスブランドとして利用しています。
海外事業は、拠点数としては最近では13ヶ国64拠点まで増え、北米、アジア、 中国とさまざまに展開しています。 また、それに伴い日本人以外のスタッフもかなり増えました。 ここ渋谷のオフィスにもさまざまな国籍のスタッフがいて、 多様な言葉が飛び交っています。 多くの国の人が当社で働いてくれるのは、すごく嬉しいことだと感じています。 売上ベースだとようやく海外が10%程度になったところですが、 近い将来50%にまで引き上げたいと考えています。 それを見据えた目線で、事業に取り組んでいます。
■海外展開の主力はやはりドメイン名関連の事業なのでしょうか?
福井:ドメインはもちろん、ホスティングもですね。 これらはインターネットでビジネスを始める上で必要なサービスで、 世界中どこででもそれは同じです。 あと、SSL関連の事業も成長性があると捉えています。 世界中の人に情報を届けることを使命にするGoogleさんは、 インターネット上のコンテンツをユーザーが安全に利用できることに重点を置き、 Webサイトの“なりすまし”や通信の傍受を防ぐSSLを非常に重視しています。 SSL関連の事業は欧米を中心に海外顧客の割合が66%と多く、 海外展開事業の筆頭となっています。
■海外展開と言えば、貴グループのGMOドメインレジストリ株式会社による新gTLDの「.shop」は順調に登録数を増やしてますよね。
福井:.shopは、“お店”であることが一目でわかるドメインで、 登録開始から3年目を迎えた現在、70万件ほどご登録いただいています。 登録者はほとんど海外のお客様で国内は15%程度です。 .shopは当社にとって強力なサービスであると同時に、 既に単体で事業としても成り立っています。 海外の登録者だと、 必ずしも当社のホスティングサービスなどをご利用いただけるわけではありません。 しかし、ドメインは一度登録するとなかなか変えたりしない典型的なストック型収益モデルのサービスで、 規模の経済が働き継続利用による収益が見込めます。 新gTLDの獲得の際、マーケティングデータを参考にさまざまな観点で検討した結果、 最終的にわかりやすい.shopを選びました。 実際にWebで使う文字列でないと継続して登録してもらえませんからね。
日本のEC化率は世界でもまだまだ低く、BtoC-ECはわずか5~6%にとどまっています。 ドメインはすごく普及しているイメージがありますが、 街中の商店がすべてホームページを持っているかというと、そうではないですよね。 小さなお店でも、オンライン化してビジネスを拡大するなどまだまだ可能性があります。 サービスの幅を広げる、集客のためのツールとして認知を高めるとともに、 もっと使いやすく便利なサービスを提供することで、 .shopもこれからさらに伸びる余地があると考えています。
■2018年の5月にはEUで一般データ保護規則(GDPR)が施行されました。貴社にとっても影響は大きいのではないでしょうか。
桐原:まだ終わってはいませんが、対応は結構大変でした。 ドメインにおいては、 ご存じのようにWHOIS情報の公開がGDPRに抵触する部分があることから、 ICANNでは現在、gTLD登録データの暫定仕様を公開していますが、 最終的な仕様はまだ決まっていない状態です。 我々としてもWHOIS情報の扱いをどうするべきか、 いくつかあるオプションについて考えねばならず、 状況を注視しているところです。 そもそも、ネットの安定運用を目的としていたWHOIS自体が、 現在では異なる使われ方をしてきていますよね。 ネット業界から見た場合と一般社会から見た場合ではその役割は異なっていますし、 エンドユーザー側と運用側でも捉え方は違うと思います。
■WHOISの議論はずっと昔からやっていますよね。個人的には、WHOISはダイエットと同じく永遠に続くテーマという印象です(笑)。
桐原:言い得て妙ですね(笑)。 今の時代はインターネットの重要性が増すと同時に、 消費者を守る法律が次々とできて、どんどん規制が強くなっていっています。 消費者保護はもちろん大切ですが、事業者の責任の中でどこまでやるべきか、 やらないといけないのか、そこの線引きが難しい。 インターネットの利用者には、正しく使っている人と、 悪意を持っている人やリソースを浪費する人、必ず両方の人がいます。 善意の人だけであれば話は簡単なのですが、そこが難しいですね。
お客様を「キラキラ」と輝かせるために
■業界の巨人と言っても過言ではない貴社に伺うのも失礼な話ですが、その中でもあえて自社の強みを一つ挙げていただくとすれば何でしょうか?
福井:サービスを自分たちの手で作る技術力です。 そのためにエンジニアやクリエーターを大事にしています。 我々はサービスを自らの手で作る、内製化にこだわっていますが、 その理由は、日々変わる状況に応じて、提供するサービスを最適化するためです。
例えば、実際にサービスを使うお客様からサポート窓口に「この画面がわかりにくかった」という声が届いたら、検証を行い、 速やかに開発に反映します。 お客様のニーズの変化へすぐに対応することは、 サービスの競争力を上げることになりますから。 これを外注していたら時間もコストもかかってしまいますよね。 内製化していればお客様のニーズに即座にお応えでき、 同時にそこで浮いたコストを内部留保せず、お客様に還元することもできます。 これにより、使いやすいものをより安く提供するという、 インフラサービスのPDCAを繰り返すことが強みにつながっています。
そして、このようにサポート窓口だけでなく、 TwitterなどのSNSでもユーザーの声を拾い、 ユーザーに寄り添ったものを提供する体制も、当社の強みです。 もちろん、これができるのは自らが作る技術力があるからこそです。
■渋谷のおしゃれなオフィスからくるキラキラしたイメージ通りの最先端事業だけではなく、インフラ事業への注力といった、地道な部分にも凄くしっかりと取り組んでいらっしゃることがよくわかりました。
福井:キラキラしたイメージと仰っていただけることは嬉しいですが、 一番キラキラしていただきたいのはお客様です。 我々はコーポレートキャッチである「すべての人にインターネット」の通り、 インターネットによって便利になった皆様の生活を支えることを一番に考え、 ベースとなるインフラ部分を提供しています。 お客様には、そのベースの上で自由な経済活動や情報発信を行っていただきたい。 そのために必要なサービスを、 使いやすく便利に提供することが使命だと考えています。
また、最近では創業時を知らないパートナー(従業員)がほとんどですが、 なぜこのビジネスをやっているのかということを新しい世代に伝えていくことは、 とても大切なことだと考えています。 今の若い人はデジタルネイティブで、昔とは違う環境で育っています。 我々はインフラから始まってネット広告やネット金融など幅広い事業を展開してきていますが、 テレビCMも流していたGMOクリック証券などのイメージを持って入社してくる人が多くなりました。 サービスの数だけGMOインターネットグループを知ってもらう切り口が増えているということですが、 なぜ我々がインフラを手がけているのか、 その理由を一緒に働く仲間に知ってもらいたいと思っています。
■とすると、仮想通貨事業なども、実は単なる最先端の何かを事業としているだけではないのでしょうか?
福井:仮想通貨も一般的にはまだ「大丈夫かな?」と、 少し怪しいイメージで見られることもまだまだ多いですが、 インターネットも最初はそうだったと思うんです。 我々は、これまでに銀行や為替といった金融サービスをお客様に提供してきていますが、 世界を見渡してみるとまだまだ法定通貨が安定していない国がたくさんあります。 仮想通貨には、新しいお金のあり方としてポテンシャルがある、 そう信じて事業に取り組んでいます。
しかし、今の仮想通貨はボラティリティ(価格変動制)が非常に高いのが問題だと考えています。 そこで、先日、日本円に連動したステーブルコイン(円ペッグ通貨)を2019年度中に発行すると発表しましたが、 これは安定性を重視したステーブルコインこそが、 金融インフラになり得ると考えたためです。 新しい通貨をさまざまな目的で使ってもらい、それにより市場が広がり、 利便性も広がるというのが我々の目指すところです。 現在、インターネットのサービスは人々の生活に欠かせないものになりました。 動画でもニュースでも何でもインターネット経由です。 それと同様に、仮想通貨も無くてはならないサービスに昇華していくはずです。
「これからも、インターネットを支え、新しい価値を提供する
■2019年3月には神戸で19年ぶりにICANN会議が開催されますが、貴社には開催地である日本側の運営組織としてローカルホスト委員会に参画していただいています。どのような理由で参加を決断されたのでしょうか?
桐原:ドメインのレジストリ、レジストラを営む我々にとってICANNはとても重要ですし、 各地で開催される会議には毎回必ず当社からパートナーが参加しています。 オールジャパン体制というのもありますが、 ドメインは当社にとって大事なビジネスでもあるので、 ぜひ運営に参画すべきだと判断しました。 多くの皆さんと、神戸の地でお会いできることを楽しみにしています。
■貴社には会員として長らく支えていただいていますが、JPNICにも何かご意見やご要望などありますでしょうか?
桐原:今回、 ICANN神戸会議の関係で密にコミュニケーションを取ることになりましたが、 実はそれまではあまり接する機会が無かったですね。 JPNICは業界的にとても大事な情報を発信しているので、 これを機に今後はもう少しコミュニケーションの機会を持てると良いなと思っています。 これは我々だけではなく、普段JPNICと接点の無い人々も同様だと思います。 裾野が広がっているという視点で言うと、 JPNICの情報発信には少し堅いところがあるので、 もう少し柔らかくなると良いなと思います。 多少はラフな部分もあると、より親しみやすくなると思います。
■貴重なご意見ありがとうございます。最後の質問になりますが、貴社にとってインターネットとはどのようなものでしょうか?
福井:やはり「無くてはならないもの」「無くなってはいけないもの」ですね。 必要性や必然性がベースにあって、生活を豊かにしてくれるものです。 インターネットの出現で、従来は図書館へ調べものに行かないといけなかったことが、 すぐにインターネットで調べられる便利な世の中になりましたよね。 また、Webサービスでいろいろな人と繋がったり、できたりすることが増えました。 今では、個々人の嗜好性や趣味に特化したサービスが世界中にあります。 生活を便利に、豊かにするもの。それがインターネットだと思います。
桐原:福井にほぼ言われてしまった感がありますが(笑)、 年を重ねるごと、時間が経つごとに進化していっていると感じます。 インターネットにはまだまだ可能性がいっぱいある、私はそう信じています。