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ニュースレターNo.73/2019年11月発行

「1割経済」とインターネットコミュニティ

JPNIC理事 穂坂 俊之

私の在住する九州地域(本稿では沖縄を除く7県と定義します)は、 面積は4万2,281km2で全国の11.1%、 総人口は1,291万7,000人で全国の10.2%を占めています。 また、小売業の年間商品販売額は全国の9.7%、電力総需要は全国の9.5%、 企業数は全国の10.3%という具合に、 主要経済指標がおおむね全国の10%前後となっていることから、 九州はわが国の「1割経済」とよく称されます。

これは通信に関わる統計でもそう大きく外れてはいません。 例えば、本年(2019年)4月に総務省が5G用の周波数を携帯電話事業者4社に割り当てた際の資料によると、 九州での5G高度特定基地局の開設数は、全国の9.4%となっています。 また、FTTH契約数は若干割合が下がりますが、全国の8.5%という状況です。

そのため、私自身も新サービスの立ち上げなど何らかの需要想定が必要な場合、 「全国需要の10%が九州内の需要として見込まれる」と簡便法で試算することがあります。 「全国の10%」という言葉は当社内でもそこかしこで聞くせいか、 そんなものだと受け入れられているように思います。

では、これをインターネットコミュニティの大きさという観点で見たときにはどうでしょうか。 一つの例として、JPNICに関して言えば、 会員や何らかの番号資源の割り当てを受けている九州の事業者・団体は、 全国の5~6%というところです。 JANOG(日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ)の運営に携わっている私の同僚に聞いてみたところ、 九州からの出席者はここ数回のミーティングでは全体の3~4%程度だとのことでした。 「1割経済」の割には、ちょっと少ないなという感想を持ちます。

原因はいくつか思いつきます。 九州地域でJPNICの会員や番号資源の割り当てを受けている事業者・団体が少ないのは、 地場の通信事業者・学術機関等が首都圏と比べて少ないからというのがその一つと思われます。 ミーティングに参加する人数が少ないのは、開催場所が物理的に遠いことが多く、 時間、費用の面で難しいから、 あるいはそもそもICT産業が東京一極集中になっているから、 などの理由が考えられます。

しかし、インターネット自体に関わる人数も九州では少ないのかと言われると、 そうではありません。 今や経済活動のあらゆる局面でインターネットが使われているのは他地域とも共通ですし、 特に福岡ではソフトウェア、 コンテンツ開発事業を中心に企業の進出や起業が相次いでおり、 ICT産業の厚みが増しつつある状況です。

このように九州でもICT産業に携わる事業者、 団体が増加しつつある状況ですから、 現状明示的にカウントできる事業者・団体数、ミーティング参加者数が、 経済規模から想定される数よりも少ないことは事実ですが、 少なくとも今後についてはまだまだ開拓する余地があり、 リーチすべき層があるはず」という解釈ができるのではないでしょうか。

弊社内でもそうですが、 学生を含めた若手はどうしても「アプリ開発」「サービス企画」というような上位レイヤの仕事に関心を向けがちであり、 「ネットワークインフラの構築、維持」や「インターネットの技術や運用」といった仕事、 もしくは業界全体に対し、 もっと関心を持ってもらえるような活動が必要だろうと思います。 さもないと、このような仕事をしている方々の世代交代が進まず、 技術・ノウハウが断絶してしまうという事態を招きかねません。 これを避けるため、JPNICやその他業界団体が考え、 実行しなければならない施策はあるはずです。

同時に、今コミュニティに参加している人が負う役割の大きさを、 (潜在的インターネットコミュニティの大きさ)÷(現在コミュニティに参加している関係者の数)で算出するとすれば、 分母がまだ少ない分、私も含めてですが、 その人たちの役割は大きいとも言えるでしょう。

インターネットのインフラが東京、大阪に集中しているが故に、 九州に「ネットワークインフラ」や「インターネット技術や運用」に関心を寄せる人が少ないという側面はあるでしょう。 ただ、地方においても私たちがインターネットのインフラを維持するために、 また、インターネットを健全に動かすためにどういうことをしているかという周知活動(アピールと言っていいかもしれません)や、 他の業界との交わり・共創をより積極的に行っていく必要がありそうです。

投資金額、人的リソース等で不利な立場に立たされがちな地方の事業者こそ、 人的つながりや助け合いの精神、きめ細かい対応が強みとなります。 そのような事業者の所属員として、また九州に生きる一員として、 「1割経済」以上の存在感を九州のインターネットコミュニティが発揮できるようお手伝いするとともに、 JPNICの非営利・地域担当理事として、 他地域の活性化についても知恵を絞っていきたいと考えています。


執筆者近影 プロフィール●穂坂 俊之(ほさか としゆき)
1995年東京大学法学部卒。 同年、国際デジタル通信株式会社(IDC)入社後、 ISP向けIPトランジットサービスの立ち上げ、販売を担当。 2002年から2008年までJPNIC事務局員としてIPアドレス事業に従事。 この間APNIC address policy SIG議長も経験。 2008年に生まれ故郷の九州へUターン転職。 現在、株式会社QTnet執行役員経営企画部長。 2018年よりJPNIC理事(地域・非営利分野担当)。

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