ニュースレターNo.74/2020年3月発行
5G前夜
JPNIC監事 高宮 展樹
5G商用スタート
いよいよ2020年春、NTTドコモ、ソフトバンク、 そしてKDDIの通信キャリア3社より次世代通信規格「5G」の商用サービスが開始されます。 5Gにより、伝送速度が10Gbpsを超えるような「高速・大容量」、 利用者に遅延を意識させることがないリアルタイム通信を実現する「低遅延」、 スマホ・PCに加えて大量のセンサー/デバイスがネットにつながる「多数同時接続」が順次提供されていくことになります。
「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」で求められる変化
5Gによりモバイル環境が10Gbpsにもなると、 これまで「高速・大容量」を担ってきた光回線は無くなっていくのか? というと、 そうではないようです。 Cisco社によるモバイルVisual Networking Index(VNI)の予測では、 モバイルトラフィックの約2/3がWi-Fiオフロードされる見込みであり、 オフロード先となる光回線の存在価値も高まります。 これまで以上に増大するトラフィックへの対応も急務となります。
また「低遅延」によるリアルタイム通信により、 自動運転や遠隔医療、eスポーツ、 仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といったさまざまなサービスの登場が想定されていますが、 これを支えるのがMEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)です。 ユーザー側により近い場所(エッジ)でサービス/コンテンツ/コンピューティングを提供することで、 応答性能を数msec以下に抑えたり、 デバイス側の処理をエッジ側で肩代わりすることでユーザー体感品質を向上させることができます。
「マルチアクセス」という名前の通り、5Gモバイル端末だけではなく、 固定網、Wi-Fi端末からなどのアクセスも想定されています。 これまで、データ(コンテンツ)やコンピューティングは、 クラウドの登場により分散から集中の流れでしたが、 MECによりまた分散へシフトすることになるでしょう。 データがエッジ側に遍在するとなると、モバイル端末、固定網、 Wi-FiからアクセスされるMECをどのように地域へ展開するのか、 MECからインターネットまでの経路をどう整備するのか、 MECをいかに安全に守るのか、高信頼性を維持するのかなど、 さまざまな検討が必要になります。
そして「多数同時接続」では、 ガス・水道のスマートメータなどのセンサー、産業用ドローン、 クルマなどさまざまな業種のモノがネットにつながっていきます。 在庫が枯渇したIPv4に代わりデバイス・アクセス側のIPv6化の進展に加えて、 サービス/コンテンツ側のIPv6化が期待されます。 加えて、これまで以上にライフラインとしてのネットへの依存度が高まります。
5G夜明けに向けてわれわれがやるべきこと
このように、5Gによりもたらされる「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった新たな価値提供は、 モバイル・固定網・Wi-Fiでの接続環境のどれにおいても同様に求められるようになります。 これらの期待に応えるために、私たちはしっかり準備をしていく必要があります。
具体的には、アクセス・コンテンツのIPv6化の推進、 MECの整備とライフラインとしてのセキュリティ・高信頼への準備、 さらにこれらインターネットの変革を支える若手エンジニアの育成などです。 JPNICはインターネットの円滑な運用のためにその基盤を支え、 豊かで安定したインターネット社会の実現をめざしています。 みなさまとともに5G時代に向けたインターネットの変革に貢献していきたく、 これからもJPNICの活動にご期待ください。