ニュースレターNo.74/2020年3月発行
インターネットことはじめ
行き交う電子メール
通信の普及と共に
![イラスト:博士](img/0320-1.jpg)
SNS (Social Networking Service)の普及に伴い一時期ほどではなくなりましたが、 電子メールは手軽なメッセージ交換の手段として広く利用されています。 この電子メールは、いつ頃誕生したのでしょうか? 歴史を遡ると電報やファクシミリも電子メールと言われたようですが、 ここでは、 主としてコンピュータネットワーク上でやりとりされるものを取り上げます。
電子メールが商用サービスとして一般ユーザーに普及し始めたのは、 1980年代、いわゆるパソコン通信の頃でした。 ただ、パソコン通信では当初、 同じサービス運営会社のユーザー同士でしかやり取りできませんでした。 時代が下ると、 別のパソコン通信サービスとも電子メールをやりとりできるようになりましたが、 標準的なプロトコルが作られたわけではなく、 別サービスの異なるシステム同士を接続するたびに、 相互接続するための仕組みを開発していました。
もっとも、 別システムのユーザーとも電子メールをやりとりしたいという要求は早くからあり、 1970年代には非商用ネットワークの一部で実現されていました。 例えばインターネットの前身と言われるARPANETでは1971年に電子メールシステムが開発され、 @を使ったアドレスはここが発祥と言われています。 またUnixベースのコンピュータでは1970年代後半にUUCP (Unix to Unix CoPy)という、 コンピュータ同士でデータ交換をする通信プロトコルが開発されていました。 UUCPでは遠隔地とのデータ交換に電話回線を使うことが可能であり、 専用線が極めて高価だった時代に、 電話料金が安い夜間にファイルを転送したり、 通信すべきデータが蓄積されたら電話をかけて転送するといった形で通信することができました。 1980年代に日本で始まったJUNETでは、 UUCPを使ったネットワークで、電子メールを実現していました。
SMTPとインターネットメッセージへの標準化
このようにコンピュータ間の電子メールはさまざまな形式のものが広がっていきましたが、 結果的にはTCP/IP上で動作するSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)でやり取り可能な、 いわゆるインターネットメッセージが勝ち残りました。 SMTPがRFC821※1、 インターネットメッセージがRFC822※2として定義されたのは、 1982年8月のことです。 その後時代の流れに合わせて2001年と2008年に改定があり、 2020年現在はRFC5321※3とRFC5322※4として定義されています。
この2本のRFCで電子メールをやりとりするための方法と、 やりとりされる電子メールそのものの形式が決まりました。 これによって、 異なるシステム間で電子メールをやり取りすることが楽になりました。 前述のパソコン通信で言えば、 システムごとにバラバラだった転送方式を一つにする、 つまり標準化できたわけです。 その後、受け取ったメールを読み出すためのプロトコルとして、 POPやIMAPも標準化されました。
https://tools.ietf.org/html/rfc821
https://tools.ietf.org/html/rfc822
https://tools.ietf.org/html/rfc5321
https://tools.ietf.org/html/rfc5322
モバイルおける普及が後押し
![イラスト:ロボット](img/0320-2.jpg)
こうして、1980年代から1990年代に電子メールが普及しましたが、 日本において爆発的な普及に一役買ったのは、 1999年2月にNTTドコモ社がサービスインしたiモードでした。 もちろんiモードも一つの独立したシステムであり、 電子メールも独自に実現されています。 しかしSMTPを使うことで、文字数なのどの制限はあるものの、 インターネットメールと相互にやり取りが可能でした。 NTTドコモ社以外の携帯電話事業者も順次インターネットメールへの対応を進めていき、 一時期は年末年始に挨拶メールの処理が遅延するほどに普及しました
その後2010年代になるとスマートフォンの普及により、 通信キャリア独自のシステムであった電子メールは、 よりインターネットへの親和性の高いものに変わっていきました。 多少設定の手間はかかりますが、 普段PCで読み書きしている電子メールをスマートフォンで読み書きすることも可能です。
インターネット標準としての電子メール
スマートフォンの普及とほぼ時を同じくして、SNSが台頭します。 親しい人間とのメッセージ交換にはSNSが使われるようになり、 電子メールは一時期ほどの地位を失ったように見えます。 しかしSNSは私企業が運営する一極集中型のサービスであり、 いわばパソコン通信への先祖返りとも言えます。 極端な話、運営会社がサービスを終了してしまうとそれまで、 とも言えるのです。
対して電子メールは標準規格であり、 一私企業の倒産によって止まることはありません。 これが標準規格の大きな利点です。 とはいえ、電子メールは止まらなくても、 自分のメールアドレスやメールボックスが無くなる可能性はあります。 サービス提供会社を見極める、という点では、 電子メールでもSNSでも大差ないのかもしれません