ニュースレターNo.76/2020年11月発行
JPNIC会員 企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
~お仕着せでは無くお客様に合わせて作り込む喜び~
株式会社エヌアイエスプラス
住所 | 〒112-0002 東京都東京都文京区小石川1-28-3 NIS小石川ビル |
設立 | 1992年5月20日 |
資本金 | 1,000万円 |
代表者 | 代表取締役社長 入沢 厚 |
従業員数 | 約20名(2020年10月23日時点) |
URL | http://www.nisp.co.jp/ |
事業内容 |
http://www.nisp.co.jp/about.html
■企業内システムおよびネットワークの設計、開発、運用、コンサルティング等 |
今回は、1992年の創業から今年で29年目を迎えた、 株式会社エヌアイエスプラスを取材しました。 同社は、社長である入沢厚氏の得意とするUNIX関連の技術開発で、 創業以来研究機関などからの受託開発に強みを発揮し、 医療機関向けや航空管制向けといった重要なシステム開発に多く携わっています。 その一方で、林業の就業支援事業といった、 一見するとIT関連と縁遠く思えそうな業務も展開されています。
今回も、新型コロナウイルス感染症を巡る状況から、 前号に続いてのリモートによる取材となりました。 当日は、入沢厚氏と野崎奈美氏のお二人にお話をうかがい、 同社が幅広く事業を展開されている理由と、その背景にある顧客とともに成長し、 古いものに固執せず時代に合わせてサービスや開発手法を柔軟に変えていくという、 同社の強いポリシーを感じることができました。
オンリーワンのシステムを多数構築・運用
◎まずは貴社の成り立ちについて教えてください。
入沢:創業は1992年の5月で、システム受託開発を行う会社としてスタートしました。 弊社の顧客には研究機関や医療機関などが多く並びますが、 その理由は私が創業前に行っていた仕事に関係しています。
業界に入った当初からUNIXの開発を行っていました。 その中でも当時のUNIXの上に日本語処理環境を構築する仕事をしていました。 今だとLinuxなどでも最初から日本語を扱えますが、 当時のUNIXはそのままでは日本語を処理できませんでした。 当時の商用UNIXの日本語処理関係の仕事に多く携わらせていただきました。
そして、当時Sun Microsystems社のシステムは研究開発などの用途で使われることが多かったのですが、 代理店である伊藤忠テクノサイエンスさんや東芝さんといったところから、私が当時、 在籍していたソフトハウスに仕事が回ってきていたものの、 研究機関などからは直接ソフトハウスに発注を受けることも多く、 そのうちに私宛に声をかけていただくようになりました。 そのような仕事を通じて、研究機関などの繋がりができていきました。
また、医療系への繋がりは、Sun Microsystems社やIBM社の仕事を通じて、 国立がんセンターのプロジェクトに関わったことがきっかけです。 創刊当時のiNTERNET magazineに、 インターネット経由で気象衛星ひまわりの撮影画像を配信するという記事が載りました。 その記事は国立がんセンターのネットワークから配信されており、 当時国立がんセンターに在籍されていた水島洋先生が運用されていて、 弊社にてサポートをさせていただきました。 この仕事をきっかけに、 東京医科歯科大学の田中博先生や札幌医科大学の辰巳治之先生といった、 各地の医療機関の先生達と繋がりができ、 研究会の立ち上げと同時にネットワークの構築に関わるようにもなりました。 そのような流れから、日本赤十字社のドメイン管理や、インターネット接続のサポート、 全国のセンターをネットワーク接続するような仕事もさせていただくことになりました。
自治体や航空管制に関係した仕事が多いのも、 Sun Microsystems社に関連した仕事を受けていた関係からです。 当時は、同社のシステムがそういう用途で使われることが多く、 最初はシステム構築からのスタートです。 今と違って、システム開発とネットワーク運用が別々の業務として分かれていることもなく、 全部「UNIX」と一括りにされることが多く、「開発ができるなら、 運用もできるでしょ?」と言われ、 ネットワーク運用もさせていただくきっかけとなりました。 実際、当時は両方できないとダメだったんですよね。
◎どこにも止まって良いシステムなど無いと言えばそうですが、特に医療や航空管制などは特別のご苦労がありそうですね。
入沢:例えば、日本赤十字社さんのシステムには創業時から関わっていますが、 こういったシステムでは「エラーが起きた可能性がある」だけで大問題になります。 普通のシステムでは、エラーが発生したらインシデントとして報告という流れになると思いますが、 特に医療関連のシステムでは、そういうことではすまない怖さがあります。 品質には十二分に注意を払い取り組ませていただいております。 また、通常は運用保守と言えば遠隔から死活監視をしてエラーが出たら対応という感じだと思いますが、 このような案件では単にシステムが動いているかどうかを見るだけでは無く、 実際にお客様が業務で利用する前に、 お客様の業務を熟知した弊社のメンバーが実際にシステムの動作を確認するなどして、 細心の注意を払って保守にあたっております。
また、そのような、特殊なシステムを扱っているので、 人材育成の際には実践を重視しています。 やはり、触ってみないとわからないところがありますからね。 日本では唯一無二な業務に携われるので、そこは魅力だと思います。 ある意味では、他に潰しが効かなくて社員に申し訳なく思う部分も多少はありますが、 自分達にしかできない社会貢献だということで、 みんなには自信を持ってもらいたいと考えています。
顧客とともに成長し、顧客のニーズを先取りしたサービスを展開
◎貴社は長年お付き合いのある取引先が多い印象ですが、選ばれ続ける理由にはどんなものがあるとお考えでしょうか?
入沢:たまたまなのか、弊社の取引先には良いお客様が多く、 システムを作ってそれでおしまいではなくて、 10年20年単位で一緒に育てていこうという方が多かったのが理由だと思います。 これからの事業でも、そういう展開ができればと考えています。 開発ではDevOpsという方式があり、 これは開発も運用も同時に並行して進めようというものです。 昔はそれこそウォーターフォール方式という、まずは仕様書を書いて、 設計をして……など工程ごとに細かく分かれていましたが、 こういった方式は今の業務や技術の進化には馴染まないと考えてます。 お客様のスピードに合わせるべく、 同時に開発側も成長していかないとITの流れについていけません。 もう世の中がそういう時代になってきています。
時代に合わせて変化していくということでは、 我々が関わっているMeWCA(特定非営利活動法人医療福祉クラウド協会)も同様です。 先ほど話に登場した水島先生が、 当初立ち上げた医療情報ネットワーク相互接続研究会(MDX)からスタート。 その後、特定非営利活動法人日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)への活動と繋がりました。 ただ、10年間活動してきた中で、 これだけインターネットが広がってきたのだから医療情報だけではなく、 これからの時代やニーズに合わせ高齢化社会や、 介護業界などへの対応も視野に入れていかなくてはいけないと考え、 今のMeWCAへとなりました。
昔は、システムが固有のものになると、 なかなかそこから抜け出せないということがありました。 しかし、最近の開発やインフラは、非常に柔軟性があり、 今ならクラウド上でシステム開発をすることで、 システムの改修や機能追加も実装しやすくなっています。 本来、お客様は常に、 業務の改善や利便性の向上を図りたいと考えていますが、 いろいろな縛りからシステム改修や機能追加が容易にできなかった時代がありました。 今は昔のものに拘泥せずに新しいものをどんどん取り込んでいける環境が整ってきているので、 お客様の業務がよりよいものになるように、 そのお手伝いをさせていただければと考えています。
◎いろいろなシステムの開発をされていますが、今後もこういった 業務を主力に展開を考えていらっしゃるのでしょうか?
入沢:これからの方向性としては、受託開発だけではなく、 積極的に提案型のシステム営業ができなくてはいけないと考えています。 時代に合わせて、サービスを変えていくことも重要です。 その上で、今はデジタルトランスフォーメーション(DX)に力を入れており、 調査関連の仕事とAIに注力しております。
実際の業務としては、 データの収集・分析をして報告書を作成するという業務になりますが、 この業務を通じてDXの状況を把握できます。 最初は集めたデータをどう活用したら良いかわからないものばかりでしたが、 そこで得た経験はシステム開発の業務にもきっと活かせるはずだと考えて取り組み始めました。 今、我々が受託している調査案件では、 お客様自身がデータの扱い方やデータの価値を十分に理解されてないケースが多々あります。 集めたデータから、データ活用について、我々から提案していくことで、 お客様からシステム構築の相談を受けることも増えてきており、 着実に成果は出てきていると感じています。
例えば、我々は調査関連から繋がった業務として、 林業就業支援事業に関わっていますが、これも単なる事務局にとどまることなく、 ITを使うとこんなに便利になるということを、 気付いてない方が多くいらっしゃいます。 新しい林業の在り方を我々が示すことで、 林業に携わる人が増えてくれればと考えています。
自治体などでも、まだまだデータ活用の方法があると考えています。 各自治体には保険のデータや、介護認定などのいくつものデータがあるのに、 それらがすべて縦割りに管理されています。 その部分を改善すると、例えばどうして医療費が高いのか調査してみると、 実は味噌汁の塩分が多かったことが判明し、 その部分を改善することにより自治体自身の収益が変わってくるなどの活用方法もあると考えています。
AIに関する具体的なプロジェクトとしては、 AIを活用した医療情報総合サイト「メディプラス.info(https://medical-plus.info/)」を立ち上げました。 AIの技術を活かした、キュレーションサイトです。 医療系の情報を集めて発信しているのですが、集めた情報の絞り込みにAIを使っています。 通常の検索だと、「在宅」というキーワードでデータを取ってくると、 医療に関係した情報と同時に、それとは関係の無い情報も取ってきてしまいます。 そこをAIに学習させて、 より医療に関係のある情報を表示するような仕組みを構築しているところです。
また、今はコロナ禍でオンラインでの診断や診療が多く行われるようになってきていますが、 これもデータベース化していきたいと考えています。 実際に医療を受ける側、 使う側もどういうサービスがどこで提供されているのかを検索できるようになると、 とても良いものになるはずです。 今は医療が存在していても、利用者などが、その情報を探す術が無い状態です。 そういったコンテンツも充実させていきたいですね。
拠点に関しても、2008年頃からベトナムに会社を設立していて、 現地でもシステム開発をしています。 当初はベトナムでベンチャー企業の立ち上げを支援するようなことを行っていましたが、 弊社がもともと医療系に強いことから、 ベトナムの病院向けのシステム開発を現地で行うようになりました。 ベトナムは今、とっても勢いがありますね。
◎医療情報の総合サイトということですが、具体的にはどういった情報を扱ってらっしゃるんでしょうか?
野崎:メディプラス.infoでは、医療従事者向けはもちろんですが、 医療に関するすべての方が、容易に情報を取得できるサイトを目指しています。 医師・看護師向けのサイトは提供しておりますが、 それに限らず医学生や看護学生、さらには医療サービスを受ける患者さん、 患者さんの家族といったところまでもターゲットに考えています。 自分や周りの人が病気になった時や、医療従事者を目指したい方が、 このサイトにくればいろいろなことがわかる、そのようなサイトを目指しております。 例えば、アプリで調剤を申し込めたり、 ドライブスルーで薬を受け取ったりできる薬局などがありますが、 そういう情報なども今後、提供していきたいです。
さらに先の展開としては、医療従事者同士や医療を利用する方々などで、 情報を交換できたり、学会情報や集客などもできるようにしたいと考えております。 また、サイト上で学会や研究会が簡単に開催できるなどの展望を持っています。 医療に係るすべての方々のための医療情報総合サイトとしていくのが目標です。 コロナ禍でインターネットのサービスは凄く注目されていますので、 スピード感を持ってサービスを提供していけたらと考えています。
◎そういうのが実現するととても便利になると思います。このメディプラス.info以外にも何かありますでしょうか?
入沢:あとはかれこれもう15年ぐらいになりますが、 当初は国立情報学研究所(NII)と、現在は奈良女子大学と一緒に、 国産の並列化OSの開発をしています。 OSは既に完成していて発表もしているのですが、 まだ世の中には出ていないという状態です。 並列化OSとは、普通のパソコンを複数台繋いで動かすクラスタOSです。 これは少し面白くて、 OSは普通ハードウェア依存でカーネル空間が作られていて、 例えばVMwareではハイパーバイザがハードウェアに1対1で対応し、 その上で複数のゲストOSが動きます。 それに対して、我々が作っている並列化OSでは、 複数のパソコンで一つのカーネル空間を持つことになります。 MBCF(Memory Based Communication Facility)という機能を構築し、 ハードウェアを跨いで情報共有する仕組みを実装しています。
この並列化OSが一番力を発揮するのは、ミッションクリティカルな業務です。 構成するパソコンの1台が壊れたら、その代わりの新しいパソコンを取り付けて、 古いパソコンで動いているプロセスを移してから、 壊れたパソコンを取り外すということが可能になります。 止められないコンピュータ向けの仕組みですね。 並列化を実現する基本機能であるMBCFを、 Linuxのユーザー空間だけで動くように作り直しているところです。 これも来年ぐらいには完成させたいと考えています。
少数精鋭の組織が、多様なシステム開発に取り組める秘訣
◎社員は20名とのことですが、その人数でこれだけ幅広い業務を展開されているのは凄いですよね。
入沢:はい、全員フル稼働です。 その分、レクリエーション的なことには力を入れています。 今はコロナ禍ですので、イベントは控えておりますが、 ボーリングやゲーム大会なども定期的に、実施しています。 また、社内には防音室完備の部屋にピアノを設置していたり、 バーがあったり、卓球ルームもあったりします。 比較的デスクに向かってする業務が多い中、体を動かしたりして、 リフレッシュし業務に取り組めるように工夫しています。 あまりにも快適なのか、 一時期は家に帰らずここに住んでしまっているような社員がいたぐらいです(笑)。
◎本日は野崎様にも取材にご同席いただいていますが、社内には女性社員の方はどのぐらいいらっしゃるんでしょうか?
入沢:プログラマは男性の方が多いですが、 社員数で見れば女性の方が多くなっています。 それも事務や経理などの間接部門ではなく、 それぞれがフロントに立ってお客様と要件を決めたりスケジュールを確認したりなどの業務にあたっています。 この業界では珍しい構成だと思います。 これは先ほどもお話したように、開発がウォーターフォールではなくアジャイルになってくると、 お客様とのコミュニケーションがより一層重要になってきて、 そういう部分で女性の方が力を発揮できると考えています。
野崎:割合としては6:4ぐらいで、女性の方が多く在籍しております。 コロナ禍の今はちょっと難しいですが、以前は女子会もやったりしていたんですよ。 そういう意味では、弊社はWebサイトなどを見るとやや固いイメージですが、 社内の雰囲気は意外にそうでもないです。
◎長年会員として支えていただいていますが、JPNICに何かご意見やご要望などはあるでしょうか?
入沢:IPアドレス関連については、今は特に困っていることは無いですね。 IPv4はNATを使って節約して利用することができていますし、 IPv6に関しては参加している研究会が/44の空間を持っていて使っていますので。
JPNICに実現をしていただけると嬉しいのは、 海外の技術の標準化情報を日本へ発信していただきたいです。 インターネット関連の情報自体はJPNICでもAPNICでも盛んに発信していますけど、 周辺の情報はそうでもありません。 例えば、米国にOMG(Object Management Group)というアプリケーションの協調運用のための標準化を行っている非営利団体があるんですが、 日本のITベンダーはほとんど知らないかと思います。 GoogleやAmazonなどの情報以外が、日本の業界は弱いと感じています。 そういう知識の差が米国などとのIT格差に繋がっていると思うので、 そのような情報も発信していってくれると嬉しいですね。
◎貴重なご意見、ありがとうございます。最後になりますが、あなたにとって「インターネット」とは?
入沢:インターネット自体が無いことは考えられないものです。 この仕事自体が趣味の延長というぐらいコンピュータが好きなので、 今さら「インターネットって何?」と聞かれても、 「何だろうね?」と考え込んでしまいます(笑)。 JUNET時代にメールのやり取りをしていた頃からずっと使っていて、 でも休日にインターネット三昧というわけではないですし、 携帯電話でネットなどを閲覧することもほとんどありません。 そういう意味では、インターネットを使って何かをするのが好きなんじゃなくて、 インターネット技術、そのものが好きなのかもしれませんね。
野崎:私もインターネット歴は結構長いのですが、 つい最近まではインターネットは完全に仕事道具だと思っていました。 そのため、休日はパソコンも携帯電話も見ずに、 多過ぎる情報をシャットダウンすることが多かったです。 しかし、新型コロナウイルス感染症が流行するようになって以降は、 インターネットはコミュニケーションを取りにくくなった人達と話をするための、 重要な手段だと感じるようになりました。 対面に比べるともちろん劣りはしますが、 表情を見て人と話せるのはとっても重要です。 こういったことから、最近は仕事道具でもあり、 コミュニケーションツールでもあると考えています。
入沢:今、話をしていて、 私は何かを作っているのが楽しいんだなと思い至りました。 ネットワークだとルーティング設計をして繋がるかどうかわくわくする、 プログラムも自分で構成を考えたものが綺麗に回るかドキドキして、 それがきちんと動き出すと凄く楽しいです。 今時のシステム構築では、もうある程度パターンが決まっていて、 例えればハウスメーカーで家を建てるような感じの開発が多々あります。 一方、我々の仕事は、基礎をどこまで入れるか、 柱をどこに何本立てるかから考えていくような、 一つずつ作り込んでいくような作業です。 大変ではありますが、そうやって書いていったコードが動くのは、 技術者としてまた異なる楽しさがあります。 私は根っからの技術者ということですね(笑)。