ニュースレターNo.76/2020年11月発行
INTERNET ♥ YOU No.11
株式会社KADOKAWA Connected KCS部 Network&Facility課 高木 萌さん
高木さんがインターネットに興味を持ったきっかけ
インターネットは意識せず利用し始めたのですが、家族の影響があったかもしれません。 身近に家族共有のパソコンがあり、自分用のアカウントも作ってもらっていました。 家族と一緒にパソコンを触り始めたのが最初です。 小学校低学年の頃には、チャットを使って会ったことがない人と話をしていました。 その後、Webサイトを作って公開したり、SNSのボットを動かしたりしていました。 小学校高学年から中学生くらいの頃が、 一番インターネットサービスで遊んでいたと思います。 サーバやボイスチャットのオーナーとして24時間運用もやりました。
大学時代の専攻や経験したことについて
大学では、理学部物理学科に所属し、素粒子物理学理論を専攻していました。 父が数学者だったため、身近に数学や理学がありましたし、自分自身、 小さい頃からIT系に興味があったので、自然と理系を選択しました。 せっかく大学で学ぶのなら、自分では手を付けづらい基礎科学をやりたいと考え、 その中でも自分達の生活に結びついている部分が多い物理を選びました。 高校生の頃に、物理は身近な物理運動を数式化し計算する学問だと学びました。 その計算ができると、予測ができる。 いわば未来予知ができるという面白さから、物理の魅力に取り憑かれました。
大学生の頃には、仲のいいメンバーで自主ゼミもやっていました。 ゼミの面倒を見てくれていた先生から、 実習室で小さなインターネットを作ってみようという課題をもらいました。 それをきっかけに、インターネットがどのようにして作られているのかを調べました。 ソフトウェアルータをインストールしてBGPやOSPFの設定をしたり、 LANケーブルを抜いて経路を迂回させてみたりして、 インターネットの仕組みを初めて意識することができました。
また、APRICOT-APAN 2015日本実行委員会が国際会議参加支援プログラムを提供していることを、 ゼミの先生から教えてもらい、 ジャカルタで開催されたAPNIC 40カンファレンスに参加しました。 これがインターネットコミュニティを知ったきっかけです。 さまざまなセッションやチュートリアル、ソーシャルイベントに参加し、 大学内では得られない学びや経験ができました。
大学卒業後の進路と、これまでのキャリアについて
高校生の頃に、宮城で東日本大震災を経験し、 インフラ全体がとても大きな被害を受けた姿を目の当たりにしました。 当たり前に存在したものが壊れてしまったことで、 インフラは誰かが用意してくれるから存在しているものだと痛感しました。 そういった経験から、大学入学当初は物理学の専攻を生かしたインフラに携わりたいと考えており、 電力業界を見据えて放射線取扱主任者試験の勉強もしていました。
一方で、自主ゼミやAPNIC、JANOGでの経験から、 インターネットはいろいろな人が話し合い、 どうすれば良くなるだろうかと考えて作られているインフラだと知り、 自分はそれを意識することもなく使っているという事実に、 とても衝撃を受けました。 こうした経験を経て、インターネットの技術に関わる仕事で、 特にAS運用に携わることができる回線事業者・キャリアや、 よりインフラに近いデータセンター事業者など、 インターネット側の仕事を志望するようになりました。 APNICでの経験がなければ、電力系の社会インフラか、 もしくはプログラミングなどの上位レイヤに進んでいたと思います。
最初に入社したのはISPでした。 ケーブリングやタグ付け、 ラッキングなど基本的なデータセンター作業のいろはから学びました。 ピアリングでは、ルータに設定を入れるだけではなく、 トラフィックとコストを試算して設計と構築をすることも経験しました。 IPv4 over IPv6サービスの構築作業も担当しました。 家庭用ルータについて、通信に問題ないか、セキュリティは大丈夫かなどを検証し、 メーカーにフィードバックしていました。 ネットワークエンジニアは自社の4over6システムやネットワークについて、 メーカは家庭用ルータの仕様やテストケースについて、 それぞれ専門知識を有しているため、連携して、 お互いが詳しい情報を持ち寄り、話し合いながら開発を進めていました。 少数精鋭の会社だったので、先輩に見守られながら、 バックボーンの根幹に関わる部分の業務に携わることができました。
2020年4月に、現職のコンテンツプロバイダーに転職しました。 コミュニティ活動を通じて、 ASの運用ポリシーは目的に応じて変わってくることを知りました。 利用目的の違うASを経験してみたいと考えたのが、転職のきっかけです。 弊社では長距離伝送技術の検証などに積極的に取り組んでいますが、 このような挑戦的・実験的なことができるのも、 コンテンツ系のASの魅力だと感じています。 ASとASの接続点がないと、インターネットから遠ざかってしまうので、 転職を検討する上で、ASを運用している会社であることを条件にしていました。 今でも、トラフィックグラフやBGPのピアは毎日見ています。 現在の主な業務は、ニコニコ動画のバックボーンをはじめとした、 KADOKAWAグループの巨大ネットワーク運用です。 他には、KADOKAWAが展開する複合型施設である「ところざわサクラタウン」で、 全館へのWi-Fi環境構築を担当したり、 弊社が連携協力している東日本電信電話株式会社と独立行政法人情報処理推進機構による「シン・テレワークシステム」の実証実験で、 バックボーンの設計構築を担当したりしています。
コミュニティでの活動について
JANOGには、若者支援プログラムを利用させてもらい、学生の頃から参加しています。 社会人になってからは、恩返しの意味も含めて、 若者支援プログラムのサポートをしています。 JANOGのような大きな会議に初めて参加すると、 どうしていいかわからない孤独感があります。 私をサポートしてくれたベテランの方がいたように、 そういう役割を自分もしてみたいと思いました。
今の若者は、インターネットのインフラ部分を知らない人が多いと感じますが、 技術の好きな人はずっと一定数存在しています。 インターネットのインフラに興味を持ってもらいたいと思い、学生の頃は、 ISOC日本支部の方や、 株式会社インターネットイニシアティブの松崎吉伸さんに大学に来てもらい、 ネットワークエンジニアがどんなことをやっているか話してもらう活動もしました。 現役エンジニアの話を聞いたことがきっかけで、 ネットワーク系の研究室に進んだ後輩もいて、やってよかったなと思っています。
その他では、元々イベントのNOCに興味があったため、Internet Week 2018でNOCメンバーに応募し、参加しました。 来場者用のWi-Fi構築をしたり、突貫で工事をしたり、運用監視をしたりして、 やってよかったです。 業務で触る機器は限られていますが、イベントのNOCでは多様な機器が、 自身の業務とは違う用途で使われているようなこともあります。 メンバーも、技術が好きで濃いメンバーが多く、 雑談すると新たな気づきや知見を得ることもありました。 NOCの活動は継続的にやっていきたいです。
今後の目標について
今は先人達が作ってくれたものを勉強して、 それを利用するという立場に留まっているため、 今後はアウトプットを増やし、 標準化等の分野にもコミットしていきたいと思っています。 細かいところだと、 もっと大きくコミュニティに対して提案・改善などをしていけるようになりたいです。 単なる会社のエンジニアにとどまらず、 インターネット全体に対して技術貢献していきたいです。
エンジニアとして、技術的なスキルアップの目標も当然あります。 一つは、勉強中の長距離伝送技術です。 多くの機器が高価だったり、 光通信の物理学的な知識が必要だったりという側面もありますが、 使いこなせるようになって、 通信品質の向上やチューニングができるようになりたいです。 もう一つはBGPです。 経路ハイジャックや、オペレーションミスによる経路障害は珍しいことではありません。 安定したインターネットのために、RPKIの普及などにより、 BGPのセキュリティを高めていきたいと考えています。
高木さんの趣味について
昔から、時間があるときには物を分解するのが好きです。 タブレットを分解してみたり、中国から部品を取り寄せて交換してみたりします。 半田付けもやります。
他には、最近、子供の頃に遊んでいたゲームのリメイク版が発売されるので、 懐かしいなと思いプレイしています。 すごくゲーマーというわけではありませんが、新しいゲーム機が発売されると、 とりあえず買っていますね。
最後にインターネットに対する愛情のこもったメッセージをお願いします!
インターネットは、人と人が相談しながら作っているとても素敵なインフラです。 自分も、周りの人を巻き込みながら、 より素敵なインターネットを作っていきたいと思っています。