ニュースレターNo.77/2021年3月発行
インターネットことはじめ
チャット~テキストで会話を~
1. 手軽なメッセージ交換
2021年現在、手軽な連絡手段としてチャットツールないしメッセンジャーが普及しています。 1行1文、もっと言えばスタンプ一つで手軽にやり取りできたり、 簡単にグループを作って複数人でやりとりできたりと、 便利なツールです。今回はこのチャットツールを追いかけてみます。
2. 歴史的ツール
さかのぼると、1979年にAT&Tベル研究所から配布されたVersion 7 UNIXには、 指定した相手にメッセージを送るだけの機能でしたが、 writeコマンドが標準で入っていました。 1983年にカリフォルニア大学バークレー校から、 主に教育機関に向けて配付された4.2BSDというOSに、 talkというコマンドがあります。 これは、1台のホストコンピュータにログインした複数のユーザー同士が、 それぞれのログイン端末を経由してテキストをやりとりする、 というものです。 画面が上下に分割されて、自分の入力と相手の入力が分かれて表示されます。 おそらくこのあたりがチャットツールの起源だと思われます。 1980年代後半に普及した、パソコン通信サービスでも同様の機能が用意されていました。
1988年になると、Internet Relay Chat (IRC)が開発され、 1993年5月にRFC1459になりました。 IRCはサーバ/クライアント型のシステムですが、 ツリー上に構成された複数のサーバ間でデータを転送することで、 異なるサーバに接続したクライアント間でも会話が可能になっています。 通信プロトコルが公開されていたので、さまざまなクライアントが作成されました。 最盛期には及びませんが、今でも使われています。
こんなに古い時代でも、端末やクライアントプログラムが文字表示をサポートし、 当事者同士が文字コードを一致させれば、 漢字仮名交じり文でのやり取りが可能でした。
3. 近代的ツールの誕生
IRCは1980年代から使われていましたが、 一般ユーザーへの知名度はそれほど大きくありませんでした。 チャットツールを世間に知らしめたのは、1996年に登場したIP MessengerとICQです。 どちらもメッセージには漢字とひらがなを含む、ASCII以外の文字が使えました。
IP Messengerは白水啓章氏が開発した、 LAN内での利用を想定したシンプルなチャットツールで、サーバを必要としません。 そしてユーザーを自動的にリストアップする機能があります。 このため、非常に簡単にメッセージを交換できました。 現在でもメンテナンスされていて、2019年9月リリースの最新版では、 ルータを超えてユーザーを自動認識することも可能です。
ICQはイスラエルのMirabilis社が開発したメッセンジャーソフトで、 I seek youからの命名です。 ICQはWindowsと共に普及し、 世界規模でメジャーになった初めてのメッセンジャーソフトの一つとなりました。 ファイルの転送も可能でしたが、 基本的には1対1でメッセージを送り合うプログラムです。 なお、ICQにはユーザーを探す機能はありませんでした。 それもあって、運営元のWebサイトなどに、 電話帳よろしく「ICQ番号」を含むコンタクトリストが掲載されていました。 今となっては個人情報保護などの観点から、こうした運用は難しいでしょう。 2000年頃によく使われていて、運営母体は二転三転したものの、 今でもサービスは継続しています。 しかし後発のさまざまなチャットツールが普及したこともあり、 現在ではマイナーな存在になっています。
4. 現代のツール
ICQがメジャーになって以後、さまざまなチャットツールが現れては消えていきました。 そうしたツールを列挙すると、AOL Instant Messenger、Google Talk、 Google Hungout、MSNメッセンジャー、XMPP、Yahoo! Messenger、iChat、 iMessengerなどがあります。 しかし日本においては知る人ぞ知る、という状態で、 一定以上の支持を得られませんでした。
これを覆したのがLINEです。 サービス開始は2011年6月で、 携帯電話やスマートフォンのアプリケーションとしてスタートしました。 初期には、 スマートフォン内の電話帳から自動的にユーザーを探して登録するという動作がプライバシーやセキュリティの点で問題視されます。 しかし、連絡を取りたい相手が簡単に登録できたというのも事実で、 使い勝手を優先する一般層に普及した要因の一つかもしれません。 また、スマートフォンへの移行に伴い携帯各社のキャリアメールのトラブルが起きたこともあり、 キャリアメールを置き換える形で、急速に普及していきました。 なお日本においてはLINEが圧倒的な普及率ですが、 世界的にはWhatsApp Messenger、Facebook Messenger、 WeChat(微信)などの方が普及しています。 いずれも基本はテキストメッセージのやり取りですが、 写真や動画を送ったり、通話したりも可能です。