ニュースレターNo.79/2021年11月発行
JPNIC会員 企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
~自らの仕事に最後まで責任を持てる事業をめざして~
株式会社リンク
住所 | 〒107-0061 東京都港区北青山 2-14-4 アーガイル青山 14階 |
設立 | 1987年11月18日 |
資本金 | 10,000,000円 |
代表者 | 岡田 元治 |
従業員数 | 106名(2021年10月15日時点) |
URL | https://www.link.co.jp/ |
事業内容 |
https://www.link.co.jp/aboutus/gaiyo.html
■クラウド・ホスティング事業 ■セキュリティプラットフォーム事業 ■テレフォニー事業 ■農系事業 ■その他 |
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は1987年11月の設立で創立から34年を迎えた、 株式会社リンクを取材しました。 同社はホスティング業としては老舗かつ実績に定評のある企業ですが、 当初は広告業を行っていたものの1996年からホスティング業に参入したという、 少し意外な経歴を持っています。 現在では、ホスティング事業のほかに、 テレフォニー事業やセキュリティプラットフォーム事業、 さらには農系事業など、幅広い業務を展開されています。
当日はリモートでの取材となりましたが、単なる事業内容の紹介に留まらず、 前身の広告業界での経験なども踏まえた、ビジネスに関する考え方や、 人材に関する考え方、また、 もっと広い視点での現代の消費行動に対する警鐘など、 さまざまなお話を伺うことができました。
縁が実現させた広告業界からIT業界への転身
◎まずは貴社の成り立ちについて教えてください。
岡田:当社は1987年に、広告制作会社として創業しました。 まだ、一般の世の中ではインターネットのイの字もない頃です。 私は元々、翻訳・編集・広告のコピーなどの書き仕事をやっていて、 それを業として会社を作りました。 インターネット業界への参入は、 株式会社エーティーワークスと共同で「at+link 専用サーバサービス」の提供を開始した、1996年からです。 今は運営している中洞牧場関連のコピーを書いているぐらいで、 もう受託広告の仕事はしていません。
広告業は人様からお金を貰って人様の仕事を良いように書くという仕事で、 悪いことは書いたりできません。 そして、広告したものがいくら売れようが、 その広告で売れたという証明もなければ、報酬が変わることもありません。 若い職業訓練期にそういう仕事を経験した自分にとって、 翻訳も編集も広告も、 所詮は依頼主の意図から離れられないという意味において少し虚しい仕事で、 この仕事だけで生き続けることはちょっとシンドイなと感じていました。 それが、バブルが弾けた影響で1992年から1996、 7年にかけて経済が大きく落ち込み、 広告はコスト削減の対象となりやすい業種だったことから、 とても会社が維持できない状況になりました。
幸か不幸か、この不景気が方針を転換するきっかけとなり、 富山の株式会社エーティーワークスとご縁があって、 たまたまホスティング事業を始めることになりました。 これによって、我々は自らのサービスを宣伝するだけではなく、 宣伝をしたものを自分達で売って、 自分達でその後の面倒を見る自社サービスを始めることができました。 これを自分的には協業型の広告と思っていますが、 販売からサポートまで自分達で行うことで、広告にいいことだけは書けない、 実のあることしか書けなくなりました。 自分達の後始末を自分達で付けられる仕事をやれるようになりましたし、 結果として非常に良い業態転換となりました。
◎現在は四つの事業を主に展開されているとのことですが、
どのような割合となっているのでしょうか?
阿部:現在の主力はテレフォニー事業で、 これが55%ほどで半分強を占めています。 あとは、クラウド・ホスティング事業が30%、 セキュリティプラットフォーム事業が10%、 残りが農系事業その他という感じになっています。 元々、ホスティング事業でこの業界に参入したこともあり、 at+link専用サーバサービスは10年連続日本一だったのですが、 Amazonに代表されるクラウドサービスの普及によって移行が進み、 当社でも現在はベアメタルクラウドというIaaSを提供しています。 現在大きく伸びているBIZTELは、5年連続日本一となっています。 最近のコロナ禍も、BIZTELには大変な追い風となっていて、 コールセンターの在宅化やテレワーク需要のほか、 自治体のワクチン接種受付窓口などにも使ってもらっています。 また、新しいサービスとしてRemoMeeというオンライン営業ツールも提供しています。 最初は電話で話をしていても、 そのままもう少し深い説明をしたくなることがありますよね。 今、流行のZoomなどは事前に会議用のURLを共有しておかないとダメですが、 RemoMeeは電話をしながらWebブラウザを利用して簡単に資料を共有することも可能です。
◎まさに時流に合ったサービスということですね。
セキュリティプラットフォーム事業では、
具体的にどのようなサービスを提供されているのでしょうか?
阿部:セキュリティプラットフォーム事業は、 AWS上でPCI DSS準拠※を促進するクラウドサービスやPCI DSS準拠済みクラウド型コールセンターシステムなど、 クレジットカード情報を安全に取り扱うためのクラウドサービスを提供しています。
また、昨今ではホテル・美容院・飲食店やゴルフ練習場などの実店舗でも、 安定的な売り上げを得ようとサブスクリプションサービスの導入が増加していますが、 そういった事業者向けに新たなサービス「Smart TG」を立ち上げました。 店舗でのサービス利用料・会費・月謝などのサブスクリプション決済をスムーズに実現するサービスです。 お客様のネットワーク上にカード情報を通過・処理・保存させない安心・安全なサービスのため、 最近は店舗以外の導入も広がってきました。 例えば、カード決済業務を行っているコールセンターです。 在宅勤務でも安全にカード決済が実現できる点を評価され、 急速に需要が高まっています。
※ PCI DSS (Payment Card Industry Data Security Standard):クレジットカード会員データを安全に取り扱うことを目的として策定された、 クレジットカード業界のセキュリティ基準
大事なのは低コストをめざすのではなく、お客様に寄り添うこと
◎どのサービスも、顧客から見てとても使い勝手の良さそうなサービスで、実際に貴社の顧客満足度は大変高そうですね。
岡田:我々は、インターネットサービスを「サービス業」だと考えています。 サービス業の本質は困っているお客様の状況とマインドを救済することです。 我々の商売に限らず、困っている人がいれば救済する、わがままは極力受け止める、 それを無くしたらお客様は辛いと思います。 目新しいことでも革新的なことでもありませんが、 とても大事なことだと考えています。 我々の強みは低コストではなく、サポート力です。 売り上げが伸びればコストが増えるのは当然で、 それを無理に抑えるようなことはしていません。 我々よりも安いサービスもたくさんありますが、 最安で提供することが良いことだとも思っていません。 大事なのは、お客様に寄り添ったサービスを提供することだと考えています。
阿部:お客様の要望に対して、 定型のサービスでぴったり合えば良いのですが、そうなるケースは稀です。 ありきたりの松・竹・梅といったメニュー構成ではなく、 お客様ごとにニーズは異なりますので、 それに対してできるだけ柔軟に対応します。 お客様の状況と、ニーズというわがままについていく、 これはどんな業界でも一緒だと思います。
◎なるほど、そういった顧客に寄り添う姿勢が選ばれる秘訣なんですね。従業員の方にはどうやって、そのようなマインドを身につけてもらっているのでしょうか?
阿部:新卒採用はやってないので全員中途採用ですが、 大手みたいなしっかりした教育システムがあるわけではなく、 すべて実際に売りながら、サポートしながら学んでいくOJTです。 特別なことはしていませんが、 強いて言えば困ったお客様のマインドを救済するために、 柔軟に対応するように頼んでいます。 あとは、大抵のお客様は急いでいるはずだから、 なるべく早く対応してあげようとも言っています。 至極当たり前のことですが、 世の中はこの当たり前のことをしなさすぎると感じています。
◎貴社は離職率が大変低いのも有名ですよね。何か理由があるのでしょうか?
岡田:それは日々のしんどい仕事をしてくれている人たちにできるだけ長く安心していてもらいたいということを、 組織の仕組みとして維持することができているからだと思います。 一昨年の夏に、退職金も世間一般よりも厚めに設定しました。 独立する人はいますが、辞める人は多くありません。 企業の力の源は人に長くいてもらうことで、 それには長くいる人をきちんと遇することです。 できる限りのことをすれば、人はそう簡単には辞めていきません。 そうでないと、組織が強くならないと考えています。 人が循環し続けることを良いことのように言う人もいますが、 それは安くあがるかもしれませんけど、 はたしてそれで会社の軸は育つのかと思います。
IT系だと若い人を元気なうちにこき使って、 年を取った人はどんどん辞めてもらうという企業もありますが、 私は年配の人間が増えてくるのは仕方が無いと思います。 若い人は若い頃に安い賃金で働いてくれたわけで、 年を取ってきたらその分をお返しするという関係です。 企業というのは、ある程度まで無駄の集合体です。 合理的に、無駄を無くせ、ちょっとでも安く、 そんなことはそもそも無理だと思います。 人間は誰だってそうですが、現実生活は無駄の集合で、 会社だってそれで良いんじゃないでしょうか。 人の人生だって、バリバリ働く時とダメな時があります。 それは仕方がありませんし、すべてを受け入れざるを得ません。 良い人だけ残って欲しいなんて、そんな都合の良いことは無理です。
◎貴社は農系事業も行ってらっしゃいますが、どのぐらいの社員の方が関わっているのでしょうか?
岡田:岩手の「なかほら牧場」というところに15人ほどいて、 東京には8人です。 東京の社員は、企画・販売・管理を行っています。 農系とITサービス間での人の移動は基本的にはありません。 たまに、ITサービスのメンバーが農系をやりたいと言ってくることはありますが。 基本的には、雨にもぬれず寒さにも晒されないで生きてきた人たちに、 いきなり氷点下15℃の山で働いてくださいなんて頼んでも、 現実問題としては難しいですからね。
それに、新聞とかはすぐに「スマート農業」なんて記事を書くけれども、 販売面でのIT化は相性が良いが、本業のIT化はなかなか難しいんです。 ITとはほど遠い存在です。 当社ではむしろ、合理化とか近代化とか、技術化しないのが売りです。 山に農薬も化学肥料もなしで育った野草を食んでいる牛がいるだけ。
そもそも、大量流通品を食べているだけの都市生活者は、 食に対する意識が持てない、というか、知るきっかけがない。 自分が何を食べているか、 どうやってそれが生産されているかを知る機会がないままに生かされてきたんです。 だから、都市生活者が食べているものは、牛乳に限らずボロボロです。 しかし都市だろうが田舎だろうが、ちゃんとしたものを食べないとダメでしょ、 カラダは食べたもの飲んだものでできてるんだから!と思って、 農系事業を行っています。
もっと言えば、世間で売られているものが安過ぎるんです。 本来ならやってはいけないことをしないとあんな値段にはならないんですが、 それがもうスタンダードになってしまってます。 それ故に、真面目に作ったものを正当な値段で売ろうとすると、 「普段使いには高い」とかいう評価になってしまう。 また、食品は流通から買うものになったのも、この風潮に影響してます。 本来は、産直のものを種類別にそれぞれのお店で買うべきなのに、 スーパーやデパートですべてを扱うようになったことから、 人は値段と味しか見なくなってしまいました。 そろそろITの話に戻らないといけませんね(笑)。
◎ありがとうございます(笑)。先ほど、コロナ禍の中でも売り上げは好調だという話はありましたが、その他に何か影響はありましたでしょうか?
阿部:先ほどサポート力の話をしましたが、 当社では担当制で営業を行っていて、顧客ごとに担当がいます。 元々は対面での活動がメインだったのですが、 それがリモート主体になっているため、 関係性の取り方を変えていかないといけないなと感じています。
岡田:テレワークをしてみて感じたのは、 あまり長く続けると組織が溶けていってしまうのではないかということでした。 ビデオ会議をしても、みんな予定して画面上に出てくるので、 そこに予期しないやり取りは生まれません。 また、1日中画面上でお互いの顔を見合っているような状態もなかなかシンドイ状況です。 雑談もですし、普段のやり取りから何かが急に生まれることもあるので、 完全にオフィスに出てこないような状況が続くと組織を健全に維持することはできないと感じました。 だいたい、家族を含めて感染者が1人も出ていないのに、 怯えの煽りキャンペーンに乗っかってはダメです(笑)。
◎その辺りは、どこの組織でも同じような悩みを感じているところですよね。コロナ禍以外にも、最近は災害なども多く発生していますが、お客様の意識などに何か変化はありますでしょうか?
阿部:災害が起こった直後は、 お客様もBCP・DRが必要だと仰しゃるのですが、 実際に提案する頃にはもう熱さが喉元を過ぎてしまっていたりして、 そこが悩ましいですね。 お客様にとって、コストをかけたくないという点では、 災害対策は保険などよりももっと顕著かもしれません。
クラウド・ホスティングでは数年前からセキュリティ対策に力を入れています。 インターネットに接続されているサーバのセキュリティ対策は現在進行形の事案で、 お客様からの要望も多いですし、 我々の方から危機感の薄いお客様への啓発活動も行っています。 IPS/IDSやWAF、改ざん検知など、お客様のWebサイトやシステムの特性、 ニーズに応じた対策を提案し、採用いただくケースが多いですね。
また、マネージドサービスとして監視・障害対応や運用代行をしていますが、 他社インフラのサポートも提供しています。 AWSなどの監視アラート通知を受けて、 一次対応を代行したり復旧後の正常性の確認をしたりとかですね。 特に、大きな企業だと監視サーバも複数用意するとか、 可用性やセキュリティに対する要件が非常に高いです。 当社には、PCI DSSに対応したサービスを提供している部隊がいるので、 そういった顧客からの高いセキュリティ要求にも問題無く応えることができるのが強みです。
その他、最近引き合いが多かったのは2020年11月30日にサポートの切れたCentOS6に対する延長サポートサービスです。 もともとはCentOS6を利用している既存顧客に対する救済サービスとして提供していましたが、 オンプレミスや他社インフラを利用しているお客様からも多く問い合わせをいただきました。 本来サポートの終了したOSは利用し続けるべきではありませんが、 システムリプレイスまでのつなぎとしてあと少しだけ使いたい、 事情がありすぐにリプレイスができないといった課題を抱えている企業が想像以上に多いことを実感しました。 そこで、OSやハードウェアのEOLにまつわるリスクを軽減する「ベアケア」という新しいサービスを立ち上げました。 延長保守や、セキュリティ対策、リプレイスのサポートなどを提供しています。
インターネットはすべてを変えるもの。ついていくしかない。
◎貴社には会員として長年JPNICを支えていただいています。JPNICに対するご意見やご要望などはありますでしょうか?
阿部:最近、当社がIPv4アドレスの割り当てを受けている事業者から、 アドレスの追加が完了するまでに時間を要することが増えてきたのですが、 もう少し早くならないのかと思います。 そもそも、IPv4が枯渇したという話が結構前にあったと思うのですが、 現状どうなっているのでしょうか?
◎IPv4アドレス在庫枯渇前に行っていた通常の割り振りができなくなりましたが、 小さいサイズでの限定的な割り振りはまだ行われています。 ただ、それもいつまででもというわけではありません。 一方で、アドレス移転やNATなどで延命も図られていますので、 IPv4アドレス自体はまだしばらく使われ続けると思います。 とはいえ、フレッツなどのインターネット接続サービスや、 スマートフォンを利用するためのモバイルサービスなど、 ユーザーが意識することなくIPv6対応が進んでいるサービスもあります。
岡田:そういう意味では、 IPv6時代に我々が対応するための知識を積極的に発信して欲しいと思います。 何年後には今の限定的な割り振りも行えなくなりそうだとか、 そういう情報は知りたいですね。 経済ニュースに取り上げてもらえたら一気に広がると思うので、 お考えになってみてはどうでしょう(笑)。
◎貴重なご意見、ありがとうございます。 その辺りの情報発信は、 我々ももっと行っていく必要があると考えています。 さて、最後になりますが、 あなたにとって「インターネット」とはどういうものでしょうか?
岡田:インターネットは、仕事の在り方、仕事そのもの、 売り上げそのもの、商売そのもので、生活の在り方、仕事のやり方、 人とのコミュニケーションのやり方をすべて変え、 ますます加速しつつある化け物です。 でも、技術は常に時代を、人々の暮らしを一変させてきました。 モノが車輪を付けて走るようになったり、 モノが空を飛ぶようになったりして世の中を変えてきた。 技術の革新とはそういうものなので、ついていくしかないなと思って、 時代はどこまでいくんだろうなとか、また新しいのが出たなとか、 オロオロしながら生きています。
阿部:私は1990年に社会人になったのですが、 その頃はNovell社のNetWareというファイルサーバのIPX/SPXだとか、 Microsoft社だとNetBIOSだとか、いろいろなプロトコルがあったものの、 全部TCP/IPに収斂されていきました。 それって「=(イコール)インターネット」ですよね。 構内通信があって、グローバルに広がって、 インターネットがどんどん広がっていったというのを、 社会人生活の中ですごく実感してきました。 今はリンクに入って、よりインターネットに近いところにいるというのを、 身をもって感じています。 日本で言うと大学のネットワーク、JUNETから始まって、 いろいろ広がったと思うのですが、 今ではすべてのところでインターネットが使われていて、 毎日触れて、無くてはならないものになっています。 あと、今までだとサーバがあって、そこにみんなが接続しにいってましたが、 5G時代になるとサーバが介在しないピア・ツー・ピアのコミュニケーションが生まれ てくるのかなと。 5G時代ではエッジがGbps単位になるので、DCで1Gbps、 10Gbpsで速いと言っていた時代からまったく違う世界になります。 我々のサービスもそれに合わせて大きく変えていかないといけない、 そんな風に漠然と予感しています。