ニュースレターNo.79/2021年11月発行
Internet ♥ You No.14
株式会社メルカリ リサーチャー、 R4D 小林 茉莉子さん
小林さんがインターネットに触れるまでの経緯と学生時代について
インターネットは、大学生になるまでほとんど使っておらず、 Webデザインをするものくらいに思っていました。 スマホは大学に入るまで持っていなかったし、 中学・高校の授業でパソコンに触れる機会はありましたが、 Webページを見ようにも、いろいろフィルタリングされていましたし、 Wordを使ってドキュメントを作っておしまいという感じでした。 私が進学した大学では、 Twitterアカウントが必要らしいということを先輩から聞いて、SNSを始めました。 これがインターネットの初体験と言えると思います。 インターネットに触れた経緯としては、珍しいかもしれませんね。
大学での専攻に関しては、 当初物作りや3Dプリンターなどデザイン系に興味があったのですが、 情報系の研究室に決めました。 研究室には、アプリケーション開発をやっている人がいる一方で、 下位レイヤーを扱っている人がいて、取り扱う幅の広さに面白さを感じ、 勢いで決めました。 今の若い人は、 インターネット=アプリケーションというとらえ方をしている人が多いと思いますが、 アプリケーション層の話だけでなく、 物理層やインフラ面も含めてインターネットだと認識できるようになりました。
その研究室ではセキュリティ関連を扱いましたが、 途中からアプリケーション層のプロトコルや、 ネットワークの運用を扱うところに移りました。 興味を持ったのは、無線LANの認証やアクセス管理など、 ネットワーク関連のユーザーエクスペリエンスの改善です。 ネットワークに関する中でも、ユーザーにとって身近でわかりやすい部分です。 学部生の頃は、家庭内Wi-Fiや、公衆無線LANの認証に取り組みました。 東京2020に向けた盛り上がりもあり、 自分の興味分野と社会のニーズが合っていたと思います。 IETF関連の活動をやり始めたのも、この頃です。 IETFのことは先生に教えてもらって、メーリングリストに参加しました。 高校生の頃から国際的な活動には興味があり、英語の勉強もやってはいたものの、 話すのは全然ダメでしたが、 英語を使うコミュニティに参加すること自体には抵抗はなかったです。 英語そのものを学ぶよりも、英語をツールとして使いたいと考えていたのです。 この考えにITを組み合わせて、今あるものを改良して、 よりよいものにするということに興味が出てきました。 IETFに関連するところでは、 公衆無線LANでよく見るキャプティブポータルの仕組みに取り組みました。 キャプティブポータルは標準化されておらず、 環境によってうまく動作しないことがあるのです。 日本の仕様を一通り調べて、問題点を明らかにするということをやりました。 大学院に進学してからは、無線に関係あるところで、 IoT機器の初期設定にも分野を広げました。 インターネットガバナンスに興味を持ったのもこの頃です。 確か、留学生の友達に、 インターネットガバナンスの初心者向け海外イベントがあることを教えてもらい、 参加したのが最初です。 もともと技術そのものよりも、技術と社会が交差する領域が、 自分のバックグラウンドや興味分野とリンクしていると思い、 興味を深めていきました。
大学卒業後の進路と、これまでのキャリアについて
就職に際して、自分が何をやりたいかを考えた時に、 特定の何かに絞ることが難しかったので、 いろいろなことに取り組むことができそうなところを選びました。 内定をいただいた企業は複数ありましたが、 大学院の頃に株式会社メルカリでインターンをしており、メルカリの自由さや、 当時はいまほど規模は大きくなく、 これから伸びていく可能性があるところで働くことへの興味もありました。 C2Cの企業であれば、 ニュートラルな視点でインターネットガバナンスにも関われるのではないかとも思い、 メルカリに就職することにしました。
メルカリでは、R4Dという研究開発組織に属しています。 本当にいろいろなことに取り組んでいます。 例えば、ブロックチェーンのチームに入り、 デジタルアイデンティティの構築に関する大学との共同研究をしています。 もう一つは、アクセシビリティのプロジェクトです。 メルカリのユーザーには、 目が見えにくくなってしまった高齢者の方も多くいらっしゃいます。 自分たちもいずれは歳を取りますし、 低視力の人でも使いやすいアプリケーションにするといった取り組みです。 また、現在メインでやっているのは、AIと倫理に関するもので、 インターネットガバナンスでも注目されているジャンルです。 C2Cの企業が、 どう倫理を考えて会社のガバナンスに落としていくかというのを考えるような取り組みです。 一般的な研究では10年後くらいをスコープにしていると思いますが、 先ほどのアクセシビリティでは2~3年後、 デジタルアイデンティティの取り組みは4~5年後、 AIと倫理のような政策の話は直近~2、3年後といった風に、 研究のスコープが3~5年と少し短いのが特徴です。 研究テーマは、突然出てくるものもあれば、 社内や自分自身の専門分野から出てくるものもあります。 私の場合は、研究コミュニティで繋がっている人、国際的な動向、 大学の先生との会話などからヒントを得ています。 社内でもチャットを通じて気軽に投稿があります。 会社のバリュー(行動指針)の一つに「大胆にやろう」というのがあります。 大胆なチャレンジには責任も伴いますが、 チームの中でもこのバリューを意識しています。
コミュニティでの活動について
WIDEプロジェクト、ISOC-JPやAPrIGFなどで活動していますが、 その時々で注力するものが変わっています。 メルカリに入社したばかりの頃は、 ブロックチェーンのガバナンスが盛り上がっていたので、 APrIGFでセッションを提案していました。 現在力を入れているのは、ISOC-JPの活動です。 私もオフィサーの一員ですが、オフィサーの世代交代が進んできたこともあって、 今までではできなかったことや、 若い世代ならではの取り組みなどをガンガン進めていけたらいいなと思っています。 例えば、Webページを刷新し、 Webを見た人が参加したいと思ってもらえるようにするとか、 ISOC-JPの行動規範を策定し、 メンバーが気持ちよく活動できるようにするといったことです。 オンライン中心になってしまうと、 コミュニティ活動が減衰するイメージがありますが、 コロナ禍でどう魅力ある活動をするか考えています。
今後の目標について
最近は、技術と社会がリンクする部分に生まれてくる課題が、 自分が興味を持ちやすいことなのだなと改めて思ったので、 そちらに少しずつ注力していきたいと思っています。 今は技術やガバナンスなど、各要素をバラバラにやっていますが、 それらをひとまとめにしてしっかりやって、 そこが自分の専門と言えるようにしたいです。 いろいろやっていた20代前半から半ばを過ぎて、 そろそろ腰を落ち着けようかなと、決意ができてきたところです。
小林さんがプライベートではまっていること
仕事がリモートになり、プライベートとのメリハリがつくように、 いろいろなことを詰め込んでいます。 小さい頃からピアノをやっていたので、今年電子ピアノを買って、 ジャズでも弾いてみようと楽譜も用意しました。 他には、ボードゲームです。 物理的なものだけでなく、最近はオンラインで友達と一緒にプレーしています。 また、気分転換を兼ねて、フランス語の学習もしています。 ここ数ヶ月、仕事を終えた後に1~2時間ほど結構真面目に取り組んでいますね。 おかげで結構わかるようになってきたので、 ゲームの言語設定ををフランス語にしてプレーしています。
最後にインターネットに対する愛情のこもったメッセージをお願いします!
APNICのブログ※1に載っているのですが、 ジョン・F・ケネディ氏がアメリカ合衆国大統領就任演説で述べた"Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country."という言葉にインスパイアされて、 "Ask not what the Internet can do for you, ask what you can do for the Internet."を私の軸としています。 誰しも、インターネットに対して、 使いにくいとか壊れているといった不満を持つことがあると思います。 そこから「自分は何ができるのか」と少し踏み込んでみると、 インターネットに対してこれまでと違う関係が見え、 コミュニティ活動に繋がっていくと思います。 世代に縛られず、そういう意識を持っていけるようにしたいです。
https://blog.apnic.net/2016/08/29/young-leadersmake-mark-apiga-2016/