ニュースレターNo.80/2022年3月発行
Internet ♥ You No.15
ネットワークエンジニア 土屋 太二さん
土屋さんがインターネットに触れるまでの経緯と学生時代について
パソコンやITに触れるのは遅く、 インターネットに興味を持つようになったのは、大学生になってからです。 元々ゲームが好きで、自分の作った物で人を幸せにできると嬉しいなと考え、 物を作る職人に高校生の頃から憧れがありました。 大学進学にあたり、志望校に情報系学部が新設されるタイミングだったので、 テクノロジーで何かを作る仕事への道筋が見えないかなと考え、 そこに進みました。
私は、個別の技術を突き詰めるよりも、 技術を用いることで新しい世界観を実現することに興味があったのですが、 VRに関する授業を受けた際、 SF映画の「マイノリティ・リポート」の制作にマサチューセッツ工科大学(MIT)が関わったことを聞き、 IT技術が未来を作るさまを体感し、 エンジニアの立場でこのようなことができるのだと感化されました。 この影響で、大学ではAR(拡張現実)の研究を行い、大学院にも進みました。 ヘッドマウントディスプレイを付けて、 ジェスチャーでインターネットを操作するような世界の実現ですね。 今で言うメタバースに、10年くらい前に真剣に取り組んでいました。
大学卒業後の進路と、これまでのキャリアについて
大学生の頃、iPhoneが発売となり、 Twitterやニコニコ動画といったユニークなサービスが登場してきて、 インターネットに関わる新しいテクノロジーによってゲームチェンジが起こることを目の当たりにしました。 インターネットによって新しい世界を作ることに魅力を感じていました。 自分の研究分野であるARで、きっと社会は変わるはずだという信念を持ち、 関連する物作りに携われる就職先を探しましたが、 見つかっても家電・AV機器メーカーの研究職くらいで、大変な狭き門でした。 AR関連の仕事が増えてくるのは先のことだと考えを改め、 面白そうなインターネットビジネスをやっていて、 技術力を身につけることができそうなところにエンジニアとして就職することをめざしました。 そこで、大手電機メーカーを親会社に持ちながらも、 当時農業ITに取り組んでいたり、 いろいろなスマホアプリをリリースしたりしていた、大手ISPに入社しました。 インターネットサービスのベンチャー企業が複数出てきた頃でしたが、 エンジニアとしてのスキルを着実に積み上げていく方が、 自分の性格に合っていると思ったので、 長く勤めることができる企業への就職を選択しました。
入社時点では職種が決まっておらず、 技術職の中でも一番難しいことをしたいという希望を話したところ、 コアメンバーで5人程度と、 少人数で何でもやるというネットワークチーム配属になりました。 最初の2年ほどは、データセンターのネットワークを担当し、 IPアドレスやVLAN、ACLの設定などをやっていました。 その後、バックボーンネットワーク運用に移り、 BGP運用やピアリング・トランジットなど、 インターネットコミュニティと関わりがある仕事を担当しました。 加えて、ネットワーク仮想化やSDN、 ネットワーク自動化といった新しい技術にも挑戦しました。 「ビジネス」「コミュニティ」「エンジニアリング」と、 ISPのノウハウをすべて叩き込んでもらえたと思っています。 いろいろな会社と一緒になってインターネットのインフラを作るのがネットワークエンジニアの仕事で、 世の中が変わっていくさまをトラフィックレベルで知ることができ、 とても面白く、ダイナミックで普遍的なものに関わることができました。
ISPで働いて5~6年経った頃、 米国発のインターネットサービスの勢いを感じることがよくありました。 米国企業とも一緒に仕事をする機会が増える中で、 自分と米国のエンジニアの違いを考えてみましたが、結論が出ませんでした。 答えを知るために、渡米し、 世界レベルのインフラに関わる機会を作れないかと考えました。 日系SIer企業の米国支社で、就労ビザを出してくれるというところと縁があり、 7年勤めたISPを退職し、妻と一緒にシリコンバレーに引っ越しました。 仕事の内容は、米国内のネットワーク設計および構築と、 ネットワーク技術の最新トレンドを調査するというもので、 自身の次の挑戦としてはぴったりのポジションでした。
活動の場を米国に移しましたが、 自分と世界レベルのネットワークエンジニアとの違いを考える中で、 結局はグローバルプレイヤーの中に飛び込む必要があるという考えに至りました。 そんな中、現職のグローバル企業から声をかけてもらいました。 当時は設立から10年経っていないスタートアップ企業でしたが、 ネットワーク自動化に強みを持ち、 インフラを世界中に展開しているということで、面白そうだと感じました。 就労ビザの問題で米国内での転職が難しく、 声がけいただいた求人が日本での採用が前提だったので、 家族会議で妻に納得してもらった上で、日本に戻る決断をしました。 このタイミングを逃したら、次の機会があるかどうかもわかりませんからね。 現在はネットワーク運用チームとして、全世界のネットワークを見ています。 メンバーは全世界から業務に当たっており、 タイムゾーンで6時間ごとに分かれてアサインされています。 私はアジア太平洋地域のタイムゾーンの担当ですが、 業務時間が米国時間の夕方から深夜にあたるため、 世界的にインターネットが最も利用されるタイミングです。 もちろん、アジアやヨーロッパ、アフリカのネットワークも見ています。 日本のネットワークは品質がよく、大きな問題は極めて少ない印象です。 一方、世界には常時パケットロスをしているとか、 そもそもインターネットに低遅延で安定して繋がること自体が難しい地域もあります。 仕事を通して、地域ごとの事情が感じられ、 別次元でインターネットに関わることができて刺激的です。
コミュニティでの活動について
JANOGには、上司に勧められたこともあり、 社会人になって間もなくから参加しました。 JANOGに来る人は、インターネットやネットワークが大好きで、 とても優秀な方が多いです。 社会人になってからネットワークを学び始めた自分と比較してしまい、 落ち込むことが多くありました。 社会人4~5年目になり、自分にある程度技術力が付いてきた頃、 実はJANOGの参加者でも技術に詳しい人だけではないことに気がつきました。 若手同士が心細くならず、コミュニティで人と繋がることができるように、 活動が停滞してしまっていた若手(30歳未満)のJANOG参加者コミュニティであるwakamonog(https://wakamonog.jp/)を再始動させました。 wakamonogがきっかけで、自分が学んできたことは誰でもできることではなく、 貴重な経験であることに気づくことができました。 そこからは、 初心者のみなさんに堂々と新しい技術に取り組んでもらえる機会を提供するため、 インターネットルーティングやネットワーク運用自動化を中心に、 JANOGやInternet Weekに登壇したり、 JANOGハッカソンのイベントを立ち上げたりしました。
YouTube「show intチャンネル」について
若手や新人エンジニアに教えるような活動はやっていましたが、 教えられる対象はその時その瞬間の参加者のみに限られ、 もったいないという思いがありました。 動画なら「発表者の本音や温度感」も含めて未来に残すことができるし、 YouTubeなら誰でも見ることができ、誰でも発信ができます。 それが一番のきっかけとなって、チャンネルを開設しました。
ネットワークエンジニアが学ぶべきテーマについて、 専門書では大事なことが見つけにくい面があります。 「これはよく使う」とか「これは知ってさえいればいい」といった温度感は、 職場で先輩から教えてもらうことですが、 大企業でもネットワークエンジニアの人数が少なく、 そういった役割を担ってくれる人が社内にいないことも珍しくありません。 動画であれば、 私の経験を踏まえた温度感や重要なポイントを記録しやすいメリットがあります。 技術にとどまらず、インターネット業界のことも含め、一番大事なことを伝え、 さらに他のことを学ぶきっかけを作ってあげられるコンテンツを届けたいです。
今後の目標について
ずっとエンジニアでいたいという思いと、 学生時代の頃から抱いている、技術で世の中を変革する人になりたい、 という思いは変わっていません。 どのような技術で、どのような変化を起こせるかは、まだ見えていないし、 探し続けています。 ネットワークエンジニアとして、プラットフォームを作ったり守ったり、 ひいてはインターネット全体を進化させ、 インターネットで人の生活を進化させたり変化させたりする存在をめざしたいです。
土屋さんがプライベートではまっていること
今は子育てに時間をかけています。 1歳半の子どもがいるのですが、 残念ながら東京でよい保育園に入ることができませんでした。 フルリモートで働ける職場だったこともあり、 保育園が十分にある環境を求めて広島に引っ越しました。
最後にインターネットに対する愛情のこもったメッセージをお願いします!
インターネットの仕事は、ダイナミックで、とても楽しいです。 一方で、一個人の視点ではインターネット全体が何なのかは、 非常にわかりづらいです。 そういう点で、ネットワークエンジニアの中には、 インターネットの面白さを知らない人や、 ルーティンワークでつまらない仕事だと思っている人がいるかもしれません。 自分はインターネットによって人生が変わったし、助けられました。 インターネットの魅力を伝えて、楽しさや醍醐味を知ってもらいたい。 あわよくば、業界に入って一緒に楽しむ仲間を増やしたいと考えています。