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ニュースレターNo.83/2023年3月発行

ITインフラの果たす役割

東京大学 情報セキュリティ教育研究センター 教授 関谷 勇司

2023年も明け、世界情勢も大きく動いている中で、 今一度ITインフラというものについて考え直してみたいと思いました。 インターネットは世界中で利用される通信インフラとなり、 そのインターネットを介して、クラウドが構築され、利用されています。 これらはいわゆる「ITインフラ」と呼ばれるもので、 インフラ無しには通信もサービスも成り立ちません。 ITインフラにおいては、前号の巻頭言において、 浅井理事がInternet Engineering Task Force (IETF)について言及されています。 グローバルなインターネットとは何か、オープンな世界とは何か、 を考えさせられる内容でした。

私自身も、修士課程の学生の頃からIETFに参加しています。 初めて参加したIETFは、 米国Los Angelesで開催された第41回 IETFと記憶しています。 IPv6プロトコルスタックの研究開発をやりたくて、 修士課程から慶應義塾大学の村井研究室に所属し、 まさにIPv6の仕様が活発に議論されている、 その時期にIETFに参加したことを覚えています。 IPv6のアドレス体系や拡張ヘッダの機能、Mobile IPv6の仕様等、 熱い議論が交わされていました。 IETFでの活動とともに、 LinuxカーネルのIPv6プロトコルスタック開発を行うUSAGI Projectを立ち上げ、 IPv6開発への貢献を行わせていただきました。

豪州Adelaideで開催された第47回IETFでは、 某教授が借りたレンタカーを、 私が運転中に柱にぶつけ右前部を少し破損させた(某教授曰く車の半分が無くなった)のも、 第62回IETF参加中の米国Minneapolisにて自身の博士論文審査の結果を知らされ、 IETFに参加していた方々にお祝いしていただいたのも、 いい思い出です。 それから現在に至るまで、ほぼ欠かさずIETFに参加しています。 IETF/IRTFでのワーキンググループの変遷が、 その時代におけるネットワークの技術動向を反映していると感じます。

閑話休題。インフラの話に戻ります。 現在のITインフラを象徴するものとして、パブリッククラウドが挙げられます。 クラウドはネットワークとコンピューティングが融合した、 ITサービスを担うインフラの一つの完成形かと思います。 クラウドの普及によって、インフラをソフトウェアにて構成し管理するという概念、 Infrastructure as Code (IaC)が定着しました。 IaCにおいては、インフラの構成は従来におけるソフトウェアのインストールや設定と同義であり、 スクリプト言語によるコードとして管理されます。 つまり、現在のITインフラエンジニアには、 コードを書いてシステムをソフトウェアとして構成できる技量が求められており、 ハードウェアを基盤としたITインフラを運用管理する技量は、 必須ではないのかもしれません。 ハードウェアを用いたITインフラを運用管理できてこそITインフラエンジニアだ、 という意見もあるかもしれませんが、 ソフトウェアを駆使してITインフラを運用管理するエンジニア、 すなわちクラウドエンジニアも立派なITインフラエンジニアである、 と私は思います。

では、「イケてるITエンジニア」であるかどうかのポイントは何なのか、 それは「技術をブラックボックスとして扱うのではなく、 原理を理解して扱えるか」なのだと思います。 これはハードウェアとソフトウェアに関係なく、 それぞれの製品や技術について、原理を理解することで適用範囲を理解し、 システムやサービスをアーキテクトできる能力、 それが「イケてるITエンジニア」に求められる素養だと思います。

何か大層なことを述べてしまいましたが、 要はブラックボックスな技術が増えるほど、 それを用いて構築されるシステムやサービスは、他人の手に委ねられたものになる、 という危機感です。 インターネットやクラウドが、 ハイパージャイアントと呼ばれる特定数社によって構築運用され、 それをブラックボックスとして用いているのであれば、 それはITインフラにとって危険な兆候です。 現在、再び分散認証技術が脚光を浴びているのは、 ITインフラの独占を危惧し、 ITインフラを取り戻そうという動きに他ならないのかもしれません。

健全なITインフラの発達とITインフラエンジニアの育成には、 「ITインフラの民主化」が欠かせないキーワードだと思います。 2023年は、インフラは誰のために存在しているのか、 を再度考える節目なのではないでしょうか。


執筆者近影
プロフィール●関谷 勇司(せきや ゆうじ)
1997年京都大学総合人間学部卒。 2005年慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程修了。 博士(政策・メディア)。 1999年、米国 USC/ISIにてDNSの研究に従事。 2002年に東京大学情報基盤センター助手に着任。 2019年より現職。 IPv6の研究開発、DNSの計測、クラウドの可用性向上技術、 サイバーセキュリティに関する研究に従事。 2021年よりデジタル庁シニアネットワークエンジニアを兼任。

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