ニュースレターNo.83/2023年3月発行
Internet ♥ You No.18
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 基盤エンジニアリング本部ネットワーク技術部 ネットワーク技術1課長 蓬田 裕一さん
蓬田さんがインターネットを知ったきっかけ
家にインターネット回線は引いておらず、 パソコンに触れるのは、学校にある情報室だけでした。 中学生の頃に、情報の授業でパソコンが好きになり、 インターネットを使って調べ物をしたり、簡単なゲームをしたりしました。 私が小学生から中学生の頃は、スーパーファミコンをはじめとして、 家庭用のテレビゲームが普及し、流行していた時代で、 私自身もよくゲームをしていました。 ロールプレイングゲームから歴史や遺跡の知識を得ていたことから、 ゲームは学びと遊びが一体になっていて、 ゲームを作るプログラマをめざしてみようと考えたこともありました。 高校生になってからは携帯電話を持つようになり、 i-modeも使うようになりました。
大学生の頃について
高校は、普通科と情報科で迷ったのですが、 普通科に進学しました。 その後、電気通信大学(電通大)に進学し、情報通信工学を専攻しました。 この頃には、ゲームを作りたいという気持ちは薄れていましたが、 情報系のことを学びたいという気持ちは継続していました。
電通大のカリキュラムでは、3年生までは講義と実験を中心として、 基礎物理学、無線技術といった情報通信の基礎や、 アスピリンを生成するような化学の基礎実験などを学びました。 4年生から研究室に配属になり、光通信や光学的な研究を扱う研究室と、 光通信を使ったネットワークを扱う研究室が合同になった研究室に進みました。 片方の研究室では、オールフォトニクス・ネットワークといったレイヤ1の基礎研究で、 もう一方ではレイヤ2を光通信で行うといった感じです。 その研究室を選んだ理由は、はっきりとは覚えていないのですが、 当時オンラインゲームが流行しており、 ファンタジーなのでネットワークを介した世界でいろいろなことが起こることに対して、 興味を持ったのかなと思います。 研究室では、私はネットワーク上でのFEC (Forward Error Correction、前方誤り訂正)の訂正率を上げられるかといったことや、 経路が複数ある分散ネットワークにおいて、 FECをどのように使えば訂正率を上げられるかといったことを研究しました。 ここでネットワークに触れるようになり、TCP/IPのことを知りました。 実のところ、アメリカンフットボールの部活に明け暮れた大学生活でしたが、 4年生の時には卒業に必要な単位は取り終わっていて、余裕がありました。 そこで、ARPANETの歴史などインターネットの基礎を学ぶ授業を受けてみたのですが、 単位を落としてしまいました。 今思えば、もっと真面目に受けておけばよかったなと思います(苦笑)。
大学卒業後の進路と、これまでのキャリアについて
周りは大学院に進学する人が多かったのですが、私はそうは考えず、 就職することにしました。 インターネットの中でも、インフラに関わる仕事がしたいと思っており、 デバイス系のメーカーやSIerなど、IT系企業を受けました。 IIJに巡り会ったのは、幕張メッセで行われた会社説明会でした。 偶然講演を聴き、日本で初めて商用ISPを始めたという言葉に惹かれました。 エンジニアとして情報関連のスキルを身につけたかった私にとって、 IIJはそれにふさわしい実績やノウハウを持つ会社なのではないかと、 とても興味を持ちました。 研究室の教授もIIJのことをよく知っていて、いい会社だと言ってくれました。 このようなことがあり、何社か内定をいただいた中で、 IIJに就職することに決めました。
私が入社した当時は、 IIJはシステムインテグレーションが収益の柱になっており、 同期もその分野で活躍したいという人が多かったと思います。 一方で私は、バックボーンインフラをやりたいと考えていました。 最初の配属は、法人向けインターネット接続サービスの主管部門で、 専用線を使ったインターネットアクセスサービスを提供する役割を、 2年ほど担当しました。 当時はサービス単位でセクションが分かれていたため、 そのサービスの企画・構築・運用まで一手に担っていました。 バックボーンインフラへの携わり方としては思い描いていたものとは少し違いましたが、 ルータのオペレーションなどエンジニアとしての役割だけでなく、 サービス提案のため、営業に同行してお客様を訪問するなど、 当時は会社が成長段階だったこともあって、 入社直後から貴重な経験ができました。 その後、組織改編によりバックボーンの部門が、企画・構築と運用に分けられ、 私は運用部門の所属となり、 さまざまな視点からバックボーンネットワークの運用業務を組み上げて、 改善していく業務に5年ほど携わりました。
入社当時からお客様に近いところにいた経験から、 インターネット接続が切れると大変なことになるのだと痛感しました。 インターネットを介してさまざまなサービスを提供するのが当たり前になってきた中、 2011年の東日本大震災では、バックボーンネットワークにも甚大な被害が出ました。 ネットワークが無いと、地域の人にインターネット接続を提供できません。 どうやって早く復旧させるのか、地震発生から1~2日は、 ほとんど寝ずに対応していた記憶があります。 日本の通信キャリアは優秀で、 道路が無くなりファイバーが切れたようなところも、 24時間もあれば復旧していました。
2015年4月から2019年5月まで、 インターネットマルチフィード株式会社に出向し、 IXサービスであるJPNAPに携わることになりました。 大きな組織ではないので、サービス企画や構築、運用、 客先への訪問などを経験し、 サービス提供のために必要なことを学ばせてもらいました。 IXはコミュニティなので、 この業界にはどういった組織・プレイヤーがいるのかがわかるようになり、 さまざまな方と、お客様というよりはパートナーとして、 関係性を持つようになりました。 この出向が、私にとって、 インターネットコミュニティに関わるようになる転機となりました。
IIJに戻ってからは、バックボーンネットワーク全体を見る部署で、 バックボーンやバックボーンに接続するサービスエッジの企画・運用を行っています。 それに加えて、JPNAPでの経験を活かして、 IIJのピアリングコーディネーターとして、主担当を担っています。
コミュニティ活動について
社名の通り、 インターネットに対して“イニシアティブ”を取りたいというモチベーションを持って、 コミュニティ活動に取り組んでいます。 インターネットをよくするためには、 RPKIのような新しいルーティングセキュリティの技術を取り入れ、 お客様に提供したい、 日本で導入が進むよう我々がやらなければいけないと考えました。 2018年頃から取り組みを始め、2020年頃にサービス展開をしていますが、 それだけでは普及しません。 我々が培った技術的な知見を共有し、他のプロバイダに広めていくことで、 全体のセキュリティレベルが上がり、 最終的にはエンドユーザーに還元されるという考えです。 インターネットは相互接続の世界なので、 自分たちのネットワークだけよければそれでいいというものではありません。
RPKIは先行していますが、 我々の技術的な強みになっているのはBGP、AS運用周りです。 最新の技術に関するキャッチアップは、 付き合いのあるベンダーやコミュニティから行っています。 今は、お客様によりよいサービスを提供することにウェイトを置いており、 技術的な検証や導入に取り組みたいという思いはあるものの、 エンジニアの稼働確保などが課題になっています。
今後の目標について
今の時点では、インターネットコミュニティに関わっていくことを続け、 日本のインターネットに貢献できたらと思っています。 IIJでの業務が、日本のインターネットへの貢献につながっていると思っています。 また、ピアリングの業務で、海外コミュニティとの関わりが増えています。 インターネットは国境が無いので、英語を使いこなせるようになって、 グローバルに活躍したいと思っています。
蓬田さんがプライベートではまっていること
この業界にも多いですが、プロレス観戦が趣味です。 現地観戦もしますし、ストリーミングも見ます。 武藤敬司選手が新日本プロレスに所属していた頃に、ハマりました。 最近はメジャー団体よりもインディーと呼ばれるマイナー団体を見ることが多いです。 プロレスは、会場の雰囲気や一体感があるし、 レスラーのストーリーや試合の爽快感など、 エンタテインメントとしての魅力が詰まっています。
あまり時間がありませんが、ゲームも趣味です。 もっとも好きなゲームである「ライブアライブ」がリメイクされ、 子どものクリスマスプレゼントにかこつけて、 新しいハードを買っちゃいました。 ARTNIA(アルトニア)という、 スクウェア・エニックスが運営するカフェを併設しているグッズショップがあるのですが、 そこで開かれたイベントに参加した際、 「ライブアライブ」のプロデューサーである時田貴司さんに偶然お会いし、 お話しすることができました。
最後にインターネットに対する愛情のこもったメッセージをお願いします!
インターネットは、当社の会長や社長も話していますが、 可能性が無限大です。 今インターネット上でできていることは、10年前や20年前はできませんでした。 インターネットが広がり、技術革新が起こって、 できることが増えるという循環は、今後も止まらないと思います。 個人的にも期待したいですし、私自身も仕事を通じて関わっていきたいです。 インターネットが好きでこの仕事をしているので、 インターネットが持つ可能性を信じています。