ニュースレターNo.85/2023年11月発行
JPNIC会員 企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は、1978年5月の創業から今年で46年目を迎えた、 三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社を取材しました。 同社は汎用コンピューターの保守サービスを提供する企業としてスタートし、 その後三菱電機グループ内での合併や統合を経て現在に至りますが、 インターネット関連事業への進出は1995年とかなり早く、 この業界でも長い歴史を持っています。
今回の取材では、 芝浦運河沿いでレインボーブリッジが見えるオフィスを訪問し、 三菱電機グループのICTを支えてきた高品質なサービスと高い技術力、 そしてそれを元にグループ外にも積極的に事業を展開されている現在の状況についてさまざまなお話を伺ってきました。 その背景には、「人材への投資は惜しまない」と断言されるなど、 自社のサービスを支えるのは人であるという、 強い信念を感じさせる取材となりました。
~高品質ネットワークを基盤に自在なサービス連携~
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社
住所 | 〒108-0023 東京都 港区 芝浦4-6-8 |
設立 | 1978年5月1日 |
資本金 | 12億5,000万円 |
代表者 | 本多 孝司 |
従業員数 | 2,824名(2023年4月時点) |
URL | https://www.mind.co.jp/ |
事業内容 |
https://www.mind.co.jp/corporate/outline/
▶ ネットワーク ▶ クラウドプラットフォーム ▶ セキュリティ ▶ アプリケーション |
三菱電機グループである強みを活かしつつ、グループ外にも事業を展開
▶まずは貴社の成り立ちを教えてください。
下笠:当社は、 三菱電機グループ内のいくつかの企業が合併を繰り返した上で今に至っています。 その歴史は、1978年にメルコムサービス株式会社が設立されたところから始まり、 汎用コンピューターの保守サービスを行う会社としてスタートしました。 その後、 1989年に三菱電機情報ネットワーク株式会社(MIND)が設立され、 こちらは親会社である三菱電機株式会社のITを支える役割を果たしていましたが、 1995年からインターネット関連事業にも乗り出しました。 2001年には、三菱電機株式会社の情報システムプラットフォーム対応営業/開発/製造部門と、 メルコムサービス株式会社を統合して三菱電機インフォメーションテクノロジー株式会社(MDIT)が設立され、その後、 2014年10月にMINDとMDITが合併・統合する形で、 三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社(MIND)が誕生し、 今に至っています。
三菱電機グループ内においては、 IT関連を担当するのは親会社のインフォメーションシステム統括事業部と、 当社と兄弟会社となる三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)、 三菱電機ITソリューションズ株式会社(MDSOL)、 MINDとなっています。 当社は、ICTインフラーサービスと、 三菱電機グループ向けのICTサービス全般を提供しています。
▶主な事業の内容と顧客について教えていただけますか。
下笠:当社の事業体制としては、 ICTインフラ事業とアプリケーション事業に大別できます。 前者は、ネットワーク、クラウドプラットフォーム、 セキュリティの各事業があり、 三菱電機グループ向けだけではなく、 一般のお客様に向けたサービスも提供しています。 後者はグループ会社向けが中心で、 経理や運用のためのシステム開発や運用を行っているアプリケーション事業部門や、 本社対応のための経営システム事業部門、 工場を運用するための製作所システム事業部門などがあります。
当社は三菱電機グループの社内情報システムを長らく担当し、 その中のネットワーク部分だけではなく、 クラウドやセキュリティなどについても、 保守を含めたワンストップでサービスを提供してきました。 さまざまな経験を積んでノウハウも持っていますので、 その実績を活かして金融や製造、流通など、 一般のお客様に向けたサービスを提供するようになりました。 三菱電機ほど大きな会社であれば、 すべてを自身で維持管理することもできますが、 一般的な企業にとっては費用もかかるし負担も大き過ぎます。 そういった需要に対して、 我々はリーズナブルなコストでサービスを展開しています。 インターネットに関しては、 接続サービスだけを提供するのではなく、 企業に重要な情報セキュリティを組み合わせて提供していることが特徴です。
お客様の割合ですが、 インフラ事業全体では三菱電機グループと一般のお客様で半々ぐらいです。 セキュリティ事業は6割ぐらいが一般のお客様と多く、 グループ向けは4割ぐらいです。 アプリケーション事業は歴史的経緯から、 ほとんどが三菱電機グループ向けとなっています。
▶具体的には、どのようなサービスを展開されているのでしょうか。
下笠:ネットワーク事業部では、専用線やSDWAN、 LANといった企業内ネットワークだけではなく、 元々企業向け電話サービスをやっていたこともあり、 派生してビデオ会議やWeb会議、 会議予約管理システムなどコミュニケーション関連サービスも提供しています。 クラウドプラットフォーム事業部は、 関東と関西他全国に7拠点のデータセンターを持ち、 オンプレミスのサービス提供ができるだけでなく、 最近は需要が多いパブリッククラウドを含めワンストップでサービスを提供しています。
セキュリティ事業部では、 いわゆるマネージドセキュリティサービスに力を入れています。 最近は防御や検知、対策といった従来のサービスに加え、 在宅勤務の増加からセキュアにアクセスをするサービスの需要が伸びています。 このサービスは在宅勤務を導入したお客様にとっては、 勤怠管理システムなどと同じぐらい重要な社内インフラとなりました。 コロナ禍前は出張などの外出先からのリモートワーク利用が主であったため、 みなさんが揃って利用されるような多量の同時接続を想定していませんでした。 そのため、 可用性を確保するために機材の手配などに苦労しつつ増強に増強を重ね、 バックボーンや設備などは、 コロナ禍前の約4倍になっています。
あとは、 インターネット接続サービスもセキュリティ事業部が提供していてなぜかと思われるかもしれません。 当社インターネット接続サービスではDDoS対策を提供したり、 リソース詐称を防ぐ取り組みをしたりしています。 これらはお客様の情報セキュリティ対策のひとつとして提供をしています。
当社のインターネット接続サービスは、 かつてはコンシューマー向けにも展開していましたが、 今は法人向けのみ提供しています。 そしてクラウドサービスや当社データセンターでのオンプレミスサービスなど当社の各種サービスをセキュアかつ高品質に使っていただくためのバックボーンインフラという位置付けとなっています。 我々は元々ネットワークに詳しいので、 問題が発生した際の切り分けや解決も迅速に行えるという強みがあります。
さらに、電子署名やタイムスタンプといった、在宅勤務、 ペーパレス化などサイバー空間上の業務の推進には欠かせない機能も提供しています。 両方のサービスとも監督省庁認証を受け、1社で提供できるのは、 国内では当社だけです。 また、医療機関向けVPNサービスは、 マイナンバーカードを健康保険証として利用するためのシステムが23万医療機関を対象に導入されていますが、 この一部にも利用されています。 みなさんも、 一度は医療機関の窓口でご覧になったことがあると思います。 当然、こういったサービスでは回線トラブルがあると大問題ですが、 インターネット事業者である我々の強みが活きるところです。
統合運用フィールドサービス事業は、 お客様のICTシステムについて、24時間365日の監視、運用、 保守サービスを提供するもので、 ヘルプデスクの運用サービスも行っています。 三菱電機グループ向けの長年の業務実績から、 我々は特に運用に強みを持っていて、 システムを構築して終わりではなく、 お客様に寄り添って運用していくためのファシリティも人も当社には揃っています。
顧客ニーズを適切に判断し、さまざまな組み合わせからベストを選ぶ提案力
▶ 金融や医療などを顧客に抱えているというお話でしたが、 やはり品質重視で貴社が選ばれているということなのでしょうか?
岸浪:確かにそれらの業界の方の要求水準は厳しいですが、 それ以外でもお客様の要望は厳しくて、 インターネットの通信が繋がるのは当たり前で、 速くて切れないことを求められます。 冗長化と帯域の両方が必要で、 繋がっても遅いとか切れるとかではダメなんです。 必要以上に余裕を持たせることも難しいですが、 輻輳(ふくそう)が起こらないような対策も採っていますし、 拠点間の回線も日本海側と太平洋側に分けています。 普通のお客様は機材を東京と大阪に置いて障害時に切り替えますが、 当社は回線ごと切り替えられます。 一般的なインターネット回線そのものの冗長化も可能ですが、 そういったサービスは珍しいです。 また、インターネットはベストエフォートと言っても、 安くなった結果各家庭まで引かれていて、 もはや繋がらないと困る社会インフラとなっています。 我々は業務経験も長く、 インターネット事業者同士のお付き合いもあって、 トラブルの際に勘所がわかるので提案できます。 そういった点もあり、ご採用いただいていると考えています。
下笠:また、当社はいろいろなラインナップがあるので、 お客様のやりたいことに全方位で応えられるのも強みです。 ICTのインフラについては、 音声からインターネットまで揃えていますし、 機器についても当社はマルチベンダーで、 三菱電機系列以外のものも扱います。 機器を選定する際には、 世の中にある最先端の機器を評価して採用しています。 そのため、ネットワーク、クラウド、 セキュリティなどを提供する際に、 お客様のニーズにあった最適な組み合わせを一括して提案できますので、 そこも評価していただいていると思います。 最新動向にも敏感で、社員は積極的に資格も取っており、 それは技術レベルを上げることにも繋がります。 一般のものだけでなくベンダー資格も対象で、 資格を取るとベンダーとの付き合いもレベルも深くなるんですよ。 そうして得たノウハウを元に、 お客様にもよりよい提案ができるようになります。
サービス価格についても、高くはありません。 確かに、 大企業向けはサービスに対する要求レベルや規模から松竹梅だと松コースとなることが多いですが、 松を扱っていることで積み上げたノウハウを元に、 竹や梅も適切に評価することができるようになります。 お客様のニーズを元に、機能や価格などを判断し、 お客様のご希望に添ってもっとも良い組み合わせを提案しています。
▶ なるほど。興味を持ったら臆せず、 一度貴社に相談してみると良いのですね。 新しい技術への取り組みなどについてはいかがでしょうか。
下笠:我々はセキュリティに力を入れているので、 米国やイスラエルなど、 世界各国のいろいろな会社との付き合いが大事なんです。 どこがどんな製品を出したとか、 ベンダーのセミナーに出たり海外を回ったりして、 最先端の技術を取り入れています。 また当社は米国西海岸にITリサーチオフィスを設けていて、 最先端の情報収集活動をしています。 そこに今日同席している佐藤も駐在していました。
佐藤:ITリサーチオフィスで得た最新技術の情報については、 社内で活用するだけでなく、 三菱電機グループでも共有しています。 ITリサーチオフィス以外の最新技術の情報については、 三菱電機に情報技術総合研究所があり、 そこに研究を委託することで入手しています。
下笠:三菱電機情報技術総合研究所が特許を持っているのですが、 これまでのサイバー攻撃にはある程度決まったパターンがあり、 そこを見ていくと相関関係がわかります。 こういうパターンであればサイバー攻撃だと判断するようなアルゴリズムがあり、 それを我々が運用しています。 ただ、サイバー攻撃は常に進化+巧妙化され、 最近のトレンドはAIで、これまでの攻撃検知アルゴリズムでは、 検知が難しくなっています。 これは各社のセキュリティソリューションでも同様です。 攻撃側がAIを使うので、 守る側もAIをどう使うのかが問われています。 このAIで判定するという仕組みについて、 当社では試験運用中です。 実現できると他社との差別化にもなります。 もちろん競争なので、 他社でもいろいろと考えているとは思いますが。
広範かつ強固なセキュリティサービスを提供できる豊富な人材
▶ セキュリティと言えば、 貴社は専門の対策センターを作られたそうですね。
下笠:はい。 当社がマネージドセキュリティに力を入れていることは先ほどお伝えしましたが、 2022年10月に新たに設置したのが「サイバーフュージョンセンター(CFC)」です。 昨今のセキュリティ情勢ではマルウェアやランサムウェアを利用した攻撃が急激に増えていますが、 これを何とか防ぐことはもちろん、 防ぎきれなかった場合もその対応を支援したいというのが設置の背景です。 最近のサプライチェーン攻撃を見てもわかるように、 自組織だけを守ってもダメなんです。 また、 ランサムウェアも単にデータを暗号化して身代金を取るだけではなく、 データを漏えいすると脅迫するような二重攻撃が当たり前です。
これまでの企業向けセキュリティ向けサービスでは、 お客様の代わりにSOC (Security Operation Center)が攻撃を検知してお客様に報告するところまででしたが、 その後の被害の対応や復旧などがお客様にとっては大変な負担となります。 そこで、 NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のセキュリティフレームワークで定義される「特定」「防御」「検知」「対応」「復旧」までをワンストップ支援するサービスを提供するために、 SOCに加えて新たにCFCを設置しました。 従来のSOCとCFCが連携することで、 広範かつ強固なセキュリティサービスをお客様に提供できるようになりました。
多くのITベンダーのサービスでは特定、防御、 検知といったSOC領域が中心で、 その後はお客様ご自身がCSIRT (Computer Security Incident Response Team)や社内情報システム部門と連携して対応していく必要がありますが、 それを自分たちだけで行うのが大きな課題となります。 それに対して、我々のサービスでは、 さすがに経営に関するところまでは代行できませんが、 何をしなければならないかのアドバイスや、 漏えい経路の調査やフォレンジックなど技術的なところについては支援します。 今まではファイアウォールを設置する境界型ネットワークが主流でしたが、 ゼロトラストネットワークの時代になると管理範囲が増えてお客様の負担が増大しますので、 これらに対するサポートはますます重要になります。
SOCには24時間365日勤務のオペレーターがいて、 既知の脅威であれば従来通りSOCで対応しますが、 ここで新しい脅威だと判断されエスカレーションされれば、 CFCのアナリストが分析し、 お客様と相談して対応に当たります。 CFCの「Fusion」は「連携」という意味ですが、 当社にはさまざまな分野に経験豊富なエンジニアがいて、 ネットワークやクラウド、 ベンダーのことまですべて理解できます。 これらの社内リソースがすべて連携して対応するということで、 この名前を付けました。
セキュリティ系の人材育成には研修一つとっても相当なコストがかかりますが、 我々は人への投資は惜しみません。 お客様にとっても、 セキュリティ対策は売上や生産に寄与するものではなく利益を生まないところではありますが、 被害を受けた場合を考えると重大な経営リスクになります。 確かに費用はかかるのですが、 自身ですべてまかなうことを考えれば十分リーズナブルですので、 必要に応じて我々のようなサービスを利用しつつ、 セキュリティ対策にはしっかり取り組んでいただきたいと考えています。
▶ 本日はいろいろと興味深いお話をたくさん聞くことができました。 ありがとうございます。 最後に伺いたいのですが、 みなさまにとって「インターネット」とは何でしょうか?
下笠:私個人は、これまでずっとネットワーク屋でした。 入社したのは1986年で、最初に触ったのは専用線でした。 電電公社が民営化されたのはその前年で、 当時は今とは比べものにならないぐらい高価な通信費用をどうしようかとか、 低遅延とか高品質をいかに実現するかといった課題に取り組んでいました。 それから技術は進歩し、 ATMだとかフレームリレーとかになりましたが、 通信の課題は常に「音声やデータをいかに安価に効率よく送るのか」で、 ネットワークを効率よく、 品質良く利用するという目標も変わりませんでした。 そこにIPが出てきたのですが、 遅延もあるし品質もベストエフォートで、 これは使えないなと思っていたら、 3年ほどすれば状況がガラッと変わり、 あっという間に普及しました。 ただ、ベストエフォートで、 どこでパケットが落ちても仕方がないよというのはそのままでした。
今ではそれが、 インターネット通信は電気やガスと同じようなインフラとして見なされるまでに進化してきましたが、 ATMやフレームリレーの技術者だった頃、 私はどちらかと言うとインターネットの抵抗勢力の側で否定してきたんですよ(笑)。 ビジネスとして考えた場合にはIPなんかになってもどうしようもないと言い続けてきたのですが、 そんな私も今やIP通信を利用しながらいかに利益を上げるかと考えるようになるほどIPが当然の世の中になりました。 技術は進歩して、いろんな技術がIPに載り、 光回線の中もIPが通る時代となり、 こういった世の中の進歩に歴史を感じています。 我々はコンシューマー向けの接続サービスは止めましたが、 IPの上にいろいろなサービスを組み合わせる形でサービスを提供し続けています。 品質こそが我々の存在価値ですので、 そこを磨いてサービス展開に活かし、 品質の高いサービスをセキュリティと組み合わせて、 お客様に安心安全に使っていただきたいと考えています。
佐藤:私は入社したのが1995年で、 それ以降は社内別部門でのインターネットサービスの立ち上げを横目で見つつ、 フレームリレーやATMを使ったインターネットを含むバックボーンの設計などを担当してきました。 ネットワークを全国に構築していったほか、 米国に駐在している時にはBGPの運用もしていました。 駐在当時には、NANOGにも参加して情報交換をしていました。 現在はインターネットビジネスの責任者という立場になりましたが、 気が付くとずっとインターネットに絡んで仕事をしてきています。 こうして振り返ると、 私にとってインターネットは、 社会人としての重要なパートナーですね。
岸浪:入社してからMINDが非常に歴史のあるISPだと初めて知りましたが、 当社のメンバーはみな、 AS 4680に強い想いを持ってサービスを提供しています。 インターネットは当社のサービスを提供するための基盤であると同時に、 今では社会インフラとしての基盤ともなっています。 その基盤を通じて社会貢献をしていきたいと考えています。 私の手元には、 今や懐かしい「JUNET利用の手引」がまだ残っています。 これを初めて手に取った当時、 インターネットがこんなに使えるようになるなんて思っていませんでした。 それからかれこれ、 人生の半分以上を付き合ってきたことになりますが、 これからも良い付き合いをしていきたいと思っています。