ニュースレターNo.86/2024年3月発行
JPNIC会員 企業紹介
「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、 興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
今回は、1984年6月の創業から今年で40周年を迎えた、 近鉄ケーブルネットワーク株式会社を取材しました。 同社は1978年に開始された「双方向コミュニティ型CATV」の実証実験をきっかけに誕生し、 その後CATV事業とインターネット事業の双方を拡大しつつ、 現在に至るまでその名の通り「ケーブルネットワーク」を通じたサービス提供を続けてきています。
今回の取材では、 その実証実験の舞台となった奈良県の東生駒にある本社ビルを訪問しての取材となりました。 「Key-Station for Community Needs」と企業理念で掲げている通り、 地域密着という言葉だけでは足りないぐらい、 単に地域の通信インフラだけではなく、 そこを流れる情報を通じて地域の人々の暮らしと安全、文化を支えるという、 強い意志を感じることができました。
~人々の暮らしに欠かせないネットワークを提供する強い使命感を胸に~
近鉄ケーブルネットワーク株式会社
住所 | 〒630-0213 奈良県 生駒市 東生駒1丁目70番地1 近鉄東生駒ビル |
設立 | 1984年6月1日 |
資本金 | 14億8,500万円 |
代表者 | 桑原 克仁 |
従業員数 | 245名(2023年12月時点) |
URL | https://www.kcn.jp/ |
事業内容 |
https://www.kcn.jp/company/
▶ ケーブルテレビサービス ▶ インターネットサービス ▶ IP電話サービス ▶ KCNモバイルサービス ▶ 法人向け・専用線サービス 等 |
世界初の映像と音声による双方向対話ができる「Hi-OVIS」実験がきっかけ
▶ まずは貴社の成り立ちを教えてください。
木村:当社の設立は1984年6月ですが、 そのきっかけとなる出来事が1972年5月にありました。 通産省(当時)の外郭団体として財団法人ニューメディア開発協会が設立され、 先進的CATV実験タウンの公募が行われたのです。 これに近鉄不動産株式会社が計画書を提出し、 1973年4月に実験モデルタウンとしてここ東生駒地区が選ばれました。 そして、1978年7月から8年間、 センターと各家庭を光ファイバーで接続してお互いに対話が可能な「双方向コミュニティ型CATV」の実証実験とし て「高度双方向光映像情報システム(Hi-OVIS)」の研究実験が行われました。 このようなシステムを大規模に構築したのは世界初の試みで、 世界中から関心を集めて多くの方が見学に来たそうです。 昭和天皇もご来訪されたスタジオは、 若干用途が変わりましたが今も駅前に残っています。
この実験を受けて、 1983年7月に近畿日本鉄道株式会社(近鉄)に「ニューメディア事業推進委員会」が設立され、 都市型CATVの事業化検討を開始、 その結果として1984年6月に当社が設立されました。 関西初の都市型CATVということで各所との調整に時間がかかり、 開局は1987年10月、本放送を開始したのは翌1988年の4月からです。
CATV事業については、 開始当初は生駒市と奈良市西部をサービスエリアとしていたのですが、 その後、奈良市街地へとエリアを広げていきました。 新会社の設立や資本参加、事業譲渡などもあり、 現在ではKCNグループとして奈良県内はすべてがサービスエリアとなっており、 京都府や大阪府の一部もエリアとなっています。
通信事業に参入したのは1995年1月のCATVホームセキュリティ開始からで、 警備会社と組んで電話回線ではなく同軸ケーブルを使ってサービスを提供したのですが、 これをやるために第一種電気通信事業の許可が必要となりました。 CATV事業者が第一種電気通信事業者としての免許を取得した事例がなく、 当時の担当者は郵政省とかなり調整を重ねていました。 その後、1996年4月にダイヤルアップ接続サービスを開始して、 インターネット接続サービスに参入しました。 1999年にはケーブル接続、2001年にはADSL接続、2006年には光接続、 2020年には10G接続と、順次サービスを拡充してきています。
▶ Hi-OVISはまさに先進的ですが、 その他のサービスも比較的早い時期に始められていますよね。 そういった社風なのでしょうか。
木村:当時も今の社長も新し物好きで、 新サービスを検討するためなんでもチャレンジしていました。 歴代の社長も鉄道出身ですが、 技術屋が多く常に新しい技術を取り入れてきています。 そういう気概は、今の若い社員も引き継いでいると思います。 また、社名が「ケーブルテレビ」ではなく「ケーブルネットワーク」となっているのも、 これからはテレビではなくネットワークの時代だという、 時代を先取りするような設立当時の想いがこめられているんです。
▶ 主な事業の内容と顧客について教えていただいてもよろしいでしょうか。
木村:当社のサービス展開としてはCATV、インターネット、 電話の三つで、これが三本柱です。 売り上げとしては、1:2:0.7ぐらいで、 最近のテレビ離れの影響もあるのかテレビサービスの売り上げはあまり伸びていません。 ご利用のお客様については、 どのサービスも個人のお客様がメインとなっています。
高橋:最近はオンラインでコンテンツを配信するOTTサービスが流行っていて、 CATVの多チャンネルサービスが影響を受けています。 一方で、インターネットを利用するお客様は増えていっています。 多チャンネルサービスだと、 お客様が見たいものだけに費用を払うことができないというアンマッチがあるので、 CATVのプランについても利用しやすいものになるよう試行錯誤をしています。
▶ 最近は法人向けも力を入れてらっしゃると伺いました。 どのようなサービスでしょうか。
高橋:一つは光ファイバーケーブル芯線の賃貸事業です。 昔から会社名義でサービス加入したいという声はいただいていたのですが、 法人対応の部署を作って今は13人ほどの社員で対応しています。 お客様は自治体や病院、教育機関、 近鉄グループ会社を含む一般企業など幅広く、 現状の売り上げは当社全体の10%程度です。 奈良県内は光ファイバーの整備が全エリアで済んでいますので、 自治体へのインターネット接続回線の提供とか、 本庁と出先機関を結ぶ光専用線、 大学向けにSINETへのアクセス回線提供などをご利用いただいています。 あとは、携帯電話基地局向けの回線提供なども重宝されています。 携帯電話は端末から基地局までは電波ですが、 そこから先は光ファイバーです。 その際、山奥にまで引かれた当社のファイバーが役立ちます。
もう一つが、データセンター向けの光ケーブル提供です。 先ほどからお話ししているように、 奈良県内は山間部も含めてくまなく光ケーブルが引かれていますが、 親会社である近鉄が線路沿いにも光ファイバーを敷設しています。 最近はその営業も当社が担うようになり、 当社の光ファイバーを組み合わせたサービスを提供しています。
詳細は言えないのですが、 三重県志摩市に国際海底ケーブルの主要な陸揚げ拠点があり、 そこから線路沿いに敷設された光ファイバーケーブルを使って、 奈良県内はむろん、大阪、京都、名古屋など関西、 中京圏の主要都市に効率よく接続することができます。 また、当社の光ファイバーを組み合わせることで、 ネットワークを冗長化することが可能です。 こちらのサービスは、 国内外のお客様に海外向けや都市間通信の接続用としてご利用いただいています。 今後、DC向けの需要は大きく増えることが予想されているので、 当社としてもかなりの投資を見込んでいます。
▶ やはり近鉄ブランドの力は大きいのでしょうか。
高橋:個人向けだとやはり近鉄のネームバリューは強いです。 そもそも、奈良は近鉄が手広くやっていますからね。 先ほど近鉄不動産が出てきましたが、 それに限らず生まれてから死ぬまで近鉄が身近にあると言って良いぐらいです。 「あれもこれも全部近鉄なんやけど、 何かサービスないの?」とかも言われちゃいますけどね(笑)。
我々が提供するネットワークは地域と住人を結ぶ命綱
▶ 貴社は京阪奈の幅広いエリアを対象に事業を行っていらっしゃいますが、 地域ごとの特性みたいなのはありますでしょうか。
木村:関西全般に共通するのかもしれませんが、 インターネット接続一つ取っても単に繋がれば良いのではなく、 通信速度など数字として目に見えるところにこだわるお客様が多いイメージですね。 ADSLでも光でも、 より速い規格が出たらそれを求められることが多いです。 NTTや電力系、各通信事業者とライバルが多いので、 どこかがサービスインしたらうちもやらないわけにはいきません。 新しいものが好きという面と、 同じ価格ならよりスペックの高いものを求める面があるのかもしれません。
あと、CATVだと地域に密着したコンテンツを提供していて、 それを見たいから入るというお客様がいらっしゃいます。 グループのテレビ岸和田ではだんじり祭の放送があり、 キラーコンテンツになっています。 もちろん、放送する側にもだんじり命の社員がいたりするのですが、 取材に差し障りがでるので祭の期間中でも我慢してもらうことになっています(笑)。 あとは、最近は昔ほどではないと思うのですが、 サンテレビを見たいからKCNに加入するというお客様もいらっしゃいます。 生駒山に民放の送信所があるので難視聴対策だけなら生駒の辺りは別にCATVがなくてもテレビは見られるのですが、 サンテレビだけが電波が入らなかったんですね。 こういう事例を見ても、差別化のためのコンテンツの重要性を痛感します。
高橋:グループ会社の話ですと、 奈良県北東部と南部をサービスエリアとする、 こまどりケーブルとお客様はその成り立ちからして特徴があります。 エリアのほとんどが山間部で、 デジタルデバイド解消のために当社が各自治体と協力して、 補助金を使って2003年から取り組んで全世帯にCATVを整備しました。 そういう背景があるのでサービス加入についても特徴があり、 テレビのサービスには全世帯必ず加入していただいています。 その上で、希望があればインターネットのサービスも契約していただくという感じです。
例えば、 奈良県の最南部には十津川村という日本で面積が一番大きな村があります。 ここから車で3時間ぐらいかかるところなんですが、 そこの約300世帯すべてに光ファイバーを引きました。 山の中の『ポツンと一軒家』みたいなところにもです。 山間部を持つ自治体には、 過疎化や高齢化が進む中でどうやって住民を守るかという危機意識があります。 そのため、防災や防犯、地域のお知らせなど情報を届けたいと思うわけですが、 お年寄りがスマホを使ってというのは無理があり、 そこはやはりテレビの出番となるわけです。 こまどりケーブルには自治体専用チャンネルがあり、 住民のみなさんはそこで地域の情報を得ていらっしゃいます。
▶ 奈良医大との共同研究や特殊詐欺被害防止への取り組みなど、 自治体との取り組みが貴社には多いですよね。 それは貴社の理念とも関係しているのでしょうか。
高橋:「Key-Station for Community Needs」と掲げていますが、 CATVは地元の住人や自治体との繋がりがとても強いんです。 地域に課題があると我々に声がかかることが多いですし、 我々も何かできないのかと考えます。 当社は先ほど木村が話したようにCATVだけではなくネットワークを通じての価値の提供に重きを置いているのですが、 現在当社が提供しているサービスだけではなく、 自治体サービスをはじめとした奈良県の通信や情報の下支えをする存在となり、 みなさんの生活をより良いものにしていきたいと考えています。
インフラを作る・支えることの面白さにも気付いて欲しい
▶ そういったサービスを支える社員の方々は、 どのように育てていらっしゃるのでしょうか。
木村:新卒を毎年10人前後採用しているほか中途採用も行っていますが、 どこもそうかもしれませんが技術系の職種については採用に苦労しています。 営業や番組制作には人が集まるんですが、技術系、 特にレイヤの低いところはなかなか難しいですね。 アプリ開発などレイヤの高い方が今は人気ですが、 そういうサービスが提供できるのも低レイヤの基盤があってこそなので、 そこの魅力に気付いて欲しいんですけどね。
高橋:我々は高レイヤのキラキラした人達と違って低レイヤの地べたを這いずる方ですが(笑)、 食わず嫌いの人達には「インフラを作るのはめっちゃ楽しいしおもろいで!」と言いたいですね。 ルータがどうだとかスイッチがどうだとか、 あれこれ試したり相談したりとかして、 それで上手く動くととても楽しいですよ。 高レイヤを体験したことがない自分が言うのもなんですが(笑)。
木村:そうやって採用した社員は、 どの社員も必ずお客様センターでテクニカルサポート業務の研修を受けてもらいます。 もちろん、職種や適正により期間は異なりますが、 自社が提供しているサービスに精通してもらうことと、 お客様の役に立ち親近感を持たれる社員になってもらうためです。 本社とは別の建物にテクニカルサポートの拠点があるのですが、 そこにはお客様の家を模したシミュレーションルームがあって、 そこで練度別にさまざまなシチュエーションを用意して新人からベテランまで研修を繰り返しています。
▶ シミュレーションルームを見せていただきましたが、 玄関ドアにはインターホンまであるんですね。
東:お客様の宅内に入るわけなので、 顔と身分証を見せた上できちんと要件をお伝えするところから始まります。 そして、ドアを開けてから最大でも1時間以内に退出するという決まりの中で、 お客様からヒアリングを行い必要に応じて家具を動かし、 トラブルを解決していきます。 法人向けとは異なりトラブルの内容は本当にさまざまですし、 家の間取りもまちまちです。 家具を動かす際にも細心の注意が必要です。
新人だと最初はやはり時間ギリギリになることも多いですが、 ベテランになると30分ぐらいで解決できるようになります。 お客様の事情はさまざまで中には難しい案件もありますが、 練習でできないことは本番でもできないということで、 研修ではありとあらゆるシナリオを用意して取り組んでいます。
▶ 話は変わりますが、 貴社は次回のJANOG54 (2024年7月開催予定)のホストを務められるそうですね。 経緯や参加を考えている方にメッセージをいただけますでしょうか。
木村:JANOGには5年ぐらい前から参加するようになったのですが、 奈良ではまだ一度も開催されていないと知ってから、 いつかは開催したいと思っていました。 とはいえ、さすがに当社単独では厳しかったのですが、 株式会社IDCフロンティアさんからぜひ一緒にやりましょうとお声がけいただいて、 それならとホストを引き受けることになりました。 みなさま、夏の奈良でお会いできることを楽しみにしています。
高橋:福岡開催のJANOG53が大盛況だったので、 自分達の番で大コケしたらどうしようと心配しています(笑)。 奈良にまだ来たことがないという人はもちろんですが、 子供の頃に修学旅行で来ただけという人にも、 ぜひ足を運んでいただきたいです。 大人になってから見ると、また違った奈良の魅力に気付けると思います。
▶ 本日はいろいろと興味深いお話をたくさん聞くことができました。 ありがとうございます。 最後に伺いたいのですが、 みなさまにとって「インターネット」とは何でしょうか?
木村:私にとっては、もう普通に日常の中に存在するものです。 世の中にとっても、インフラの一つとして、 なくてはならないものになっていますよね。 妻がYouTubeを見て新しいメニューに日々挑戦しているのですが、 作った料理を食べてみると多くの視聴者の支持を得ているだけあってハズレがありません。 インターネットがなくなると、我が家の食事にとっても困りますね(笑)。 ただ、ものすごく便利に、世の中の役に立つ使い方ができる一方で、 特にSNSが目立ちますが使い方を間違えると凶器にもなり得ます。 きちんと使えればとても良いツールだとは思うので、 間違えずに使うことが大事ですね。 インターネットの先には、人が繋がっていることを忘れないで欲しいです。
高橋:一言で言えば必需品ですかね。 最近はみんなスマホを持ち歩いていますが、 ネット回線がなかったら何も使えません。 テレビも通信もスマホ一つで完結してしまう世の中で、 スマホを忘れただけで不安になるという人もいるぐらいです。 もちろん、インターネットがないとうちの家庭も多分崩壊しますね(笑)。
中垣:私が子供の頃はインターネットなんてものはなくて、 テレビがメインでした。 それが大学生の頃から常時接続が当たり前になり、 速度もどんどん速くなっていきました。 生活にすっかり馴染んだ結果、今はもうテレビを点けっぱなしにしたり、 雑誌のページをめくったりするような感覚でインターネットを利用していて、 インターネットを改めて意識することのない世の中になったと感じます。 そういう意味では、 テレビなどと同じく家電の一つみたいになったのかもしれません。 今さらなくなることは考えられませんね。